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第11話 万象燈

 祈りは力を生むのか。

 僕は宗教家ではなかったし、霊能者でもなかったから地球の事に関しては分からないけど、()()()の祈りからは確かに力が放出されている。

 ただ、それが心地の良いものかと言えばそうではない。むしろ重圧に押し潰されそうな感覚に襲われ、とても不快だ。原因はおそらく、自分にその力を受け入れるだけの器が出来ていないからだと思う。僕は神様じゃないから。

 なので。

「あの、やめてもらっていいですか?」

 この街のオルトシーク教の一番偉い人が、会うなり僕に跪き、祈っている。

 この老人の名前は『ロラン・マクミール』と言い、オルトシーク教全体の中でも上から二番目の地位の人らしく、征士団との戦いに協力したお礼を言いたいと教会の瓦礫の処理をしている僕の前に現れたのだった。瓦礫の処理は、自転車の乗り方を教えてくれたお姉さんがやり始めたので僕も参加した。

「ああ。申し訳ありません。あなたから神の力を感じましたものでつい」

 入信の勧誘でもされるのだろうか? と少し警戒してしまったけど、感謝の言葉とそれに続く会話の内容からはそのような意図は感じられず、むしろ人当たりの良い老人という印象で、そのせいかよく考えもせずに唐突な()()()も受け入れてしまった。

「ただ、本当にそういったものは作ったことがないので期待しないで下さいよ」

 ロランさんのお願いとは教会に置く何かを作ってみてくれないかというものだった。

「構いません。私も思い付きで口から出ただけですから。気軽に気軽に」

 この柔らかな笑顔に癒され、救われた人はどれだけいるのだろう。征士団の襲撃中もこの人が避難所にいたおかげで恐慌状態に陥いる人はいなかったらしいし。

 ただ怒ったら怖いんだろうな。とも感じる。

 優しい人ほど怒ると怖いというし、ちゃんと作ろう。

「え? 今から作られるのですか? もう深夜ですよ」

「アイデアが浮かんで来たので今を逃したくないんです。それにどうせ気が昂って眠れそうにないので」

 本当は一旦帰ってまた来るのが面倒くさい。

 

 完成したのは明け方だった。

 発想の起点は祈りの力。この力をエネルギーにした物を作りたくなり、教会に置くものなので神に供える火である燈明を目指した。

 ただ完成したのは火ではなく光。

 多彩な光の宇宙が正六角形に配置された魔法柱の中で煌めいている。この柱に魔法の術式が刻まれ、その上に浮かぶ光玉が礼拝エネルギーの吸収、変換、供給を行っている。因みに柱の一つには転移紋章が刻んである。「不具合が起きていないか確認してます」が転移後に怪しまれた時の言い訳だ。

 そして肝心のロランさんの反応は……。

「これは……何ですか?」 

 怒っているのではなく、驚いている反応。まずは一安心。

 ただ、何かと聞かれても本当は僕もよくわかっていない。宇宙というのも形のない光の空間に様々な色の光が存在しているのを見てそう表現しただけであり、実際には黒はない。

 なので頭ではなく感覚で答える。もしかしたら当たっているかもしれないし。

「万象の根源です」

 全くの的外れでもない気もしている。ただ、色や形が固定されずに変化している理由が分からない。今は僕の魔力と教会内に残っている礼拝エネルギーで動いているけど、もっと色々な人の礼拝エネルギーが注がれれば更に多彩で多様な変化を見せるだろうし、何かを生み出すかもしれない。力か。物質か。現象か。ただの気のせいか。

 ロランさんは僕の返答を聞くなり再び光の宇宙を見つめて固まってしまった。

「……あの、撤去しますか?」

「とんでもない!」

 怖っ。

 細い眼を見開いて威圧されてしまった。

「早速使わせていただきます」

 早速?

 

 教会の人たちが何やら忙しなく動いていたので、やることがなくなった僕も早々に引き上げた。

 朝日が眩しい。

 徹夜をしたのは初めてだ。

 帰って寝よう。

 アイたちは買った服を喜んでくれているだろうか。


 八日後。半壊した教会や教会の周囲の建物を撤去し、万象燈を中心にした大葬儀が行われたらしい。そしてルーベリア国王および各地の領主、高官が参列する中で捧げられた一斉礼拝において、万象燈が不思議な光を放ちだし、その光が周囲を包むとリーベル公の霊体が現れたのだそうだ。

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