表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

拝謁




「陛下は、遠路遥々よく来たと仰っています。」


黒大理石で作られた宮殿には、紫のもやが立ち込めている。

天井より垂れる黄金と宝石、象牙で作られた飾り帯の下に香炉がある。

それが靄のもとだ。


靄の中に立つ通訳は、嵐の王(ゼナピナ)の言葉を私に伝える。

嵐の王は、遥か遠くに坐す。


嵐の王は、四本しほんの柱に囲まれた内陣にある玉座の上。

玉座を頂く台のきざはしは、高く三百段あり、御簾みすが掛かっている。

嵐の王の言葉を伝える役人、王の口(セイファル)は、この段をゆっくりと降りて来る。


「…陛下は、この宮殿を自由に見て回って良いと仰っています。」


王の口の言葉に対して私は、礼を述べると共に改めて念押しした。

私が嵐の国にやってきた重要な案件に着いてである。


私の言葉を通訳を通して王の耳(ベイラル)が聞いている。

王の耳は、階段を昇り、私の言葉を嵐の王に伝える。


王の耳は、16人。

玉座の前に一列で並んでおり、王に拝謁客の言葉を伝奏する。

役目を終えた王の耳は、王の傍で待機する。


対する王の口も16人。

彼らは、玉座から降りて来て役目を終えると立て膝を着いて並ぶ。


すなわち王と謁見する人間の会話は、16回まで。

そう定められていた。


やがて再び王の口(セイファル)が階段を降りてくる。


「陛下は、言わずもがなであると…。

 誰に何なりとたずね、何なりと頼むが良い。

 ……件の鯨の宮にも入って良いと仰っています。」


そう言って通訳は、王の口の言葉を私に伝える。


私は、御簾の向こうの嵐の王に感謝を表した。

両腕を不自然な角度に保つ、奇妙なお辞儀。

これが嵐の国の礼法である。


やおら御簾の中の影が動いた。

全ての王の耳が階段を昇り、全ての王の口が降り終えた。

嵐の王が謁見を終える時間になったのだ。


私をはじめ、この広間にいる全員が目を瞑り、ひれ伏した。

しかし私だけは、コッソリと嵐の王の姿を見ようと首を捻る。


近習たちを引き連れ、王の足(シャムブ)に運ばれる嵐の王。


イルニュス人の末裔たち。

6万年の長い時間、イルニュスの血は、交雑によって薄れた。

しかし嵐の王だけは、古い血を保っているという。


彼の足は、我々と違っているのか?

彼の指は、我々と同じ数か?

彼の背に鰭があるというのは、本当か?


だが私の想像以上に王の足は、素早い。

私が盗み見た時、嵐の王は、既に次の間に移動する最中だった。

私が見たのは、彼に付き従う王の盾(ラパブー)たちの背だけだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ