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Day12

「ご心配おかけしちゃいました〜! この度めでたく、シンゴ復活でございまぁ〜す!」


 出勤時間から5分遅れて店に現れたシンゴはまだ松葉杖をついていた。「営業中は働けないが仕込みなら出来る、夏休みを楽しむ金を稼ぐぜ!」ということで、痛々しい姿での出勤となったのである。シンゴの元気そうなあいさつを聞いて安心した表情の店長がぼやく。


「シンゴー、元気だけが取り柄のお前が骨折してたらダメだろ。ここ1週間色々あったんだぜ。泥棒は入るし、林田さんは亡くなるし」


「ええ、マジっすか!? 林田さん好きだったんだけどなぁ〜、ナオちゃん知ってた?」


「あ、ああ、まあ一応ね」


 彼の死因には何となく心当たりがあるが、それを心から信じることはやっぱりできなかった。呪術で人が死ぬなんて、現代日本で起こり得るはずがない。……と思いながら、完全に否定できる根拠もないと思う自分もいる。


「そうだ、シンゴお前制服無くしたんだって?しっかりしろよ〜、しかもこの短期間に2回も」


「ええ!? さすがの俺も1回しか無くしてないっすよ!」


「何とぼけてんだ。ナオちゃんは確かに2回、お前の分だって言って新しい制服持って行ったぞ。なあ、ナオちゃん」


 色々あって俺にも新品の制服が必要だったんだ。許せシンゴ。アイス奢ってやるから。


「店長の言う通りっす。じゃ、シンゴの元気そうな姿も見れたんで俺は上がります。お疲れしたー」


 既に私服に着替えていた俺は、シンゴと入れ違いに店を出る。後ろから「説明して〜」という間抜けな声が聞こえるのを無視して自転車に跨る。昼過ぎの日差しは容赦なく皮膚を焦がす。駅前だというのに街路樹からはアブラゼミのやかましい声が聞こえる。どうしようもなく、夏だ。


 中央公園は相変わらず街の喧騒とは無縁だった。柔らかな木漏れ日の中を通り例の場所を目指す。生命力あふれる深緑の木々を抜け、俺は難なく儀式の跡を見つけ出した。今週だけで何度この場所に足を運んだだろう。


 藁人形は一体だけ残っていた。俺が1週間西山さんにぶつけた制服と、それに付着していた髪の毛が結え付けられている。釘は四肢、両胸、頭部の7箇所に深々と打ち込まれている。西山さんは予想通り儀式をやり切ったのだろう。


「これで……終わったんだよな」


 西山さんの元々のターゲットは、たぶん林田さんだ。異様に近い距離感、西山さんの死んだ目。会社で常習的にセクハラされていてたどり着いたのが呪いの儀式。もう少しで儀式の完了を迎えるというところで俺たちに見つかってしまったんだ。……あくまで推測に過ぎないけど。


 そして俺は反撃に出るにあたり、信じがたいとは思いつつ彼女の呪いの力は本物だと仮定した。林田さんは当時からひどく辛そうにしていたし、シンゴの四肢も骨折や捻挫の憂き目にあった。このまま西山さんが儀式を進行させれば俺や家族以前にシンゴの身が危ない。だからこそ無謀と思われた直接対決に挑んだのだ。西山さんの小刀を見た時は血の気が引いたが、結局俺の計画は上手くいった。


 俺は藁人形に結ばれたまっさらな服の切れ端を取り除き、もう一つの呪物である髪の毛を手に取った。艶のあるしなやかな毛先をたどっていくが毛根はない。よく見ると鋭利な刃物で切られたような斜めの断面をしている。


「あっ」


 木立を抜けてきた涼風が肌をふわりと撫で、つまんでいた髪をどこかへさらって行った。それから少し遅れて柔軟剤の人工的な香りが漂ってくる。


 俺は飛んで行った髪の毛に向かって両手を合わせる。


 西山さん、できればどこかで元気に過ごしていてください。もし本当に呪いの力が成就しているのなら、せめて安らかに眠ってください。


 長い黙祷の後、俺は新緑の道を戻る。


 照りつける日差し、噴き出す汗、蝉の声。夏だ。たくさんバイトして、稼いで、サークルの女の子と海とか行って、友達と飲んで、たまに吐いて怒られて、もう2度とやらないと誓うくせにまたすぐ飲み会に行って。


 そんな輝く日常に向かって、俺は自転車を漕ぎ出した。

くぅー疲れましたw これにて完結です!

実は、『帰り道』の特集を見かけたのが始まりでした

本当は話のネタなかったのですが←


というわけで、お読みくださりありがとうございます。初めてのホラー、初めての作品完結。個人的にはなんだか達成感があります。書ききっただけでも嬉しい、読んでもらえるのはもっと嬉しいです。もちろんコメント等いただけたら、最高に嬉しいです!


ホラーながら爽やかな読後感を目指してみました。ここまで着いてきてくださった皆さんに、よき読後感がありますように……!

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