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技術指導




嵐の王(ゼナピナ)の宮殿は、心地良い泉が湧くオアシスにある。

砂漠の中、完全に孤立し、地平線まで都市は、一つもない。


城壁の内側には、玉葱型の円屋根と尖塔が無数に広がる。

どの建物も黒大理石と白大理石から作られ、二色の影が折り重なる。

壁には、黄金と宝石が埋め込まれ、庭木の緑がいろどりを加えていた。


宮殿の池には、禁じられた黒い不語仙(ブラックロータス)が咲く。

虹色に照り輝く四方世界でもっとも高価な宝。

病める魂を喰らう涜神の黒い花をも盗む人は、ここにはいない。


黒い不語仙から遥かに劣るとはいえ数々の宝石や黄金もある。

既に掘り尽くされた秘石や遠い記憶の中に忘れられた宝物たち。

すべて滅亡した文明の略奪品だ。


しかしここに盗人を拒む一つの錠も扉もありはしない。

誰もこの砂漠を抜けることは、できないからだ。


この宮殿に入れる者は、嵐の王の許しを得た者だけ。

遠く神代から嵐の王にだけ口伝されるまじないで呼ぶ雲。

それだけが曠野を移動する人間に慈雨を与え、死の太陽を遮る。


常に嵐が停泊する嵐の国。

この王城は、嵐の目にあり、常に陽光が差している。

故に宮殿の周りは、一切の生物がない死の空間となっていた。


この宮殿も嵐の国の隅々に至るまで嵐の王の霊威に支えられている。

そう6万年もの間、信じられ、こうして存続して来たのだ。






「シャデル。」


ここでは、私を皆、こう呼ぶ。

仮に大佐シャデルとしておこうか。


嵐の国で「司令官」という意味らしい。

他に大臣や領主にもこの呼びかけをする。

これより上位の大シャデル(シャデラズル)という呼称もある。


技術顧問として招聘された私に対する礼儀上のことだ。

実際に私は、この国の大臣でも将軍でもない。


「大佐、来てください。

 機械の調子を見て欲しいのです。」


若い男が私にそういった。

私は、涼しい部屋から離れたくなかったが彼を追って部屋を出る。


嵐の国は、進歩から遅れている。

イルニュス人は、ヴィネア人より劣るからだ。

それは、彼らの半獣人サテュロスのような身体にも現われている。


「大佐は、素晴らしい方です。

 嵐の国を豊かにしてくださる。

 この国の全ての民は、大ヴィネアを恩人と思っていますよ。」


ニコニコと笑うイルニュス人たち。

しかし私は、彼らの顔も見たくなかった。

膨らんだ額、厭らしい獣じみた四肢には、胸がむかつく。


「こっちも見て下さい!

 さっきまでは、調子が良かったのに…。」


その声で振り返った私は、驚いた。

こちらの青年は、ヴィネアに近い人相をしていたからだ。


「…しゃ、大佐シャデル…。

 俺が、どうかしたんですか。

 な、何か驚かせるようなことを…?」


すぐ私は、気にしなくとも良いと青年に答えた。

イルニュス人は、不快だが互いに憎み合って仕事したくはない。

妙に嫌われても困る。


だがここでイルニュス人の中年男が私にいった。


「こいつの顔立ちが皆と違うので驚いたのですな。

 ペレメソは、ボボ人の血が濃いんです。

 6万年前に我々の祖先が嵐の国に着いた時に遭遇した原住民です。」




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