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55話:隷属のアイリス

どうも、眠れぬ森です。

先月は痛風とコロナで全く筆が進まず更新が遅くなりました。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

 ドルドの魔法士をエルハルトたちに任せた俺は、突然現れた見知らぬエルフと共にドラゴンの背に乗り、マルクが向かったと思われるザルバの中心部の街へと飛んでいた。


「ユナ様、先程はありがとうございました。」


 一緒に乗っていたリアスは、ドラゴンの背に備え付けられた椅子に座り、何処からか取り出したコーヒーカップでコーヒーを飲んでいたエルフに頭を下げた。

 それを見て俺の背後に座っていたサリアとサーシャは驚きの声を上げた。

 それもそのはず、リアスはセリエス王国でもひと握りしか居ない特級魔法士である。そんなリアスが頭を下げる人物だ、ただ者ではないだろう。


「お前は一体何者だ?」


 俺は頭を下げるリアスを横目で見て頷くエルフにそう問いかけた。すると、そのエルフはこちらを見ながら面倒くさそうにため息を吐くと答えた。


「私はユナ・マクスヴェルだ。しがない魔術兵器(マジック・ウェポン)の研究者さ。」


「え?うそ!?」


「そんな!?」


 ユナの答えにサリアとサーシャはまたしても驚きの声を上げる。その様子に首を傾げていると、リアスは俺の耳元に囁いてきた。


「彼女は、ユナ・マクスヴェル様は魔法研の統括責任者にして、魔術兵器(マジック・ウェポン)を実用化まで持って行ったお方なのよ。」


魔術兵器(マジック・ウェポン)の基礎だと?」


 それを聞いて、俺はさらに首を傾げた。何しろ、魔術兵器(マジック・ウェポン)が本格的に使われるようになったのは約百年前からだ。その礎を築いた者が何故今ここにと、疑問が浮かんだ。そして、それよりも気になっていることが一つあった。


「それより、お前は今何歳なんだ?」


 俺がユナにそう問いかけると、リアスの顔が青ざめていくのが見えた。サリアとサーシャのほうを見ると、彼女たちも口を開けて顔面蒼白になっていた。

 しかしそんな彼女たちとは対照的に、ユナは笑いながら答えた。


「ハッハッハッハ!!私に向かってそんな質問が出来るとは、なかなか面白いねぇ。」


「ユ、ユナ様!も、申し訳ございません!!」


 ユナの言葉に、何故かリアスが凄い勢いで頭を下げて謝った。だがユナはそんなリアスを窘めると、持っていたコーヒーカップ何処かにしまいながら椅子を降りると、白衣を翻して俺に近づいてきた。そして目の前に経つと、その翡翠色の瞳で俺を見つめながらニヤリと口を歪めて言った。


「ライアー君、本来ならば女性に年齢を聞くのはご法度だ。しかし、君の問いかけには答えてあげよう。だけど、それはアイリス君を助けてからにしてくれたまえ。」


 その言った瞬間、ユナの足元に魔法陣が現れた。


「な、なに!?」


「なによこれ!?」


 突然の事に慌てて声を上げるサリアとサーシャは、俺のコートにしがみついてきた。そんな俺たちを見て、ユナはさらに指先で魔法陣を書きながら言った。


「さぁ、目的の場所に到着だ。是非とも、君たちの力を私に見せてくれたまえ!!」


「一体どういう――――――」


 ユナに詰め寄ろうとする俺だったが、それよりも早く足元の魔法陣が輝きだし俺たちの視界を覆った。

 突然の事に目を瞑ると、一瞬の浮遊感の後、地面に足が着く感触がした。それはあのドラゴンの背中では無い、よく知る地面の感覚だった。


「なんだ、一体……」


 眩んだ目が慣れてくるのを待ち、視界が開けてきたのを確認して周りを見渡す。すると、そこは先程まで乗っていたドラゴンの背中ではなく地上であった。そして周りには破壊し尽くされた建物やひび割れた石畳、そしてザルバの人々の遺体だけの光景が広がっていた。


「ここは何処だ……」


「ここは…ザルバの中心街だよ……」


 俺がポツリと呟くと、それにサリアが反応して答えた。そしてサリアは近くに横たわっていた兵士に近づくと、見開いたまま事切れていたその兵士の目をそっと閉ざした。


「これが戦場なのね……」


 その姿に悲痛の表情を浮かべながらサーシャが呟いた。

 幼い頃から戦場に立っていた俺にとって、慣れたくなくても見慣れてしまった光景だが、そうでは無い二人にとっては凄惨な現場であることは明らかだった。

 

「大丈夫か?」


 俺は二人に向けてそう問いかけた。ここで心が折れるようであれば、アイリスを助けるどころかこの先俺とパーティーを組むことも難しいだろう。そんな意味も込めてそう言った。

 するとサリアは目を閉じた兵士の傍を離れると、俺に近づいてきた。そして真っ直ぐと俺の目を見つめるながら言った。


「覚悟はとっくに出来てるよ。」


「あたしも、生半可な気持ちで来たわけじゃないわ。」


 サリアに続くように、サーシャも俺を見つめながら言った。俺はその目を黙って見つめ返したが、それでも二人は視線を外さなかった。


「分かった、大丈夫なようだな。」


 そんな二人の目を見て、俺はふぅと息を吐いて緊張を解いた。その時だった、俺の耳元にユナの声が響いてきた。


《やぁやぁ、いきなり飛ばしてすまなかったねぇ。》


「ユナっ!?これはどういう状況だ!?」


 突然の事に辺りを見渡しながら問いかける。サリアとサーシャも、俺と同じようにユナの声が聞こえてきたのか、少し焦りながらも周囲を見渡していた。

 しかしそんな俺たちを無視するかのように、ユナはくぐもった声で話し続けた。


《これはまだ未完成でねぇ、君たちの声はこちらには届かないんだよ。だから簡潔に言おう、君たちを飛ばした近くにアイリス君が居るはずだ。》


「え!?それは本当ですか!?」


 ユナの言葉にサーシャが少し取り乱したように聞き返す。しかし、やはりこちらの声は聞こえていないようで、ユナは淡々と話を続けた。


《アイリス君は付けられた《人口呪物(アーティファクト)》の効果で君たちと必ず戦闘になる。そこで一つアドバイスだ、アイリス君を傷付けることを躊躇わないように。それじゃ、健闘を祈っているよ。》


「ユナ様、どういう事でしょうか!?ユナ様!!」


 サリアの必死の問いかけにも関わらず、ユナの声はそれ以降聞こえなくなってしまった。それはサーシャも同じようで、心配そうな目で俺を見てきた。

 俺はユナの言葉の通り、近くにアイリスが居ないか見回した。しかし、そこには瓦礫と化した街並みが広がるだけであった。


「サリア、サーシャ、全方位警戒だ。サリアは俺の右後ろ、サーシャは左後ろだ。」


 ブラックホークとガーディアンを取り出しながら言うと、二人は自分の武器を構えて頷いて配置に着いた。そして辺りを警戒する。

 しんと静まり返ったザルバの中心街には、埃と血の臭いが風に乗って漂ってくる。そんな中、俺は耳をすまして音を聞いていた。アイリスの攻撃は、死角からの機動力を活かした一撃離脱(ヒット&アウェイ)だ。それに加えて気配を消すことも得意である。その為、視覚よりも音で探すほうが理にかなっている。


(何処だ、アイリス。)


 聴覚を研ぎ澄ませ辺りを探る、その時だった。俺の左後ろにある瓦礫のほうからカランと小さい音が聞こえた。俺はそれを聞き逃さなかった。


「サーシャ、来るぞ!!!!」


 振り返る間もなくサーシャに叫んだ。すると、サーシャが居る左後ろから激しい鍔迫り合いの音が聞こえてきた。振り返ると、そこではサーシャとアイリスが刃を交えている姿が目に飛び込んできた。

 俺はすかさずサーシャの背後からアイリスの肩に向けて、魔力を込めながらブラックホークの引き金を引いた。


ガァァァァン!!!!


 発砲音と共に銃弾がアイリスに向かって飛んでいく。通常であれば必中の距離だ。しかし、アイリスは違った。


「くっ!?」


 俺が発砲したのと同時に、サーシャの腹を足場に身を捻った。そしてそのまま後ろに飛ぶと、着地してこちらを見つめてきた。その瞳は虚ろで、俺たちの知るアイリスとは別人の様だった。


「サーシャ、大丈夫!?」


「これくらい平気よ。」


 腹を蹴られて膝を着いたサーシャを守るように、サリアが前に出ながら問いかける。サーシャもあまりダメージは無いようで、直ぐに立ち上がるとアイリスに向けて剣を構えた。

 俺もブラックホークとガーディアンを構えつつ二人の横に立つと、アイリスに声をかけた。


「アイリス、久しぶりだな。元気だったか?」


「……」


 アイリスは俺の問いかけに答えず、ただ黙ってこちらを見つめていた。その様子に、サリアとサーシャも声をかけた。


「アイリス、私サリアだよ?分かる?」


「まさかあたしの事を忘れたなんて言わないでしょうね。」


「……っ。」


 すると、二人の問いかけにアイリスの瞳が一瞬揺らぐのが見えた。サリアとサーシャにもそれが見えたようで、二人は再び声をかけた。


「「アイリス!!」」


「……っ!!」


 その瞬間、アイリスが苦しそうに顔を歪める。しかしそれもつかの間、首にかけられた《隷属の鎖(スレイヴ・チェーン)》が鈍く輝くと、アイリスの瞳は再び光を失い、断罪の双剣(ツイン・リッパー)を構えた。


「アイリス…」


 それを見て悲しそうな顔で呟くサリアと悔しそうな顔をするサーシャに、俺は小さい声で言った。


「恐らく、アイリスを助ける為には俺よりお前たち二人が重要だ。だから今回は二人で戦え、俺はサポートに回る。」


「ライアー君……」


「ライアー……」


 そんな俺の言葉に、心配そうにこちらを見る二人。だが、俺は真剣な眼差しで頷くと、ニヤリと笑いながら言った。


「アイリスを助けるぞ。」


 その言葉を聞いて、サリアとサーシャは笑いながら頷くと、一歩前に出て武器を構えながらアイリスに向かって叫んだ。


「アイリス!!今日の相手はあたしたちよ!!」


「負けてあげるつもりは無いから、全力でかかって来て!!」


 それを聞くと、俺はブラックホークとガーディアンをしまい、シムエスMK.IIを取り出しながら後ろに下がった。それと同時にアイリスが突っ込んで来るのが見えた。

 今ここに、俺たちVSアイリスの戦いの火蓋が切って落とされた。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






 ライアーくん達が転移させられた後、私とユナ様はとある場所に降り立っていた。そこはザルバの中心街から少し奥に進んだ所にある辺境伯の屋敷だった。全てが破壊されたザルバだったが、この屋敷だけは原型を留めていた。


「ユナ様、もしかして……」


「あぁ、ここにキミが探している人物が居るようだねぇ。」


 その言葉に、私は無意識に拳を強く握りしめていた。それを見ていたユナ様は、少し笑いながら問いかけてきた。


「手を貸すかい?」


「いいえ、必要ありません。」


 その問いに答えると、ドラゴンの背中から降りて屋敷へと向かって歩き出した。

 屋敷の扉の前まで来た私は、一つ深呼吸をして扉に手をかけて中のホールへと入った。屋敷の中は外観によらず荒らされており、所々に辺境伯に仕えていた者と思われる人の死体が転がっていた。そのどれもが恐怖と苦痛に歪んだ顔をして亡くなっていた。


「酷い……」


「本当に酷いわなぁ。」


 私が呟くと同時に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声の方向に視線を向けると、ホールの二階へ続く階段の上でニヤニヤと笑いながらマルクが立っていた。

 私は溢れ出る怒りの衝動を押さえ込みながら問いかけた。


「マルク先生、いやマルク・ノックス。あなたは何故このような事をしたのかしら?」


 すると、マルクはさも当然のように答えた。


「何でって、僕の技術を世界に認めて貰う為や。ま、アンタの様な天才様には僕の様な凡人の考えは分からへんと思うけどな。」


 その言葉に私の中で何かが切れる音が聞こえた。それと同時に私の体から魔力が滲み出て、周りの空気を凍らせてダイヤモンドダストが舞った。

 私はマルクを睨みつけると、静かに言った。


「今まであなたの本性を見抜けなかったのは、私の責任だわ。だから、あなたは私が手を下す。」


 その言葉にマルクはニヤリと笑い、懐から指輪を取り出すと自分の指に嵌めながら言った。


「それは叶わへんで。何故ならこっちには《人口呪物(アーティファクト)》があるんやからなぁ!!!」


 その瞬間、マルクは膨大な寮の魔力を放出すると、頭上に巨大な雷球を作り出した。


「魔力を底上げして作った雷の(ライトニング・)爆弾(ボンバー)や!!!」


 そう叫ぶと巨大な雷球が屋敷の中を破壊しながら迫ってきた。マルクは動かない私を見て笑っていた。それを見ながら、私は一言呟いた。


「……地獄の氷結空間(コキュートス)。」


 その瞬間、全てが氷に包まれた。屋敷だけでなく、私に向かって飛んできていた雷球すらも氷に包まれ静止していた。


「な、なんでや……僕は《人口呪物(アーティファクト)》で特級魔法士並の魔力になってるはずや……」


 その光景を見て、マルクは唖然としていた。しかし、私にとっては当たり前の光景だった。


「マルク、あなたが使った魔法は雷の(ライトニング・)爆弾(ボンバー)。それ自体は上級魔法に分類される強力な魔法だわ。でも、何か一つ忘れて無いかしら?」


「ま、まさか……特級魔法!?」


 私の問いかけにマルクはハッとした表情で答えた。私はマルクに冷たい視線を向けながら話を続けた。


「そう、この魔法は特級魔法の地獄の氷結空間(コキュートス)。全てを、魔法すら凍らせる魔法よ。」


「な、なんやて……」


 その言葉を聞いて呆然とするマルクに、私はもう一つ魔法を唱えた。


永久(エターナル・)凍土(ブリザード)。」


 その魔法を唱えた瞬間、マルクの体が足先から分厚い氷に覆われ始めた。


「な、なんやこれぇ!?嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!!僕がこんなとこで負ける訳あらへん!!!」


 そう叫びながらマルクは凍っていく体に向かってがむしゃらに雷撃を浴びせ続けた。だが、その氷には傷一つ付かず、徐々にマルクの体を蝕んで行った。

 それを見て、私はマルクに言った。


「その魔法は特級魔法の永久(エターナル・)凍土(ブリザード)よ。壊すには術者を倒すか、特級魔法をぶつけなきゃ無理よ。」


「そんな……こんな……こんな所で終わりになん――――」


 私の言葉に絶望の表情を浮かべながら氷に覆われて行った。それを見届けると、私は氷結の(ブリザード・)投槍(ジャベリン)を発動させながら氷漬けのマルクに言った。


「あまり《氷結の魔女》を舐めないで欲しいわ。」


 その言葉と同時に撃ち込まれた氷結の(ブリザード・)投槍(ジャベリン)により、マルクはダイヤモンドダストとなり消えていった。




「いやはや、流石は《氷結の魔女》。やることがえげつないねぇ。」


「流石にもう名乗る事は無いと思っていましたが……」


 マルクを倒した私が屋敷を出ると、ユナ様が手を叩きながらニヤニヤと笑い言ってきた。その言葉に苦笑いを浮かべながら答えると、直ぐにユナ様を見つめて問いかけた。


「それよりも、ライアーくん達は大丈夫でしょうか?」


「そんなに心配かい?」


 私の問いかけにドラゴンの鼻面を撫でながら聞き返して来た。確かに、ライアーくんたちならばアイリスちゃんに負ける事は無いとは思う。しかし、魔法学園の生徒として、無事に帰るまでは気が抜けない。


「あの子達は私の学園の生徒ですから。」


 私はユナ様を見つめながら答えた。すると、クククッと喉で笑ったユナ様は答えた。


「実は私も気になっていることがあってねぇ。様子見をしに行くつもりだったんだけど、着いてくるかい?」


「っ!?お願いします!!」


「分かった、では乗りたまえ。」


 私はユナ様の提案を受け入れると、ドラゴンの背に乗りライアーくん達の所へ向かうのであった。

ありがとうございました。

次回、アイリス戦完結の予定です。

またお時間があれば、よろしくお願いいたします。

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