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序文




遥かなる嵐の国。

途切れることのない曇天、荒寥こうりょうと吹き荒ぶ風。

見渡す限り続く黒々とした岩砂漠、不毛の曠野こうや


そこに君臨するのが嵐の王(ゼナピナ)である。


この地でイルニュス人のすえは、6万年前の大変動を生き延びた。

あらゆる大陸が引き裂かれ、海洋に没した時、ここに居た動物たちだけが生き長らえたのだ。


我々、ヴィネア人の祖先、始祖たるアルスの子らもかつてこの地に在った。

イルニュスの奴隷として共に拘引されたためにだ。


それは、恥辱の歴史として帝国の記憶にある。

しかしこれによって2万年前のおおみずも逃れ得たのである。


黄金大陸では、古代ヴィネア帝国とオース人の黄金の太陽帝国が洪で共に滅び。

やがて猿人から歩み出たトゥーレ人が代わりに文明を築いた。


マウザボリア人は、トゥーレ人に競い敗れて北辺のヌマドゥヤに追いやられ、猿同然のイアル人の家畜となった。

彼らは、奴隷の憂き目に置かれただけでなく種として退化し、心身まで獣になり下がっている。

これは、彼らの野蛮な主人が残忍で、かつ彼ら自身も心底が卑しくトゥーレ文明の光から離れたために元々備えていた暗い獣性が露わになったためである。


しかしやがてマウザボリア人は、主人であるイアル人の衰微に伴ってその境遇を脱した。

トゥーレ文明は、高度に発達し、他の人種より幾分か洗練され、人らしい善徳を備えていたがマウザボリアの半猿が一千年国境を侵寇おかしては、遂に命脈を断たれた。


宿敵のトゥーレを滅ぼし、マウザボリアが中原に復帰した。

これは、ヴィネアのみならず全人類の歴史において最も悲劇的な事件である。


トゥーレ人は、我らヴィネアやオースより劣るとはいえ前文明の様式を中身の伴わぬ空虚な形として模倣する程度の知能を有していた。

また善や徳、愛を求める人間性を有し、信仰を柱とし、皇帝を頂き、秩序を大陸に建設した。


結局、真実なき種は、絶える運命にある。

トゥーレとオースが滅びたのは、ヴィネアと違い全てが形だけの物であったからに他ならない。

彼らの信仰も善徳も真のものではなかったからである。


それより酷いマウザボリア人には、新しい文明を築く能力がなかった。

半猿に過ぎない彼らは、長い家畜としての暮らしにより、その営みは、原人の域に留まり、言語さえ失った四足獣である。

故に彼らは、トゥーレ人の廃墟の上に獣人の群れの如き下劣な諸王国を作り、個々の欲望に従って愚かな争いを繰り返した。


一方で南洋に目を向けると快楽主義のコナ帝国が版図を広げていた。

その科学力は、トゥーレ文明を凌駕せしも邪悪な精神に根付き、全き悪徳の色で染め上げられている。

彼らは、頽廃と紊乱に堕し、善悪の区別なくただただ享楽の窮みに達していた。


そして東洋では、人間じんかんで最も進歩に立ち遅れた残忍なイデゴモス人がようやく2本の足で立ったのだ。


アルスの子らが嵐の国(バドゥ・ヤーン)とりこであった6万年。

その間に世界中で愚劣な種が冒涜的な文明を築いたのである。


今日こんにち、我々ヴィネア人が嵐の王のくびきを離れ、母なる大陸に戻り来た。

そして下等なマウザボリアの諸王国が駆逐され、4百年。

大ヴィネア帝国には、地上に信仰をもたらす崇高なる使命が課せられている。




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