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第22話 魔力封じ

 リオンが里帰りに経ってから二日後。ダンジョンの整備をしていると全身に悪寒走った。身体に纏っている魔力にリオンからの窮地を伝える信号が届いたのだ。

 とはいえ、何の考えも巡らせずに、反射的に転移したのはどうだったのだろう。

 あまりにも短絡的過ぎた。

 やっぱり自信過剰になっているようだ。

 ……仲間が出来たと、浮かれていたのかもしれない。

「愚か者め」

 はい。そう思います。

 転移した先は石造りの古代円形闘技場ような場所で、二階建ての観覧席は大観衆で埋まっている。

 そして土のグラウンド上には僕と四人の男のみ。左右と後ろの離れた位置から、白い漢服のような服を着た三人の男が魔力封じの魔法を僕に掛け、対峙する爬虫類のような皮膚の男がさっき僕を罵った男だ。

 因みに、リアンは僕が転移してきたことを確認すると、無言でゲートの奥へと消えて行った。

「本当にこんなガキに邪竜様は殺されたのか?」

 爬虫類のような皮膚の男が、そう言いながら冷たい目で僕を見降ろす。身長は三メートル程はあり、筋肉を見せびらかしたいのか上半身は裸だ。

「疑問に思うんだったら魔力封じを解くように進言してくれませんか? そしたら実力を証明して見せますよ?」

「フン」

 爬虫類のような皮膚の男は僕の言葉を鼻で笑うと、一気に僕との距離を詰めて殴り掛かって来た。

 迫ってくる右手を左前に踏み出して躱す。魔力を封じられても身体能力は変わっていないようで、なんとか躱す事には成功した。ただし、魔力による感知は機能していないので、続けて繰り出された左手での裏拳はくらってしまった。この攻撃を予測して躱せるほどの経験値は僕にはない。

「グゥ」

 三十メートル程殴り飛ばされた。

 湧き上がる観声が耳障りだけど、そんなことはどうでもいい。魔力封じをなんとかしないと。

 身体の中に意識を集中させる。

 ……何も分からない。むしろ地球にいた頃のような状態なので、僕としてはこちらの方が自然と言えば自然だ。ただそれでは困るので更に思考を巡らせる。

 感覚的にはスイッチをオフにされた感じだろうか。

 身体の中で? それとも外?

 魔力とは魂の力だと感じている。だとすれば魔力自体はなくなってはいないはず。

 となると、地球にいた頃は? 

 最初からスイッチがオフにされている?

 オンになっている人が超能力者や霊能者? 能力的には魔法とは程遠いけど、少しだけ漏れ出ているような状態なのであれば……。

 だとすれば内的か。

 そんな機能がありそうな臓器は……脳!?.

 耳抜きをしてみる。

 変化なし。

 息を止めて脳に血液を送ってみる。

 変化なし。少し気分が悪くなっただけだ。

 ……血液?

 生体培養液で生み出したあいつらや魔物人形が頭に浮かぶ。

 タイミングが良いことに血は口の中溜まっている。殴られたせいで口の中を切ったから。

 立ち上がって口の中の血を吐き出す。

 変化しろと願いを込めて。

「クソッ」

 何の変化もなかった。

「悪いが俺はそこまで戦闘狂じゃねぇんだよ」

 爬虫類のような皮膚の男が僕に近づきながら言った。

 ……何の話だっけ?

 もしかして僕が殴られて悔しがってると思われてる?

「俺はどっちかつーと嗜虐狂だ」

 爬虫類のような皮膚の男は僕を殴った左手の甲を舐めながら恍惚に笑う。

 確かに症ではなく狂と言った感じだ。

「『ボグロ』! さっさとしろ! 準備は出来ている」

 ゲートの向こう側から、爬虫類のような皮膚の男に向けられた言葉だった。

「チッ。雑魚が。偉そうに」

 爬虫類のような皮膚の男は、仕方ないといった感じで右手に雷属性の魔力球を作り出した。

「お前は『皮剥ぎの刑』だとよ。もちろん剥ぐのは俺だ!」

 皮剥ぎの刑。昔地球でも行われていた最悪の処刑だ。

 胸糞悪くなりながらその情報をパソコンで見てたっけ。命令してた奴や実行してた奴が、地獄で同じ目に合っていればいいのにな。とか思ってたな。

 ……それをやられるの?

 不味い。なんとかしないと。

「安心しな。俺は今まで数えきれない程の罪人の皮を剝いできたからよ~。お前の皮も綺麗に剥いでやるよ~。グフフ。だがその前に、丸焦げだ~」

 爬虫類のような皮膚の男は、自分の言葉で過去を思い出して悦に入ったのか、また恍惚に笑う。

 だが僕の視線はそんな気持ち悪い表情よりも、その横で輝く魔力球に引き付けられていた。

 ある閃きと共に。

 舌で口の中の傷口を広げる。再び血を溢れさせるためだ。

 さっき吐き出したのはただの血だった。だけど、そこに魔力が加わったらどうだろう。

 しかも膨大な電力を含んだ。

 化学反応は電子の動きと共に行われる。きっと何かが起こるはずだ。起こって欲しい。

 放たれた魔力球に向けて、今度こそ何か起これと念を込めた血を吹き飛ばす。

 と、同時に身体も後退させるが魔力球のエネルギーの余波までは躱せず、全身に雷の衝撃を受けながら弾き飛ばされた。

 全身の皮膚が焼けるように痛い。

 それでも気絶することはなく、なんとか意識は保てている。

 ()でもこの身体の耐久力はかなり高いようだ。

 動けはしないけど。

「な、なんだ?」

 爬虫類のような皮膚の男が困惑の声を上げた。

 更に観客のざわめきも聞こえる。

 ぼやけた視界の中で目を凝らすと、赤い物体が地面で揺らめいていた。

 苺ゼリーのように。

 ゼリー!?

 視界がはっきりすると、そこには赤いスライムがいた。

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