第13話 御前会議
王城。玉座の間ではルーベリア王臨席による臨時会議が行われていた。
構成員は玉座にルーベリア王、段下の両脇に宰相と近衛大将が立ち、王に向かって扇形に左から内務大臣、法務大臣、生務大臣、元帥、軍務大臣、財務大臣、外務大臣と席についている。議題は西部領の主要都市のひとつである『ブランドル』の次期領主に関してである。
ルーベリア王国は王都と九つの都市で構成されており、王都がある中央領と西部領は南北に走る山脈によって隔てられている。そのため、王都から西部領ブランドルへ赴く場合は山脈を避けて南周りで迂回する必要がある。つまり、西部領は独立性が高い地域であり、尚且つ、ブランドルは都市国家として自立できるだけの力も有しているため、政治的判断を誤れば独立を宣言される事態も起こり得る状況となっているのだった。そして、もしそうなれば、それはブランドルだけに留まらず他の都市にも波及する恐れを孕んでいる。それほど他の都市もブランドル同様に繫栄を遂げていた。
「流石に若すぎないか?」
リーベル公の子供は十歳になる嫡男のみであり、それを危惧した外務大臣『マドーク・バロヘア』の発言である。
この発言には宰相『クルレ・ヴァナ』が先んじて反応した。
「ブランドルの領主補佐室は優秀ですよ」
クルレは宰相として他諸侯の補佐室および補佐官の指導・教育も積極的に行っているため、そこは強調しておきたい部分であった。
しかし、外務大臣マドークが重ねる。
「確かに平時であれば教育しつつ周りが支えることで成人するまで持ちこたえることは可能かもしれん。だが、現状はもう平時ではない。だろ?」
外務大臣マドークの視線は宰相クルレに向けられていたが、反応したのは内務大臣の『バネット・ヒュース』であった。
「では後見人を置くか、領地替えですか? あの地はリーベル家への愛着が強いので対応を間違えると領民の反発を招きますよ」
同じ女性が発言した事で緊張が和らいだ財務大臣の『カリーナ・アン』が続く。
「直系のお方であれば、少なくとも後見人を置くことに関しては反発は招かないのでは?」
「直系となれば、先日陛下の弟君『ロダール公』が跡目をご子息にお譲りになり、隠居なされたではないか」
軍務大臣『リッター・エスクリアス』が賛同するように反応し、法務大臣の『ヤンガー・シュダート』もそれに同調した。
「ロダール公が後見人になられるのであれば筋は通るかと」
場にロダール公を後見人に置く空気が漂い始める。
しかし、それに危機感を抱いた女性が恐る恐る声を上げた。
「あの~」
分厚い眼鏡が特徴の生務大臣『メイリス・エトラー』だ。生務大臣とは生産、経済、厚生に関する行政機関のトップである。
「なんだ?」
外務大臣のマドークが苛立たし気に問う。
「ロダール様が後見人になると……その~」
生務大臣のメイリスは更に恐縮張った態度でルーベリア王の様子を伺う。
「よい。申せ」
「はっ。あの。ですね。ロダール様のご子息様が山脈の南端にある『サマロア』の領主をなされていますよね。なので、ロダール様が後見人になられると、その、ロダール家の西部領における影響力が強くなり過ぎるのではないかと」
「不敬であるぞ!」
マドークが内包していた苛立ちを吐き出すように声を荒げた。
「も、申し訳ありません」
「構わぬ。許す」
ルーベリア王の言葉を受け宰相クルレが口を開く。
「確かに要衝であるサマロアがロダール家の所領なのは気に掛かりますね」
「しかし、他に適任者はいないのでは?」
「成人するまで四年。問題なかろう」
財務大臣カリーナと外務大臣マドークが宰相クルレの発言を翻す。
だが内務大臣バーネットが釘を刺す。
「生きていられればな」
「どういう意味だ」
外務大臣マドークが内務大臣バーネットを睨む。
「そのままの意味だ」
内務大臣バーネットに臆した様子はない。むしろ威圧感のある睨み返しに外務大臣マドークの方が身を引かせた。
「『ディム』様はいかが思われる?」
宰相クルレがこれまで発言のなかった元帥『ディム・ローイ』に意見を求めた。
「いかな謀略が張り巡らされていようと、我々を御信じ下されば何事も御懸念には及びませぬ」
元帥ディムは泰然とした態度で端的に返し、再び黙した。
「陛下」
続く意見は出なかったので、区切りを見計らった宰相クルレがルーベリア王に意見を請う。
「皆の意見、大いに有益であった。追って沙汰致す。大義であった」
会議を終えたルーベリア王は私室のソファーに座り込むと、ため息を吐きながら背もたれに身を預けた。
「やはり報告書通り。か」
会議前、ルーベリア王の元には近衛軍情報調査室より謀反に関する報告書が上がってきていた。
「いかが致しますか?」
ドアの前で直立する近衛大将『ヴィダム・セイン』が支持を仰ぐ。
「謀反者に関しては証拠を集め外堀を埋めよ。リーベルの後継に関しては嫡男を直に見て判断致す」
王は憂いの中で願う。
国が一丸となって立ち向かう敵の出現を。




