49話:宣戦布告
どうも、眠れぬ森です。
アイリス失踪からライアーたちはどう動くのか。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
アイリスが失踪してから一週間が経った。俺はリアスやカイン、エルハルトと共に調査・捜索を行っているが、アイリスに繋がる手がかりすら見つけられていなかった。
学園では病気の療養という事で話が通っているようで普段と変わらない日常が送られている。しかし、彼女と親しいサリアとサーシャはそうは思っていない。
「ねぇ、ライアー君。最近アイリスずっと休んでいるみたいだけど、大丈夫かな?」
「病気するようには見えないけど、ちょっと心配ね。」
「……そうだな、大事にならなければいいな。」
昼休みに昼食を取りながらサリアとサーシャが言ってきた。俺はそんな二人の言葉に一呼吸置いてから答えた。今回のアイリス失踪事件に関しては、二人に伝えてはいない。極秘で動いていると言うのもあるが、今回の事件には、あの仮面の男が関わっている可能性がある。その為、今回だけは二人を関わらせたくなかった。
(サリアとサーシャまで巻き込む訳にはいかないな。)
そう思った時だった。突然、サリアが手を叩いて言った。
「そうだ!折角だし、アイリスのお見舞いに行こうよ。」
「なっ!?」
「良いわね、少しだけ顔を出しに行きましょう。もちろん、ライアーも行くわよね?」
その言葉に俺は驚きの声を上げてしまった。サーシャもサリアの言葉に賛同すると、俺の方を見て言ってきた。
もちろんこの状況を考えていなかった訳では無い。しかし、想定よりも捜索が進まなかった事により二人のほうが早く動いてしまった。
(どうする?)
流石に断わるのは不自然すぎる。かと言ってアイリスが失踪している今の状況を伝える訳にはいかない、そう考えていた時だった。
「すみません〜、ライアー君はいらっしゃいますか〜?」
食堂の入口から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。そちらを向くと、ティナが俺の事を探していた。そんなティナは俺を見つけると、急いだ様子で駆け寄ってきて言った。
「食事中にごめんなさい〜。緊急で学園長がお呼びです〜。」
「リアスが?分かった、すぐ行く。」
俺はティナの言葉に頷くと、サリアとサーシャのほうを振り返りながら言った。
「すまない、リアスが呼んでいるそうだ。アイリスのお見舞いはまた今度行こう。」
「あ!ライアー君!?」
「仕方ないわね、今日は二人でアイリスのところに――――――」
そう言いながら足早にその場を後にした。その時、俺は二人の声が聞こえていなかったのを後悔することになるとは思わなかった。
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リアスに呼び出されて学園長室に行くと、そこにはリアスとカイン、エルハルトの三人の他にもう一人の人物が居た。
「来たわね、ライアーくん。」
「急に呼び出して悪いね、ライアー。」
リアスたちと共に俺を待っていたのはジェームスだった。彼はいつもの胡散臭い笑みを浮かべながら俺に話しかけてきた。
「ジェームス、何故お前がここに居る?」
「何故って、オレだって学園の生徒なんだよ?居ても不思議じゃないよね。」
飄々とした様子でそう答えるジェームスを見て、俺は表情を険しくした。確かにそう言われると納得なのだが、この場に限ってはそうでは無い。ここの居るのはアイリスの失踪を知る人物のみであり、ジェームスはこの件に関わっては居ないはずだ。そんな彼がここに居るのは不自然すぎる。
そう思い警戒していると、エルハルトとカインが俺を見て言ってきた。
「そう警戒するな、ジェームスもこの事件について動いているんだ。」
「そうですよ、彼のおかげで進展があったのですから。」
「……それは本当か?」
エルハルトとカインの言葉に、未だ警戒したままリアスに問いかける。するとリアスは頷きながら答えた。
「本当よ、彼には私たちでは手が届かない場所の調査を依頼しているのよ。例えば、セリエス王国以外の国とかのね。」
そのリアスの答えを聞いて、俺はハッとした。以前カインから伝えられた指輪の出処もジェームスからの情報だった。つまるところ、彼は《人工呪物》だけでなくアイリスの件でも同様に動いて居たと言うことだ。
「すまない、気が立ちすぎていたようだ。」
「気にしないでいいよ、こういう役は慣れてるからさ。」
俺は素直に謝った。すると、彼はニコニコと笑いながら答えた。しかし、直ぐ顔を引き締めるとジェームスは俺を見ながら言った。
「今日、学園長にキミを呼んで欲しいと言ったのはオレだ。皆さんにアイリス失踪について、良い話と悪い話の二つを伝えたい。どっちから話せばいいかな?」
ジェームスの意味深な言葉に俺たちは息を飲んだ。そして、ジェームスを除く三人が俺のほうを見た。
「では、良い話から頼む。」
俺がそう言うと、ジェームスは頷きながら話し始めた。
「先週から行方不明となってるアイリス・クラントンだが、所在が分かった。」
「なんだと!?」
「本当なの!?」
ジェームスの言葉に俺とリアスが立ち上がりながら叫んだ。それを見たジェームスは懐から取り出した地図を広げると、とある一箇所を指差した。そこはセリエス王国から西の森を過ぎた場所、西方連合国ドルドとの国境近くだった。
「アイリスちゃんはここの廃屋に居るようだよ。特に酷い事をされた様子は……いや、かなり厄介な事に巻き込まれているみたいだね。」
「厄介な事だと?」
アイリスが生きている事に一旦安堵した俺だったが、ジェームスの含みのある言い方に違和感を覚えた。すると、彼は更に懐から一枚の写真を取り出して机の上に置いた。
「なっ!?」
「嘘でしょ……」
それを見て俺とリアスは言葉を失った。その写真には顔から生気の抜けたアイリスと、マルク・ノックスの姿が写っていたのだ。
「やはりか……それで、これは一体どういう事なのだ?」
エルハルトも写真を見て渋い顔をしながらジェームスに問いかけた。ジェームスはその問いかけに、いつもの糸目を少し開きながら答えた。
「これがもう一つの悪い話、アイリスちゃんは今、マルク・ノックスと共に行動しています。恐らく、例の《人工呪物》に関する事だと思います。」
その言葉に一瞬の静寂が訪れる。するとリアスが少し考えた後、口を開いた。
「確かに、アイリスちゃんは術式の付与に関して才能があるわ。だけど、何故マルクと一緒に行動しているのかしら?」
その言葉に俺も頷く。アイリスはずる賢い所はあるが、魔法術式に関しては真剣に向き合っている。そんな彼女がマルクと共に《人工呪物》に関するとは考えにくい。
そんな俺とリアスを見て、ジェームスはカインに写真の一部を指差しながら問いかけた。
「カインさん、アイリスちゃんが付けているこのネックレスに見覚えはありませんか?」
「ネックレス……ですか?」
ジェームスに問われたカインはじっくりと写真を見る。すると、突然驚いたように声を上げた。
「こ、これは!!隷属の鎖!?」
「隷属の鎖だと!?」
カインの叫び声にエルハルトも驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
「それは一体なんだ。」
俺はカインとエルハルトに問いかけた。すると、二人は神妙な面持ちを浮かべながら答えた。
「これは《人工呪物》です。これを持つ者が他人に付けて魔力を流すと、その人を意のままに操る事が出来る凶悪な魔術道具です。」
「……過去に起きた魔法士団内の大規模クーデターの主犯、ウェスカー・グリントンが制作した物だ。あの時、全て回収して破壊したはずだ。」
その言葉に俺は絶句した。つまり、アイリスはマルクの手により強制的に動かされているという事だ。しかも使われているのが《人工呪物》だ。
「あの下衆め……」
俺は歯を食いしばりながら呟いた。口の中に血の味が広がるが、そんな事を気にしている余裕は無い。一刻も早くアイリスを助け出したい。しかし、俺一人の独断で動くことは出来ない。
そんな事を考えている時だった。学園長室の扉がノックされる音が室内に響いた。
「誰かしら?」
リアスが答えると、扉が開き一人の男性が入ってきて声を上げた。
「会議中にすまない。緊急の用事で来た。」
「エドガー卿!?どうして貴方がここに!?」
入ってきた男性は国王補佐大臣にしてサーシャの父親であるエドガー・クレンツェルだった。彼は驚きの表情を浮かべるリアスを他所に俺たちに言った。
「アーサー王からここに居る全員、至急王城へとの事だ。急げ。」
エドガーのその言葉にこの場にいる全員が何かを感じ取り、急いで王城へと向かった。
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王城に着いた俺たちが案内されたのはいつもの執務室ではなく、来客用の応接室へと案内された。そこには既にセリエス王国の王、アーサー・テオ・セリエスが待っていた。
「遅くなり申し訳ございません。」
「挨拶はよい、それよりも早急に伝えなければならぬ事がある。」
エルハルトの言葉と共に、俺たちは膝をついて頭を下げる。しかし、アーサーはそんな俺たちに挨拶を返す間もなくそう言った。そして立ち上がると、アーサーは頭を抱えながら俺たちに向かって言った。
「これから西方連合国ドルドより国家元首が来る。それで、お前たちにもその場に立ち会って欲しいのだ。」
「事情は分かりました。しかしながらそのような大切な場に何故我々が呼ばれたのでしょうか。」
アーサーの言葉に頷きながらもエルハルトがそう問いかける。それもそのはず、他国のトップとの会談に自分たちが居てもいいのかは疑問に思った。百歩譲ってリアスやエルハルト、カインは立ち会ってもおかしくは無いのだが、俺やジェームスも一緒となると話は変わってくる。
すると、アーサーは俺たちの顔を一人ずつ見ながら険しい表情を浮かべて答えた。
「今回の会談、向こうの話は我がセリエス王国との開戦要求であろう。儂としては争いはなるべく避けたいのだ。そこで、こちらの力を示すためにお前たちを呼んだのだ。ジェームスは《炎雷》の二つ名を冠する冒険者、ライアーは公にはしておらんが《異能者》だ。少しでも圧力はかけておきたい。」
そうアーサーが言った時だった。応接室のドアがノックされ、扉が開くと一人の衛兵が入って来て叫んだ。
「西方連合国ドルドより、国家元首のジェリコ様が到着致しました!!」
「良い、通せ。」
衛兵の言葉にそう答えると俺たちはアーサーの後ろへと立った。その直後、スーツを着た白髪の一人の男性が入って来た。
「遅れてすまへんな。ウチはドルドで国家元首をやっとるジェリコ・ワングレンや、よろしゅうな。」
「ワシはセリエス国王のアーサー・テオ・セリエスだ。こちらこそよろしく頼む。」
ジェリコと名乗った男性のフランクさに若干驚きつつもアーサーは彼と挨拶を交わす。すると、ジェリコの目が後ろに控えていた俺たちに向いた。そして大袈裟に驚いた様子でアーサーに言った。
「こりゃすごいな、《白銀の魔女》に魔法士団長、更には噂の新人冒険者の《炎雷》までおるやんけ。随分と用意周到やなぁ。」
「……偶々王城に来ておったからの、儂の護衛を頼んだのだ。」
特級魔法士のリアスや魔法士団長のエルハルトがいながらも一人で余裕の表情を浮かべるジェリコに不気味さを感じて彼を見る。すると一瞬、ジェリコと視線が合った。その瞬間だった、彼は俺を見てニヤリと笑った。その笑みに悪寒のような違和感を感じたのだが、ジェリコは直ぐにアーサーのほうを向いて言った。
「挨拶も済んだことやし、本題に入ろか。」
そう言いながら椅子に座るジェリコは出された紅茶に疑うこと無く口をつけると、アーサーを睨むような表情に変わり言った。
「今回来たのはアンタに送った手紙の返事を聞くためや。ウチらの国との戦争、つまりは宣戦布告をしに来た訳や。」
その言葉にこの場にいる全員が息を飲むのが分かった。それもそのはず、敵となりうる相手の本陣に堂々と乗り込んできて宣戦布告をしたのだ。
しかし、そんな相手にもアーサーは余裕の表情で問いかけた。
「こちらとしてはなるべく争いは避けたいのだが、今一度考えてはくれんか?そもそも何故そこまで戦争に拘るのだ?」
「簡単な話、ウチらの国の領土の拡大の為や。ウチらは小国が集まって出来た国やからな。力をつけるためには領土の拡大は必須や。」
ジェリコはニヤリと笑いながらそう言った。そこで俺は思い出した。西方連合国ドルドは名の通り、いくつかの小国が集まって出来た国だ。なので元々別の国が一つになった結果、世界でも有数の大国となったのだが、国内でも元の国同士の小競り合いが頻発しているらしい。
そんなジェリコの言葉にアーサーはおおきなため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
「セリエス王国としては無用な血を流したくは無い。どうか引いてはくれんか?」
「なっ!?」
「アーサー様!?」
アーサーはそう言うと、席を立ちジェリコに向かって頭を下げた。その様子にエドガーだけでなく、後ろに控えていた俺達も驚きの声を上げる。一国の王が他国の元首に頭を下げるなど、本当ならばあってはならない。しかし、アーサーはそれをしてでも戦争を阻止したかった。
しかし、ジェリコはそんなアーサーをつまらなそうな目で見ながら言った。
「つまらんなぁ。まさか大国のセリエス王国の王様がこんなビビりのアホだとは思わんかったわ。まぁ、ヤル気が無いなら無理にでもヤル気にさせてるわ。」
そう言うと、ジェリコは指を鳴らした。すると、彼の後ろで突然紙吹雪と煙が舞ったと思うと、いつの間にか一人の男性が立っていた。そして、その男性は俺を見て言った。
「久しぶりやな、元気にしとったか?ライアー・ヴェルデグラン。」
「お前は……!!!!」
そこに現れたのは忘れもしない仮面を付けた、サリアとサーシャを攫いクレイを仕向けたあの仮面の男だった。
俺は自然と腰に下げたブラックホークへと手が伸びていた。しかし、その手は隣にいたジェームスにより阻まれた。
「ジェームス!!」
「今は抑えて、相手が手を出してこない限り。」
俺は止めに入ったジェームスに声を荒らげる。しかし、彼は真面目な顔で静かにそう言った。その言葉を聞いて俺はブラックホークに伸ばした手を納めると、仮面の男を睨みつけた。
アーサーはそんな俺をみると、ジェリコに問いかけた。
「ジェリコよ、その男は誰だ?確か城に入って来たのはお主一人のはずだったが、紹介してくれるか?」
「コイツはウチの護衛の一人や。名前はエビル・グラニス。そして――――――」
そこまで言って、ジェリコは俺のほうを指差して言葉を続けた。
「そこにおるライアー・ヴェルデグランと同じ、《異能者》や。」
「な、なんだと……」
アーサーは驚きの表情を浮かべながら俺のほうを振り返る。それに頷くと、アーサーは大きく息を吐いてジェリコに向き直り言った。
「お主たちの国にも《異能者》がおった訳か。」
「せやで、アンタらだけの専売特許やないっちゅーことや。」
ニヤリと笑いながらそう言うジェリコに、アーサーは険しい表情をする。そこで、アーサーはハッとしたようにジェリコへ問いかけた。
「先程、お主はやる気にさせると言っておったな。あれはどういう事だ?」
「気になるわな。エビル、見せたったれ。」
「分かったで。」
恐る恐るといった様子で問いかけるアーサーを見ながら、ジェリコはエビルにそう促した。すると、エビルはどこからともなく魔石の水晶を取り出すと、それに魔力を込め始めた。すると、そこには信じられないものが映っていた。
「一級クラスの魔法士が二百人、国境近くで待機しとるで。その他にも魔法士が千人、何時でも動かせる状態や。」
「くっ……貴様ァァァァ!!!」
エビル持った水晶を見てニヤニヤと笑うジェリコに、エルハルトが叫びながら魔力を手に殴りかかった。
「エルハルト!!」
そんなエルハルトを止めるためアーサーが叫ぶが、既にエルハルトの拳はジェリコの顔寸前まで迫っていた。その時だった。
「交渉決裂やな、ほなさいなら。」
「悪いけど、ワイらのボスには傷つけさせへんで。」
ジェリコとエルハルトの間にエビルが入ると、ボンッと音を立てて煙と紙吹雪が舞った。
「くっ!?」
それをエルハルトはバックステップで避ける。応接室に立ち込める煙と舞う紙吹雪が止むと、そこにはジェリコとエビルの姿は無かった。
一瞬の静寂の後、エルハルトはアーサーの前に跪き頭を下げて謝罪をした。
「申し訳ございません、感情的になりすぎました。」
「よい、お前も随分と耐えたな。」
アーサーはジェリコたちが居た場所を見ながらエルハルトに声をかける。そして、ゆっくりと俺たちのほうを向いて言った。
「セリエス王国は今を持って、西方連合国ドルドとの戦争を始める。」
ありがとうございました。
やっと見つけたアイリスだが、西方連合国ドルドとの戦争に巻き込まれてしまうライアー。
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。