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第20話 竜奉族

 年齢は二十歳位。長身で、ショートの紫髪に漆黒の角。こちらを睨む切れ長の目には緑眼が煌めいている。

見た目の性別は、中性的な顔立ちだから顔では判断しにくいけど、黒革のような素材で仕立てられた服の胸元が大きく膨らんでいるので、女性だと思う。

「良くできた魔力障壁ね」

 紫髪の女性は黒い雷光を纏ったエネルギー波をいきなり放ってきた。

 領主様の存在を隠すために、僕だけ透明化を解いている。

「っと」

 今度は一気に距離を詰めての剣の振り下ろし。

「これも躱すか」

「どこからそんなもの」

 剣なんて持っていなかった。

 彼女の右手には()()放つ漆黒の剣が握られている。

「この剣は私自身だ」

 紫髪の女性の顔に不敵な笑みが浮かぶ。

 美しくて怖い表情だ。

 それに見惚れる間もなく、超速の剣が下から切り上がってきた。

 こちらの視線の動きを読んだ死角からの見事な攻撃だったけど、さすがにこの状況で『感知』を怠ったりはしない。

 難なく躱す。

「チッ」

 更に彼女の舌打ちが耳を通り抜ける間に三度の斬撃を躱し、続けての連撃も躱す。

「ばかな」

 確かに彼女の剣は速いし鋭い、だけど剣聖の剣に比べれば遅いし拙い。加えて瘴気という()()()も僕には効かないし。 

「もしかして、ここの主だった奴の仲間ですか?」

「! ……何を知っている」

 紫髪の女性の動きが止まった。

「僕が殺しました」

「ありえない」

「なぜ?」

「『九神竜』の一角であらせられる邪竜様だぞ! 人族如きに殺せるはずがない!」

 あいつ本当に竜だったのか。

 あんなのが竜だとは認めたくなかったんだけどな。

 ただ、九神竜? ということは、残り八体いるということだろうか。

「ちなみに、あなたは誰ですか?」

「私は神竜様の眷属である『竜奉族』の『リオン』だ」

「あんたも、巫女達を喰っていたのか?」

 思わず嫌悪感が込み上げてきた。

 場所のせいもあるのかもしれない。

 地面に描かれた魔法陣の赤黒い光が、そんな僕の感情を更に逆撫でしてくる。

 あれには感情を高める付与が施されていて、狂った巫女と、それを見て悦ぶ邪竜の姿が容易に想像できるのだ。

「わ、私は食べていない。人を喰うのは邪竜様だけで、他の神竜様や我々は食べない」

 なんか、怯えてる? 

 剣も消したし。

 変な魔力でも出たのだろうか?

 ともあれ、人を食べる竜が邪竜だけというのは嬉しい。

 他の竜の見た目はあんなのじゃないかもしれないし。

「その、神龍? がいる場所って教えてもらえますか?」

 どんな竜なのか見てみたい。

「知っているのは族長だけなので私は知りません」

 従者として選ばれた者だけが住処を教えてもらえるらしい。

「じゃあ、その族長様の居場所は?」

「……私を苦しませずに殺していただけるのであれば、お教えできます」

「え?」

「村の場所を外部に漏らすことは死罪なので、必ず処刑されます。それも見せしめとしてかなり凄惨な方法で。ですので、どうしてもお知りになりたいのであれば、私を苦しませずに殺すことをお約束ください。さもなければ自死します」

「言わなくていいです」

 なんでいきなりそんな隷属的な思考になってるのだろうか?

 言葉使いも丁寧になってるし。

「あの、まださっきの戦いの決着ついてませんよね。なのに、なんか諦めてません?」

「即死魔法を使える相手と戦うほど愚かではありません」

「え? なんで使えるってわかったんですか?」

「無意識ですか? それはそれで恐ろしい。先程、私が人を食べるのかお聞きになった際に、私の心臓に無数の針が突き立てられたような感覚ありました。アレ、私が間違った返答をしていたら突き刺していましたよね?」

 完全に無意識だ。これは、良くない事だと思う。自分をコントロールできていない。

 精神的に未熟なんだと思う。

 だからといってどうすればいいのか。

 ……自分を見つめ直す時間を大切にすることくらいしか思いつかない。

 粗暴な性格にならないように気を付けないと。

「と、ところで従者って何をされてたんですか?」

 申し訳なさと、自分の未熟さへの恥ずかしさから話を替えたくなった。

「主にこのダンジョンの管理ですね」

 お!

 詳しく聞くと、アイテムと魔物の調達を行っていたらしい。それを邪竜の分体が小間使いとなって宝箱に補充したり、手薄になった場所に配置したりしていたらしい。因みに、その小間使い達は邪竜の死と共に消滅している。

「あの~。もしよろしければその管理、引き続きやってくれませんか?」

「それは命令ですか?」

「まさか。ただのお願いです」

「……」

 悩んでいるようなので押してみる。

「このダンジョン維持するか悩んでまして、やめるとなると上の立派な階層も壊すことになるんですが」

「!」

 あの宮殿は相当なこだわりを持って造られていた。この人が造ったのであれば交渉の材料になるはず。

「あなたが造られたんですよね?」

「は、はい」

「もし状諾していただけるのであれば、他の階層も好きに改装していいですし、なんだったら更に広げたり階層を増やしたり、好きにしていいですよ」

「私の住処にしてもいいと!!」

 住処!?

 拡大解釈してきた。

「まぁ、良いんじゃ。あ!」

「どうされました?」

 領主様のことを忘れていた。

 最終的に決めるのはあの人……。

 領主様は隅っこで膝を抱えて座っていた。

 すみません。

 来てくれるよう手招きする。

「え? 領主?」

 知っていて当然か。

「け、結界解かれたんですか?」

「はい。もう大丈夫なんで」

「結界? 全然気づかなかった」

 領主様に紫髪の女性の事と、彼女に引き続きダンジョンの管理を任せたらどうかと提案した。

「その場合、こちらからリオン様へはどういった報酬をお支払いすることになるのでしょうか」

 巫女の件があるだけにそういうことには敏感になっているようだ。

「何か欲しいものあります?」

「ひとつ」

 なぜか紫髪の女性は僕を凝視した。

「私をあなたの従者にしてください」

「は!?」

「血。ですかね。ずっと自由を求めていたのですが。今はなぜかあなたに仕えたくて仕方がないのです」

「いやいや。いやいやいや。そんな、誰かに仕えられるような人間じゃないですから!」

「そんなことないですよ」

 領主様?

「ダンジョンの為にもよろしくお願いします」

 忘れられた腹いせに聞こえるのは気のせいだろうか。

「よろしくお願い致します」

 跪かないで。

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