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第16話 人身御供

 なぜこのスープはピンク色なのだろうか。

 少し遅めの昼食に『骨付き鶏肉と野菜のスープ』を注文してみたのだけど、まさかこんな色をしているとは。

 魔法で解析するとか野暮なことはしない。毒が入っている可能性なんてないのだから。

 腹は壊すかもしれないけど。

 他のお客さんで同じものを注文している人は三人。皆美味しそうに食べている。

 確かに香りは良い。香草の爽やかな香りとスパイスの刺激的な香りが馥郁(ふくいく)たる香りを醸し出し、鼻こうを通り抜けていく。

 良い具合に食欲が刺激されたので思い切って食べてみよう。

「辛っ」

 思わず声が出てしまった。日本語で。

 それでも食べたものと僕の反応で意味は伝わったらしく、ちらほらと笑い声がこぼれた。

 恥ずかしい。

 解析。野暮とか言って恰好つけずに最初からやっておけばよかった。

 辛味とピンク色の正体は『ハボル』という植物の成分によるものだった。魔力ウィンドウに映し出されたハボルは鬼灯のような植物で、中身のプチトマトのようなピンク色の実をつぶして利用されている。因みに、この魔力ウィンドウは他人からは見えないように細工済みだ。

「辛過ぎるならこれを混ぜて」

 給仕の女性がミルクのようなものをコップに入れて持ってきてくれた。

 解析してみると予想通り家畜されている牛のような動物の乳で、見事に辛味を抑えてくれた。

 鶏肉も一度焼いた後にしっかりと煮込まれているようで、柔らかくジューシーな肉が鳥皮の香ばしさを纏いつつ、スープの旨味を適度に絡み合わせて口の中に溶けていった。

 野菜も美味しい。

「あれ~、きみ。ダンジョンは?」

 虎耳のお姉さんだ。ルトという名前だったか。

「はは~ん。さては臆したな」

 銃の形に変化させた右手を顎に当て、得意気に推察してきた。

「まぁ、そうですね」

「……ダメよ。人との関りを面倒くさがっちゃ。ずっと一人になっちゃうよ」

 適当に答えたのがバレた。

 それに、この人詐欺師じゃなかったのかな。本心で言ってくれているみたいだ。

「ま。私にそんな説教じみたことを言う資格なんてないんだけどね」

「というと?」

「う!? う~ん」

 怪しい。

「僕のこと騙そうとしてました?」

「う~~~。ごめんっ」

 虎耳のお姉さんは腰を直角に曲げて頭を下げた。

「いや。良いですよ別に。騙されてませんし」

 それでもお姉さんは悲しそうな顔をしている。やりたくてやっている訳ではないということだろうか。

「因みに、どう騙そうとしてたんですか?」

「ん~。戦利品を高く見積もって報酬を吊り上げたり? 自作自演のトラブルを解決して余計な諸経費を請求したり? 美人局、っと。これは子供には関係ないし話す事じゃないね」

 この苦笑いも悲し気で胸が重くなる。

「目障りね」

 なんとも神聖そうな純白の服を着た女性が店に入って来た。

 護衛っぽい四人の女性が、辺りを警戒しながら彼女を守るように囲んでいる。

「行くよ」

 虎耳のお姉さんが僕の腕を掴み、足早に店の外に出た。

 他のお客さんも続々と出てくる。不思議なことに文句を言っている人や不満気な表情をしている人はいない。この店は前払いだから、お金だけ払って何も食べていない人もいるはずなのに。

 そういえば虎耳のお姉さんもその一人か。

 虎耳のお姉さんは悲し気な表情を更に曇らせていた。

「あの人は?」

「巫女様」

「巫女様?」

 虎耳のお姉さんは暫く思案したあと深く息を吐き、覚悟を込めて教えてくれた。

「ダンジョンへの生贄になる人よ」

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