8話:仕組まれた罠(前編)
どうも、眠れぬ森です。
時間があまり取れなくて短いですが投稿します。
読みにくい箇所が多数あると思いますが、よろしくお願いします。
クリントン商会に足を運んだ翌日、俺はいつも通り講義を受けるために講堂に向かっていた。講堂の扉を開け中に入る。相も変わらず他生徒からの視線はあるが、既に慣れてしまった。そんな中、いつもの席へ座り準備をしていると、後ろから声をかけられた。
「おはよう、ライアー。」
「アイリスか、おはよう。昨日は世話になったな。」
「ん。」
話しかけてきたのはアイリスだった。挨拶を済ませると彼女は俺の隣、いつもの窓際の1番後ろへと座った。そしてそのままいつも通り寝るのかと思っていたのだが、今日はこちらをじっと見てきた。
「どうした?」
俺が聞くと、彼女は一言呟いた。
「昼休憩、話、ある。」
それだけ言うと、彼女は机にうつ伏せになり寝てしまった。そんなアイリスを横目に再び準備を始めると、今度はサリアとサーシャがやってきて声をかけてきた。
「おはようございます、ライアー君。」
「…おはようライアー。いつも早いのね。」
「あぁ、おはよう。」
挨拶を二人に済ませたのだが、心無しかサーシャの機嫌が悪そうだ。どうしたのだろうと思っていると、隣の机で寝ていたはずのアイリスが答えた。
「昨日、ライアーが、サリアと出かけたの、焼きもち妬いてる。」
「なっ!?!?」
アイリスの言葉にサーシャは、顔を赤くして反論した。
「違うわよ!!私はただ…えっと…そう!!ライアーがサリアに奢らせたのに怒ってるだけよ!!」
「サーシャ、昨日も言ったけどあれは私が勝手にやったことだよ。」
「で、でも!!」
「サーシャ、ツンデレは、流行らない。」
「アイリス!!あんたは黙ってなさい!!」
朝から俺の周りが騒がしくなる。その様子をうんざりしながら見ていると、アイリスと言い合いをしていたサーシャが俺を睨みつけながら言ってきた。
「ライアー!昨日の事は詳しく話してもらうから、昼休憩は逃がさないわよ!」
「いや、俺は…」
アイリスに用事がある。そう言おうとした瞬間、突然アイリスが俺の左腕に自分の腕を絡ませながら言った。
「ダメ、昼は、アイリスが先約。」
その様子に、サーシャは顔をさらに真っ赤にして口をパクパクとさせていた。それに吊られたのか、サリアまで口を押さえている。そしてサーシャは俺の胸ぐらを掴みながら叫んだ。
「あたしも一緒だからね!!」
「わ、私も!!」
そうしている内にティナがやってきたので、サリアとサーシャは席に戻って行った。
(おい、どういうつもりだ。)
(サーシャ、反応、面白い。揶揄うの、楽しい。)
授業が始まると、俺はアイリスに問いかけた。するの、ニヤリと笑いながら彼女は答えた。だが直ぐに真面目な顔に戻り言った。
「だけど、ライアーへの話。二人に聞いて貰えるの、好都合。」
午前中の講義を終え、昼休憩の時間になった。俺はサリア、サーシャ、アイリスと共に食堂で昼食を取りながら話をした。
サーシャは初め怒っていたが、サリアと俺の話を聞き、自分の勘違いだと気がつくと俺に謝ってきた。気にもしていなかったので、謝罪を受け取った後本題を切り出した。
「それで、アイリスの話とは一体なんだ。」
「ん、ライアーの、魔術兵器の、修理について。」
アイリスがそう言うと、サリアとサーシャは険しい表情をした。先程の話の中でシムエスMk.IIが破損したことはサーシャにも話した。恐らく、原因は自分にもあると思っているだろう。そんなサーシャを見ながら話を続けた。
「何かあったのか?」
「それが、修理に必要な部品、届かないみたい。」
詳しく聞くと、あの後ガンツは直ぐに修理に取り掛かったようだが、シムエスMk.IIの修理に必要なストックとスコープがこの辺りで売っていないもので一品製で、作成するには北の山岳地帯にある鉱山で取れる鉱石が必要なのだという。ガンツは朝一に急いで仕入れの連絡をしたのだが、鉱山町へ続く道に魔物が出てしまい、防衛の為に町が閉鎖、モノを運びたくても運べない状況にあるという。直ぐにギルドへ話をして、クエストを発行して貰ったのだという。
「そして、これが内容。」
アイリスはそう言うと、ギルドの依頼書を広げてテーブルへ置いた。記載されていた内容によると、出現したのはエレファントボア一頭、Eランクの魔物だ。それを見ながら、サリアは首を傾げる。
「この内容、少しおかしいと思う。」
「どういう事だ?」
俺が問いかけると、サリアは考えるようにして答えた。
「エレファントボアは本来、平原の草地に群れで住む魔物なんだよ。そんな魔物が山岳地帯に、しかも一頭でいるなんて凄く不自然。」
「確かに、あたしも山岳地帯にいるエレファントボアなんて始めて聞いたわ。」
サリアの言葉にサーシャも首を傾げる。するとアイリスが、俺を見て言ってきた。
「ライアー、この依頼、一緒に受けてくれる?」
「何故だ?」
アイリスの言葉に俺は聞き返した。依頼を急ぐならば、手の空いている他の冒険者に頼んだほうがよっぽど早く終えるはずだ。それに相手はEランク、俺でなくとも倒せるものは居るだろう。そう思っていると、アイリスは静かに口を開いた。
「昨日、サリアから聞いた。ライアー、強いんだってね。それで、アイリス、興味持った。ライアーの戦い方と、魔術兵器に。」
そして俺の袖を掴んで続けた。
「アイリス、まだFランクで、受けれない。だから、ライアーと、サリアと、サーシャに、パーティー、組んでもらいたい、強くなるために。」
力強い目で俺に訴えてきた。それを聞いて、俺は一つの質問をした。
「何のために強くなるんだ?」
「お父さんの武器と、アイリスの刻んだ魔法術式、その果て、限界を見るために。」
その答えを聞いた後、サリアとサーシャのほうを向いた。すると、彼女たちも真剣な目で言った。
「あたしたちも協力するよ。」
「私も大丈夫です。」
「俺も問題ない。」
二人の言葉に俺も答えた。すると、アイリスは少しだけ笑みを浮かべ言った。
「ありがとう、です。」
「いいのよ、困った時はお互い様でしょ。」
アイリスの言葉にサーシャは少し照れながら答えた。すると、アイリスが教室で見せたニヤリとした笑顔で呟いた。
「これで、達成すれば、お小遣い、増えます。」
「あんたねぇ…それが本音でしょう!!」
そしてしばらくサーシャとアイリスの言い合いが続いたのだった。
午後の授業を終えた俺たちは、ギルドにやってきていた。
「アイリスはまだかしら!!」
「サーシャ落ち着いて、ね?」
装備を取りに行くと言い、一度家に帰ったアイリスを俺たちは待っていた。アイリスの家であるクラントン商会からギルドまではそこそこの距離がある為、時間が掛かるのは仕方の無い事だが、近くまで行く乗り合いの馬車の時間もある。サーシャが痺れを切らしそうになった時、ギルドの扉が開いた。
「お待たせ、遅れた。」
そう声をかけてアイリスが入ってきた。何やら大きなバッグを背負っている。そしていつもの見慣れた白いパーカーではなく、黒いショートパンツにへそ出しの白いタンクトップ、その上から黒のクロップドジャケットという姿だった。そして腰にはグリップ同士を鎖で繋いだ、刀身が朱色の双剣を装備していた。
「遅いわよ!!一体何をしてたん……」
サーシャがアイリスに文句を言おうとして止まった。そして、顔を真っ赤にして俺の目を手で塞いできた。
「ラ、ライアー!!見ちゃダメ!!」
「アイリスさん!!ちょっとその格好はどうかと思うよ!!」
「このほうが、動きやすい。戦闘、楽でいい。」
サーシャに続き、サリアも顔を真っ赤にしてアイリスに言う。しかし、アイリスは気にしていないようだった。防御の面で気にはなるが、本人がいいなら大丈夫だろう。そんなことをしていると、馬車の発車を知らせるベルがなり、俺たちは急いでクエストを受注して馬車に乗り込むのだった。
馬車に揺られること1時間、俺たちは北の山岳地帯、マナス山のへ続く山道の入口へと着いていた。ここから鉱山町のアルザスまで徒歩でお一時間程だ。
「入る前に今回の陣形を確認したい。」
そう言い、三人を読んだ。今回俺はシムエスMk.IIを装備しておらず、アイリスは前衛向きの装備だ。そこで今回は前衛をサーシャとアイリス、中衛に俺、そして後衛にサリアの陣形で進む事にした。
「ここからは魔物も出てくる事だろうから、戦闘は覚悟しておけ。そしてサーシャ、お前は前に出すぎる癖があるから気をつけろ。」
「う…分かったわ…」
「アイリスもここから先はFランク以上の魔物も出てくる。気を引き締めて戦闘に当たれ。」
「ん。」
「そしてサリア、今回は後衛を任せる。前の索敵は俺たちに任せろ。だから後ろを重点的に頼む。」
「分かったよ。」
「あ、すこし、待って。」
全員に指示を飛ばしたところで、アイリスが背負っていたバッグを降ろし、俺に渡してくる。
「これは?」
「お父さんが、ライアーに、無いよりはマシだろうって。」
バッグの中身を開けてみると、そこには対物ライフルが入っていた。取り出して構えてみる。多少重さは感じるが、戦闘に支障はない程だ。
「ありがとう。」
「ん、弾は十発しか入らないし、換えの弾倉も無いから、気をつけて。」
「分かった。」
そう言うと、俺は一つ深呼吸をして言い放った。
「作戦開始だ。」
山道を登り始めておよそ二十分程だった時だった。俺は前方に何かを感じ、歩みを止めた。影から様子を伺うと、五匹程度のゴブリンが何かの動物を食べているところだった。幸いこちらには気がついている様子が無いので、奇襲をかける事にした。
「前方にゴブリンを五匹確認したので奇襲をかける。まず俺が対物ライフルを撃つ。その後、サーシャとアイリスは斥候して攻撃、サリアは後ろから魔法で援護してくれ。いいか?」
「了解したわ。」
「分かったよ。」
「ん。」
全員に指示が行き渡ったのを確認したところで、俺は近くの岩にバイポッドを立てて狙撃体制に入る。スコープを調節し、こちら側を向いているゴブリンの一匹に狙いを定める。ソイツが頭をあげてレティクルが頭の真ん中に来た瞬間、俺は引き金を引いたり。
ズドォン!!
「っ!!」
普段使用しているシムエスMk.IIの倍近い反動に少し驚きながら、再度スコープでゴブリン達を確認する。流石は対物というだけの事はある。頭を撃ち抜くどころか、胸から上を吹き飛ばしていた。案の定、ゴブリン達は突然の攻撃にパニックになっていた。それを見て、仲間に声をかけた。
「行けっ!!」
俺の言葉にサーシャとアイリスが飛び出していく。
「火の壁!!」
敵の奇襲にきげだそうとしたゴブリン達だったが、サリアの魔法により逃げ場を失う。諦めて武器であろう骨や棍棒を持ち応戦しようと向かってきた。しかし、Fランクに分類されているゴブリンはサーシャとアイリスを相手にするには荷が重かったようだ。
「水の弾丸!!」
魔法でゴブリンの肩を撃ち抜いた後、剣で首を切り飛ばすサーシャ。
「ふっ!!」
低姿勢からの斬撃で足の筋を切り裂き一度離脱、そして相手が倒れたのを確認した後、心臓を一突きするアイリス。一瞬にして三匹のゴブリンを倒した俺たちを見て、残りのゴブリンは後退りをする。しかし、逃げても無駄だと悟ったのか、サーシャとアイリスに飛びかかってきた。
「火の弾丸!!」
しかし、サリアが放った魔法によりゴブリン達は姿勢を崩す。その一瞬の隙をつきサーシャとアイリスはそれぞれゴブリンを切り捨てた。
「索敵だ!!」
前回のクエストでは、敵を殲滅した後にこちら側が奇襲をかけられた。そこで、今回は索敵を主に動いている。
辺りを警戒するが、敵らしき存在は感じられない。
「敵影無し」
そう言うと、三人は肩の力を抜いた。即席のパーティーにしてはなかなか良い動きが出来たと思う。
「どう。だった?アイリスの動きは?」
戦闘後、ゴブリンの魔石の剥ぎ取りを行っていると、アイリスが近づいてきて、聞いてきた。
正直に言うと、アイリスの動きは隙が少ない。一撃離脱戦法で、相手に反撃を貰わないよう戦う立ち回り方だった。だが、戦闘経験の少なさからか少し心配になる部分もある。
「アイリス、お前の戦い方はかなり良かった。だが、相手から距離を取る際に背中を向けていただろ。あれは隙になるから出来ればやめろ。相手から視線を離すな。」
そう言うと、アイリスは少し嬉しそうな顔をして二人の方へ戻って行った。再び魔石の剥ぎ取りに戻ろうとすると、今度はサーシャとサリアがこちらに来て、戦闘の感想を聞いてきた。その後ろではアイリスが例のニヤリとした笑い顔でこちらを見ていたのだった。
ゴブリンの戦闘からしばらく歩いた。その間も何度か魔物に襲われたが、殲滅しながら進むことが出来ていた。そして、道を三分の二登ったところに目標はいた。
エレファントブル
体長が四メートル程の角の生えた大型の草食動物。普段は平原の草地に群れで暮らし、大人しい性格だが、群れから離れて一頭になった際は好戦的になるという理由でEランクに格付けされている魔物だ。
俺達は気が付かれないように岩陰に潜み、様子を伺う。すると、サリアがエレファントブルを見てなにかに気がついた。
「あの首に巻きついている紐みたいなものってなにかな?」
その言葉に俺たちは首周りに注目して見る。すると、確かに黒い紐のようなものが巻きついているのが見えた。なんなのだろうと思っていると、アイリスがおもむろに口を開いた。
「あれは、魔術道具、愚者の契約。」
「愚者の契約?なによそれ。」
サーシャがアイリスに問いかける。それに対し、アイリスは表情を険しくして答えた。
「魔法術式、強制契約を刻んだ、魔術道具の総称。魔物にしか、効果ない、けど、成功すれば、どんな魔物でも操れる、らしい。」
「解除するにはどうすればいい。」
俺が聞くと、アイリスはさらに表情を険しくして答えた。
「解除の方法は、無い、今のところ。契約者か、支配者が死ぬまで、効果は続く。」
アイリスの言葉に、俺はサリアに索敵を頼む。ところが、彼女は首を横に振る。近くに人物像は居ないようだ。契約者を倒せれば楽だったのだが、そう簡単には行かないらしい。
「仕方ない、戦闘準備だ。」
そう言うと、各自が持ち場に着く。それを見ながら俺も近くの岩にバイポッドを立てて狙撃体制に入る。スコープ覗き、エレファントブルの頭に照準を合わせる。そしてスコープのレティクルが頭に重なった瞬間、俺は引き金を引いた。
ズドォン!!
「チッ!!」
俺の放った弾丸は、頭ではなくその横から生える右角を破壊した。直後、サーシャとアイリスが飛び出して行った。
いきなり角を破壊されたエレファントブルは、よろめきながら呻き声をあげると、こちらを見て来た。
ブルァァァァァァ!!!!
エレファントブルは叫び声をあげ、威嚇をする
「水の弾丸!!」
「火の弾丸!!」
すかさずにサーシャとサリアが魔法を放った。しかし、魔法が当たる寸前で二人の魔法は霧散してしまった。
「え!?」
「なんで!?」
驚いたのも束の間、エレファントブルは頭を低くして、前脚で地面を引っ掻く動作をした。それを見て、俺は突っ込んでいくサーシャとアイリスに叫んだ。
「避けろ!!!」
アイリスは急激に方向転換し、横へ飛びエレファントブルの視界から外れる。しかしサーシャは全面に魔力の壁を展開した。その瞬間、エレファントブルがサーシャへ突進してきた。
パリィィィィィン!!!
なにかが砕ける音と共に、サーシャの身体が宙を舞う。
「サーシャ!!」
サリアの悲鳴にも似た声が聞こえたのと同時に、俺はエレファントブルに向かって閃光爆弾を投げながら叫んだ。
「目を閉じろ!!!」
俺が走り出すと同時に、辺りを激しい閃光が包む。これには流石のエレファントブルも目をやられたらしく、呻き声を上げながら辺りを手当り見回していた。
(間に合え!!)
そう思いながらサーシャの落下地点へと走った。そして、滑り込みながらサーシャをキャッチする。直ぐに呼吸と脈、外傷を確認した。息も脈もしっかりあり、外傷も大きいものは無い。恐らく衝撃で気絶したのだろう。
「サーシャ!!」
「大丈夫だ、気を失っているだけのようだ。」
サーシャを抱き抱えた俺の元に、サリアが駆け寄ってきた。そして現状を話した。
「手短に話すぞ。恐らくやつには魔法は効かない。契約者によって魔法妨害がかけられている可能性が高い。」
「それじゃあどうすれば…」
サリアが泣きそうな顔でこちらに問いかけてきた。それに対して俺は答えた。
「物理で倒す。」
「え…?」
「幸い俺も、アイリスも魔術士になろうとしている身だ。魔力さえ通さなければ魔術兵器もただの武器、攻撃は通るはずだ。サリアは少し離れたところで、サーシャを守っていてくれ、」
そう説明していると、閃光爆弾でやられた目が回復してきたのか、エレファントブルが辺りを見回すような動作をしている。時間が無い、そう思い立ち上がろうとすると、不意にサリアが俺のコートの袖を掴んで言った。
「必ず、生きて帰ってきてね。」
その言葉に頷き、俺はアイリスの元へ向かった。
「遅かった。」
アイリスと合流すると、彼女は俺にジト目を向けてきた。だが今は時間が無い。
「謝罪は後でする。それよりもやつは……」
「分かってる。多分、魔法妨害、かけられてる。」
俺が言うより先にアイリスが言った。
「話が早いな、やれるか?」
俺の問いに、彼女は真剣眼差しで答えてきた。
「やれるか、じゃない。やるしか、ない。」
「そうだな、じゃあ行くぞ!!」
アイリスに声をかけると、二人同時にエレファントブルへと走り出した。
ありがとうございました。
次回、アイリスとの共同戦とライアー達に危機が訪れるかも?
よろしければ、引き続きよろしくお願いします。