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54話:ドルド攻防戦③

どうも、眠れぬ森です。

痛風でまだ動けないので早めの更新です。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

 ライアーたちがマルクを追いかけ飛び去った後、俺たちは陥落したザルバに残りドルド軍との戦闘を始めていた。

 ユナ様のドラゴンが放った光線によりドルド軍の敵兵は半分にまで減っていた。しかし、それでも向こうは屍人(グール)もどきを合わせても千人以上、こちらはエリザベート様とクライン様の私兵を入れても三百人弱だ。

 三倍以上の戦力差に流石の俺も厳しい戦いになると思っていた。しかし、その予想は覆されていた。


「右翼班、魔法防壁を展開して下さい!」


「左翼班、少し前に出すぎだよ。陣形を維持しつつ中央班と右翼班に合わせて!!」


 カインとクライン様が的確に部隊を指示していくおかげで確実に敵を包囲し始めていた。そして何より驚いたのがエリザベート様の存在するだった。


「我らセリエス王国に仕えし魔法士よ!!敵の数が何だ、気高く進めぇぇぇぇ!!!!」


「「「「「オォォォォォォォ!!!!!」」」」」


 後方で剣を掲げながら叫ぶエリザベート様の声により、セリエス王国の魔法士部隊の士気はどんどんと上がっていた。更には、士気だけでなくこちら側の魔力が少しだが増しているのを感じた。

 魔力量が乏しく魔法が苦手と言われているエリザベート様であったが、それゆえに身につけたのがこの戦い方であろう。彼女が持つ剣に刻まれた魔法術式《言魂》は使用者の言葉を魔力に乗せて周りに影響を及ぼす。普通ならば霧払いや雨避け等に使われる魔法術式だが、彼女はそれを味方の士気向上という使い方で戦っていた。


「連れていくのに難色を示した俺を殴りたいな。」


 そう呟きながら真正面に対峙したバランを睨みつけると魔法を放った。


岩石爆撃(ロック・ボンバー)


 足元の地面が盛り上がると、そこから何百という岩石が弧を描いてバランヘ向かって飛んでいく。

 しかし、バランはそれを見ると両手をクロスさせて魔法を使った。


精神掌握の(マインド・)人形(パペット)


 すると、彼の周りに控えていた何体かの屍人(グール)もどきが彼を守るように積み重なると、エルハルトの魔法から守った。

 その光景を俺は眉をしかめながら見る。

 先程からこのように、バランは自ら手を出すので無く屍人(グール)もどきを使い戦っている。今のように屍人(グール)もどきを使って守る事もあれば、逆に操るようにして攻撃にも使ってくる。


「思っていたよりやるな。だが、そんな戦い方でいつまで持つと思っているんだ。」


 俺は積み重なった岩石と屍人(グール)もどきの下から出てくるバランに向かってそう言った。

 彼が攻撃や防御をする度に周りに居る屍人(グール)もどきの数は減ってきている。だが、それでもバランは余裕の表情で答えた。


「それがどうしたんや。」


「分からんのか?数で勝っているとはいえ、そのまま戦い続ければ消耗していくのが目に見えているだろう。」


 俺はそう言うと、バランの周りに倒れている屍人(グール)もどきやユナ様のドラゴンの攻撃で死んだドルド軍の兵士を見る。

 恐らくバランという男は闇魔法、それも精神干渉系統に長けているのだろう。その証拠に彼が操っているのは自我を保ったまま理性を失った屍人(グール)もどきだけだ。


「お前の使う魔法はもう分かっている。精神干渉系の闇魔法だろう?」


「なんや、そこまで分かったんか。」


 俺の言葉にバランは淡々と答えた。そして、周りを見渡しながら倒れている屍人(グール)もどきやドルド軍の魔法士たちに魔法陣を展開させながらニヤリと笑うと言った。


「でも、これの存在を忘れとらんか?」


 すると、バランの指にはめられた指輪が怪しい光を放ち始めた。

 それを見て俺はハッとした。そう、それはマルクによって作られた《人口呪物(アーティファクト)》であった。俺はすかさずバランに向かって魔法を放った。


岩石爆撃(ロック・ボンバー)!!」


 先程と同じように大量の岩石がバランに向かって飛んでいく。しかし、バランは避けることなく魔法を発動した。


死体掌握(ネクロマンス・)人形(パペット)


 その瞬間、バランの周りに転がっていた死体が立ち上がった。そしてバランの周りに魔法防壁を張った。


「なっ……」


 その光景に俺は驚愕の表情を浮かべた。そしてもうもうと立ち込める砂埃の中から出てきたバランを見て言葉を失った。

 バランが使ったのは闇魔法でも最高位と言われる魔法、死体にまで鑑賞する死体掌握(ネクロマンス・)人形(パペット)だ。しかし、人の生死問わず体をコントロールする魔法は一級魔法士くらいでは扱えない、それこそ特級魔法士クラスでないと扱えない代物だ。それをバランは造作もなく使ったのだ。


「どうや、これがマルクさんから頂いた指輪の力や。」


 そう言うと、バランは再び魔法陣を死体に展開させた。すると、起き上がっていた三十体近い数の死体が一斉に魔法陣を展開して魔法を放ってきた。


「ぬぅ……!!」


 火・水・風といった様々な魔法がエルハルトを襲う。それはまさに天変地異と言っても過言では無い様子であった。





「王国の魔法師団長とはこんなものなんやな…」


 バランはそれを見て静かに目を閉じて背を向けながら呟いた。そして死体に再び魔法陣を展開させ、自分の後ろを着いてくるように命令した、その時だった。


「何処に行くつもりだ?」


「!?」


 後ろから聞こえてきた声に驚きながら振り返った。するとそこには傷一つ負わずにその場に立つエルハルトの姿があった。


「冗談やろ……」


 その姿にエルハルトは冷や汗を流しながら呟いた。それもそのはず、一級魔法士クラスの攻撃をあれだけ食らってなお立ち続けている。いや、それどころかダメージすら負っていない。

 バランはその衝撃ゆえ動くのが遅れた。それを見計らったようにエルハルトは魔力を拳に貯めながら突撃して行った。


「しまっ!?」


 それを見てバランは急いで死体に魔法陣を展開した。しかし時すでに遅し、エルハルトはバランの懐まで潜り込んでいた。


「終わりだ。」


 エルハルトはそう呟くと、拳に込めた魔力を魔法に変換してバランに突き出した。


大地衝撃打(ガイア・インパクト)


ズドォォォォォォォン!!!!!!


「がっ……!!!!!」


 大地を揺るがす程の衝撃の拳打がバランの腹を貫いた。それを受けてバランは口から血を吐いて膝を着いた。


「ど、どうじで……」


 血反吐を吐きながらバランはエルハルトに問いかけた。それを聞いてエルハルトは静かに呟いた。


「俺は特級魔法士でセリエス王国魔法士団長だ、これくらいの攻撃を防ぐ手立てはいくらでもある。」


 その言葉と共にエルハルトはバランを貫いていた拳をゆっくりと引き抜いた。刹那、傷口から大量の血が吹き出した。それと同時に死体に展開されていた魔法陣が消え、人形とかしていたモノが再び死体へと戻った。

 それを確認したエルハルトは踵を返そうとした時、バランが問いかけてきた。


「名を…名を教えて…くれへんか……」


 細く小さな声だったが、エルハルトにはハッキリと聞こえた。その問いにエルハルトは再びバランに向き直り膝を着き、視線を合わせながら答えた。


「セリエス王国魔法士団団長、エルハルト・ジェスターだ。」


「そう…か……―――――」


 その言葉にバランは頷くと、静かに目を閉じると同時に、指輪が砕け散った。

 エルハルトはそれを確認すると、もう一方の敵と戦うジェームスの方を見て呟いた。


「あちらは大丈夫だろうか。」






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー







「ヒャッハー!!遅い、遅いで!!」


 時間を戻しエルハルトとバランが戦っている時、ジェームスとギギも戦闘をしていた。しかし、エルハルトとバランの戦いと違い、こちらはギギがジェームスを圧倒していた。

 それもそのはず、ギギは初めから《人口呪物(アーティファクト)》を使い魔力を最大限に高めて戦っていたのだ。


「くっ……!!」


 ギギは自身の風魔法を使い速度を上げて死角に入ると、魔法を放って攻撃していた。それに対してジェームスは魔力壁による防戦一方の戦いとなっていた。


「なんやねん。あんだけ大口叩いとった割には、俺っちの攻撃を防ぐのに精一杯じゃねぇか!!」


「……」


 攻撃を繰り出しながらギギはジェームスにそう叫ぶ。しかし、ジェームスはそれに答えず淡々とギギの攻撃を防いでいた。

 それに対してギギは愉悦に浸っていた。元々嗜虐性で攻撃的な性格であるギギは、自分の攻撃に手も足も出ないジェームスをあえて殺さないように甚振りながら魔法を放っていた。

 傷を負うが致命傷にならない、それで相手が段々と弱っていくのを見るのがたまらなく好きだった。


(あぁ、良いぜェ……この感覚、最高やァ!!)


 そう思いながらギギは《人口呪物(アーティファクト)》によって限界以上に高められた魔力に酔いしれていた。その為、自身の周りに居た仲間に獲物を取られたく無いと思い全ての仲間をセリエス王国魔法士団に回しており、ジェームスとはタイマンの形を取っていた。

 そんな攻撃をしていると、ついにジェームスが膝を着いた。それを見てギギはニヤリと笑うと、攻撃の手を止めてジェームスに話しかけた。


「どうや、一方的に嬲られる気分は。圧倒的な力の差を前にした気分はよォ!!!」


 ジェームスは自分よりも弱い。そう思いながらギギは笑い叫んだ。しかし、ジェームスはゆっくりと立ち上がると静かに言った。


「こんなもんか。」


「……アァ?」


 ジェームスの言葉にギギは笑うのを辞めてジェームスを睨みつけた。しかし、ジェームスはその視線を真っ直ぐに見つめ返すと答えた。


「こんなもんかって言ったんだよ。オレの知ってる奴は、実力でもっと酷い魔法を打ち込んでくるもんでね。」


 ジェームスにとってその言葉は事実であり、特に意味は無いものであった。しかし、ギギには違った。ジェームスが放った言葉は強さを得たギギを見下したように聞こえたのだ。


「テメェ……後悔しても知らへんで!!!!」


 ギギはそう叫ぶと、頭上に魔法陣を展開した。そして、そこにありったけの魔力をつぎ込んで魔法を放った。


「食らいやがれ、爆風の断罪(ダウンバースト)!!!!」


 その瞬間、空から強烈な爆風が落ちてきた。それは地面に当たると周囲を巻き込んだ暴風へと代わり、全てを吹き飛ばした。それはジェームスだけでなく、近くで戦っていたドルドやセリエス王国の魔法士をも巻き込んだものだった。そして暴風が止むと、そこには全てが凍った世界が広がっていた。

 ギギは氷漬けになったジェームスを見ると、笑いながら叫んだ。


「ヒハハハハハ!!俺っちを見下すからそんな事になるんや!!ヒャハハハハハ!!!」


 ギギは笑い続ける。しかし、再びジェームスに視線を戻した時、その笑いが止まることになった。

 視線を戻した先に居る氷漬けになったジェームスの表面にヒビが入っていくのが見えた。


「な、なんや……」


 そう呟くギギだったが、みるみるとそのヒビは広がっていき、ついには氷が砕け散った。そしてそこから何事も無かったかのようにジェームスが出てきた。


「はぁ、寒かった。」


「な、なんでや、テメェは確かに氷漬けになったはずじゃ……」


 ため息をつくジェームスに驚愕の表情を向けるギギに、ジェームスは答えた。


「確かに氷漬けにされたよ。だけどそれは表面だけで、オレと氷の間には炎の膜を張ったのさ。」


 胡散臭そうな笑みを浮かべながらそう答えるジェームスに、ギギは一瞬恐怖を覚えた。しかし、直ぐにそれを否定する。炎を纏うなど、普通に考えればありえない事だ。それに氷漬けになった時、中に居たジェームスの周りには赤い炎など見えなかった。


「そんなハッタリに引っかかる俺っちじゃねェぜ!!」


 ギギはそう叫ぶと、再び暴風の断罪(ダウンバースト)を放つために魔法陣を展開した。そして魔力を流したその時だった。


「ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然全身の血管が燃えるように熱くなり、口や鼻から血が吹き出した。その激痛に意味が分からずに魔法を中断してその場に膝を着いた。


「なんや…なんやこれ……」


「魔力暴走だね。」


 ブルブルと震えながら痛みが引くのを待っていると、ジェームスが答えた。


 魔力暴走


 それは体内の魔力が何らかの原因で暴走し、人体にダメージを与える現象だ。

 通常、魔力暴走が起きるのは非常にまれなケースで、ライアーのような先天性魔力制御疾患や魔力を生み出す心臓がダメージを負った際に発現する。


「なんでや…なんで俺っちが……」


 ギギには意味が分からなかった。ギギは先天性魔力制御疾患でもなければ心臓に傷がある訳では無い。魔力暴走する原因がどこにも無いのだ。しかし、ギギは現に魔力暴走を起こした。

 すると、ジェームスが剣を抜きながらギギへと歩み寄って来て言った。


「思い当たる原因があるとすれば、自分の魔力量を超える魔力を使ったせいかな?」


 その言葉にギギはハッとして自分の指に嵌められている指輪に視線を落とした。それは魔力量を強制的に引き上げる《人口呪物(アーティファクト)》だ。


「なるほどなァ、俺っちの魔力暴走の原因はこれかいな。」


 そう言いながらギギは立ち上がる。そして再び上空に魔法陣を展開した。


「君が使ったのは風魔法でも最高位の魔法だ。次使えば死ぬかもしれないよ。」


 ジェームスはギギにそう言った。しかし、ギギは血を撒き散らしながら叫んだ。


「うるせェ!!俺っちはここまで来たら負けられへんのや!!!」


 そして再び魔力を込める。全身から血が吹き出し続けるが、それでも魔力を込め魔法を放った。


暴風の(ダウン)断罪(バースト)……」


 巨大な暴風が空から降ってくる。先程の魔法よりも規模は少し小さいが、それでも風魔法の最高位魔法だ。まともに受ければタダでは済まない。

 しかし、ジェームスはそれを見るといつもの糸目を少し開いた。そして右手に持った剣の魔法術式を解放しながら、左手には魔法を発動させた。


「来い、雷撃の剣(ゼウス・ソード)


 すると、左手に発動させた雷球が形を変え、剣の形となった。それに一呼吸遅れ、右手に持った剣にも炎が纏った。


炎雷(ホノイカヅチ)大神(ノオオカミ)


 ジェームスはそう呟きながら剣をクロスさせると、それを空から落ちてくる暴風の断罪(ダウンバースト)に向かって斬り飛ばした。


ドガァァァァァァン!!!!


 激しい爆発音と共に、空中で二つの魔法はぶつかり合った。

 ギギは負けじと魔力を込め続ける。すると、少しずつではあるがジェームスの魔法を押し戻し始めた。


(勝った!!)


 そう思った時だった、背後から何かで胸を貫かれた感触を感じた。視線を下に向けると、自分の胸から刃が飛び出ていた。


「は?」


「魔法に全力を注ぐのもいいけど、周りをしっかりと見ないとね。」


 意味がわからずに放心していると、後ろからジェームスの声が聞こえた。思わず振り返ると、そこにはギギの胸に剣を突き刺すジェームスの姿があった。

 その瞬間、急激に体から力が抜けていき魔法を維持することが出来なくなり、その場に膝を着いた。

 ギギは背後にいるジェームスを睨みつけながら呟いた。


「テメェ…いつの間に……」


「何、君がオレとの魔法勝負をしている時にコソッとね。」


 胡散臭そうな笑みを浮かべながら答えるジェームスにギギは自分が負けた事を悟った。


「テメェは…一体……何モンや……」


 薄れゆく意識の中、ギギはジェームスに問いかけた。しかし、ジェームスはその笑みを崩すこと無く答えた。


「ただの魔法学園の生徒で、Cランク冒険者さ。」


「んなアホ…な……――――――」


 そう言って事切れるギギを見て、ジェームスは胸に突き刺した剣を引き抜いた。それと同時にギギの指に嵌っていた指輪が砕け散った。


「ジェームス、無事か!!」


 その時、エルハルトがこちらへと向かって来るのが見えた。ジェームスは剣に付いた血を振り払うと鞘に納め頷いた。


「大丈夫です、エルハルトさん。そちらも無事で安心しました。」


「それは良かった。それより、カインに任せた部隊もドルド軍の制圧し始めている。俺たちも加勢に行くぞ。」


「はい。」


 ジェームスはエルハルトの後を追うように部隊の方へ向かって走り始めた。その時、ジェームスはギギの屍の先、ライアーたちが飛んで行った方を見た。そして心の中で呟いた。


(後は頼んだぞ、ライアー。)

ありがとうございました。

ようやくドルド攻防戦が終わりました。次回からマルクとアイリスを追ったライアーたちの物語です。

次回もお時間があればよろしくお願いいたします。

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