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第27話 龍が残したもの

 異空間からの戻り方が分からない。

 とりあえず解析魔法を空間に掛けてみる。

 存在する物質は()()同じ、ただし電子の質が違う。これによって物体が透過し、元の世界とは違った色彩が広がっているようだ。

 そして肝心の脱出するための鍵は……良かった。『転移粒子』がある。これが存在するのであれば転移は可能なはず。

 転移目標は邪竜と戦った無人島か、ダンジョンか、万象燈か、転生した施設か、アイ達のところか、もしくは……リオンのところか。

 ダンジョンの街で出会った虎耳のお姉さんの言葉が頭をよぎる。

「ダメよ。人との関りを面倒くさがっちゃ」

 逃げたらダメ……だよな。

 僕の為にも、彼女の為にも。

 意を決してリオンに授けた転移紋章へと転移する。

 そこは闘技場の一番高い所。外壁の上に設けられた竜の彫像の足元だった。

「やはり族長様でも(かな)わなかったか」

 リオンは突然現れた僕への驚きや動揺は一切見せず、淡々と言葉を発した。

 何か、既に覚悟を決めている感じだ。

「ご随意に」

 リオンはそう言いながら僕に頭を下げる。

 侍みたいだな。と思ったことは当然口にはしない。

 伝えたい思いはたった一つ。

「あー」

 なのに上手く言葉がまとまらない。焦れば焦るほど思考は停止する。それでも何かを発しなければ何も進まないので、無理やり思いを絞り出す。

 綺麗に話す必要はない。僕がどう見えるかなんてどうでもいいのだから。

 ただ思いを伝えよう。

「その、別に怒ってるとかは全くなくて……むしろ申し訳ないというか……()()()

「え?」

「誰かに、僕の為に命を懸けて、何かをして欲しいなんて思ってないし。そんなことされたくないし。自分の命を一番に考えて行動するのは当たり前なわけで……だから……裏切ったとか、僕の事とか、気にしないで下さい。僕も気にしてないので」

「……」

「なので、これからは自分の生きたいように、自由に生きて下さい」

「……」

 彼女は僕の言葉をどんな表情で聞いてくれているのだろうか。僕はこの間、彼女の顔を見る勇気がなく、闘技場の中心で横たわって()()()いる族長の姿をずっと見つめていた。

「じゃ。お、お元気で」

 彼女の沈黙に耐えきれなくなった僕は族長の元へと飛び降りた。

 

 伝わっていればいいけど。

 

 族長の周囲には救護班と思われる人たちが集まっているので、音を立てないように静かに着地する。

 どうやら族長の身体から正体不明のエネルギーが発せられているようで、三メートル以内には近づくことが出来ていないようだ。

「後ろ!」

 僕の存在に気付いた誰かが声を上げた。

 一斉に僕に視線が集まる。

 刺すような圧だ。

「邪魔」

 押し返すように声を発すると族長までの道が開いた。

 衆目は気にしないのが一番。視線は無視して進む。

 族長は球状のエネルギーの中心に横たわった状態で浮いている。

 意識はないようだ。

 龍が言い残した『よろしく』とはこれのことだろうか。

 エネルギーを魔力で包み解析する。

 このエネルギーは族長の身体を再生させたことによって生じた残波。余りにも強大な力が空間の壁を跨いで行使された為、空間が振動し、その振動が物質の摩擦を生んで電磁的なエネルギーが球状に渦巻いている。そして、それが三メートル以内の球状で留まっている理由は、空間の圧によって抑えられているから。これは重力みたいなもので空間の修復機能だ。

 とりあえずこの力を利用してみようか。

 在るべき状態へと戻ろうとする力は空間だけでなく物質にも存在するので、僕はその補助を行う。

 まずは球状結界を作り、不要なエネルギーはそちらへ誘導。次に魔力で空間に圧を掛けて振動と暴れ回る元素の動きを鈍らせる。その中で規則性をもって移動しようとするものは補助し、不規則な動きを繰り返すものは排除する。


 どうやら上手くいきそうだ。


 十分程経っただろうか。振動は無事収束した。

 不要なエネルギー球だけを残して。

 直径三メートル程。問題はない。これは()()()が食べるだろうから。

 僕の分身体であるあの赤いスライムはどこに……。

 周囲を見渡す。

 赤いスライムは観覧席の一角で女性達になでなでされて舞い上がっている。

 乱闘の時からずっと?

 ピンク色になってるし。

 僕の本性ってあんなんなのかな……。

(とっとと食え)

 自己幻滅を打ち消すように怒気を込めた念を送る。

 赤いスライムは驚いた感じで飛び上がると、エネルギー球へと突進し、ペロリと一口で捕食した。

 僕の念を受けた時は怒られた子供のように焦った感じだったのに、もうご機嫌になっている。切り替えの早い奴だ。

 あとは。

 ご機嫌に跳ね回る赤いスライムから、地面に横たわる族長に視線を移す。


 思い浮かんだ一つの仮説を確かめるために族長の瞼を押し上げる。

 

 やはり族長の眼は黒眼ではなくなっていた。

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