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第19話 少年領主とダンジョン

「どちら様ですか?」

 あれ? 子供?

 この身体と同じ位の、十二歳位か。

 部屋間違えたかな?

「領主様にお会いしたいんですけど」

「領主は僕です」

 ダンジョンの街『バルガレア』の領主は僅か十二歳の子供だった。

 名前は『エイン・モール』。

 バルガレアの領主はモール家が代々務めており、昨年先代が病死した為にエインが引き継いだのだそうだ。

「父には他に子がいなかったので」

 少年領主様は対面のソファーに座ったまま、肩を落とした。

 本当はやりたくないと言いた気だ。

 生贄という残酷な儀式と利己的な領民を背負わされるのだから気持ちは十分に理解できる。

 それにバルガレアには一つの忌まわしい風説もある。

 『巫女の呪い』だ。

 バルガレアの領主はいずれも三十代で命を落としている為にいつしかそう噂されるようになり、それが目の前のまだ幼い少年が領主に任命された理由でもある。

 この地の領主になりたい者など誰もいないのだ。

「それで、ハルト様のご用件は何でしょうか?」

 不法侵入者なのに、随分丁寧に接してくれる。

 連絡ミスが起きているとでも思っているのかな。

 だとしたら、それはそれで好都合なのでこのまま進めよう。

「少々申し上げにくいのですが……単刀直入に申しますと、ダンジョンの主を殺してしまいました」

「……は!? は? え? ど、どういう……どういうことですか?」

 さっきまではすました顔をしていたのに、かなり動揺しているせいか一気に子供っぽくなった。

「いや。殺されそうになったんで。仕方なく」

「殺……ダ、ダンジョンは……ダンジョンはどうなっていますか?」

「機能させてますよ」

 ダンジョンは消えてはいなかった。

 あの魔獣がやっていたのは入り口の管理と、アイテムと魔物の補充であり、ダンジョン自体は実在している。

 なので、とりあえず倒された魔獣の再出現機能だけを追加して行ってここへ来た。

「させている? あなたがですか?」

「はい。全く同じではないですけどね」

「全く同じではない……それは、巫女に関してもですか?」

 少年領主様の視線が鋭くなった。

「不要です」

 少年領主様は座ったまま顔を伏せ、拳を強く握った。

 この少年はおそらくとても頭が良い。なので当然嘘かもしれないという疑念は抱いていると思う。それでもこれだけの喜び方をするということは、相当生贄という儀式に対して重荷を感じていたのかもしれない。

「それで、ご要望は何ですか?」

 そして、人には欲というものがあることも理解しているようだ。

「まず、ダンジョンをどうしたいのかお伺いしたい。そして維持したいのであれば、どんな報酬を用意できるのか」

 当然、僕にも欲しいものはある。

「ダンジョンは維持したいです。お望みの報酬はありますか?」

「身分証が欲しいです」

「……身分証?」

 いい加減素性不明者から脱却したい。

 学校やギルドに認められて身分証を発行してもらうという方法もあるけど、それはその組織が保証人になるということなので審査はかなり厳しい。

 正直、面倒で気乗りしない。

「……分かりました。なんとかしましょう」

 交渉成立。

 あとはこの話が嘘ではないことを証明だ。

「それじゃ、早速ダンジョンに行きましょうか」

「え?」

「この話が嘘じゃないと証明するにはそれが一番早いでしょ。行かれたことは?」

「一度。領主を拝命した折に一階層を拝見させていただきました」

 この言い方は護衛に囲まれた状態で見て回った感じかな。

「では、今回は最下層までご案内しますよ」

「最下層!?」

 領主様の肩に手を置き転移。

「ここは、ダンジョンの入り口? 転移魔法が使えるのですか!?」

「はい。じゃ、行きますよ」

「え? ちょ、装備は?」

「大した魔物はいないですし、僕の結界でお守りするので必要ないです。それにその結界に覆われていれば僕以外には領主様の姿は見えませんので、万全です。安心してください」

「えぇ……」

 困惑する少年領主様と共に入り口の階段を下りる。

 このダンジョンはあいつの食事の為だけに造られたものなので、階層は四階層までしかなく、広く浅い造りとなっている。

 ダンジョンの第一階層は洞窟の迷路だ。

 ところどころに探索者によって発光石が設置されているので、明るさも問題ない。

「ヒッ」

「ただの毒蛇です。僕らの事は見えませんから。行きますよ」

 第二階層は石壁の迷路。

 壁には何の装飾もない。

 ただの石の壁だ。

「ゾ、ゾンビ!」

「腐った死体が動いているだけです。行きますよ」

 一階層には光る苔や青い池。地球にはない色鮮やかな鍾乳石などがあり、それなりに見ごたえがあったけど、ここは味もそっけもない。ただの迷路だ。おそらく一階層だけは自然にできたものなのだと思う。

 第三階層は地下宮殿。

 この階層には製作者のこだわりを感じる。

 壁。柱。彫像。そのどれにも緻密な装飾が施されて、とても荘厳な雰囲気を醸しだしている。

「ス、スケルトンナイト!!」

「骸骨が動いてるだけです。行きますよ」

 そして第三階層からの階段を下りた先にある、この大きな扉を開けると第四階層となる。のだけど……。

「ど、どうされたのですか?」

「中に誰かいますね」

「ええっ!?」

 この先の第四階層は神殿だ。

 広い一部屋のみの空間で、地面に生贄の巫女達が転送されていたであろう魔法陣が描かれている。

「ちょっと失礼」

 領主様の結界に『自動離脱』の機能を付与した。

「これで僕に何かあれば自動的にお屋敷に戻りますので、その後の対処はお任せします」

「……分かりました」

 無駄に質問しないのは頭の良い人の特徴なのかな。事態の飲み込みが速い。

「じゃ、開けます」

 そこには、両耳の上から後方へと伸びる漆黒の角を生やしたした女性が立っていた。

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