家族とオレ
「ただいまァ…」
家に着いたオレはリビングに向かった。
カレーの香りがすると思ったら、どうやら母さんが夕飯の準備をしていたみたいだ。
「あら、おかえりなさい。すぐにご飯の準備終わるからね〜、さっさと手を洗って食べなさいよ」
「はァーい」
今日はカレーか、てか昨日も一昨日もその前もカレーじゃなかったか?
そろそろ飽きてきたんだけど…
だが、折角準備してくれた親にそんなことは言えるわけなどなかった。
多分文句言ったら怒られるしな…
「いただきます」
うん、甘いな。
オレは机に置いてあった香辛料をドバドバかけた。
「アキ、そんなにかけたら体に悪いわよ?」
「このくらいがいいんだよ」
「そういうところ父さんそっくりね」
「親父と一緒にすんなよォ…」
でも多分、オレは親父似だ。
母さんはなんというかふわふわしている、まあ悪くいうならアホっぽい。
だが、親父は180cm越えの高身長でガタイも良く男らしいタイプだ。
オレも身長は女にしては高いし、兄は親父よりもデカい。
確か190cmくらいはあったはず。
兄は社会人で東京に暮らしているからここ数年会えていないが仲はいい方だと思う。
実際この口調は殆ど兄の影響だ。
母さんとは、昔よりは話すことは減ったものの仲は悪くない。
でも父さんとはここ最近はあんまりいい関係とは言えない。
すると玄関のドアが開く音がした。
「ただいま」
「あら、父さんも帰って来たわね」
噂をすれば帰ってきやがった。
「アキ、学校はどうだったんだ? 友達できたのか?」
「るっせ、関係ないだろ。」
「こら、そんな口の利き方しないの! 友達が出来たかどうかは母さんも気になるから教えてくれないかしら?」
「あー、もう! 出来たよォ友達!」
そう言うと母さんは嬉しそうに笑った。
「良かったわ〜、アキ、中学生の時は1人だったから心配だったのよ」
心配させてたのは正直悪かったなと思う。
しかし親父の方は喜んだ様子は特になかった。
どうせ本題はここからだ。
「そうか、この調子ならいい男も見つかるな。」
でた、親父はすぐにそっちの話に持っていく。
オレは家族に一度も同性愛者であることは話していない。
まず話すつもりは無い、だが男と付き合うのが当たり前みたいな話し方されるとモヤモヤする。
「アキはもう高校なんだ。そろそろお洒落したりして女の子らしくしたらどうだ?」
「…」
親父はココ最近彼氏作れだの、女らしくしろだの小言ばっかり言ってくる。
親父に悪気がないのは分かっているが、オレはこういう話をされるのが好きでは無い。
それに反論したら怒鳴られる事は分かってるし、世間的に言われている『女らしさ』というものがオレには欠けていることも分かっている。
実際、昔から荒っぽいし、周りの女の子が好むような遊びや服には興味はなかった。
別に、女に産まれた事が嫌とは思わないが、たまに産まれてくる性別を間違えたかなと思う。
「今度父さんが可愛い服買ってあげるよ」
「いらねェ」
「そんなこと言わずに一緒にいくぞ」
「ご馳走様ァ〜! じゃっ、オレ風呂入るからァ」
オレは逃げるようにリビングから出ていった。
オレのことを分かってくれる人は周りにいない、それは凄く辛いが、全て打ち明けてしまった後のことを考えると耐えるしかない。
そう耐えるだけ、それだけだ。
*
風呂から上がったオレは日課になっているアニメ鑑賞を始めた。
別にオタクとかそういうのでは無い。
中学生のとき、同性愛について調べていたら百合アニメというものがあることを知ったから見ているってだけだ。
アニメの世界ではこんな簡単に同性でも好き同士に慣れるのに現実はそうはいかない。
オレは優木チャンのことを思い浮かべた。
あの子ならオレが同性が好きなこと受け入れてくれるのかな…?
いやいや!その考えはやめろ、既に痛い目を見ただろう。
いくら優木チャンが優しいからと言って簡単に話すのは良くない。
それに優木チャンのことは好きにならないようにすると決めたのだ。
それは辛いことのはずなのに、明日の学校が不思議と嫌じゃなかった。
それは多分優木チャンがいるからなんだろうな…
オレ、なんか既に優木チャンの事で頭いっぱいになってるじゃねーか。
まぁ、明日になりゃ大抵のことは忘れられるっしょ!
そんなことを考えながらオレは寝落ちした。
明日の朝、教科書の準備を一切していなかったことを後悔をすることを知らずに…