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想いは溶けて

作者: Mea

幼い頃から私と彼はとても仲が良かった。


小さな街の小さな花屋の少女と小さなパン屋の少年。


小さな街だったからこそ、人々の繋がりは密接で誰かが困ると周囲の人が手を差し伸べるのが当たり前の街だった。


そんな街だったから、子供同士でも年上の子が年下の子の世話をするのは当たり前のことだった。


だから、私よりも2年早く生まれた彼が、近所に住む2歳年下の私の面倒を見てくれるようになったのも当然の事だった。


両親が仕事で忙しい中、暇をしていた私に話しかけて、一緒に遊んでくれたのが彼だった。


楽しくて嬉しくて、大はしゃぎした後、家に帰る前に翌日の約束をしようとした私に彼は言った。


「いつもは、明るい時間はお家のお手伝いをしているから遊べないんだ。ごめんね。」


今日は偶然、お手伝いのお休みの日だったらしい。


それを聞いた私は明日も彼と遊べないことが悲しくて、彼に会えないことが寂しくて泣いた。


余りにも泣き続ける私を可哀想に思ったのか、彼は翌日の夕方、お手伝いの後にお話する約束をしてくれた。


翌日の夕方、私は彼と共に家の近くのベンチに座って、その日の出来事を話し合った。


それが始まりだった。


それからずっと、7年間、週に1度、彼と私は夕方に家の近くのベンチに座って他愛もない会話を楽しんだ。


彼は、日中遊べない分、夕方になるとパンをいくつか持って家の近くのベンチに誘ってくれた。


どうしても時間が取れない週は、翌週にその埋め合わせをしてくれた。


家族のこと、私のこと、彼のこと。


近所の噂や互いの悩み事についても語り合った。


そうして、他愛もない話を繰り返して、変わりのない日々を過ごす中で、私は彼を好きになった。









その日もいつもと同じ。


週に1度の彼とお話できる日。


私たちはいつものようにベンチに座って話していた。


最近の出来事。


互いの家族の話。


近所の噂話。

 

そうして、他愛もない話を積み重ねた後に、彼は告げた。


じつは。


すきなひとがいるのだ、と。


告げた彼の頬に朱がさして、彼が恥ずかしそうに指を組むのを見ていた。







ーーー知っていた。


誰よりも彼をみていたから。


私の視線は彼のものであったから。


ーーー気づいていた。


同様に。


彼の視線が彼女のものであることを。


ーーー分かっていた。


誰にでも優しい彼が、彼女には一等優しくなることを。







だから私は、告げられなかったのだ。


貴方の隣に座る度に落ち着くことのないこの胸の高鳴りも、貴方の声を聞くたびに歓喜に満ちるこの胸のうちも。


私が貴方への想いに気づいたその瞬間、貴方の彼女への想いに気づいてしまったから。






どうすれば良いと思う?


私の想いには気づかないまま彼は問う。


彼女に想いを告げたいのだ、と。


「ーーー好き。」







「え?」








「ーーー、好きって言えば良いんじゃないかな?言葉にしないと伝わらないこともあるよ。」








それは結構、勇気が必要だな。


彼はしばらく逡巡した後、ぼそりと呟いた。


それからそっと瞼を閉じて俯いてから、瞼を開いて、勢いよく立ち上がる。


そうだよね。頑張ってみる。


思い立ったが吉日とばかりに駆けて行く彼の背を見送った。





















彼が去ったベンチに1人。


後ろ手に隠していた花束がくしゃっと音を立てた。



ーーー本当は。今日。





唯一の人に贈る花束を。


彼の人がただ1人を想って創り上げた魔法で創った美しい花束を。


贈るつもりだった。


告げるつもりはなかった。


ただ、贈るだけのつもりだったのだ。





ーーーでも。


渡せなかった。





それなのに。


告げてしまった。






そして。


届かなかった。








そっと瞼を閉じて、俯く。


しばらくそうしていた。


瞼を開く。


変わりのない日々。


いつもの街並み、いつもの光景。





いつものベンチ。



先程まで彼が座っていたそこに触れても、ただ、冷たい感触があるだけだった。


手に取って下さりありがとうございます。

楽しんで下さったら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] けじめをつける機会をある意味与えてくれたのは、優しいけれども、主人公が欲していたものではないという悲しみ。 [気になる点] 実は好きな人がのくだり。伏線や仄めかしが無かったので唐突感があり…
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