裏切りの林檎
まるかじり派!
真っ赤でまあるい林檎を齧るたび
あたしは裏切られたきもちになる
飢えも 渇きも 味気なさも満たしてくれる
大満足な ひと齧りなはずなんだけど
その齧り痕を見るたびに
あたしは裏切られたきもちになるんだってば
なんで赤くないんだ
あのあざやかな赤さは なんで皮一枚のもので
なかみは あんな白いままでいられるんだ
あたしなんか わりと顔に出ちゃうほう
好きなひとには 好き 好き 好きって顔をするし
嫌いなひとには うげって顔をするよ
嬉しいときは るんるん るるんな顔
悲しいときは めそめそ ぽたぽた涙を流して
みあみあ 仔猫のような鳴き声をあげるんだ
顔も きっとメソポタミア文明っぽくなるはず
——それってどんな顔?
皮一枚が紫のナスだったり
クールな緑のストライプのしたに
あんな真っ赤を隠してたスイカにも
あたしはさんざん裏切られてきたんだけど
あたしの唇を奪っておいて
あたしの唇よりも真っ赤な皮をして
誘いかけてきた林檎には
あたしはいちばん裏切られたってきもちになる
だけど
切りわけたひとかけを
さくって刺すか ひょいってつまんで
しゃくしゃく齧るのは
やっぱり なんだかな なんだよね
皮つきで ウサギさんにしてくれるなら
ちょっと うきうきもするんだけど
それでもやっぱり
林檎は真っ赤でまあるい皮のまま
齧るのがいちばんだっておもう
そのたびに 裏切られたきもちになるんだけど
それでもまだ きっとどこかで
あたしを裏切らない林檎が
この世界にひとつくらいはあって
あたしの唇を奪った真っ赤な実
あたしの唇よりも真っ赤なその実に刻まれた
齧り痕からのぞくのが
皮に負けない真っ赤だなんてことが
あるはずだって信じてるんだ
ないわけがないって信じてるんだ
あたしを裏切らない林檎は
きっとどこかで
あたしの唇を奪おうとまってる
あたしのひと齧りをまってる
なかみまで
皮とおなじ あのあざやかな赤さをして
梨もまるかじりしてました(笑)