黒いプール
「××××××××××××××××××××。」
「○○○○○○○○○○○○。」
「※※※※※※※※※※※※※※※※※。」
「╋┓┛╋┣┏┓┫┴┃┣┏┓┫┴┃┗╋。」
私は、イルニュス人の言葉は、分からない。
だが王の魚たちは、明らかに別の言語で話していることぐらい分かった。
しかも全員、それぞれ違う言葉に聞こえる。
彼らは、どういう訳かそれでも会話ができるらしい。
それともあれが鳴き声で言葉も話せないほど下等なのか。
試しに私は、王の魚に声をかけてみた。
「何ですか?」
どうやら通じたらしい。
私にヴィネア語で返事した。
まつ毛の長い少年たちが私の前で立ち止まった。
全員、眩しいばかりの宝石を身に着けている。
「用がないなら僕らは、行きますよ。
それでは、大佐殿。
我が君に宜しく。」
私の本来の目的は、嵐の国の技術をこの目で見ることだった。
鯨の宮には、確かに考えられない生物科学が存在した。
しかし次第に私は、心の癒しを求めてここに通うようになった。
男色に興味はないが獣面のイルニュス人は、うんざりだ。
ここには、少なくとも胸の悪くなる醜悪な類人猿どもはいない。
王の魚たちの美しく見慣れない人種の顔や姿は、興味深かった。
人間の動物園のようで悪趣味でもあったが。
ここにいる少年たちは、誰もが残らず絶世の美を備えている。
それに王の魚は、舞踊や歌唱にも秀でていた。
嵐の王を楽しませるため皆、一流の芸を磨いているのだ。
本番は、嵐の王にしか見ることはできない。
しかしその練習風景は、私も自由に見て回ることが出来た。
私が知るどんな歌曲とも異なる文化様式からなっていて遠い古代の景色を想像させる。
また武芸の訓練もしていた。
騎馬戦、白兵戦、一対一の試合。
思わずスポーツのように観戦者にも熱が出る。
だが、ある日のこと。
一人の王の魚がプールに入っていった。
何気なく見ていた私は、血相を変えて飛び上がることになる。
少年は、黒い水の中に消え、上がって来ない。
見ればその池は、他の池と違い黒い不語仙すら咲いていない。
不吉な気配を感じさせるものだった。
心配になった私は、近くの王の魚の腕を掴んだ。
「ええ…っ!?
何をなさいますか、大佐殿。」
私が腕を掴んだ王の魚は、少し不愉快そうに驚いていた。
私が誰か池に沈んで上がって来ないと訴えても素っ気ない。
一人、騒ぎ回る私に彼は、やっと答えた。
至って平然にである。
「ああ…。
あそこは、王の魚がまことの魚となる池です。
上がって来ないのは、当たり前ですよ。」