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Day3

 8時。あまりの恐怖でほとんど眠れなかった俺は、硬くなった身体をゆっくりと起こした。今日の講義は午後からだ。普段なら二度寝、三度寝しているが、今日はやることがある。


 昨日、店であまりの恐怖に打ちのめされた俺は、ショウに家まで送ってもらった。彼の家は全くの逆方向なので申し訳なかったが、とてもじゃないが1人では帰れなかった。


「明日、例の公園に行ってみてもいいかもな。能面の女が残した痕跡があるかもしれない。もちろん、明るいうちにだぜ」


 別れ際にショウがくれたアドバイス。行くのは怖いが、シンゴと連絡が取れないのは自分に責任がある気がして、勇気を出すことにした。何かあってもいいようにと、カッターナイフをポケットに忍ばせ家を出た。


 10時過ぎ、夏の厳しい日差しの中にあって、それでもなお中央公園は薄暗かった。手入れのされていない広葉樹が広がっているせいだ。人通りもほとんどなく、蝉の声も聞こえない。辺りはしんと静まり返っている。


 恐怖であまり覚えていないが、確かこの辺りだったはず……。俺はおぼろげな記憶を頼りに、樹の幹をひとつひとつ確認していった。そして、探していたものを見つけてしまった。


 藁人形が二体。一体は四肢と頭、右胸に釘が打ち込まれている。そしてもう一体には両足に釘が、胴体に手拭いが結えてあった。間違いない、シンゴがバイトで頭に巻いているものだ。


 プールにスイカにかき氷。友達と出掛けた海で初めてのナンパ。俺が思い描いた夏休みには存在する予定のないおぞましい物体を目の前に、唖然とすることしかできない。


「ううっ……うおえっ」


 剥き出しの悪意を象徴する光景を目の当たりにして、思わずえずく。呪いの依代と化した大木の前で膝をついてしまった。そして、足元にあるもう一つの藁人形に気づいてしまった。釘は打ち込まれていないが、メモ用紙が結えてある。


『まっててね』


 奴は俺を探している。呪い殺す準備は、もう出来ているとでも言うのだろう。恐怖が自分の身に迫っていると実感したときには、地に着いていたはずの膝はもう勝手に動き出していた。ここにいたらまずい。いつ奴が戻ってくるかも分からない。


 どこをどう通ったか覚えていないが、何とか家にたどり着いた。午後の講義は休んだ。家から外に出るのが怖い。成人を迎えた男が情けない話だ、と思うが体が言うことを聞かない。


 今日はちょうどバイトも休みだった。母さんが作ってくれたハンバーグを食べにリビングに行った以外は、全ての時間を自室の布団の中で過ごした。


『丑の刻参りを他人に見られた者は、目撃者を抹殺しなければ、自身に呪いが跳ね返ってくると言われています。もともと誰かを呪殺することを試みている人物ですから、正気ではありません。自身が呪い殺されないためにも、必死の覚悟で目撃者を殺しにかかるでしょう。』


 何度も丑の刻参りについて調べては、このサイトに辿り着く。調べても意味なんてないのは分かっているが、何かしていないと恐怖でおかしくなりそうだった。


 シンゴはまだ電話に出なかった。夕方から1時間おきに掛けているが、日付が変わっても電話が繋がることはなかった。シンゴの身に何かが起きているのは明白だった。俺にはそれが、丑の刻参りによってもたらされたものとしか思えなかった。


 ……遠くの方にあの時と同じ、ゆらめくろうそくの灯りがちらつく。足元に目をやると、シンゴが地面に這いつくばっている。両腿には菜箸のように長い釘が刺さっている。


「ナオちゃん……置いていかないでくれよ」


 苦痛に歪むシンゴの顔。見ていられずに目を逸らすと、ろうそくに照らされた能面がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。逃げ出そうとしても足が動かない。シンゴがしっかりと俺の足首を掴んでいる。


「うわあああああ!!」


 自分の声で目を覚ました俺は、大きく一呼吸して状況を理解する。どうやら布団の中にこもっているうちに眠ってしまったらしい。全身、冷や汗でびっしょりとしている。


 煌々と光るスマホの画面は、午前2時を示している。コン……コンッ……という音が聞こえる気がして、俺は布団を引っ張り、きつく体に密着させた。見つかりたくない、見つかったらどうなるか分からない。


 5時ごろになって、ようやく夏の朝日が部屋に差し込み始めた。恐怖心は幾分か和らいだが、希望の光なんてものはまるで見えなかった。

これまたバイトの思い出ですが、僕の働いていた店の卓版はちょっと変わってました。

ナオヤくんと同じようにカウンター席ばかりの店だったんですが、カウンターにはちっちゃい招き猫やミニカーなんかが置いてありまして。

仕切りなんかもないので、お客さんは何となくの位置で飲んでるわけです。じゃあどう呼ぶのかというと『ネコ前』『ミニカー』といった具合に、そのお客さんの前にある小物で呼んでました。合理的……なのか?

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