第15話 邪竜
この世界の竜は肉を食べない。特定の植物や木の実、果物を食し、十年に一度、もしくは大量に魔力を消費した場合に『パラゾイル』という鉱物を食べる。ただし、竜の世界でも異常な行動をとる存在は時折現れるようで、植物や果物には目もくれずひたすら肉を求める竜もいる。それが『邪竜』だ。
「冒険者? 君が?」
「野良ですけどね」
『野良』とは冒険者ギルドに認可されていない非正規の冒険者の俗称であり、ギルドの試験に落ちたあぶれ者や試験自体を受けられない素性不明者、あるいはギルドからの束縛を嫌う者達が便宜的に勝手に名乗っている。それでも、為政者や実力者達にとっては彼らの外の世界を自由に移動できる実力と、保有している他領地の情報や物品はあらゆる面で貴重な為、冒険者と名乗るだけで入領できる場所はそれなりに存在している。ただし、野良冒険者は正規の冒険者にとっては目障りな存在な為、正規の冒険者から『野良狩り』と称する粛清を受けることもあるらしい。
「名前は?」
「暖人」
「ハルトね。この街は自由な街だがならず者も多い。命の保証は出来んぞ。それでも入るか?」
「お願いします」
この街の名は『バルガレア』。街の中心にあるダンジョンによって栄えた他種族混在の街である。その為、どんな者であろうとダンジョンに挑む者は街に利益を生む者として歓迎されており、入領の検査も緩い。
カラッとした気候の中、熱風が土ぼこりを巻き上げる。
街の第一印象は雑多。
土舗装の道に、乱雑に配置された建物。たまにボロボロの車が通っているけど基本的には自転車か徒歩で移動している。電柱はあるが信号はない。
「きみ! 外から来たよね。冒険者? ダンジョン入るの?」
街を見渡していたら猫耳の女性が話掛けてきた。
十七歳位。金髪に黒髪が混ざっている。もしかしたら猫耳というより虎耳だろうか。耳の裏に虎耳状班を思わせる白い斑紋もあるし。
なぜ耳の裏が見えたのか。
虎耳のお姉さんが背後から近づいて来ていた女性達の気配を察し、振り返ったから。
「リーラ」
「ルト~。相変わらず早いね~」
リーラと呼ばれたのは、露出の多い踊り子のような服を着た青髪の女性で、年齢は二十代半ば位か。両隣の二人も同じような年恰好の女性だ。
「最初に声を掛けたのは私だからね」
ルトと呼ばれた虎耳のお姉さんは、僕を隠すようにリーラと呼ばれた女性との間に立つ。
「分かってるわよ。ただし、どちらを選ぶかはこの子自由だからね。ネ」
リーラと呼ばれた女性は、虎耳のお姉さんを躱すように体を傾け、僕にウインクをしてきた。
「ちょっと!」
「はいはい。あなたが先ね」
虎耳のお姉さんによると、自分達は冒険者の案内人みたいなことをしているらしく、宿や飲食店などの街の案内のほかに、ダンジョンに入るための手続きや攻略情報の提供なども行っているそうだ。
「報酬は……ダンジョンの戦利品の三割! どう!?」
前のめりで返事を待たれてるけど、高いのか安いのか。
「うちなら二割」
「ちょっと! じ、じ、じゃあ、私も二割で……」
虎耳のお姉さんは目を潤ませながら、今度は拝むように迫ってきた。
「ごめんなさい。どちらもお断りで。じゃ」
僕は走って逃げた。
「ええっ!?」
「ちょっ!?」
あの四人はおそらく共謀者だ。
別にあの四人のやり取りに違和感があった訳じゃない。
共謀していると思った理由は周囲にいた街の人達の反応だ。あの四人のいつもの行動を笑っているというより、騙されようとしている僕を笑っている感じだった。
あの笑いは本当に嫌いだ。虫唾が走る。
それに、なにより会ったばかりの女性と一緒に行動するという時点で無理筋な話だ。どう接していいか分からないし、落ち着かない。きちんと断り切る自身がなくて逃げたくらいだし。
やっぱり一人が気楽でいい。
「ここか」
ダンジョンにはすぐに辿り着いた。ただ道すがら七回絡まれた。この街、人目から死角になる場所が多いのだ。一度裏道に入ってしまうとなかなか抜け出せない。そして裏道には必ず目つきの悪い奴らが座っている。金出せ。殴らせろ。咥えろ。咥えさせろ。尻だせ。
もちろんボコボコにした。変態野郎共は特に。殺さなかったことを褒めくて欲しいくらい気持ち悪かった。
「名前は?」
「暖人」
「ハルトと。単独?」
「はい」
「……無理しないように」
「どうも」
子供の単独挑戦なのにあっさりと通された。
他人の命の安否には興味がないのか、それともあの受付のお姉さん、相手の力を見定める能力でもあるのかな。
どちらにせよ好都合だ。
ダンジョンの入り口は、巨大なクレーターのように抉られた地面の中心にある。
その側面にひとつだけ設けられた階段を下り、中心部に建てられた小聖堂のような建物に入る。
ステンドグラスに緻密な装飾が施された内装。正面には三メートル程の竜の彫像が置かれ、その手前の床に大きな階段があり地下へと伸びてる。
「成程ね」
階段に足を踏み入れた瞬間、ダンジョンの正体が理解できてしまった。
純粋にダンジョン探索を楽しみたかったのに……。
「ビビってるのならどいてくれねぇか?」
後ろで冒険者パーティーっぽい四人組がニヤつきながら待っていた。
「ああ。すみません。どうぞ」
「ガキの遊び場じゃねぇぞ」
「今度はママと一緒に来な~。俺が案内してやるからよ」
「あんたホント下品」
「ククク」
彼らはきっと無事に戻ってくるだろう。
その程度の連中だから。




