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56話:友情の力

どうも、眠れぬ森です。

趣味に没頭して更新がめちゃくちゃ遅れてしまい、申し訳ありません。

冬になるまでスローペースでの更新になりますが、ご了承ください。

拙い文書ではありますが、よろしくお願いいたします。

 アイリスとの戦闘が始まってどれくらい経っただろうか。サーシャを前衛にサリアを中衛、俺が後方支援に周り何とか猛攻を凌いでいる。しかし、―隷属の鎖(スレイヴ・チェーン)を付けられたアイリスは疲れを感じさせることも無く、淡々と攻撃を放ってきていた。


「っ!!本当にどうなっているのよ!!」


 アイリスの断罪の双剣(ツイン・リッパー)の攻撃を受けながらサーシャが叫ぶ。その顔には疲労が浮かんできており、掠めて出来た傷も増えてきていた。


「サーシャ、一旦下がれ!サリアはサーシャに回復魔法をかけろ!」


「分かったよ、治癒(ヒール)!!」


 俺は二人にそう叫ぶと、アイリスの眉間に照準を合わせた。そして、サーシャがバックステップで下がるのと同時にシムエスMk.IIの引き金を引いた。


ダァァァァン!!!


 銃口から火を噴き、《加速》の魔法術式で亜音速にまで加速された銃弾がアイリスを襲う。


ギィィィィン!!!!


 しかし、その銃弾は命中すること無くアイリスの斬撃により弾かれてしまった。


「またか……」


 俺はそう呟きながらスコープから目を外した。戦闘が始まってからそうだった。アイリスは人間業とは思えない反射速度で、俺の放つ銃弾に反応してきていた。それも、サーシャと斬り合いをしながらでもやってくる。

 確かにアイリスの戦闘スタイルは速さを軸とした一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)が基本だ。しかし、それを考えてもあの動きは異常だ。


「ライアー君、どうするの?」


「このままじゃ、ジリ貧よ。」


 唇を噛み締めていると、サリアとサーシャが傍に近づいて来た。二人に視線を向けると、サーシャはアイリスとの戦闘で、サリアは魔力を使いすぎで顔色が悪い。


どうする?


 光の無い瞳でこちらを見つめるアイリスを見ながら考えた。

 有利なのは人数だけ。しかし二人とも消耗が激しく、これ以上無理はさせられない。俺の狙撃もアイリスには効く様子が無い。このままではこちらが全滅してしまう。その状況で取れる行動はただ一つだ。


「俺がアイリスの相手をする。その間に二人はリアスとユナを呼んできてくれ。」


「え……」


「ちょ、ライアー!?」


 その言葉に二人は驚きの表情を浮かべる。だが、アイリスを助け出すにはこれが一番の最善策だった。

 俺は二人の肩を叩くと、アイリスに向かって歩き出した。


「そんな、私も援護するよ!!」


「アタシもまだ戦えるわ!!」


 それを見て二人が叫ぶように俺のコートの裾を掴む。後ろを振り向くと、サリアが泣きそうな表情でこちらを見ていた。それはサーシャも同じだった。だが、俺はシムエスMk.IIをしまうと腰から下げていたブラックホークと霧雨を抜き取り、視線を戻しながら言った。


「この状況ではそれが最善だ。それに、俺は二人を信じている。」


「ライアー……」


「ライアー君……」


 俺の言葉に二人はポツリと呟くと、コートから手を離した。そして、駆け出しながら言った。


「直ぐに戻ってくるから!!」


「負けないでよね!!」


 俺は二人が走り出したのを確認すると、アイリスに向かって言った。


「ここからは俺が相手だ。殺す気でかかってこい。」


 そう言いながら武器を構えるのと同時に、アイリスは凄まじい速度で斬りかかってきた。俺はそれを霧雨で受け止める。

 アイリスの魔術兵器(マジック・ウェポン)である断罪の双剣(ツイン・リッパー)には《斬撃》の魔法術式が込められている。それを霧雨の魔法術式、《魔力拡散》で無効化させる。その隙にアイリスの胴体に向けてブラックホークの引き金を引いた。


ガンガンガン!!!


 近距離から発射された弾丸はアイリスへ向かって飛んでいく。しかし、アイリスはその弾丸を身体を捻り交わした。その隙を見て俺は彼女の足を薙ぎ払う用に蹴りを放つが、それさえも切り込んだ断罪の双剣(ツイン・リッパー)を支点に飛び上がりながら躱す。


(まさかここまでやるとは、予想外だ……)


 アイリスの動きに驚きながら、俺は距離を取った。懐に入っても距離を取っても攻撃は届かない。それどころか、こちらがアイリスの反応速度についていけない。まるで魔物を相手に戦っているような緊張感だ。

 だが考えていても仕方が無い。俺は頭を切り替える事にした。


「アイリス、本気で戦うのは初めてだったな。」


「……」


 俺は武器を構えるとアイリスに話しかけた。もちろんアイリスは何も答えない。だが、攻撃してくる様子も無い。そんな彼女に向けて、俺は言葉を続けた。


「お前を助けようと思って戦ってきたが、それはもう止めだ。こっちも殺す気で行くぞ!!」


 そう叫ぶと同時に、俺はアイリスへ向かって駆け出した。それを見てアイリスもこちらへ突っ込んでくる。


(今だ!!)


 霧雨と断罪の双剣(ツイン・リッパー)が交錯する直前、俺は隠していた閃光音響弾(スタングレネード)を目の前に放った。


ギィィィィィィィン!!!!


 激しい閃光と耳を劈く爆音が二人の間に迸るのと同時に、霧雨と断罪の双剣(ツイン・リッパー)がぶつかり合う。起爆の瞬間、俺は腕で視界を覆った。その一瞬で見えたアイリスの顔は驚愕の表情を浮かべていた。そして閃光が止み視界を覆っていた腕を降ろすと、彼女は閃光音響弾(スタングレネード)の影響で視界と聴覚が一時的に無くなっているようで、一瞬動きを止めた。それを俺は見逃さなかった。

 斬り結んでいた断罪の双剣(ツイン・リッパー)を霧雨で弾きあげる。それと同時に腰から短機関銃(サブマシンガン)魔術兵器(マジック・ウェポン)のガーディアンを引き抜くと、彼女に向けて乱射した。


パパパパパンッ!!!


 軽い連射音と共に数十発の弾丸がアイリスを襲う。


「ッ!?」


 突然の攻撃に、断罪の双剣(ツイン・リッパー)をクロスさせて急所を守るアイリスだったが、さすがにこの弾数を全て防ぐことは出来ず、手足に何発か食らい苦悶の表情を浮かべながら膝を着いた。それと同時に、俺はアイリスの額に銃口を突きつけて言った。


「諦めろ、お前の負けだ。」


「……ぁ………」


 閃光音響弾(スタングレネード)の影響で今だ視覚と聴覚が戻りきっていないアイリスだったが、突きつけられた銃口で全てを悟ったのか、小さい声を漏らすと同時に断罪の双剣(ツイン・リッパー)を手から離した。これであとは隷属の鎖(スレイヴ・チェーン)を解除すれば全てが終わる、そう思った時だった。


「アア……アアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


「!?」


 突然アイリスが叫び声を上げるのと同時に、身体から激しい魔力が荒れ狂ったように溢れ出した。


「っ!?一体なんだ!?」


 俺はその場から飛び退くと、アイリスを見て息を飲んだ。そこに居たのはアイリスでは無かった。いや、正確には人型をした魔力の塊が立っていた。


「あれは……」


「ふむ。まさかとは思っていたけど、こうなるとはね。」


 それを呆然と見つめていると、後ろから声がした。振り返ると、そこにはユナが立っていた。そしてその後ろから、サリアとサーシャ、そしてリアスが走ってくるのが見えた。


「ライアー!!」


「ライアー君!!」


 俺の姿を見るなり、サリアとサーシャは俺に飛びついてきた。


「ライアーくん、無事だったのね。」


 二人を抱きとめると、リアスが安堵したように声をかけてきた。しかし、直ぐに視線を人型の魔力に移すと、険しい顔で問いかけてきた。


「ライアーくん、あれは一体なんなのかしら?」

 

「あれはあの《人口呪物(アーティファクト)》によって死んだ者の塊がアイリス君の魔力によって形取った人形さ。」


 リアスの問いかけに答えたのはユナだった。そしてユナは人型魔力を指差しながら続けた。


隷属の鎖(スレイヴ・チェーン)は付けたものを強制的に従わせる力を持っている。だが、その命令を遂行出来なくなった時、その力の本性を表す。」


「本性だと?それはいったいなんだ。」


 ユナの言葉に俺は問いかける。すると、彼女は喉を鳴らして笑った後、静かに答えた。


「命令を遂行する為に強制的に力を引き出す、命を持ってしてもね。」


「そんなっ!!??」


「嘘……」


 そのユナの言葉を聞いて、サリアとサーシャは息を飲むように言葉を漏らした。リアスも、さらに表情を険しいものにしていた。


「……何とかする方法は無いのか?」


 俺はユナに振り返るとそう問いかけた。このままではアイリスの命だけでなく、俺たちも危ないということが本能的に分かった。

 そんな俺を見て、ユナは少し考えた後答えた。


「方法は三つある。一つは隷属の鎖(スレイヴ・チェーン)の持ち主を殺すこと。だがこれは既にリアスが行った。そして残り二つなのだが……」


 そこでユナは一瞬の躊躇いを見せた。そしてため息をつきながら言葉を続けた。


「二つ目は魔力の元凶を殺すことだ。これが一番手っ取り早い。幸いにも、まだあの人形は動ける状態になっていないからねぇ。」


 その言葉に俺たちは絶句した。助ける為にここまで来たのに、自分の手で殺す可能性がある。その事実に、サリアとサーシャと共に言葉を失った。

 しかし、ユナはそんな俺たちを見ながら言った。


「話しを最後まで聞きたまえ。まだ三つ目の方法がある。」


「それは一体なんだ!!」


 俺はユナに詰め寄りながら問いかけた。俺だけでなく、サリアとサーシャが近づいてきた。そんな俺たちを一瞥すると、ユナはニヤリと笑いながら言った。


「直接アイリス君に声を届けて、《人口呪物(アーティファクト)》から解放してあげるのさ。ただ、これは成功する確率は相当低い。さて、君たちはどれを選ぶんだい?」


 ユナの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。二人の瞳を見ると、既に答えは決まっているようだった。サリアとサーシャと共に頷くと、俺はユナに言った。


「直接、アイリスに声をかける。」


 その言葉に、ユナはサリアとサーシャのそれぞれを見て問いかけた。


「さっきも言ったけど、成功する確率はかなり低い。」


「それでも、ゼロでないなら私はやります。」


 ユナの言葉に、サリアが答える。


「最悪、死んでしまう。」


「それでも、アタシはやります。」


 ユナの言葉に、サーシャが答える。

 最後に俺を見て、無言で問いかけてきた。それに対して、俺は無言で頷く。それを見て、ユナはため息をつくと、リアスに声をかけた。


「あの人形は私が抑えよう。リアス君は三人に強力な魔力壁は張ってくれたまえ。」


「分かりました、反魔法(アンチマジック・)防壁(ガード)。」


 ユナはそう言うと、リアスが俺たちに魔力壁を展開させた。それと同時に、ユナは人型魔力の頭上に巨大な魔法陣を展開させた。すると、人型だった魔力の形が崩れ、内側からアイリスが姿を現した。


「さあ、行きたまえ。」


 その言葉に、俺たちはアイリスの元へと歩みを進めて行った。

 アイリスに近づくと、光の無い瞳をこちらを向けており、周りの魔力は俺たちを飲み込もうと暴れ狂っていた。そんな中、最初に言葉をかけたのはサリアだった。


「アイリス、もう終わったよ?だから、私たちと帰ろう?」


 そう言いながら、サリアはアイリスを抱きしめた。


「サリ…ア……」


 すると、今まで一言も喋らなかったアイリスがサリアの名前を呼んだ。それに続くように、今度はサーシャが言葉をかけた。


「いつまでそうしているのよ。さっさと帰るわよ。」


 いつもの口調だが、優しさに溢れた言葉をかけながらサリアと反対側からアイリスを抱きしめる。


「サー…シャ……」


 サーシャに抱きしめられるのと同時に、アイリスの瞳に光が戻る。

 最後に俺が、アイリスに手を差し伸べながら言った。


「帰るぞ、アイリス。」


パキャァァァァァン!!!


 その瞬間、アイリスの首にかけられていた鎖がはじけ飛んだ。それと同時に、アイリスに纏わりついていた魔力が霧散した。そして、アイリスは差し伸べた俺の手を取り答えた。


「ライアー、サリア、サーシャ、ごめんね。それと、ただいま。」


「アイリス!!」


「戻ってくるのが遅いのよ!!」


 いつもの口調に戻ったアイリスを、サリアとサーシャは涙を流して抱きしめた。それを見ながら、俺はほんの少しだけ口角を上げて言葉をかけた。


「ああ、本当に遅かったな。それとおかえり。」


「うん…うん。ただいま。」


 その言葉にアイリスは涙を流しながら答えると、二人に抱きつかれたまま俺に抱きついてきた。


「まさか、本当に成功させるとはねぇ。」


 そうしていると、後ろからユナが近づいてきて俺に声をかけてきた。口調は変わらないが、そこには安堵が含まれていた。


「世話になった、礼を言う。」


「いやいや、私こそ良いデータが取れたからねぇ。礼には及ばないさ。さて、これで全部終わったようだし、私は帰るとするよ。」


 そんなユナに頭を下げると、彼女は喉を鳴らして笑いながら答えた。そして指を鳴らすと、空中降りてきたドラゴンの背に乗った。その後ろ姿を見ながら、俺は再び声をかけた。


「本当に世話になった。いつかまた会えた時、必ず礼はする。」


「それは楽しみだ。それに、そう近くない内に会えるさ。」


 そう言うと、羽ばたきながら上昇するドラゴンの背に乗ったユナはそう言うと、空の彼方へと飛び去って行った。




 俺たちがユナの姿が見えなくなるまで見ていると、リアスが近づいてきて声をかけてきた。


「ライアーくん、本当にお疲れ様。」


「大丈夫だ、無事にアイリスも取り戻せた。」


「それもそうね。それじゃあ、私はエルハルトに報告に行ってくるわ。ライアーくんたちも落ち着いたら戻ってきなさいね。」


 俺の言葉にリアスは頷くと、踵を返して歩いていった。そして、未だ俺に抱きついている三人に声をかけた。


「そろそろ俺たちも戻ろう。」


「そうだね、私たちも早く帰ろう!」


「ええ、行きましょう!」


「ん。」


 サリアの声に続いて、サーシャとアイリスも返事をすると歩き始めた。それに続いて足を踏み出そうとした時だった。


「……え?」


 背中から胸へと軽い衝撃を感じて足を止めた。そして視線を下へ向ける。すると、俺の胸からはそこにあるはずのない物が飛び出していた。それは細く長い、血に濡れたナイフの切っ先だった。そのナイフは確実に俺の心臓を貫いていた。

 急激に頭から血の気が引いていき、全身が痺れる感覚と共に俺は地面に倒れた。


「―――――、―――――――!!」


「――!!――――――、―――――!!」


「―――、―――――――……」


 誰かの声が遠くで聞こえる。しかし、それが誰か分からないまま、俺の意識は闇に沈んで行った。

ありがとうございました。

次回は月末に投稿出来たらいいなと思っている次第です。

お時間がありましたら、次回もよろしくお願いいたします。

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