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第10話 聖アルレリオス征士団

 人族至上主義であり他種族排斥を教義に含む宗教団体。それが『人神』を唯一神として崇める『ラスティア教』だ。そして、その武力組織が『征士団(せいしだん)』である。

「班長。天使が二人いる紋章って確か」

 防衛隊の青年がリーダー格の人に尋ねる。

「ああ。『聖アルレリオス征士団』。教皇の直轄部隊だ」

 ラスティア教の聖典では天使は八人いるとされ、教皇直轄の征士団には天使が描かれた紋章が授与されている。

「『聖雷』」

 交戦の口火を切ったのはその征士団の男だった。

 狙いは僕。

 頭上に魔法陣が現れ雷が落ちてきた。

 魔法陣が出現する気配は感じられていたので、余裕をもって回避。

 すると今度はその回避先を狙って、防衛隊の一番若そうな人が剣を降り抜きながら突っ込んできた。

 嫌な笑みだ。

 おそらく天才肌なのだろう。ずっと相手を見下すような目と笑みを浮かべていた。

 だからか、相手の剣を躱すと同時に強めに殴ってしまった。

「あ。ごめん」

 泡を吹いて気絶する相手を見て自制心の未熟さを自省した。もちろん同時に爽快感もある。

 それを見て大笑いする征士団の男。

「お前、殺すつもりでやったろ」

 やけに嬉しそうだ。

 殺意なんてなかった。とは言い切れないので反論は出来ない。ああいう目や笑みに対する嫌悪感の強さは自覚している。

 逆に防衛隊の二人は青褪めている。

「勝手に動きやがって。これで完全に敵になってしまった」

「敵じゃなかったんですか?」

「何を見てたんだ? 街の一般女性に気を使ってただろ? 共闘できる可能性はあった。だがそれはもう関係ない。いいか、こちらからは仕掛けるな、隙を探れ」

「『聖輪』」

 征士団の男は、今度は防衛隊の二人に向けて切断系の光魔法を放った。

 まるで無数の天使の輪が襲っているような光景だ。

 こっちにも飛んできた。

 なら、試してみよう。

「『雹石』」

 なんて名前はどうだろうか。

 隕石魔法の実験として空から石を降らせてみた。

「クソッ」

「無茶苦茶だ」

 防衛隊の二人は横からの天使の輪と上からの石の雨への対処でてんやわんやになった。それでも石の雨が天使の輪の半分以上を壊しているので何とかはなっているようだ。かなり必死そうだけど。征士団の男は相変わらず笑っている。ああいうのを戦闘狂いと言うのだろうか。

 一方、この魔法に関しては個人的には物足りない。ただの石というのが地味過ぎる。

 なので石の性質を変えてみる事にした。

 炎を纏った岩、もしくは内包した岩。

 隕石とは違うけど見た目が良さそうなので思い付いた魔法をやってみる。

「『魔源マグマ岩・(つぶて)』」 

 マグマを生成する魔法陣に冷却の魔法陣と加速の魔法陣を被せた多層魔法陣魔法だ。

 今回は街への被害を考慮して、大きさは拳大、内包するマグマは僅かに見える程度にした。爆発の付与もしていない。それでも夜に映える隕石もどきが完成した。マグマのオレンジはとても美しい。

「魔王かよ」

 魔王じゃないよ防衛隊の青年さん。両腕を広げて笑っている様は変かもしれないけど。

 防衛隊の二人は、二人で作った魔法障壁の殻に完全に閉じ籠った。征士団の男も天使の輪を放つことを止め回避に徹している。

 これで見た目には満足できた。後は、魔法陣を二つも三つも重ねるのが大げさな気がして気に入らない、なんとか一つの魔法陣で……。

 お姉さん厄日かな。多分また襲われている。

 何かの建物の地下に避難したみたいだけど、その上で戦闘が起きている。ずっと魔力感知で気にしていてよかった。

「班長。あの少年消えました」

「切り替えろ。征士団の男はいる。増援が来るまで持ちこたえるぞ」

「ったく。なんてガキだ。だが、これで()()()()()は達成だな」


 襲われている場所は教会だった。

 ここの教会を運営しているのは、『創造神』を主神とした単一神教系の宗教組織『オルトシーク教』だ。ラスティア教とは違い他宗教、多種族に寛容であり、武力組織も保有していない。

 とはいえ、戦えないわけではないらしい、オルトシーク教の人達七人が、征士団の三人と魔法戦を展開している。戦況はオルトシーク教の人達の方が劣勢。征士団の前衛二人の魔法を七人掛りで何とか防いでいる状況だ。そして、たまにすり抜けた魔法が教会を破壊している。

 オルトシーク教の人達がここまで劣勢になっている原因はあの女性だろう。前衛の二人が攻撃に集中できるように的確に魔力障壁を展開して敵の魔法を悉く防いでいる。尚且つ、自分達の周囲の魔素濃度を上げてそれぞれの魔力効果を高める補助もしている。おそらくその補助は魔法ではなく、感覚で行っているものだろう。いや、本能的に自動で行われていると捉えるべきか。武門の家系の人なのかもしれない。

 となれば、狙いは彼女だ。

 今回は『魔源マグマ岩・礫』を上からではなく横、自分の身体の前から放つ。

 見事に全て魔力障壁で防がれてしまった。完全に不意打ちだったのに。

 威力を上げてもう一度放ってもいいけど、それじゃつまらないので、今度は苦手克服に協力してもらうことにした。

 狙いは前衛の男二人。『魔源マグマ岩・礫』と魔力障壁が衝突した余波で土埃が舞っているので彼女への目隠も出来ている。突っ込むなら今。

「なん、だ。このガキ!」

「『只の蹴り』」を放つ。

 彼女の魔力障壁で防御された。

 まさかこの土埃の中、しかも、この速さでも間に合わせてくるとは。

 魔力感知でも身に付けているのかな。

「ドル! マルク! この子に集中して!」

 征士団の女性が前衛の二人に指示を飛ばした。

「しょうがねえな。ドル! しゃがめ!」

 奥にいたマルクという男がしゃがんだ仲間の上から飛び蹴りを繰り出してきた。しゃがんだ男は足払いを狙っている。洗練された連携だ。

 退く。

 そして躱し切ると再び前へ。浮いているマルクという男に拳で一撃を食らわせる。

「『風燕(かぜつばめ)』!」

 鳥の形をした風魔法が、マルクを僕の拳が当たる寸前で押し飛ばした。

 空振る拳。

「『聖槌』」

 そこへ、ドルが魔力で具現化した鉄槌の横打ちが迫って来た。

 魔力の多様さと奥深さをあらためて実感しつつ、正面から食らった。

 防ぐことも、避けることも実際にはできたと思う。ただ決断が間に合わなかった。

 これが経験不足なのだろう。

 思い切り殴り飛ばされて、数度地面を跳ねたあと壁に衝突した。遠心力の効いた良い一撃だったと思う。

「痛って」

 血は出ていない。

 ホント、丈夫な身体だ。

「笑ってやがる」

「嘘だろ? 完全に捉えた感触だったぞ」

「余計な事言ってないで魔法でたたみ掛けて!」

 そうだ。もっとやろう。今度は魔法を打ち合おうか。

「カリン!! 撤退だ!!」

 上空に新たに三人の征士団員が現れた。

 いかにも上位者っぽい男がいる。短い金髪に端正な顔立ち。威厳があふれ出ている。そして従者が二人。叫んだのはガタイの良い方の従者だろう。もう一人の従者は細い体にさんばら髪で目の下には隈が濃く出ている。いかにも魔法特化型。

 ……あいつか!

 直感的に感じた。隕石魔法を放ったはあの男だと。

「じゃ、帰るよ~」

 隈男はそういうと地上にいる仲間を結界で包み、浮かせた。あいつが引っ張って連れて帰るのだろう。絵的には転移で消えてほしいところだけど、今は好都合だ。

 かかされた恥を返してやる!

「『魔源マグマ岩・隕石』!」

 己の未熟さを嘆くがいい。

 もちろんただの脅しなので、彼らの前に吸収の魔法陣を出現させ、寸前で消す。そして驚く様を見て高笑いしてやるのだ。


「あのガキがやりやがったのか!」

()()()()様。あの少年」

「ああ。()()()()の目的も達成された」

「最後の目的はいかがなさいますか?」

「不要。実行したところで少年(アレ)に防がれて失敗する」

「かしこまりました。では撤退いたします」


 翌日。リーベル公の崩御が発表された。

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