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50話:緊急会議

どうも、眠れぬ森です。

筆が遅いのはご容赦を…

さて、拙い文章ですがよろしくお願いいたします。

 ジェリコとエビルが消えてから直ぐ、俺たちはアーサーとエドガーと共に王城の会議室へと場所を移した。


「それで、西側の国境警備隊からの報告はどうなっておる?」


「現在、国境近くの草原にドルドの軍と思われる魔法士団体が集結し始めているようです。総数は約二千人との事です。」


 アーサーの問いかけにエドガーは慌ただしく答える。それを聞いてアーサーは頭を抱えながら。


「二千の魔法士団体の中に一級クラスの魔法士が二百か……ジェリコめ、どうやってそこまでの人員を集めおったのだ……」


「確かに、いくら連合国と言えど一級クラスの魔法士を二百人も確保出来ているのはおかしいですね……」


 アーサーの言葉にエドガーも首を傾げる。それもそのはず、一級魔法士と言えばセリエス王国にも三十人程しかいない。それでも他国に比べれば多いほうではあるのに、その六倍以上の人員を導入出来ている状況は明らかに異常だ。

 しかし、そんな会話をしながらもこの場にいる全員が一つのものか頭に浮かんだ。そして示し合わせたかのように視線を合わせると、俺はポツリと呟いた。


「《人工呪物(アーティファクト)》だな。」


「その可能性は高いと思います。」


 その言葉にカインが頷いた。強制魔力解放(ブーストアップ)の術式が刻まれた《人工呪物(アーティファクト)》ならば、それなりの魔力を持っている魔法士に使えば一級魔法士相当の力を絞り出すことは難しくない。


「だが、そんなに大量の《人工呪物(アーティファクト)》など手に入るのか?」


 その時、カインの言葉にエルハルトが問いかけてきた。それもそのはず、《人工呪物(アーティファクト)》は凶悪な術式を持っている。作るとしても、圧倒的な技術と膨大な魔力が必要になる。もし二百個も作るのだとしたら、一級の術式付与士が何人も必要になるレベルだ。


「そんな代物、マルク先生一人で作れるのかな?」


 ジェームスがポツリと言った瞬間、リアスがハッとした表情で呟いた。


「アイリスちゃん……?」


「リアス、どうしたのですか?」


 その呟きを聞き逃さなかったカインは首を傾げながらリアスに問いかけた。するとリアスは俺のほうに視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。


「ライアーくん、マルク先生がアイリスちゃんを狙った目的が分かったかもしれないわ。」


「なんだと?」


 リアスの言葉に俺は視線を険しくして彼女を見つめた。その視線を受けながらもリアスはこの場にいる全員に向けて話を続けた。


「我が校の生徒のアイリス・クラントンは保有魔力においては校内でもトップレベルの持ち主です。しかし、それよりも飛び抜けた才能を彼女は持っています。」


「ほう、それは一体何なのだ?」


「魔法術式の付与です。」

 

 アーサーの問いかけに対するリアスの答えに、空気に緊張が走った。しかし、それと同時に頭の中で欠けていたピースがカチリとハマった。

 確かにアイリスは魔法術式の付与に関してとてつもない才能をみせている。初めて校舎裏で合った時も、使い捨ての魔法術式を刻んだ魔術兵器(マジック・ウェポン)を売っていた。さらにはオレの武装の一つでもあるSMG(サブマシンガン)型の魔術兵器(マジック・ウェポン)守護者(ガーディアン)に刻んだ《斬鉄》の魔法術式もアイリスが刻んだものである。これは実際に術式を見た者で無いと分からないが、アイリスが刻む魔法術式は丁寧であり綺麗、尚且つ精巧なのだ。


「なるほど、それならマルクの傍でアイリスが確認されているのに納得がいく。」


「それであれば《人工呪物(アーティファクト)》の作成数も増やせます。」


 エルハルトとジェームスが納得したように呟いた時だった。


「失礼します!大至急、王に報告があります!」


 会議室の扉が勢いよく開き、王城の衛兵が飛び込んできた。息を切らせながら跪くその衛兵の姿に、俺たちは唯ならぬ雰囲気を感じた。


「一体どうした。」


 突然入って来た衛兵を咎める事もせず、アーサーはいつもの様子で問いかけた。しかし、衛兵は震える声を押し殺すように話し始めた。


「つ、つい先程、ドルドとの国境にある要塞都市ザルバより早馬で伝令が!国境近くに集結していたドルド軍の進行が確認されました!」

 

「なんだと!?」


 衛兵から発せられた言葉にアーサーが叫び立ち上がる。それと同時に俺たちの間にも緊張が走る。


「アーサー様落ち着いて下さい、それで状況はどうなってる?」


 エドガルドがアーサーを宥めると衛兵に問いかけた。すると、衛兵は震えながら答えた。


「そ、それが……一級並の魔法士が二百人。そ、それと……それと同時に魔法を使う屍人(グール)が二千人以上確認されており、前線は崩壊寸前です!!!」


「なっ!?!?」


 その言葉に全員が言葉を失った。ただでさえ《人工呪物(アーティファクト)》の効果で魔力を上げられた魔法士だけでなく、その十倍にも登る屍人(グール)もどき、最悪の状況だった。


「くっ、こんな時に……!!」


「そ、それとこちらをご覧いただけますか?伝令を持ってきた魔法士からです。」


 アーサーが苦い表情をしたと同時に、衛兵は懐から一枚の写真を取り出した。アーサーはそれを受け取った瞬間、驚愕の表情に変わった。


「悪い予感はやはり当たったか、下がって良い……」


 そう言いながら受け取った写真を見えるようにテーブルの上へと置いた。


「っ!?!?」


 そこには信じられないものが。いや、信じたくないものが写っていた。


「アイリス……!!」 


 それは恐らく防壁の上から撮ったであろう、迫り来る屍人(グール)もどきと魔法士、そしてそれらと共に魔術兵器(マジック・ウェポン)を振り回しているアイリスの姿だった。


「マルク、アイリスにまでこんな事を……」


 俺は身体の底からふつふつと怒りが湧き上がるのを感じながら呟いた。そんな俺を横目に、アーサーはエルハルト、リアス、カインに指示を出した。


「エルハルトよ……直ぐに動かせる魔法士団の人数は!!」


「一級・二級合わせて百五十人です。」


「今すぐに動かせ!!そしてリアスにカインよ、お主にも助力願いたい。」


「分かりました。」


「承りました。」


 三人はそう言われると即座に答え、会議室を出ていった。それを見送ると、今度は俺とジェームスのほうを見て問いかけてきた。


「ライアーにジェームスよ、お主たちは学生の身分ゆえ強制は出来ぬが、どうする?」


「アーサー王、今回の戦闘に勝てば報酬は出ますか?」


「もちろん、儂が保証しよう。」


「では承ります。」


 その問いにジェームスは答えると、席を立ち会議室を出ようとする。その瞬間、ちらりと俺のほうを見るといつもの胡散臭い笑みを浮かべながら言ってきた。


「ライアー、キミの求める強さの意味を考えれば答えは決まってるだろ?」


 そう言うとジェームス会議室を出ていった。

 一瞬会議室に静寂が訪れる。しかし、直ぐにそれを俺は破った。


「俺も行く、アイリスを助ける。」


 アーサーの瞳を真っ直ぐに見つめながらそう言うと、ため息を着きながら彼は答えた。


「……よかろう。」


「感謝する。」


 俺はその一言だけ言うと会議室を後にした。




 会議室にエドガルドと二人になったアーサーは組んだ手の上に額を乗せると、横に立つエドガルドへ話しかけた。


「やはりか、あやつも同じ目をしとったな。」


「そうですね、本当にそっくりでした。」


 アーサーはエドガルドの言葉に息を吐くと、真面目な顔で問いかけた。


「エドガルドよ、ザルバに駐留している魔法士の数はどのくらいだ?」


「およそ千五百です。ただし、一級魔法士は五十人程度でしょう。」


「そうか……」


 そう呟くと、アーサーは立ち上がり言った。


「アイリス・クラントン、彼らが間に合うことを祈っておるぞ。」


 その言葉はエドガルドにだけ聞こえていたはずだった。薄く開いた扉の向こうに居る二人を除いて。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






 王城を後にした俺は装備を整えると、集合場所の王都西門へと向かっていた。相手は《人工呪物(アーティファクト)》フル装備のもはや人間とは呼べない存在。オマケに向こうには俺と同じ異能者(イレギュラー)も存在している可能性がある。

 勝てる確証は無い、だがアイリスが居るので行かない訳にはいかない。そう、あの時のジェームスの言葉はそういう事だ。


(俺の力は生きる為、仲間を守る為だ。)


 そう思いながら歩みを進めようとした時だった。


「ライアー君!!」


「ライアー!!」


「っ!!」


 後ろから突然声をかけられた。俺はゆっくりと振り返ると、そこにはサリアとサーシャの姿があった。それも、いつもの制服や私服姿ではなく戦闘用の装備を身につけて立っていた。


「どうした二人とも、自主訓練時間にクエストにでも行くのか?」


 俺は出来るだけ平然を装って二人にそう言った。だが、二人は曇った表情で問いかけてきた。


「ライアー君、今から戦争に行くんだよね?」


「アイリスのこと、助けに行くんでしょ。」


「……何故知っている。」


 二人の言葉に険しい表情で問いかける。あれほど内密に行動していたはずだし、午前中まで彼女たちはアイリスが行方不明になっていることすら知らなかったはずだ。

 サリアとサーシャに厳しい視線を向けていると、二人はゆっくりと話し出した。


「ライアーが学園長に呼ばれた後、二人でアイリスのお見舞いに行こうとしたわ。でも、そこでガンツさんから聞かされたのよ、アイリスが行方不明だって事。」


「それから何かの間違いじゃないかって思ってギルドとか街中を探したんだけど、全然見つからなくて。それで父様なら何か知っているんじゃないかなって思って王城に行ったんだよ。そしたら聞いちゃったんだ、アイリスがマルク先生に誘拐されたって。」


「……そうか。」


 俺は二人から視線を外してそう答えた。

 可能性としては考えていたことではあった。しかし、ここまで早く知られるとは思っていなかった。元々行動力のある二人なのだが、今回はそれが裏目に出てしまった。

 そう思っていると、サーシャがこちらの様子を伺うように問いかけてきた。


「ライアー、アタシたちも一緒に「ダメだ。」……え?」


 俺のしていた悪い予感は当たってしまった。二人ならば、アイリスの事を知れば一緒に行くと言うと思っていた。


「どうして……かな……」


 断りの言葉に、サリアは泣きそうな顔で問いかけてきた。俺はその表情を見ながら二人の目を見て言った。


「いいか、サリアは第三とはいえこの国の王女だ。それにサーシャは実質この国の第二実権を持っていると過言では無い補佐大臣の令嬢だ、連れていく訳にはいかない。」


「そんなの建前……」


「いいか、これは国同士の戦争だ。そんな中に王女と令嬢を連れ出してみろ、相手国に取っては格好の獲物だろ、自分たち立場を考えろ。」


「それは……」


「くっ……」


 俺の言葉にサリアとサーシャは言い淀む。それもそうだろう、国家間の争いの前線に出てくれば間違いなく標的になるだろう。それでもしも捕まってしまえば、セリエス王国にとって最悪の状況となるだろう。

 アイリスを救いたいという思いは十分に伝わってくる。しかし、二人の立場はそれだけ重要という事なのだ。


「悪い、今回ばかりは連れて行くことが出来ない。」


 そう言うと二人は唇を噛み締めて俯いた。それを見て後ろ髪を引かれる思いで再び歩き出そうとした時だった。


「いいじゃない、連れて行ってあげなさい。」


 突然俺たちの後ろから声が上がった。驚いて振り返ると、そこには細身のパンツとジャケットを着た、深紅の長髪をたなびかせた隻眼の女性が立っていた。


「か、母さん!?」


「久しぶりねサーシャ、それにサリアちゃんも。」


「お、お久しぶりです。」


 すると、その女性を見たサーシャが驚きの声を上げた。女性はサーシャとサリアに挨拶を返すと、俺の元へ歩き近づいてきた。そして女性では珍しい腰を折る仕草で挨拶をしてきた。


「初めまして、私はレミア・クレンツェルよ。いつも娘が世話になってるわね。」


「……ライアー・ヴェルデグランだ。」


 俺はレミアに少し警戒をしながらも挨拶をした。すると、彼女は俺をじっくりと眺めると共に問いかけてきた。


「少年、貴方は二人を連れて行きたく無いようだけれど、何故かしら?」


「サリアは第三王女、サーシャも大臣の令嬢だ。この国にとって重要な人物だからなるべくならば危険は避けたい。」


 レミアの問いにそう答えると、彼女は少し考えた後言った。


「それって貴方の都合よね?」


「……何だと?」


 その言葉に俺は殺気を放ちながら問いかける。しかしレミアは俺の事など気にも止めない様子で話しを続けた。


「さっきから聞いていれば身分だの立場だの言い訳ばっかりで、二人の意思なんて考えてないじゃない。そんなんでいいと思ってるの?」


「……」


 俺は無言でレミアを睨んだ。彼女の言葉に言い返すことが出来なかったからだ。そんな俺を見ながら、今度はレミアはサリアとサーシャに問いかけた。


「サーシャにアイリスちゃん、貴女たちはどんな思いでここに来たのかしら?」


「アタシは身分や立場なんて関係なく、ただ仲間を、親友を助けたいと思って来たわ。」


「私もです。アイリスを助けられるのならば、第三王女なんて地位はいりません。」


 その言葉にレミアは頷くと、俺の方に向き直って再び問いかけてきた。


「二人はこう言っているわよ?ただ守られるだけの存在を望んでいない、自分自身で強くなろうとしているわ。それで、君はどうするのかな?」


 どこか自信ありげなレミアを一瞥すると、俺は再び二人に向き直り言った。


「今回の戦いはクエストなんて甘いものじゃない、人と人の殺し合いだ。それは分かっているか?」


「ええ、当然よ。」


「戦場では誰も守ってくれない、もしかしたら死ぬかもしれない。それでも着いてくるか?」


「もちろんだよ、覚悟は出来てる。」


 そんな二人の言葉にため息を吐くと、俺はレミアに向けて言った。


「頼み事がある。アーサーとエドガルドに伝えて欲しい、『娘の命は確かに預かりました』とな。」


「フン、子供の癖に随分と肝が据わってるじゃないか。いいわ、伝えてあげる。」


「感謝する。」


 俺は頭を下げて礼を言うと、サリアとサーシャに向けて言った。


「それじゃあ、アイリスを助けに行くぞ。」


「うん!」


「分かったわ!」


 二人の返事と共に、俺たちは再び西門へと歩き出したのだった。




「行ってしまいましたか。」


 歩いていく三人の後ろ姿を見送っていると、木の影から肩口で後ろ髪をひと結びにした金髪の女性が姿を現した。


「久しいなルーテシア。さては、私が声をかけなければお前が出ていっていたのだろう?」


「さてさて、なんの事ですかね?」


 私の言葉にルーテシアは笑みを浮かべながらそう答える。昔から食えない奴だったが、王の側室となってからはそれに磨きがかかっているように感じる。


「誰に似たのか、頑固な娘を持ちましたね。」


「その言葉、そっくりお前に返してやるよ。」


 そんな軽口を叩きながら三人の菅田が見えなくなるまで見送ると、不意にルーテシアがポツリと呟いた。


「子供は大きくなるのは嬉しいけど、その反面寂しさもありますね。」


「そうだな。だが、私はそれ以上に嬉しさがある。サーシャがどれだけ強く育つかが楽しみで仕方がない。」


 そう言うと、ルーテシアはクスクスと笑った。そしてそしてこちらを見ながら懐かしむ声で言った。


「まさか、《静かなる水紋》からそんな言葉が出てくるとは思わなかったわ。」


「私こそ、《爆炎の守護者》からそんな言葉が出るとは思わなかったよ。」


 そう言いながら、ミリアは笑いながら三人の背中の見えなくなった道を見て呟いた。


「頼むぞ少年、本当の戦いの場を経験させてやれ。」

 

ありがとうございました。

次回、セリエス王国vs西方連合国ドルドです。

お時間があれば、次回もよろしくお願いいたします。

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