6話:ギルドクエスト
どうも、眠れぬ森です。
また1万字超えてしまいました…
読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
ベクターとの模擬戦から数日経った。あれから俺を見る他生徒の目が変わった。それまでは興味や好奇の視線だったものが、あの一件依頼若干畏怖を含んだ視線になった。そのおかげで、リアスに学べと言われたコミュニケーションもろくに取ることが出来ていない。話しかけた途端、謝って逃げ出す生徒もいるほどだ。唯一、まともに話してくれるのはサーシャ、サリア、アイリスの三人だけだ。いや、アイリスとは話が通じているのか怪しいところだが、俺の交友関係は相変わらず広がっていない。
(まぁ、独りは慣れてるがな。)
そう思いながら、魔術科の授業を受けていた。今日は魔法術式を起動させて魔法を発現させる練習だ。と言っても、実戦で魔法兵器を使用しているライアーにとっては出来て当たり前の事だ。さっさと練習用の魔道具に刻まれた術式を起動させて魔法を発動させると、四苦八苦している生徒を横目に席についた。そして他の生徒のほうに目をやる。あちらの生徒は術式に込める魔力が拡散しすぎて発動領域まで持っていけていない。こちらの生徒は魔法が発動する直前で魔力供給を切ってしまい、発動まで持っていけてないない。それを見て、俺は軽くため息をついた。
「ため息なんてつくんじゃないよ、辛気臭いったらないね。」
俺の席の机に腰掛けながら話しかけてきたのは、魔術科目科長のターニャ・クエスだった。すると、彼女は突然俺の腕を掴むと、実習棟の外へ引っ張って行こうとした。
「どういうつもりだ。」
理解できない行動に少し抵抗すると、それを見てニヤリと笑い告げた。
「なに、ちょっとした面談さ。断ったら単位やらなおよ。」
そう言われ、俺は渋々彼女について行くことにした。
俺が連れてこられたのは講堂の裏だった。そこに着くなり、ターニャは懐から煙草を取り出し火をつけた。そして一口吸い、煙を吐き出した後俺に問いかけてきた。
「編入の為の実技試験の事も、この間のあのアホとの模擬戦の話も聞いたよ。それで、アンタは一体何者だい?」
俺の事を詮索するような問いかけだ。彼女がどこまで俺の事を知っているかは分からないが、面倒事に巻き込まれても嫌なので、俺は当たり障りの無い返事をした。
「魔術士志望の生徒だが?」
「あくまでシラを切るつもりかい。」
そう答えると、ターニャは懐から魔法術式が刻まれた魔道具を取り出して魔力を込め始めた。瞬間、俺は霧雨を抜きながらターニャへ向かって走り出した。そして魔道具を切断した後、彼女の首筋に霧雨を突きつけた。傭兵として戦場に経っていた時の名残で本能的に身体が動いてしまった。
一瞬彼女の顔が驚愕に変わるが、直ぐにニヤリと笑い両手を挙げてきた。
「こりゃレニアスもやられる訳だ。降参だよ。」
その言葉に俺が霧雨を引いて仕舞うと、落とした煙草を拾い上げ、再び吸い始める。そして再び俺に問いかけてきた。
「アンタ、人を殺ったことあるだろ?」
「何故そう思う?」
「今のアンタの動きには無駄が無かった。武器を無力化してからアタシを狙った。ただのガキが、それも対人戦闘であそこまで動けるのはおかしいだろう?それに、そのナイフは魔術兵器だろ?術式は魔力拡散かね。」
なるほど、ただの反面教師かと思ったがそうでも無いらしい。いまの一瞬で俺の行ったことを的確に分析してきた。
「だとしたらどうする?リアスに報告して、退学にでもするのか?」
俺は問いかけた。もっともリアスは俺が元傭兵だということを承知で学園に誘ってきているので、そんなことにはならないだろう。だが俺はあえて挑発するように言った。
「まさか、そんな面倒くさいことをアタシがする訳ないだろ?それに初めに言ったじゃないか、これは面談だって。」
俺の言葉に、ターニャは肩を竦めながら言った。そして短くなった煙草を掌で握り消しながら続けた。
「これは面談だから、アタシからのアドバイスだ。アンタは他のガキどもと違って魔法術式の起動は完璧に出来てる。だから必要な時以外アタシの授業に出る必要は無いよ、教えることもほとんど無いしね。」
確かに、俺は普通に魔法術式を起動させ、戦闘にも使える。しかし他の生徒は懸命に起動させようとしている段階だ。なので実力差があるため、俺が他の生徒に合わせて授業を進めている形になっているので、かなり退屈に感じている。
俺にとってはありがたい話だが、一つ問題があった。それは単位の問題だ。授業を受けなければ当然単位は貰えない。それをターニャに問うと、彼女はニヤリと笑い言って来た。
「単位?あるじゃないか、授業に出なくても稼ぐ方法がさ。」
ギルドクエスト
完全に失念していた。確かに学園生徒向けのクエストを成功させれば、報酬で単位も稼ぐことが出来る。そうすればある程度授業に出なくても問題無い。
編入の際に申請し、発行されたギルドカードも部屋に置きっぱなしだ。
「その手があったか、ありがとうターニャ。」
「ハッ、口の悪いガキだけど礼くらいは言えるんだねぇ。あと、学園では先生を付けな。」
こうして俺はその日の自主訓練時間を使い、早速クエストを受ける算段をつけたのだった。
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俺は授業後、ギルドに出向きクエストを受ける為掲示板に向かった。現在張り出されているクエストは主に調査や採取といった、面白みの無いクエストばかりであった。調査はともかく、採取に関しては植物の種類や見分け方など分からないものが多い。
どうしたものかと悩んでいると、ギルド職員らしき人物が新たに依頼を張り出しにきた。その中の一つクエストの依頼書があった。
俺はこれなら手軽に受けられると思い、受付へそれを持っていった。
「申し訳ございません…Gランクの学園指定ギルドカードで討伐クエストを受けるにはEランク以上、又は三人以上のパーティーを組む必要があります。」
「…なに?」
俺が提出した依頼書を見て、受付の女性にそう言われた。詳しく聞けば、ギルドのランクはAからGまで分けられ、通常そのランクに見合った依頼を受けるのだという。Gランクは主に採取系クエストをうける。そして一回クエストを達成感するとFランクに上がる。そこからクエストの達成回数に応じてランクが上がる仕組みだという。
今回俺が受けようとした依頼はEランク向けの依頼だったらしい。また、自分のランクより上位のクエストに挑む場合は三人以上のパーティーを組まなければならないという規則があるのだという。
「君はまだGランクということは初めてクエストをうけるんでしょ?冒険するのもいいけど、初めは薬草採取とかから始めたほうがいいと思うよ?」
説明を終えると、受付の女性は俺に言ってきた。その言葉は至極当然だ。俺は諦めて依頼書をクエストボードに戻そうとした時、後ろから声をかけられた。
「あれ?ライアー君だ。」
「もしかしてクエスト受けに来たの?」
振り返ると、サリアとサーシャだった。二人とも学園の制服にローブを着た姿でサーシャは剣を、サリアは短剣を腰に挿していた。二人は近づいてくると、俺が手に持っていた依頼書を見た。
「討伐クエスト受けるの?」
「そのつもりだったが、断られた。」
サリアの言葉に、俺は自分のギルドカードを見せながら答えた。そのGランクのカードを見て二人とも苦笑いを浮かべた。
「規則だと言うのだからな、仕方がないだろう。」
「そうだね、私も数ヶ月前は薬草採取ばかりやってたな〜」
俺の言葉にサリアが思い出すように呟く。その様子を見ながら再び依頼書を戻そうとした時、サーシャが俺に提案をしてきた。
「その依頼、あたしたちと一緒に受けない?」
「なんだと?」
「え?どういうこと?」
俺とサリアが聞き返すと、俺の手から依頼書を抜き取って内容を読み始めた。そして頷くと依頼書をサリアに見せながら説明してきた。
「このクエストの依頼条件ってEランク以上でしょ?ライアーはまだGランクだから受けれないけど、あたしとサリアはこの間Eランクに上がったから受けられる。」
「なるほど!それで私たち二人のパーティーに仮でライアー君を入れることでGランクの人数制限をクリアするんだね!」
サーシャの説明にサリアは納得した用だった、俺としてはありがたい話なのだが気になる事が一つあった。
「俺がパーティーに入ることで二人の報酬が少なくなるのだが、大丈夫か?」
そう、クエスト達成時の報酬の配分だ。基本的にパーティーの場合、報酬は山分けが基本だ。たまにリーダーがいるパーティーそのリーダーが配分を決める場合がある。しかし今回の場合は即席のパーティーの為、それは適応されない。つまり、俺が入ることで二人の取り分が少なくなってしまうのだ。通常なら自分たちよりランクの低いメンバーを入れることはありえない。だが、二人は笑いながら答えた。
「ライアー君の強さなら問題無いよ。」
「そうね、あたしも大丈夫よ。」
「ありがとう。」
そう言うと、サーシャが持っていた依頼書をサリアが奪って受付へと歩き出した。その背中を見ていると、突然サーシャが俺の耳元で囁いた。
(あたしをノルド先輩から助けてくれたお礼よ。)
その言葉にサーシャのほうを向くと、彼女は顔を隠すようにしながらサリアの元へ走っていった。
依頼を受注、準備を終えた俺たちは討伐対象を探していた。対象は西の街道沿いの森に現れたガルウルフの群れだ。
ガルウルフ
口から生えた二本の牙と灰色の毛が特徴の、体調1メートル程の雑食性の魔物だ。常に五匹程度の群れで行動し、連携を取りながら獲物を狩る。1匹を相手にする分には対して強くは無いのだが、連携攻撃をしてくるぶん多少厄介な魔物だ。
俺たちは注意を払いながら街道を進む。すると、前方約四百メートルの位置にガルウルフが見えた。
「サリア、サーシャ、前方にガルウルフだ。距離およそ四百メートル、数は二だ。」
俺がそう言うと、二人が驚くようにこちらを見てきた。
「うそ、ライアーにはもう見えたの!?」
「確認してみます。」
俺の言葉にサリアは目を瞑り「探索…」と呟いた。前方に微弱な魔力を飛ばして魔力反応を感じる魔法だ。しばらくして、サリアが目を開ける。
「確かに、前方約四百メートルの位置に二匹、それと左右の森に二匹ずつの計六匹です。」
「流石魔法だ。俺の見えない位置まで索敵出来るのは便利だな。」
俺の言葉に笑みを浮かべたサリアだったが、直ぐに真剣な表情に戻り体制を整えた。そこで改めてパーティーの作戦を見直した。
サーシャとサリアは基本的にサーシャが前衛として剣と魔法で攻撃し、サリアが後衛として索敵や補助、指示を行っていた。そこに俺というイレギュラーが入ることになったので、サリアは今までの役割のまま中衛に入り、唯一魔術兵器を使う俺が後衛となった。
役割を確認した後、俺たちはガルウルフへと近づいていった。そして全員が目標を確認したところで作戦へと移った。
俺は近くの倒木にバイポッドを立ててシムエスMk.IIのスコープを調節する。狙いは街道上にいる二匹のガルウルフの内の一匹。スコープに表示されたレティクルの中心が頭がに重なった瞬間、俺は引き金を引いた。
ダァァァン!
俺の放った弾丸は加速の魔法術式を介して発射され、ガルウルフの脳漿ごと頭蓋骨を吹き飛ばして絶滅させた。それと同時にサーシャとサリアが飛び出した。ガルウルフも味方がやられて一瞬怯んだようだが、二人を確認すると距離を取ろうとする。
「水の弾丸」
そう叫びながらサーシャは街道上にいたもう一匹に魔法を放つ。攻撃は当たったようだが浅い。ガルウルフが距離を取る。それを追撃しようとするサーシャだったが、左右の森からさらにガルウルフが飛び出してきた。
「っ!火の弾丸!!」
サーシャを襲おうと飛び出してきたガルウルフはサリアの攻撃により阻まれてしまった。しかし、今度は森から出てきたうちの二匹が、サリアへと襲いかかる。
「サリア!!」
「こっちは大丈夫だから!!」
サリアの言葉を聞いてサーシャは剣を振り抜き、ガルウルフの喉元を切り、今度は魔法で残り二匹を吹き飛ばした。サリアも襲いかかってくる二匹を相手に防御をしつつ、突っ込んでいくサーシャを援護していた。俺は二人の戦い方を見て思った。
(あまり良い戦い方ではないな。)
一見二人の戦い方はサーシャが攻撃し、サリアが援護してガルウルフ相手に善戦しているようにも見える。だが実際にはサーシャが突っ込みすぎているせいで、仕留め損ねた敵がサリアを襲い充分な援護に回れないでいる。サリアも攻撃魔法で相手を仕留めれば良いのだが、それをせずに防御ばかりでサーシャの援護に回れていない。つまりはパーティーでありながら二人はほぼ分断された状態で戦っている。このまま消耗戦に持ち込まれれば負けるのは確実だろう。
(仕方ない)
そう思うと、俺はバイポッドをたたみシムエスMk.IIを持って二人の元へ駆け出した。
「ライアー!?」
「ライアー君!?」
いきなり後ろから飛び込んできた俺を見て、サーシャとサリアは驚きの声を上げた。それもそのはずだ、後ろで援護をするはずだった俺が前線に飛び込んで来たのだから。だが今は戦闘中だ、驚いている暇は無い。
「目を瞑れ」
そう言うと、二人は目を瞑って伏せた。それを見たガルウルフは、好機とばかりに二人に飛びかかったった。その瞬間、俺はベルトにつけていた閃光爆弾を放りなげた。
カッ!!!!!!
「キャィィィィン!!」
辺りが激しい光に包まれたと同時に、ガルウルフたちは一斉に視界を奪われ、二人を見失った。
ダダダダァァン!!!!
その瞬間、俺は加速の魔法術式と併用したクイックショットでガルウルフたちを撃ち抜いた。二匹は仕留めることがが出来たが、もう二匹は急所を外したようで、見えない視界の中逃げようとしていた。
「サリア!サーシャ!やれ!!」
そう叫ぶと、サリアは短剣で喉元を切り裂き、サーシャは剣で心臓を貫いた。
ガルウルフは断末魔をあげて力なく倒れた。そして一瞬の静寂が訪れる。俺は周りを辺りに他の敵影が見えないか探る。
「やった、やったよライアー君!」
「ライアー!!」
二人が声をかけてこちらに走ってくる。
「まだ残党がいるかもしれないから索敵を…ーーー!?!?」
俺が二人に叫ぶと、視界の端、左の草が不自然に揺れ、そこから半透明の何かが飛び出して行くのが見えた。その先にはサリアがいる。
「避けろサリア!!」
「え?」
サリアに向かって叫ぶが、彼女は驚いた顔をして立ち止まってしまう。その瞬間だった。
「グルルァァァァ!!!!」
雄叫びを上げながら半透明の何かが色を取り戻しながらサリアに飛びかかる。それはガルウルフだったが、俺たちが倒した個体より二回り程大きく、白銀の毛のガルウルフだった。
「…え?」
「サリア!!」
突然の襲撃に立ち尽くすサリアと、それを見て叫ぶサーシャ。サリアの目の前には鋭く尖った牙を見せつけるように口を開けて襲いかかってくるガルウルフがに映る。
その瞬間、俺の視界が白黒になり世界がスローに変わった。それはあの時見た景色と同じだった。
ガルウルフの口から光の線が延び、真っ直ぐサリアの頭へと繋がる。恐らくガルウルフはサリアの頭に噛み付くつもりだろう。しかし、この距離では彼女を突き飛ばしたとしても間に合わない。
(どうする…!?)
俺は必死で頭を動かした。この間にも、少しずつではあるが、ガルウルフはサリアへと向かっていっている。
(考えている暇はもう無い!!)
そう思うと、俺は背後ににあるものを放り投げ、サリアへと向かって走り出した。
私の目の前には大口を開けてこちらに飛びかかってくる白銀のガルウルフの姿が映る。それを見て、私はここで死ぬんだなと思った。悲しかったが、涙は流れてこなかった。ガルウルフが口を閉じ始めた時、目を瞑り、訪れる死を待った。
ボンッ!!ガキン!!!!
「ぐっ……ああぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、訪れたのは鈍い破裂音と甲高い金属音、そして叫び声をだった。ゆっくりと目を開けると、そこには左腕に魔術兵器を添えてガルウルフに噛まれるライアー君の姿が映った。
その光景に私も、そしてサーシャも言葉を失った。
すると、ライアー君が痛みで顔を歪めながら叫んだ。
「お前ら!!早く攻撃だ!!」
その言葉に一瞬ビクッと肩を震わせたが、直ぐに攻撃魔法をガルウルフに放った。
「風の刃!!」
「火の弾丸!!」
サーシャと私が同時に魔法をガルウルフに撃ち込む。しかし、先程のガルウルフとは違い僅かに皮膚を切り裂いたり、毛を焦がす程度しかダメージを与えられなかった。だが、そのおかげがガルウルフはライアー君の腕を口から離し、バックステップで距離を取った。
「ライアー!!」
「ライアー君!!」
私たちは慌ててライアー君のそばによる。彼の左腕のコートの生地には血が染み込んで来ていた。慌てて治療をかけようとしたが、彼に止められてしまった。それを見て、私は声を荒らげた。
「ライアー君!!早く治療しないと!!」
「後でいい」
「でも、こんなに血が流れ……」
「戦闘中だ!!!!」
その言葉に、私はハッとして、そしてライアー君の顔を見る。彼はこの瞬間も、ガルウルフと目線で対峙している。ガルウルフも姿勢を低くしながら唸り声を上げ、こちらの様子を伺っている。
しかし、一瞬だった。彼が痛みに顔を歪めた瞬間、ガルウルフの姿が半透明になった。そして再びこちらに向かって飛びかかってきた。
白黒世界が終わった瞬間、俺はシムエスMk.IIを左腕に添えるように持ち、サリアとガルウルフの間にねじ込んだ。刹那、左腕に痛みが走る。いつも来ている黒いコートが防刃性なので大丈夫かと思ったが、案外そうでは無いらしい。痛みに顔を歪めながら、俺は二人に叫んだ。
「お前ら!!早く攻撃だ!!」
その瞬間、風と火の魔法がガルウルフに当たる。しかし、他のガルウルフと違い、大きなダメージを与えることは出来なかったようだが、腕から口を離して距離を取り、こちらの様子を伺っている。
そうしていると、二人が俺の元にやってきた。そして俺の左腕の傷を見るなり、サリアが慌てて治療をかけてこようとした。断っても食い下がってくるので、叫ぶように言った。
「戦闘中だ!!!!」
すると、彼女たちはハッとしたような顔をして動きを止める。そしてそのままガルウルフと視線を合わせたまま出方を伺うようにしていると、左腕に走る痛みで顔を歪めた。
その一瞬だった。ガルウルフはまた半透明になり、こちらへ飛びかかってきた。後ろではサリアとサーシャが息を飲むのが分かる。だが、俺はガルウルフの攻撃に一つも恐怖など感じていなかった。
「いくら透明になっても、足跡と傷は消せないんだな。」
そう言うと、俺は腰に挿していたブラックホークを抜き構えた。その瞬間、ガルウルフが透明化を解きながら大口を開けて迫ってきた。それを見て、俺はニヤリと笑った。
「知ってるか?口の中って柔らかいんだ。」
ガガガガガガン!!!!
ブラックホークから魔法術式で加速された弾丸が、まるでフルオートのように発射された。狙いはもちろん口の中だ。弾丸は口の中に吸い込まれていき、ガルウルフの脳みそを破壊しながら頭を抜けていった。
脳を破壊されたガルウルフは一瞬で絶命し、俺たちの脇を通り過ぎて倒れたのだった。
その後、俺はサリアとサーシャに抱きつかれながら泣かれ、治療を受けた。幸いにも左腕の傷は深いものではなく、サリアの治療のおかげで動かせる程度まで回復した。そして初めに倒したガルウルフから素材として大牙と魔石を剥ぎ取り、残りはサリアの間法で燃やして処分した。
しかし、問題はこの白銀のガルウルフだ。一応魔石は剥ぎ取ったのだが、他のガルウルフと明らかに違うのでこのまま持って帰りたい。そんなことで悩んでいると、サリアが一つの袋を持ち出してきた。
「良かったら、私の収納袋に入れていってあげようか?」
そう言いながら袋を見せてきた。聞くと、この大きさならギリギリ入りそうと言うことなので、言葉に甘えて収納袋の中へ入れさせて貰うことにした。
そして俺の初めてのギルドクエストは終わったのだった。
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ギルドに戻ってからはそれなりの騒ぎになった。俺たちが倒したガルウルフはなんと上位種だったらしく、討伐指定ランクがCに分類されていた。それをEランクのサリアとサーシャ、そしてGランクの俺が倒して持ってきたのだから職員には質問という名の取り調べが行われ、開放されたのはすっかり日が落ちてからのことだった。
光で明るい表通りを抜け、若干暗くなってきた街の広場の噴水の所まで来たところで、俺はあることを思い出し、二人に話しかけた。
「そういえば、渡していなかったな。キッチリ三等分だ。」
そう言い、二人に皮袋を渡す。受け取った二人が中を確認すると、驚きの声を上げた。
「え!?こんなに!?」
「どうしたのライアー君!?」
中身は今回の報酬の分け前だった。しかし、最初の依頼料の他に上位種を倒した報奨金も上乗せされているので、かなりの金額になっている。まして今回の功績を認められ、俺はFランクを飛ばしてEランクへと昇格した。それに単位だってそこそこもらえた。
今日は良い日になったなと少し思っていると、二人の表情が暗いのに気がついた。どうしたと声をかける前に、二人は報酬の入った袋をこちらに差し出してきた。。
「どういうつもりだ?配分に不服か?」
そう言うと、彼女たちはフルフルと頭をふり、呟くように話し始めた。
「あたしには、それを受け取る権利がない…今回のクエストはライアーが居たから成功しただけ…」
「私もそう思う…あの時ライアー君がいなかったら、私は死んでいたから…」
瞳に涙を溜めて、二人は言った。その姿を見て、俺は二人に問いかけた。
「戦いにおける大事な事を覚えているか?」
「え…と、確か死なないこと…よね?」
サーシャが力なく答えた。その答えに頷きながら続けた。
「戦いは生きるか死ぬかのどっちかだ。そして生き残った奴が正しい。そして今回、俺たちは生き残ったんだ。」
「生き残った…!」
俺の言葉に、サリアが涙を浮かべたままこちらを向く。そしてサーシャと目を合わせたあと、言ってきた。
「ライアー君の話は理解したよ。だけどそれを含めても、やっぱりこのお金は受け取れないよ。」
そう言うサリアに俺が驚いた顔をすると、今度はサーシャが話し始めた。
「あたしたちは、何度も何度もライアーに助けられてる。今日の件も、ノルド先輩の時も、そしてその前も。」
「その前だと?」
サーシャの言葉に、俺は首を傾げる。彼女たちと初めて会ったのは学園の食堂でベスターに絡まれた時だったはずだ。そんなことを考えていると、二人がクスリと笑い、こちらに近づいてきた。
「覚えてないみたいだけど、私たちは前にもライアー君に助けられたんだよ?」
「忘れたの?あたしたちが路地裏で変な冒険者に絡まれてた時の事」
「あの時のか…」
それを聞いて思い出した。編入試験の日の朝、学園に向かっていた俺は二人の少女を助けた。助けたというか、逆に俺から奴らに絡みに言ったとも言えるのだが。しかし、結果として彼女たちを助けたというのだ。
「だから、今回の報酬はライアーに貰って欲しいな。」
「私からもお願い出来ないかな?」
そう言うサリアとサーシャだった。俺は少し考えた後、答えた。
「断る」
「ええ!?」
「なんで!?」
驚く彼女たちをよそに、俺は理由を答えた。
「一つ、路地裏で助けたは偶然であり、いらいされたものではない。二つ、ベクターの件は授業の模擬戦だ。そして三つ、今日のクエストはパーティーで行ったものだ。つまり、報酬は全員に受け取る権利がある。」
そう言うと、彼女たちはキョトンとした顔をした後、笑い始めた。俺が嫌そうな顔をすると、笑いが収まらないなら話してきた。
「なんかさ、ライアーって律儀だよね。」
「うーん、どっちかって言うと頑固なんじゃないかな?」
そう言うと、再び笑い始めるサーシャとサリアだった。
一通り笑い終えると、彼女たちは報酬の入った袋を仕舞い、俺に頭を下げてきた。
「今日はありがとうね、ライアー」
「ライアー君のおかげで助かりました、ありがとうございます。」
そんな二人に感化されたのか、俺も二人に頭を下げる。
「こっちも、初クエストに付き合ってくれてありがとう。」
三人で頭を下げあってる光景が物珍しいのか、近くにいた人々からの視線を集める俺たち。
「あ、えっと、じゃ、じゃあまたね!」
「お、お疲れ様でした!」
その羞恥に耐えられなくなったのか、二人とも寮の方へ走って帰ってしまう。その姿を見送りながら、俺は一言呟いた。
「案外悪くないな。」
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ライアー君と別れたあと、寮のシャワーで体を流して着替えたあと、私はベッドに横たわっていた。目を瞑ると、先程の上位種ガルウルフが襲いかかってくる光景が目に浮かぶ。しかし、それと同時にライアー君の顔も浮かぶ。こちらを庇うように、自分の左腕と武器を盾に私の命を守ってくれた恩人。
「ライアー君…」
彼の名前を呟くと、顔が熱くなるのを感じる。それがなんなのか分からないが、物凄く恥ずかしくなって布団を頭から被る。そして一言呟くのだった。
「ライアー君なら良かったのに…」
ありがとうございました。
やはり戦闘シーンは難しい、というか全てが難しい。
次回、ライアーが困ります。
よろしければまたよろしくお願いします。