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5話:戦う意味

こんばんは、眠れぬ森です。

調子に載って1万字オーバー。

戦闘描写は文字数使いますね。

よろしくお願い致します。

 食堂での騒動から二日後、俺は本格的に学園の授業へ参加することになった。選択科目は戦闘科と魔術化、ギルドへの申請は行い、冒険者となった。と言ってもまずは学園での生活、授業に慣れなければならない。なので午前中の座学を受けるため、五十期生が講義を受ける講堂へ足を運んだ。

 講堂に着き扉を開けると、先に来ていた生徒達が一斉にこちらを向き、静まり返る。原因はやはり一昨日の食堂での出来事だろう。当初、誰も俺の名前も顔も知らないはずなのに、直ぐに俺の名前は学園中に広まった。しかも、黒衣の無謀者(ブ・ラック・レス)の二つ名と共に。

 俺は初めて黒いロングコートを着ていることを後悔した。初めは校則違反かと思いリアスに聞いてみたのだが、指定の制服さえ着用していれば、あとは問題ないと言われ、そのまま着ていた。今回はそれが仇となってしまっていた。

 無闇に武器を見せる訳には行かない。仕方なく、そう仕方なく着ているのだ。そう心の中で言いながら空いている席を探す。幸い、まだそこまで多くの生徒が来ていないので、席はスカスカの状態だった。

 俺はコートのフードを被り、足早に窓際の一番後ろの席に座った。すると講堂内がザワつく。


「おい、あの席って…」


「誰か言ってやれよ…」


「俺は嫌だよ、巻き込まれたくない…」


 耳を澄ますと、そんな会話が聞こえてきた。初めの説明では席に決まりは無いと聞いている。なのに何故今さらそんな事をと思いながら準備をしていると、ふと俺の隣に誰かが立つ気配を感じた。横を見ると、一人の少女が俺を見下ろしていた。学園の制服に眠そうな目に白のパーカーのフードを被って着ている、薄い青色の髪をショートウルフのような髪型をした少女だ。

 彼女は俺の隣に来るなり、じっとこちらを見ている。最初は無視しようと思ったが、人が集まりだしてきてもずっとこちらを見たまま動かない。流石に居心地が悪くなり、声をかけることにした。


「何の用だ。」


「そこは、アイリスの席。」


 俺の問いに、そう答えた。彼女はアイリスという名前らしい。だが、説明では席の決まりは無いと言われているので、引き下がる通りはこちらにはない。


「席は自由のはずだが?」


「そこは、アイリスの席。」


「俺が先に座った。」


「でも、アイリスの席。」


 いかんな、話が平行線だ。こちらが正論を言っても、同じことしか言わない。段々と大人ではないが、大人気ない気がしてきた。


「分かった、俺が一つ横にズレる。それでいいだろ。」


 俺が折れてそう言うと、彼女は ん とだけ返事して席に着いた。そしてあろうことか、机に伏せて寝始めた。


「おい、講義始まるぞ。」


「大丈夫。」


 コイツとは話が一生通じない気がしたので、放っておくことにした。そのうちに座学担当のティナが入ってきて、授業が始まる。内容は魔法の歴史についてだ。俺は編入が中途半端な分、微妙に遅れている。そこで座学は単位を落とせない。必死に黒板に書かれている内容を書き写している時だった。


「たくさん、硝煙と、血の匂いが、する。」


 ふと、隣からアイリスの声が聞こえた。彼女のほうを向くが、寝たままで起きている様子はない。寝言かな?と思っていると、


「ライアーく〜ん、アイリスちゃんが可愛いのは分かりますが〜、先生の授業聞いてくださいね〜。単位あげませんよ〜?」


「…申し訳ない。」


 ティナに注意された。俺よりも寝ているやつを起こして欲しいものだ。

 俺は再び授業に戻る。だが、俺は見逃していた。アイリスの口元をがニヤリと笑っていることを。




 午前中の講義が終わり、昼休憩の時間となった。と言っても、一昨日に騒動を起こしたので食堂へは行きずらい。なので購買でサンドイッチを買い、落ち着いて食べられる場所を探して校内を徘徊していた。

 しばらく歩いてる辿り着いた場所は、校舎裏に設置されたベンチだった。ここなら落ち着いて食事が出来そうだなと思い、座ってサンドイッチの包装を剥がして食べていく。流石は王国立魔法学園だ、購買で売っているサンドイッチでも街のものより美味い。そう思いながら食べ進めていると、校舎の影から言い争うような声がした。


「頼む!!あと銀貨一枚まけてくれ!!」


「だめ。」


「頼むよ!!約束なのは分かっているけど、次の定期試験で必要なんだよ!!」


「だめなものは、だめ、約束。」


 アイリスともう一人は知らない男子生徒のようだ。何かをまけてほしいとお願いしているようだ。校舎裏だ、大方娼婦まがいな事をしているのだろう。

 そんな言い合いを聞きながら息を潜めていると、男子生徒が寝負けしたのか、諦めるように帰ったようだ。

 時間だし、俺もそろそろ戻ろうかと思いベンチから腰をあげようとすると、あろうことかアイリス目が合った。彼女は驚いたように目を大きく開き、問いかけてきた。


「君は、朝の、頑固くん。」


「悪いな、俺には一応ライアーって名前があるんだ。」


 俺の言葉に、アイリスは睨みつけるように目を細めて再び問いかけてきた。


「アイリス達の、会話、聞いてた?」


「聞くつもりはなかったんだが、生憎食事中でな。」


 そう言って俺はアイリスにサンドイッチの包装をヒラヒラと見せる。そこで俺はリアスに言われたことを思い出した。これはコミュニケーションを学ぶいい機会なのではないだろうか?

 朝とは違い、アイリスとの会話は成立している。ならばと思い、俺はアイリスに話しかけた。


「アイリスこそ、こんな校舎裏で何してたんだ?」


「それは、言えない。」


 なるほど、言えないか。ということはやはりそういうことなのだろう。本人の意思だ、止めろとは言わないが、彼女はここが学園内だというのを忘れては居ないだろうか。


「そうだろうけど、娼婦紛いの事をするなら時と場所を考えろ。」


「しょうっっっっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜///」


 俺がアイリスにそう言うと、彼女は顔を真っ赤にしてこちらへ早足で詰め寄ってきた。

 攻撃されるか?そう思いいつでも動けるように構えを取ろうとする。しかし、俺の思いとは裏腹に彼女は俺の目の前で止まり、真っ赤な顔で叫んできた。


「アイリスは!!そんな事!!してない!!それに!!アイリスは!!まだしょっっっっっ!?!?!?」


「分かったからそれ以上言うな。聞かれるぞ。とりあえず落ち着け。」


 とんでもない事を大声で言いそうになったアイリスの口を手で塞ぎ、窘める。少しずつだが、彼女は冷静さを取り戻して言っているようだ。

 数分後、彼女は完全に落ち着いたので口から手を離した。すると、彼女は俺に頭を下げてきた。


「ごめん、アイリス、カッとなって、冷静さ、失ってた。」


「俺も勘違いして悪かったよ。」


 お互いに頭を下げて謝罪すると、アイリスはパーカーのポケットから一つの腕輪を見せてきた。そこには魔法術式が刻まれており、効果は魔力整流だった。


「アイリスは、未熟だけど、魔法術式、刻める。そして、魔術兵器(マジック・ウェポン)、売ってる。使い捨てだけど、学校には、内緒。」


 なるほど、そういう事だったのか。本来ならば魔術兵器(マジック・ウェポン)は世紀の卸売業者から購入、または付与士に刻んで貰うしか得る方法が無い。だが、彼女は未熟だが自分で魔法術式を刻めるので、卸売業者を挟む手数料を浮かして自分の懐に入れて商売をしているということらしい。


「使い捨てだから、値段、安い。それなりに、需要、ある。」


 アイリスは思いのほか商売上手なのかもしれない。顧客もほぼ決まっているので、リスクはほとんど無いらしい。だがそれ以上に、この現場を俺に見られたことが心配でならないというふうだ。まぁそうだろうな、見ず知らずの相手に自分の秘密を見れらたのだから。仕方ないか、そう思うと俺は腰に挿したブラックホークをアイリスに見せた。


「すごく、綺麗な、術式。」


 そう言うと、彼女は食い入るようにブラックホークを見つめた。そして首を傾げながら俺に問いかけてきた。


「これは、加速の、魔法術式?」


「そうだ。」


「でも、見たことない、刻み方。」


 むむむ、という顔でブラックホークをみるアイリスだ。だがこれ以上は見せられない。


「あ…」


 ブラックホークを仕舞うと、アイリスは残念そうな顔をした。その顔を見ながら、俺は彼女に言った。


「戦場において、敵に武器を見せるということは自分の手のうち、つまり秘密を見せるということだ。俺はアイリスの秘密を知ってしまったが、俺もアイリスに自分の秘密をひとつ見せた。だからお互い、秘密を守るってことで手を打たないか?」


「二人の、秘密…」


 俺がそう言うと、彼女は少し驚いたような顔をしたが、直ぐにはにかみながら言った。


「分かりました、二人の、秘密、です。」


 その瞬間、予鈴の鐘が鳴る。その音で二人慌てて選択科目の実習棟へ向かう。


(彼女が俺に牙を向かないことを祈ろう)


 そう思いながら、俺は魔術科の実習棟へと走るのだった。





ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー





 三コマ目の魔術科の授業は担当のターニャが急遽他クラスの先生の欠員補助の為に自習となり、各自魔力術式の取り扱い方を学ぶ時間で過ぎていった。

 そして現在、四コマ目の戦闘科の授業だ。場所は実技訓練場だ。


「あ、ライアー君久しぶり。」


「久しぶりねライアー。」


 授業が始まるのを待っていると、サリアとサーシャが声をかけてきた。二人とも戦闘科での授業の為、サリアは短剣を、サーシャは剣をそれぞれ腰に挿している。二人とも武器には魔法術式が刻まれていない所を見るに、純粋な魔法士になるために学んでいるようだ。

 しばらくして、担当のレニアスがやってきた。俺をチラリと見ると、他の生徒に気が付かれないように何故か軽く礼をしてきた。そして授業が始まった。


「今回は対人戦闘について教える。」


 レニアスはそういうと、サーシャを指して問いかけた。


「サーシャ、対人戦闘において一番大事な事は分かるか?」


「敵を素早く倒すこと…ですか?」


 サーシャの答えにレニアスは一考すると、次に別の男子生徒を指して同じ問いかけをした。


「分かるか?」


「えと、相手の武器を無力化することですか?」


 その答えに対しても一考した後、俺に声をかけてきた。


「ライアー、お前は分かるか?」


「死なないことだ。」


 間髪入れずに答えた内容に、他の生徒はどよめく。

だがレニアスは頷き、全員に話した。


「そう、ライアーの言う通り、対人戦闘において一番大事なのは死なない事だ。」


 その言葉にローブを着た男子生徒がてをあげて質問する。


「レニアス先生、死なないということが大事なのは常識というか、大前提なのでは無いでしょうか?」


「それも一理あるな、他にもそう考えた者は挙手を。」


 レニアスがそう言うと、俺以外の全員が手を挙げた。それを見て、彼はため息をつきながら言った。


「では、その前提が正しくない事を今から見せよう。ライアー、前へ出ろ。」


 レニアスに促されて俺は前へ出る。すると校舎から一人の男子生徒が歩いてきた。現れたのは、ベクター・ノルドだった。


「久しぶりだなァ、クソガキ。」


 ベクターはそう言うと、ビシりとこめかみに青筋を浮かばせた。俺はレニアスのほうを睨むと、彼はニヤリと笑って言った。


「今日の授業は対人戦闘の見学だ。」


 その言葉に俺も流石に驚きを隠せなかった。するとレニアスは俺の傍により、小さな声で事の顛末を聞かせてくれた。


「ベクターの件は学園長から聞いている。このまま奴を放っておいてもいいことは一つも無いだろう。だから、今回模擬戦を組ませてもらったのだよ。」


 その言葉に俺は頭を抱えた。どうしてこうも問題ばかり降りかかるのか。そう思い、他の生徒達を見てみる。


「あのノルド先輩が相手ってマジかよ…」


「先輩って冒険者ランクDなのよね、入学したばかりの私たちが束になっても勝てなさそうなのに…」


「あいつ、ヤバいんじゃないか…」


 みんな口々にそのような事を言う。既に負けムードが漂っている。そんな中、俺に近づいてくる二人の人影があった。サリアとサーシャだった。どうしたのだろうと思っていると、サリアが俺に ごめんね と言って隣にたった。そしてサーシャは、ベクターの前へと進んで行った。


「どうしたんだァ、サーシャ。まさか俺に手加減でも頼みに来たのか?」


「…………さい……」


 ニヤニヤと笑うベクターに向かってサーシャは何か呟いた。だがそれに気が付かず、ベクターはさらに言葉を続けた。


「まァ、お前が俺の女になるってんなら考えてや………」


「もし、ライアーくんが模擬戦に勝ったら、もう私に近づかないで下さい!!」


 ベクターの話を遮るように放った、震えるようなサーシャ言葉に、ベクターは一瞬呆気に取られる。だが直ぐに大声で笑い、サーシャを見下ろしながら言い放った。


「いいぜェ、この俺が負けるわけねェからな、その賭け載ってやるよ!!その代わり、あのクソガキが負けたら俺の女になれよ!!」


「それでいいわ…」


 それだけ返事をすると、サーシャは戻ってきた。そして俺に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい。ライアーを出しに使うような真似をしてしまって。でも、もう耐えられないの…あたしの事を助けてくれそうだったの、ライアーだけだったの…」


 そういうサーシャの肩は震えていた。サリアはそれを慰めるように肩を抱いた。それを聞いて、俺はジャンの言葉を思い出した。


(これが戦場だ。生きるか死ぬかの二択なんだよ。ここでは道徳もクソも無い、生き残ったやつが正しいんだ。)


 生き残ったやつが正しい。それは死なない事だ。


「レニアス、ナイフを一本貸してくれないか。出来れば折れてもいい、頑丈なやつを」


「それはいいが、お前の魔法兵器(マジック・ウェポン)を使わないのか?」


「あんな奴、普通の武器で充分だ。」


 その言葉にレニアスは小さく驚きの表情を浮かべたが、直ぐに一振のダガーナイフを持ってきた。それを手に取り軽く振り、問題ないことを確認すると、サリアとサーシャのほうを向き一言言った。


「じゃあ、勝ってくる。」


 二人とも何か言いたげだったが、気にすることなくベクターのほうに向かった。


「いいのか?そんな弱っちそうなナイフ一本で。」


「本当にうるさいヤツだな、本当にジャイアントベアのほうが静かなんじゃないか?」


「調子に乗りやがってクソガキがァ!!」


 お互いがお互いを挑発しあっていると、準備を終えたレニアスがこちらに声をかけてきた。


「フィールドの準備が整った。位置につけ。」


 そう言われ、向かった先には五十メートル四方程の魔法結界が貼られていた。どうやらこの中で戦うようた。


「これは魔法結界・戦の檻(ウォー・ケージ)だ。どちらかが戦闘不能になるまで解除されない。また、死亡級のダメージが入るとその時点で結界がダメージを肩代わりし、解除される。理解したか?」


「了解」


「問題ねェょ!!」


 二人が同意したと同時に、戦の檻(ウォー・ケージ)が完全に閉じる。そして二人が対面し合うように立つ。


「クソガキ、降参するなら今のうちだぜ。」


「弱いやつほどよく喋るな。」


「ぶっ潰す!!」


「それでは、模擬戦を開始する。」


 レニアスが笛を鳴らしたと同時に、模擬戦が始まった。


「潰れろ!!」


 開始直ぐに動いたのはベクターだった。魔術兵器(マジック・ウェポン)無謀者の槍斧(デスペラード)を振りかぶり思い切り突っ込んできた。直線的だが、速度はそこそこ速い。俺はバックステップで後ろに交わす。刹那、最初に俺が立ってた位置にベクターの無法者の槍斧(デスペラード)が突き刺さる。


ドゴォォォォォォォォォォン!!!!!


 もの凄い爆発音と衝撃、そして砂煙が舞い上がる。砂煙が収まるのを待ちつつ相手の出方を伺っていると、何故かベクターも無法者の槍斧(デスペラード)を肩に担いで待っていた。それは余裕からなのかなんなのか、理解し難い光景だった。


「俺の初撃を避けるとは、ただのクソガキじゃねェな。」


「まさか、たまたまだ。それより、それは爆発の魔法術式を組み込んだ魔術兵器(マジック・ウェポン)だな。」


「御明答。一発で見抜くやつは初めてだ。」


 何故か攻撃してこない。何か作戦なのかとも思い、相手の出方を伺うためにあえて話に乗ってみる。だが、特に構える訳でもなくただ本当に話しているだけだった。そして、俺にとってありえない行動にでる。ベクターが手を広げて来たのだ。


「ほら、お前の番だぞ。」


「…どういうつもりだ。」


 俺の問いかけに、ベクターはニヤリと笑いながら答えた。


「テメェじゃ、俺に届かねぇ。それを見せつけてやるよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は一直線に駆け出した。相手は防ぐ素振りも見せない。ベクターまで後五メートルに差しかかった瞬間、奴の前の地面がせり上がり壁となった。その瞬間俺はその壁を蹴って元来た方へ飛び退いた。刹那、その壁をぶち壊してベクターが突っ込んできた。


「バカ正直に来やがって!!格の違いを見せてやらァ!!」


 こうして、本当の模擬戦が始まったのだった。




 模擬戦が始まり十分が経とうとしていた。あたしとサリアは目の前で行われている戦闘に目を覆いたくなった。戦況はノルド先輩が攻撃の主導権を握っているようで、ライアーは防戦一方。まして、ノルド先輩の魔法でライアーの足元の地形を変化させ、足を取られて転ばせたりしている。見た目はライアーのほうが傷だらけでノルド先輩にはかすり傷一つも無い。

 それを見ていたら、自然と涙が流れてきた。


「サーシャ…」


 サリアが心配そうにあたしの手を握ってくれる。あんなこと頼まなきゃ良かった。今になって後悔が込み上げてくる。食堂で見た時のライアーは凄く強そうに見えて、ライアーならやってくれると信じてしまった。

 だが、実際は見ての通りの戦況だ。そこであたしは、ライアーはまだ十三歳だということを思い出した。


「サリア…やっぱりあたし……」


「サーシャ…」


 諦めよう。諦めて、ノルド先輩に戦闘を止めるようにお願いしよう。そう思い足を踏み出そうとした時。


「大丈夫かしら!?死んだりしてない!?」


 学園長が焦ったようにやってきた。そして戦闘中のライアーとノルド先輩を見て眉間を抑えた。

 やっぱりダメなのかな。そう思った矢先。


「大丈夫です。問題ありません。」


 レニアス先生が答えた。あたしとサリアは驚き、レニアス先生と学園長に詰め寄った。


「大丈夫じゃありません!!ライアーが…ライアーが!!」


「先生、学園長。二人の戦いを止めてください!!じゃないとライアー君が!!」


 あたしとサリアで必死にお願いするが、二人は何故かキョトンとした表情を浮かべ、とんでもないことを言った。


「ごめんね、言葉が足りなくて。私が心配そうしているのはノルドくんの方よ。」


「ライアーは心配いらん。」


 そう答える二人に、今度は私たちが言葉を失う。心配いらないって?一体どういうこと?

 理由を聞こうとした時、レニアス先生が一言呟いた。


「戦況が変わるな。」




「チッ!!クソがァァァァァァ!!」


 そろそろ始まってから十分が経とうと言うところだろうか。先程からベクターの攻撃は地面を変化させる、無法者の槍斧(デスペラード)を振り回す、大地の壁(ガイア・ウォール)の中から岩と一緒に飛び出してくる。この3パターンしか使って来ない。正直言って、これ程とは思ってもいなかった。そう思っていると、一旦こうげきが止んだ。何かと思いベクターを見ると、息切れを起こしていた。


「クソ…クソ、クソが!!一体どうなってやがんだ!!」


 そう叫びながら俺を睨みつけてくる。どうも何も、単純な攻撃しかして来ないから避けられると言うだけの話だ。


「俺は…俺は強ぇんだ…強ぇに決まってんだ!!」


「強くなってどうするんだ。」


 ベクターの一言に、俺は興味を持った。そして問いかけた。俺の問いに、ベクターは睨みつけながら答えた。


「強くなって、俺をバカにした奴らを見返してやる。」


「見返したあと、どうするだ?その強さは。」


「それは…」


 そこでベクターは言葉に詰まる。そこで俺は悟った、ベクター・ノルドには強さを求める絶対的な芯が無いことを。それに気がついた俺は、もうこの戦いに意味が無いと判断した。


「十秒だ。」


「アァ!?」


「十秒でお前を殺す。」


 俺の発言にはベクターだけでなく、見学している生徒、そしてレニアスとリアスまで驚いていた。


「そうかよ…だったら…やってみやがれクソガキィィィィ!!!魔法も使えねェザコのクセによォォォォ!!!」


 叫ぶと同時にベクターは無法者の槍斧(デスペラード)に魔力を込めながら振りかぶり、突進してきた。今までならバックステップや左右に避けていたので、今回もそれで避けるだろうと彼は思っていた。

 だから、今回はあえて向かってくるベクターに突っ込んいった。


「なっ!?」


 驚くベクターだが既に攻撃を放つモーションに入っている。止められる訳が無い。上段から攻撃が迫ってくる。それを俺は、見逃してさらにベクターに肉薄した。残り九秒。

 背後で無法者の槍斧(デスペラード)が地面に当たり、魔法術式の爆発が発動するそれを推進力にさらに家族し、身体を捻り奴の左膝に右足で蹴りを入れる。骨が折れる音がして、彼の体がバランスを失う。残り七秒。

 さらに、蹴りを入れた足を軸に身体を回転させ、左足で無法者の槍斧(デスペラード)を持つ手首を蹴る。また骨の折れる音がして、ベクターの手から無法者の槍斧(デスペラード)が離れる。のこり六秒。

 その瞬間だった。


パリィィィィィィン!!


 甲高い音を発しながら戦の檻(ウォー・ケージ)が解除される。この時点でライアーの勝利だが、俺は止まらない。いや、止めることが出来ない。バランスを失ったベクターの身体に自身の体重をかけ地面に押し倒す。残り五秒。


「待ってくれ!!俺が悪かった!!殺さないでくれ!!」


 ベクターが叫ぶ。しかしライアーは止まらない。押し倒した彼の上でダガーナイフを振りかぶり、喉元に向けて一気に振り下ろす。残り三秒


「ライアー!!」


「ライアー君!!」


 サーシャとサリアの声に、俺はナイフを止めた。見てみると、ナイフの切っ先が少し皮膚を貫いて血が流れている程度で命に別状は無い。それを確認すると、ナイフをベクターから離し、上から退いた。そして言葉をかけた。


「これが人を殺すということだ。そして、強くなる意味だ。」


その瞬間、彼は気絶してしまった。


「勝負あり、勝者ライナー。」


「救護班を呼べ!!回復(ヒール)が使える魔法士もだ!!」


 レニアス先生の試合終了の合図とリアスの掛け声で、俺は試合に勝ったことを知った。

 ナイフを返すためにレニアスのほうに行くと、その前でサーシャとサリアに捕まった。


「凄かったよ…そしてありがとう、ライアー。」


「ライアー君、無事で良かった。」


 二人は泣き顔で声をかけてきた。自分は最後以外ほとんど避けていただけなので、大したこと無いのだが、傍から見れば終始俺が劣勢に見えたようだ。一応二人には大丈夫ということを伝えたのだが、余計泣かれてしまった。

 そんな様子を見ながら、レニアスは生徒たちに向かって話した。


「戦闘において死なないことは相手にとってはかなりの精神的苦痛を伴う。そこから生まれる隙などもある。これを参考にこれからの授業に活かせ。今日はこれで終わりだ。」


 こうして初めての戦闘科目の授業は終わったのだった。




ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー





 夢を見ていた。俺が魔法学園に入学した時の夢だ。

 俺は地元で一番魔力が大きく、魔法もそれなりに扱えた。それで皆にもてはやされ、魔法学園へ入学を決めた。入試もそれなりの得点で合格することが出来、夢と希望に溢れていた。

 だが、現実は甘くはなかった。俺より魔力が強い奴はわんさか居たし、俺より魔法が上手く扱えるやつもたくさんいた。所詮俺は、井の中の蛙だったんだ。悔しくて、悔しくて悔しくて。でも認めたくなくて、俺は道を外れた。魔法士を目指して学園にやってきたのに、結局は魔術兵器(マジック・ウェポン)を振り回す半端者になってしまった。

 情けないと思った。そして、戻りたいと思った。




「んっ…」


 目を覚ますと、そこは学園内の医療施設だった。そこで改めて実感した。


「俺は、あのクソガキに負けたのか…」


 久しぶりに感じた悔しさ。そして不思議なスッキリ感。妙な雰囲気を感じていると、扉が開く音がした。


「誰だァ?」


「ひっ…あの……クレンツェルです……」


「クレンツェル?アァ、サーシャか。」


「えと…はい……」


 予想外の来客に戸惑うベクター。長い沈黙を破るように、ベクターが口を開いた。


「俺、学校辞めるわ。」


「え……」


 突然の事に、混乱している様子のサーシャだが、そんな事に構わずベクターは続けた。


「俺は強ぇとずっと思ってた。魔物どももたくさんぶっ潰した。けどよ、本当に強ぇ奴と戦ったのは初めてだった。正直最後は怖かった。」


 ベクターの脳裏には最後、自分にトドメを刺そうとしてきたライアーの顔がこびりついている。あんなものを見せられたら、これから先どう戦っていいか分からなくなった。それに、俺はこんな半端なことをしている俺を止めてくれるやつを探していたのかもしれないとも思った。それに、


「それに、お前は俺との賭けに勝ったからな。」


 そう言うとサーシャは驚いた顔をこちらに向けてきた。相変わらず綺麗な顔をしてやがるな。


「サーシャ、俺はお前の事が好きだ。」


 二度と見れないと思った瞬間、俺は告白していた。今まで少し気恥ずかしくて出来なかったが、この時ばかりはすんなりと出来た。

 そんな俺とサーシャの間には少しの静寂が訪れる。そして、サーシャが口を開いた。


「ごめんなさい、あたしには好きな人が出来ました。」


 そう言われて、俺は振られた。振られたが、後腐れなく学園をされると思うと、少し胸がスッキリとした気分になった。そう思うと、今になって恥ずかしさが出てきて、俺はベッドに潜り込んだ。

 その様子を見てか、サーシャは何も言わずに出ていこうと扉を開ける。


「今まで悪かったな…」


 小さい声だが、俺は謝った。一瞬サーシャの動きが止まるのを感じただが、彼女は何も言わずに出ていった。ただ、今までのような震える足取りではなかった。





ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー





 学園を出る頃には、もうすっかり辺りは暗くなっていた。


「あのクソジジイめ…」


 今日の模擬戦についてリアスから説教を受けていると、そこに魔法科目のエドガルドが怒鳴り込んできた。なんでも、負傷したベクターの手当で魔法科の教員が駆り出されてあーだこーだと文句を行ってきたのだ。それで結局、俺が悪い事になり反省文を書かされていた。今で反省文というものを書いたことがなかった俺は、四苦八苦しながら書き、気がつけばこんな時間になっていた。

 疲れたから早く帰ろうと思い、学園の門を出ると、


「お疲れ様、ライアー。」


 何故かサーシャに呼び止められた。疲れているのになんて日だ。そう思いながら振り返ると、何時もの強気なサーシャとは違い、何故か赤い顔をして下を向いている。


「何か用か。」


「え!?あ〜、えーっとね…」


 用事を聞いたのに何故か言いにくそうにモジモジとするサーシャ。早く帰りたい。用も無さそうなので踵を返して歩き出すと、サーシャが慌てたようにまた呼び止めた。


「あ!!ちょっと待ってライアー!!」


「だから一体なんのよ……」


 俺が振り返ろうとした瞬間、左の頬に柔らかな感触とサーシャの顔。一瞬固まった俺に、唇を離したサーシャが一言。


「今日はありがと、カッコよかったよ。」


 そう言うと、サーシャは走って帰ってしまった。

 その場に立ちすくむ俺は空を見上げる。そこには傭兵団にいた頃と変わらない星が輝く夜空が広がっていた。それを見ながら俺も一言呟いた。


「俺の手は汚れすぎている。」

ありがとうございました。

新ヒロイン登場&直ぐに落ちたチョロインのサーシャ。(ホントに落ちたか?)

この後どうなるのか作者も分かりません!!

気長にお待ち頂けると幸いです。

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