7話:クラントン商会
どうも、眠れぬ森です。
書きたいことはいっぱいあるのに文字に出力出来ないもどかしさと戦っております。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
ガルウルフ討伐任務の翌日、学園が休日ということで、俺は朝から部屋に置いた作業台で魔術兵器の整備や武装の確認を行っていた。俺が使用している魔術兵器は刻まれた魔法術式の構造上、通常の武器に比べて消耗が早い。特に使用頻度が多いブラックホークとシムエスMk.IIに至っては週一で分解整備をしなければ不具合が発生してしまう可能性がある。シムエスMk.IIに至っては昨日の戦闘で上位種のガルウルフからの攻撃に盾として使用したので、ダメージも気になるところだ。
(少し早いが、いい機会だ。)
そう思い、俺はブラックホークとシムエスMk.IIの分解整備を始めた。
最初にブラックホークを分解し、状態を確かめる。少しインナーバレルに摩耗が出始めていたが、その他の部分は問題無いのでそのまま整備を行い組み上げる。そしてシムエスMk.IIの整備に入ろうとして、手に取った時だった。
「…ん?」
持ち上げた時に少し違和感を感じたので、確かめるように構えてみる。すると先程感じた違和感がさらに強くなる。そしてスコープを覗いてみると、表示されたレティクルとバレルの先端にズレが発生していた。
俺は構えを解き、シムエスMk.II全体を見る。フォアエンドからストックまで、ガルウルフの牙によるであろう傷が付き、マウントベースに固定されたスコープも曲がっていた。さらに分解してみると、バレルにも若干の歪みが出ていた。それほどまでに無茶な扱い方をしてしまったようだった。
「さて、どうするか…」
幸いな事に魔法術式の刻まれたフォアエンドは表面の傷のみなので問題は無いが、流石にここまでダメージがあると、いくら俺でも修理は難しい。シムエスMk.IIを一度組み上げてどうしようかと悩んでいると、部屋の扉がノックされる。
「開いている。」
そう言うと扉が開いた。そこから顔を覗かせたのはサリアだった。休日だからか、淡い水色のワンピースに白のカーディガンという私服だった。
「おはよう、ライアー君!と言ってももうすぐお昼だけどね。」
あははと笑いながらこちらに挨拶をしてくるサリアだったが、作業台に置かれたシムエスMk.IIを見て表情を曇らせた。
「…入ってもいいかな?」
「女子生徒の男子寮の部屋への立ち入りは禁止のはずだが?」
「それでも…少しだけ…」
悲しそうな顔をする彼女に根負けし、俺は部屋へと上げた。
部屋に入ったサリアは真っ直ぐ作業台のほうへ向かい、そこに置いてあるシムエスMk.IIを撫でた。そしてこちらを振り返り、問いかけてきた。
「…直るの?」
「俺では無理だな。」
そう答えると、彼女は悲痛そうな表情を浮かべた。
傭兵時代、俺の武器の武器の修理は全てアランに頼っていた。だが、彼はアルベルトとの戦闘で亡くなってしまったので、頼ることはもう出来ない。
「私のせいだ…」
ふと、サリアが呟いた。この間の戦闘の件を相当気にしているようだった。そんな彼女の姿を見て、ため息をつきながら話しかけた。
「お前だけの責任ではない。戦闘後の索敵を怠った俺にも原因はある。」
「でも!!あんなガルウルフがいるなんて誰でもも……」
「戦闘は常に不確定要素だらけだ。安全な場所まで気を抜いてはいけない、それを知っていながらやらなかった俺にも非がある。」
「でも…っ!!」
俺の話に一度は食い下がってきたサリアだったが、俺の言葉に声を詰まらせる。恐らく、彼女は許せないのだろう。援護する立場でいながら、それも満足に出来ずに俺を危険に晒してしまったことを。魔法士として高みを目指している自分を。
歯を食いしばり悔しさに顔を顰める彼女に俺は問いかけた。
「昨日も言ったが、戦闘において大切な事を覚えているか?」
「死なないこと、生きること…だよね。」
「そうだ。お前は昨日の戦闘で死なずに生きた。だがその過程で俺が傷付き、魔術兵器を犠牲にしてしまった事に憤りを感じているのだろ?」
「うん…」
彼女はそう呟くと、目に涙を溜めて俯いてしまう。こういう時、俺はどうしたらいいかを知らない。だから、これから言う言葉が正解がどうかも分からない。だが言わなければならないと思った。
サリアの肩に手を置く。するとサリアは驚いた表情で顔を上げた。そんな彼女に向かって俺は伝えた。
「俺は、お前とサーシャの二人が生きてて感謝している。だから…あまり気にするな。」
なるべく優しく、ぎこちないながらも彼女に笑いかけるように話した。これは俺の本心でもあった。一度仲間を失っている俺は、仮とはいえ同じパーテイを組んだ仲間が死ぬ場面など二度と見たくはない。その気持ちを乗せて伝えたのだった。そんな俺の言葉に、サリアは驚いた表情をしたかと思えば、顔を赤くして再び俯いてしまった。
(間違えただろうか。)
そんなことを思いながら彼女の肩から手を離すと、今度はサリアのほうから俺の肩を掴んできた。そして顔を上げると、俺に問いかけてきた。
「ライアー君お昼まだだよね!?」
「あ、ああ。」
「良かった、じゃあ今からお昼ご飯食べに行こ!!助けてくれたお礼に奢るから!!」
「先程気にするなと…」
「これは償いとかそういうのじゃなくて、感謝してるからだよ!!だからお願い、奢らせて!!」
いつもより積極的なサリアに少したじろいでしまったが、どのみち装備品の買い足しやシムエスMk.IIを修理してくれる所を探さなくてはならないが、俺にはその当てが無い。彼女がいれば、少なくとも自分で探すよりはいいだろう。
「俺の用事に付き合ってくれるならいいぞ。」
「ホント!!じゃあ混む前に行こっ!!」
そう答えると、サリア嬉しそうに急かしてくるのだった。
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「美味しかったね〜!」
「…あぁ、そうだな。」
昼食を終え、店を出た俺とサリアは中央広場のベンチに座り休憩をしていた。
彼女と行った店は、ファンシーなレストランで、よくサーシャと二人で来るとの事だった。奢られる身として店はどこでも良いとは言ったものの、シムエスMk.IIを入れたガンケースを持って入った俺はかなり浮いているようだった。
「ところで、ライアー君の用事ってなにかな?」
思い出したかのようにサリアが聞いてくる。その問いかけに頭を切り替え、俺は彼女に聞いた。
「装備品の調達と魔術兵器の修理が出来る店を知りたいんだが、心当たりは無いか?」
すると、彼女は顎の下に指を置いてしばらく考えると、首を横に振って答えた。
「ごめんね、私が知っている店は魔法士用の武器ばかり取り扱っているのが多いかな。他には剣とか槍とか、そういう武器を取り扱ってる店しか分からないよ。」
その回答にまた頭を悩ませる。考えてみれば、俺の使っている魔術兵器は少々特殊な部類に入る。魔法や魔法術式が発達した時代に未だ弾丸を飛ばしている時代遅れの武器と言っても過言では無いかもしれない。
手詰まりかなと思い、俺はガンケースに入ったシムエスMk.IIを見る。その様子を見たサリアが、思い出したかのように言った。
「そういえば、魔術兵器では無いかもしれないけど、似たような武器を置いている店を知ってるよ。」
「本当か!!」
サリアの言葉に思わず彼女に詰め寄ってしまった。すると彼女はわたわたと焦りながら答えてくれた。
「あ、あの!商業区の奥にあるお店で見たよ!!」
「分かった、早速案内してくれ!!」
希望の光が見えたような気がした。俺はサリアと共にその店へ向かった。
中央広場から十五分程度歩いたところにその店はあった。名前は<武器商工クラントン商会>だ。
早速中に入ろうとして扉に手をかけた瞬間、その腕をサリアが掴んだ。突然の行動に俺は意味がわからずに問いかけた。
「なにするんだ。」
「入る前に一つ言っておくけど、お店の人と喧嘩にならないようにね。愛想がいい人じゃなさそうだったから…」
なるほど、そういう事か。いきなり俺が暴れないか心配みたいだ。
「大丈夫だ、向こうが手を出してこない限りこちらからは何もしない。」
「そういう意味じゃないんだけどな〜。」
納得のいかない顔をするサリアをよそに、俺は見せの扉を開けた。
店に入ったのだが、店員らしき人物はいないようだ。また、店の中は所狭しと武器と防具が並んでいた。普通の剣や槍が多いのだが、その中で俺は店のカウンター横のショーケースに興味を惹かれた。
「なかなか良い武器が揃ってるな。」
そこに飾られていたのは回転弾倉式拳銃や軽機関銃、全自動小銃といった見慣れた武器だった。
「これ、ライアー君の武器にそっくりだね。」
魔術兵器に疎いサリアがそう呟くと、突然後ろから声をかけられた。
「ガキが女連れで何の用だ。」
振り返ると銀色の髪を短く揃え、シャツの袖を肩まで捲った屈強な中年男性がこちらを睨みつけるように立っていた。それに驚いたのか、サリアは俺の後ろに隠れてしまう。
「いくつかの武器の購入と修理を相談したいんだが。」
すると、男性はこちらを値踏みするように見ると、鼻で笑って言った。
「ハッ、お前みたいなガキがうちの武器を買いにだって?冗談は辞めろよな、ここは信用出来る奴にしか売らない主義なんだ。それに武器の修理だって?どうせロクにメンテもせずにぶっ壊したんだろ。そんな奴の修理を請け負う気はねェよ。」
そう言うと、男性はカウンターの奥へ戻ろうとする。その瞬間、サリアが怒って声をあげようと前に出ようとした。しかし、俺はそれを静止して男性に声をかけた。
「こちらこそすまなかった、ここが客を見ずに決めつけだけで商売している粗末な店だったとはな。」
俺の言葉に男性の動きが止まる。そして、ゆっくりと振り返った。その目は怒りに染まっている。
「オレの、店が、なんだと?もう一度言ってみろや、クソガキが。」
「耳までポンコツだったか。粗末な店と言ったんだ。」
二人の視線がぶつかり、火花を散らす。男性からは殺気が漂ってきている。まさに一触即発の空気だ。しかし、予期せぬ来訪者により、その空気は終わりを告げる。
「お父さん、うるさい、もっと静かに……って、ライアー、と、サリア?」
店の奥からのそのそと出てきた聞き覚えのある少女の声。
「アイリス?」
「アイリスさん?」
俺とサリアの反応を見て、男性はキョトンとした顔でこちらを見るのだった。
「すまねぇ、まさか娘の知り合いだったとは。」
「お父さん、お客さんを、脅しすぎ。」
俺たちがアイリスとの同級生だと言うことを知ると、今までの態度とは打って変わってこちらに頭を下げてきた。
「いやだってよ、ソイツに合わせた武器を提案しても直ぐに文句言ってくる客ばっかだし…」
「言い訳、ダメ、キチンとお金払う人、お客さん、大事。」
アイリスの言葉に声を詰まらせる男性。どうやら言い合いは娘に敵わないらしい。ジト目を向けられ動揺していたが、視線に耐えられなくなったのかこちらを向いて自己紹介をしてきた。
「遅くなったが、オレはガンツ・クラントン。武器商工クラントン商会の当主だ。こっちは娘のアイリスだ。奥には妻のテレーゼがいる。」
「ライアー・ヴェルデグランだ。」
「サリア・テオ・セリエスです。」
「セ、セリエス!?まさか第三皇女様!?」
自己紹介をしていくと、サリアの名前を聞き、ガンツは驚いた。
「今は家を離れて学生の身ですから、気軽にサリアと呼んでくださいね。」
「は、はぁ…」
そんなサリアの言葉に、若干の緊張を残しながら頷く。そんな彼を見ながら、俺は改めて問いかけた。
「ここに来たのは武器の購入と修理の相談だ。やってくれるか?」
「武器の購入は問題ねぇが、修理は現物を見てからだな。」
俺の問いに答えるガンツ。そこで俺はカウンターの上に閃光爆弾とブラックホークを置いて言った。
「閃光爆弾は二十個、コイツは弾倉を十と、弾を二百発だ。」
「それなら在庫がある。弾は九ミリだな?二十発入りで一ケースだが問題ないか?」
「問題無い。」
そう言い、閃光爆弾とブラックホークを仕舞おうとした時、ガンツから待ったがかかった。
「すまねぇが、ちょいとその銃を見せてはくれないか?」
「自分の手の内を今日初めて会ったやつに見せろと?」
ガンツの言葉に、俺は目を細める。だが、彼も引くことはなく言った。
「その銃に少しだけ見覚えがあるんだ、頼む。」
そう言って彼は頭を下げてきた。実際、少し試しただけだったので、弾倉を抜いて弾が銃に入っていないのを確認して手渡した。するとガンツは、ブラックホークを様々な角度から見たり、スライドを引いたりして何かを確認し、呟いた。
「手入れが行き届いているな…なのにしっかりと使われている。それにこの魔法術式は加速…なのか?」
「ほう、少し見ただけで分かるのか。」
俺の問いにハッとしたような顔をして、こちらに銃を返しながら答える。
「普段は剣や盾、鎧といった武具をメインに取り扱ってるが、本業は銃火器だ。握り具合やインナーバレル、ハンマーの摩耗具合で大体な。」
「なるほどな、それでどうだった?」
「お前はちゃんと使ってる奴だ、信用に足りる。」
そう言いながらブラックホークをこちらに返してきた。そして、次の本題へと話は進んだ。
「それで、武器の修理はそのガンケースに入ってるモンか?」
「あぁ、そうだ。」
そう言って俺はシムエスMk.IIを取り出した。その途端、ガンツは驚いたように立ち上がり、険しい顔で銃を見つめる。
「お父さん?」
「あの、大丈夫ですか?」
アイリスとサリアの声でハッと正気を取り戻すガンツ。そして、俺に向かって言ってきた。
「すまねぇが、ちょっと奥で話してもいいか?」
「それは構わんが…」
チラリとサリアのほうを見る。彼女は笑って「いいよ。」と言った。それを確認し、ガンツの提案を受け入れる。
「じゃあこっちで。テレーゼ、客に飲み物とお菓子を頼む。」
そう言いながら、俺はガンツに奥の作業場へと案内された。
作業場へ入り扉を閉めるなり、ガンツは俺に問いかけてきた。
「お前、アラン・イーノスという男を知っているか?」
彼の言葉に、俺は一瞬動揺した。だが、直ぐに落ち着きを取り戻し、問いかけに答えた。
「アランは、俺のかつての仲間だ。」
「かつての仲間?それじゃあ彼は今どこにいるってんだ!?」
「アランは死んだよ。」
「死んだ……」
そこから俺は、あの日の事を話せる範囲で話した。彼はその話を何も言わずに聞いていた。そして話を聞き終わると、静かに泣きながらアランの事を話してきた。
「アランはオレの従兄弟で、俺の弟子だったんだ。」
遡ること十年前、ガンツ一人で立ち上げたこのクラントン商会でアランは武器のメンテナンスを学んでいたそうだ。彼はその腕をメキメキと上げ、メンテナンスだけでなくカスタムも出来るまで成長したそうだ。だが、五年ほど前に突然店にやってきたとある貴族と言い合いになり、一つの武器を持って店を飛び出し行方不明となったとの事だった。
「その時持ってったのが、お前の持ってるシムエスMk.IIだ。アランが最後にカスタムした銃だ。」
「そうだったのか。」
それを聞き、ふと記憶が蘇る。俺が戦場に出始めて、自分で武器のメンテナンスをする必要が出てきた時、教えてくれたのはアランだった。
昔の記憶を思い出していた時、もう一つ思い出したことがあった。
「ガンツ、これを受け取れ。」
そう言って首から下げていたドッグタグの内一つをガンツに手渡す。
「これは……っ!?!?」
渡されたドッグタグに掘られた名前を見て、ガンツは驚きと同時に涙を流した。
「俺が持っているより、親族のお前が持っているほうがアランも報われるだろう。」
俺が彼に渡したのは、入院している際にリアスから受け取った仲間のドッグタグの内の一つ、アランのものだった。
しばらく泣いたガンツだったが、涙を拭いてこちらに頭を下げてきた。
「ありがとう、これで墓を建てられる。」
「気にするな。」
俺がそう言うと、ガンツはニカッと笑いながらシムエスMk.IIを見て俺に言ってきた。
「アランからお前への置き土産だ。クリントン商会の当主として、しっかりと修理してやる!」
「あぁ、頼んだぞ。」
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クリントン商会には思いのほか長く居たようで、出る頃には空が茜色に染まっていた。その中を俺たちは学園の寮に向かい歩いていた。
「悪かった、こんなに長く付き合わせて。」
「大丈夫だよ!それに、アイリスさんとも仲良くなれたし!」
俺がガンツと話している間、サリアはアイリスと話をしていたようだ。内容は教えて貰えなかったが、雰囲気から察するにとても充実した内容はだったのだろう。そう思っていると、サリアが突然袖を摘んできた。なんだろうと振り返ると、少し赤い顔をしながらこちらに問いかけてきた。
「あの…さ、歩くのちょっと疲れちゃったから、少しあそこに座らない…?」
そこには道から少し外れるように設置されたベンチがあった。後の用事も無かったので、二人で座った。夏本番を前にした夕方の少しぬるい風が俺たちを包見込み、静寂が訪れる。
「あのね、聞いてもらえるかな?ライアー君。」
静寂を破るように、サリアが声をかけてきた。
「ライアー君は、私がこの国の第三皇女だってこと知ってた?」
「知ってた。」
「えぇ!?いつから!?」
「いつからも何も、食堂で初めて会った時からだ。」
ミドルネームがあって、苗字が国の名前なのだから気がつかないほうがおかしい。ちなみに、サーシャもクレンツェル国王補佐大臣の娘だということも知っている事も告げる。
驚きの顔をしたサリアだったが、直ぐにその顔に影を落として語り始めた。
「私の周りには、王族との関係を持とうとする人や、王族を怖がる人達でいっぱいで、幼なじみのサーシャ以外誰もサリアとして見てくれなかった。第三皇女としてしか見ていなかった。」
「そうだろうな、貴族社会とはそういうものだ。」
俺の言葉に悔しそうな顔をするサリアだったが、こちらを見て問いかけてきた。
「それを踏まえて、ライアー君は私をどう見るのかな?」
真剣な、しかしどこか怯えたような目で俺を見つめる。まるで、何かを待っているような目だった。それを見て、俺は答える。
「別に、今まで通りだ。」
サリアの目を見開く。その様子を見ながら俺は続けた。
「お前が王族だとか、第三皇女だとか、俺には関係ない事だ。生きるために戦う、俺はそれだけだ。」
そう返すと、サリアはふわりと笑みをうかべた。そして俺の右頬に手を添えた瞬間、その手の甲にそっと口付けをしてきた。
「私には身分があるからサーシャのようにはまだ出来ないけど、これは助けてくれたお礼だよ。」
手と口を話しながらそう言うと、ベンチから腰を上げた。そして恥ずかしさからか、「じゃあまたね!」と言って寮の方向へ駆けて行った。
俺は彼女の手の温かさが残る右頬を人撫でして呟いた。
「返り血と人の手の温かさは違うな。」
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「ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょう!!!」
僕は叫びながら部屋にあった花瓶を手で払い除ける。花瓶は空中を飛び、床に落ちて割れる。だがそんなことを気にする余裕は無かった。
通りかかった時に偶然見てしまった光景が目に焼き付いている。そして、僕の心を掻き乱す。
やっと手に入りそうなところまで来ていたのに、それが遠のいていくような錯覚。それに憤りを感じ、今度は椅子を蹴飛ばす。そこで少し落ち着きを取り戻した僕は机に置いてあった呼び鈴を鳴らす。
「およびでございましょうか。」
そうすると直ぐに執事がやってきた。僕の部屋の惨状に少し驚きを見せたが、直ぐに平然を装う。
「今動ける魔法士は何人いる?」
「三級程の者が四人です。」
執事に問うと、指折り数えて答える。それを聞いて、僕は顔を歪めて笑う。三級とはいえ魔法士は魔法士だ。魔術ごときにやられることは無い。そう考え、執事に命令した。
「明日までに全員集めて僕の部屋に呼べ。」
「かしこまりました。」
そう言うと、執事はお辞儀をして部屋を出ていった。静まり返る部屋で、僕は一枚の写真を取り出し、ナイフを突き立てて言った。
「絶対に許さないぞ、ライアー・ヴェルデグラン。」
ありがとうございました。
第三皇女様も落ちそうですね。(既に落ちている!?)
次回もかければ書くので気長にお待ちいただけると嬉しいです。