大切にしなくてはならない
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リビングに向かうとカレーが机に並べられていた。
嘘だろ? またカレー? ここ1週間くらいずっとカレーじゃないか。
「ちょい待て母さん、またカレー?! 」
「そうよ、最近色んなカレーを食べるのにハマってるのよ〜」
面倒臭いからいつもカレーなんだと思っていたがそんな理由があったとは…
確かにいつも味は少し違ったけど、毎日カレーは流石に飽きた。
「わぁ! 美味しそうなカレーですね」
優木チャンはヨダレを垂らしながら目をキラキラさせている。
カフェに行けなかったからお腹すいてるんだろうな…
「ほら2人とも座って、おかわりもあるからどんどん食べてね〜」
そう言って母さんはデカイ鍋を持ってきた。
食べ終わるのに5日くらいはかかりそうな量で、まだカレー生活が続くということだろう。
それは流石に嫌だ。
「優木チャン、遠慮せずに沢山食べなよ? てか全部食べて」
オレは少しでもこの生活から抜け出すために申し訳ないが優木チャンを利用することにした。
「いいの?! じゃあ遠慮なく頂くね」
優木チャン嬉しそうにしながら椅子に座った。
「いただきます!」
優木チャンはすごい速さで食べている。
まるでカレーが飲み物かのようだ。
いい食いっぷりだなおい…
オレは置いてあったスプーンを手に取った。
「いただきます」
オレが食べ始める時にはもう優木チャンの皿は空になっていた。
「食べるの早いわね〜 まだ食べれるなら沢山ついでね」
母さんはそう言いながら炊飯器を持ってきた。
「ありがとうございます」
優木チャンは幸せそうに笑った後、空になった皿にもりもりとお米をついでドバーっとその上にカレーをかけた。
「大食いで見る量だぞこれ…」
パクパクとこれまたすごい速さでカレーを食べていく優木チャンをオレは唖然と見ていた。
母さんは驚く様子もなく微笑ましそうに優木チャンを見ている。
「食いしん坊なのね〜アキもこんだけ食べればいいのに」
「胃袋破れるわ!」
「そうだよ〜? アキちゃん細いんだしもっと食べなきゃ」
「オレ結構食べる方なんだけどなぁ…」
よく動くし、筋肉を鍛えるためにも飯は人より沢山食べているはずだ。
優木チャンが異常すぎるだけで…
「それにオレ細くないだろ、どちらかって言うとゴツイ気がする」
オレは女なのに結構筋肉質だ。
ほんと、自分の性別がよく分からなくなる。
「細いと思うけどね〜? 私はどこもかしこも脂肪だらけで恥ずかしいよ」
どこもかしこもっていうか主に胸だろ…
「丁度いい体型だと思うけどなァ、痩せてたら心配になるし健康的な優木チャンの体オレは好きだぞ」
「そんなこと初めて言われた… なんか照れるね」
優木チャンは真っ赤になった顔を両手で隠した。
結構照れ屋だよな、そういう所も可愛い…
そんなオレたちを見て母さんはクスッと笑った。
「あんた達仲良いわね。知り合ったばかりなのにラブラブじゃないの〜」
「ゴブォッ! ゴホッゴホッ…ハァ?! ラブラブじゃねーし」
オレは食べていたカレーを喉に詰まらせた。
突然なんてこと言うんだよ…!
「何をそんなに焦ってるのよ…」
「そうだよアキちゃん、私達ラブラブでしょ?」
「なッ!!」
2人してオレをからかっているのか? それとも天然なのか…いや、オレが意識しすぎなだけか…
「そんなことよりカレー早く食べないと冷めるだろ、早く食えよ」
オレはカレーを食べるのを再開した。
「え、私もう食べ終わったよ?」
そう言って優木チャンは空になった鍋を指さした。
「いや早すぎないか?! いつ食べたんだよ、もう飲んだだろこれ」
オレはまだ半分しか食べていないというのに…
「あ、ごめん…アキちゃんの分無くなっちゃた」
優木チャンは目を潤ませた。
「いや元からおかわりする予定なかったし、そもそもオレが食べろっと言ったんだしいいよ。驚いただけ、むしろ食べきってくれてありがとう」
「へ?」
優木チャンは何言ってるのか分からないという顔をしていた。
「ココ最近ずっとカレーで食べ飽きてたんだよ。優木チャンが食べてくれたおかげでこの生活から抜け出せる」
「そうだったんだぁ…なら良かった」
優木チャンは肩をホッと撫で下ろした。
「アキ、カレー生活はまだまだ終わらないわよ。明日はまた作るからね」
「鬼畜か!」
ほんと勘弁してくれ…
オレは無心で残りのカレーを食べた。
*
のんびり夕食を食べていたら8時になっていた。
この時間に女の子1人で帰らせるのは気が引けるな。
「外暗いし送って行こうか?」
「大丈夫、実はさっき連絡したから迎えが来てるんだ」
「なら安全だな。気をつけて帰りれよ」
「ありがと!」
母さんは「もう帰っちゃうの〜? 明日休みならお泊まりして行っても良かったのに…」と言って名残惜しそうにしている。
優木チャンが気に入ったんだろうな。
「お邪魔しました。ご飯まで頂かせてもらって本当に有難うございます」
優木チャンは深く頭を下げた。
「いえいえいいのよ〜また来てね!」
「はい、ありがとうございます! アキちゃんもまたね」
優木チャンはそう言って帰っていた。
「いい子ね、あの子」
「本当だよ、なんでオレなんかと一緒にいるんだか…」
オレは溜息をついた。
本当なんでオレみたいなやつと一緒にいてくれるんだろうか。
「あんないい友達作れてお母さん安心したわ。アキ、大切にしなさいよ?」
母さんはオレの顔をじっとみた。
「わかってる」
母さんはオレが同性愛者だってことなんとなく感ずいてるのかもしれない。
でも大丈夫だ、大切にするに決まってる。
オレなんかと一緒にいてくれるんだ、大切にしなくてはならない、傷つけることはしたくない。
きっとオレが友達以上の関係を望めば傷つけてしまうだろう。
だから好きになってはいけないんだ。
オレはズキズキ痛む胸に気付かないふりをして部屋に戻った。