58話:覚醒のヴェルディアナ
どうも、眠れぬ森です。
鈍足投稿で申し訳ありません。
もう少しモチベーションが上がれば……
さて、2023年ラストの投稿です。
拙い文章ですが、よろしくお願い致します。
目を開けると、そこは瓦解した建造物に囲われ、至る所に鉄の馬車のような物が破壊され燃え続けている場所だった。平らに整備された道は穴だらけになっており、脇に立っている標識は酷く歪んでいた。
そして、十字に交わった一際広い広場のような場所で、一人の女性が磔にされていた。その周りには群衆が群がり、罵詈雑言を浴びせながら手当り次第に物を投げていた。その磔にされた女性に、俺は見覚えがあった。薄汚れた黒髪に虚ろではあるが燃えるような紅い瞳のその女性はヴェルディアナであった。
俺はそんな彼女に近づこうとしたが、体が動かない。それどころか、全身の感覚が全て無い事に気がついた。あるのは視覚と聴覚のみで、目を瞑ることも耳を塞ぐことも出来なかった。
そんな時、群衆の中の一人の声が耳に入ってきた。
「この魔女が!!お前があんな論文を出さなければ、こんな事にはならなかったんだ!!この畜生が!!」
その瞬間、ヴェルディアナの体から黒炎が吹き出した。突然の事にパニックになる群衆に彼女は目を向けた。その目は先程までの生気のない虚ろな目とは違い、憤怒の意が込められていた。
我先にと逃げ出す人々だったが、その中の一人が懐から拳銃を取り出すと、ヴェルディアナに向かって一言呟きながら引き金を引いた。
「終いだ。」
刹那、弾丸がヴェルディアナの心臓を捉えると同時に魔法陣が展開された。それは眩い光を放ちながら、俺の視界と意識を奪っていった。
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アイリスが応援を呼びに行って、どれくらいの時間が経っただろうか。私はライアー君の傷に治癒をかけながら考えた。魔法のおかげで出血は少なくなっているが、完全に止まった訳では無い。
そんな中、私は治癒をかけ続けならがサーシャの方に目を向けた。
「風の刃!!」
サーシャは魔法を放ちながら敵の《異能者》、エビル・グラニスに斬りかかって行く。しかし、先程と同じくサーシャの魔法はエビルに吸収・反射され、近づくことが出来ない。それどころか、エビルのナイフによる攻撃で傷を負っていた。
「ぐ……あぁぁぁ!!」
「サーシャ!!」
エビルにより反射された魔法を魔力壁を張って防ぐサーシャだったが、傷を負ったせいかバランスを崩し、こちらまで飛ばされてきた。私は咄嗟にサーシャの名前を叫び立ち上がろうとした。
「来ないでっ!!」
しかし、それはサーシャの言葉によって遮られてしまう。そして疲弊した顔でライアー君を見ると、私にだけ聞こえる声で言った。
「サリアは、ライアーの治療に専念して。今はサリアの治癒魔法だけが頼りなの。」
「でも、サーシャだって……」
その言葉に一瞬の躊躇いを感じたが、それを見てサーシャは続けた。
「アタシは大丈夫よ。もし相手が本気で戦っているなら、もう全員殺されているわ。」
サーシャの言葉にハッとして、私はライアー君に治癒をかけながらエビルの方を見た。言われてみれば、先程からサーシャに対する攻撃には殺意が感じられない。その証拠にサーシャは怪我を負っているものの、どれも致命傷にならないものばかりだ。
「嬢ちゃんたち、もう話は終わりかいな。」
そんな事を考えていると、エビルが手の上でナイフを回しながら近づいてきた。今だってそうだ、攻撃する隙はいくらでもあったはずなのにしてこなかった。
「あなたの目的はなんですか!?」
私はライアー君に治癒をかけながらエビルに問いかけた。もちろん、サーシャが息を入れる時間を稼ぐのが目的だが、それ以上に相手の行動理由が知りたかった。そんな私の問いかけに、エビルは仮面の下で喉を鳴らして笑いながら答えた。
「目的?そんなもん、そこの坊主が起きるのを待っとるんや。いや、正確には坊主の中に眠ってる奴をやな。」
「……え?」
その答えに、私は一瞬理解が追いつかなかった。ライアー君の中に眠っている人、それに対して思考が追いつかない。ふとサーシャを見ると、彼女も同じように目を丸くしてライアー君を見ていた。それに釣られて私もライアー君に視線を落とす。その様子を見て、エビルは少し驚いたように言った。
「なんや?嬢ちゃんたち、聞いとらんのか?」
「一体、なんの事かしら?」
エビルの問いかけにサーシャが答える。しかし、その震える声音に、エビルは再び笑いながら言った。
「知らへんのなら教えたるわ。ワイもそこの坊主と同じ、先天性魔力制御疾患や。」
「そんな!?」
「だってアンタは!!」
その言葉に、私とサーシャは驚きを隠せずに叫んだ。それもそのはず、先天性魔力制御疾患であれば、魔力を出すことは出来ても魔法を使うことは出来ないはずである。しかし、エビルがサーシャの魔法を反射したのは恐らく魔法である。そんな私たちの様子を見ながらエビルは話を続けた。
「せやで、先天性魔力制御疾患のワイには魔法を使うことは出来へん。せやけど、特定の条件さえ満たせば一時的に魔法を使うことが出来るんやで?」
「特定の条件……?」
「一つは死亡の危険のある状態に陥る事。それは嬢ちゃんたちも見たはずやで?」
その言葉に朧気ながら私たちの頭には、ライアー君が銃口から極大の炎を放つ姿が浮かんだ。確かに、いくら魔法術式があるとはいえ、あそこまでの術式など見た事が無い。
そんな事を考えていると、回復薬を飲み息を整えたサーシャがエビルに剣を向けながら問いかけた。
「……それで?一つってことは他にもあるのかしら?」
「せやで、ほなら見せたるわ。」
サーシャの問いにエビルが答えた瞬間、突然仮面の下から感じていた雰囲気が変わるのを感じた。
「っ!?!?」
「なん…なのよ……」
感じたことの無い圧倒的なプレッシャーに、私たちの身体が強ばる。それを見ながら、エビルは静かに口を開いた。
「『もう一つの条件は、この俺みたいな災厄魔法と契約することだ』。」
先程とは喋り方も雰囲気も違うエビルの様子に、私たちは驚きを隠せないでいた。しかし、エビルはそんな私たちを無視するかのように、倒れたままのライアー君に話しかけた。
「『分かっているぞ、早く目を覚ませ』。」
「……え?」
その瞬間だった、ライアー君の身体からじわりと熱を感じた。視線を向けると、ライアー君がゆっくりと目を開けるのが見えた。
「ライアー君!?」
「ライアー!?」
その様子に、サーシャまでもが私とライアー君に近づいてきた。しかし、そこで異変に気がつく。
右目が赤くなってしまって以降、ライアー君は常に眼帯をつけてそれを隠していた。しかし、今は眼帯を付けていない左目までもが赤くなっていた。そしてもう一つ、私たちを見つめる視線がいつものライアー君のものとは程遠い、冷たい視線であった。
「ライアー……」
「ライアー君……?」
その異様な雰囲気の前に、私たちは名前を呼ぶことしか出来なかった。すると、ライアー君は治癒をしている私の手を取りながら言った。
「『大丈夫です』。」
「え……?」
ぶっきらぼうな言葉の中にも優しさを感じるいつものライアー君では無く、どこか無機質なその声に驚き、私は治癒を止めてしまった。その瞬間、傷口から血が溢れ出した。
「何やってるのよライアー!!」
それを見てサーシャが声を荒らげる。それにハッとして再び治癒をかけようとするが、その手はライアー君の言葉に遮られた。
「『問題ありません、と言ったはずです』。」
そう言うと、ライアー君は傷口に手を当てた。そして、そこから赤黒い炎を出すと若干苦痛の表情をした後、手を離した。
「な……」
「う、嘘でしょ……」
その光景を見て、私とサーシャは言葉を失った。ライアー君が手を当てた傷口からの出血が焼かれたように止まっていたのだ。普通であれば、心臓からの出血は焼いて止めることは出来ない。しかし、目の前でライアー君はそれを行った。
目の前で起きた信じられない光景に呆然としていると、ライアー君が立ち上がりながら言った。
「『危ないので動かないでください』。」
「え?あ、うん……」
「わ、分かったわ……」
現実味の無い出来事ばかりが起こり頭の整理が追いつかないのか、私たちは頷く事しか出来なかった。それを確認すると、ライアー君はエビルの方へと歩いて行った。それと同時に、後ろから私とサーシャを呼ぶ声が聞こえた。
「サリア!!サーシャ!!」
「「アイリス!!」」
その声の主は応援を呼びに行ったアイリスだった。その後ろからは、学園長のリアスと魔法士団長のエルハルト、そして少し後ろにはエリザベートとクラインを守るようにカインとジェームスが着いてきていた。
「アイリスちゃんからは簡単に事情は聞いたけど、これは一体どういう事なのかしら?」
「それが私たちにも……」
到着するなり、リアスは今の現状の説明を求められた。しかし、自分たちでも理解し難い状況に混乱する。
「リアスよ、恐らく彼女たちにも分からんのだろう。ここは相手の様子を伺ってからでも遅くは無い。」
「それもそうね。」
私とサーシャの様子を見てエルハルト団長が呟く。そして鋭い視線を仮面をつけた男、エビルへと向ける。リアス学園長もサーシャに治癒をかけながら同じような視線を向けて言った。
私たちの視線は自ずとエビルと退治したライアー君へと向かっていた。その視線に気がついたのか、エビルは大きな笑い声を上げながら叫んだ。
「『役者は揃った!!さぁ、始めようか!!異能者同士の殺し合いを!!!!』」
今年一年、ありがとうございました。
こんなスローペースで拙い文章ですが、読んで頂けて感謝の言葉しかありません。
また来年も不定期ですが投稿していこうと思っておりますので、よろしくお願い致します。
皆様よいお年ををお迎えくださいませ。