48話:天才と凡才
どうも、眠れぬ森です。
サブタイトル考えるのが非常に難しい…
拙い文章ですがらよろしくお願いいたします。
リアスに呼ばれた俺が連れてこられたのは、学園内にある応接室であった。中に入るとそこには魔法士団長のエルハルトと魔法研の魔力調査部門の統括責任者であるカインが待っていた。
「久しぶりだな、ライアー。」
「先日ぶりですね、ライアー君。」
二人は部屋に入ってきた俺を見て声をかけてきた。しかし、すぐに二人は緊張の面持ちに表情を変えると、エルハルトが問いかけてきた。
「早速だがライアー、リアスからすでに聞いているとは思うが、今朝早くに学園の生徒であるアイリス・クラントンが失踪した。手掛かりはほぼ無し、彼女が学園に向かって歩いている目撃証言だけだ。これを聞いてどう思う?」
その問いかけに、俺は一瞬黙り込む。そして、ゆっくりと口を開いた。
「この事件には、マルクが関わっていると思う。」
そう言うと、エルハルトはカインと目配せをして頷いた後、ぽつりと呟いた。
「やはり、ライアーもか。」
「どういう事かしら?」
エルハルトの言葉にリアスも表情を険しくして問いかけた。すると、カインが一枚の紙を取り出し、リアスに渡しながら言った。
「マルク・ノックスの個人情報です。纏めるのに時間がかかってしまい、渡すのが今日まで遅くなってしまいました。」
その言葉を聞きながらリアスは内容を読んでいく。すると、先程までの険しい顔が驚愕の表情へと変わっていった。そして、そのまま視線をカインへと向けて言った。
「ここに書いてあることは、本当のことなのかしら?」
「全て事実です。ライアー君もご覧下さい。」
その言葉と共に、リアスから紙を渡される。そこには確かにマルクの過去の経歴や個人情報が記載されていた。しかし、読み進めていくうちに驚くべき内容が記されていた。
「出生が西方連合国ドルド……そして違法魔術兵器の製造で数回の服役経験ありだと?」
そこには普段の気弱そうなマルクの姿からは掛け離れた経歴が記載されていた。その内容に絶句していると、カインが口を開いた。
「ライアー君にだから言いますが、ここにいる三人は現在、国王からの命令で《人工呪物》に関する調査を行っています。その際、関与が疑われる人物の中にマルク・ノックスがいました。それで独自に調べた所、このような経歴が浮かんできたのです。」
「そんな……学園の情報にはそんな事一切記載されていないわ……偽りの情報だったということ?」
「それは違う。」
カインの言葉に驚きを隠せない様子のリアスだが、それもそのはずだ。時分の治める学園内の、しかも教員にこのような経歴を持つ者が居たということは、大変な不祥事である。
しかし、そんなリアスの言葉にエルハルトは否定の言葉を返した。
「……何故かしら?」
訝しげな表情でエルハルトに問いかけるリアスだったが、それを気にする様子もなくエルハルトは答えた。
「学園にある情報は全てセリエス王国に来てからのものものだ。それにマルクはドルドでは犯罪者だったが、王国に来てからは八年かけて一級の術式付与士となり、それなりに活躍していた。その間にドルドでの事を有耶無耶にする事くらい簡単な事だ。」
エルハルトの言葉にリアスが押し黙る。確かに、経歴を見てみると、マルクがセリエス王国に来てから既に二十年近く経っている。まともに生きていれば、過去の出来事を有耶無耶にする事くらいは簡単だ。
しかし、そこで疑問が生まれる。ここにいる三人は国王からの命令で動いている。だが俺はそうでは無い。それなのに、このような重要な事を話しても良いのだろうか。たしかにアイリスとはそれなりに友好関係を築いているとは思っているが、それだけでこの内容を話すにしては事が大きすぎる。
「事情は分かった。しかし、何故俺が呼ばれたんだ?」
「そうだったわね、まだ話していなかったわ。」
俺は三人に問いかけた。すると、ハッとした様子でリアスが答えた。
「単刀直入に言うのだけれど、ライアーくんにはこの調査に加わって欲しいのよ。」
「……理由はなんだ?」
俺はそう答えるリアスに問いかけた。アイリスが失踪した以上、この話を聞いて拒否するつもりは毛頭無い。しかし、捜索をするにしては小規模かつ極秘すぎる。
「説明は僕からします。」
すると、今度はカインがそう言いながら、小瓶に入った二つの何かの破片を取り出した。その瞬間だった。
「ッ!?」
背筋に走る悪寒と身体の中で何かが蠢く感覚、そして眼帯の下の右目に感じる熱。
(ヴェルディアナ!?)
俺は咄嗟に彼女の顔が頭に浮かんだ。しかし、それを悟られないよう平然を装ってカインに問いかけた。
「それは何だ?」
「あの日、屍人もどきの女性が付けていた指輪の欠片と、クレイ・スティルブ君が使用したと見られる指輪の残骸の残りです。効果に多少の違いはありますが、ほぼ同じ術式の魔力反応が検出されました。」
「それとこれも見ろ。」
カインに続いてエルハルトも懐から一つの指輪を取り出した。それは魔力も術式も無い、なんの変哲もないただの指輪だ。
「それが一体どうしたんだ?」
「これはジェームスからの情報を辿って手に入れた指輪だ。見ての通り普通の指輪だが、カインの持っている欠片と共通点がある。なんだか分かるか?」
「……いいや、分からん。」
エルハルトは俺に問いかけるが、全くもって分からない。俺は首を横に振って答えると、カインがかけている眼鏡を直しながら言った。
「この欠片とこの指輪の主成分は同じものです。そしてこの指輪はとある場所で作られた物です。」
「とある場所?」
「西方連合国ドルドです。」
「なんだと?」
カインの言葉を聞いて俺はとある人物の顔が浮かんだ。いや、正確にはその人物が身につけているものだ。俺はリアスの方を見ると、彼女も同じ事を思ったようで言ってきた。
「ライアーくんも覚えているようね。クレイくんとの戦いの場に現れたあの仮面の男のこと。」
そう、俺の頭に過ぎったのはサリアとサーシャを攫いクレイをけしかけたあの仮面の男だった。あの時、クレイが指輪の力に耐えられなくなった直後に現れたのを考えると、今回の件に関与していることは間違いない。その上アイリスにまで手を出すとは。
「ライアーくん……」
そう考えていると、リアスが俺の名前を呼びながら肩に手を置いてきた。そこでハッとすると、俺は知らず知らずのうちに手を握りしめていたようで、指の間から血が滴っていた。
「ライアー、悔しいのは分かるが今は抑えろ。爆発させるのはマルクを見つけてからだ、いいな。」
「……分かった。」
「では作戦を立てましょう。」
そんな俺を見たエルハルトの言葉に俺は頷くと、カインはそう言って話し合いが始まったのだった。
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「ん……」
手足に違和感を感じて目を開ける。視界はぼやけ、頭がぼんやりとする。
「ここ、どこ……?」
見えるようになってきた目を擦りながら辺りを見渡す。そこは家の工房のような場所で、置かれた棚には様々な魔石や魔術道具らしきものが置かれていた。その中でも特段目を引いたのは、作業台に置かれた大量の指輪だった。その指輪の全てには見た事の無いような術式が刻まれており、異様な雰囲気を放っていた。
ここは危ない。そう感じた彼女はいつも腰につけている魔術兵器《切り裂きの双剣》に手を伸ばした。
「な、ない…?」
しかし、そこには何も無い。それどころから、両方の手首足首には術式が刻まれた金属製の輪が付けられていた。そこに刻まれていた術式は彼女が見た事のあるものだった。
「反魔法の、術式。なんで、こんなものが…」
「き、君が抵抗しないようにだよ。」
「っ!?誰!?」
突然、彼女の呟きに答える声が響いた。驚いた彼女は反射的に大声をあげる。すると、置かれた棚の裏から何者かが姿を現した。
「え……?マルク先生……?」
「て、手荒な真似をしてすまないね。」
学園でよく見しった顔、魔法技術科の担当科長であるマルク・ノックスの姿を見て彼女は、アイリスは驚きの声をあげる。
「どうして、先生が?アイリスは、学園に、向かってたはず。」
混乱した頭でマルクにそう問いかけると、いつもの少し自信なさげな顔で答えた。
「す、少し僕の研究を手伝って欲しくてね。ほ、ほら、き、君は術式の付与が天才的に上手いだろ?」
「研究?」
マルクの答えを聞いてなお、アイリスには彼の意図が分からなかった。今まで先生の手伝いならば何度も学園でやってきた。しかし、今回は状況が違う。知らない場所で魔法も魔術兵器も封じられている。そんな中、マルクは学園と変わらない態度で接してきている。そんな中、アイリスは状況を整理するためにマルクに問いかけた。
「一体、何の、研究ですか?」
「い、言ってなかったね。こ、今回の研究は術式付与だよ。そ、それも、《人工呪物》作成のね。」
「な!?」
マルクの言葉を聞いたアイリスは絶句した。《人工呪物》とは世界的にも違法とされている魔道具だ。製造はもちろん、使用はおろか所持しているだけでも罰せられる恐ろしいものだ。その術式を刻めと、マルクは平然な顔付きで言い放ったのだ。
「それは、出来ません。」
「な、何故だい?君のような」
「それは、作っては、いけないものです。出来たとしても、アイリスは、そんな事、したくありません。」
「……ハァ……」
アイリスの拒否に一度は食い下がったマルクだったが、なお拒否すると彼は感情が抜け落ちたかのような無表情で黙った。そして、溜息をついた時だった。
「ぐぁっ!?!?」
突然、マルクがアイリスの腹を思い切り蹴った。その痛みと衝撃でアイリスは吹き飛ぶと、咳き込む彼女の頭を足で踏みつけて言った。
「これやから、才能のある奴は好かんのや。」
「うぁ……先…生……?」
呻き声を上げながらマルクに声をかけるアイリスだったが、彼にはアイリスの声が聞こえていないかのように独り言で呟き始めた。
「どいつもこいつも、僕の事をバカにしよってからに……アイツらも僕の作った魔道具が違法だのなんだの難癖つけよるし、真面目に一級の術式付与士になっても覚えが悪いだの凡才だのと言いよって。これだから天才は好かんのやぁぁぁ!!!」
「かはっ!?!?」
マルクの呟きはどんどんと大きくなり、最後には叫び声を上げながら再びアイリスのお腹を蹴った。そして、彼は嘔吐く彼女の髪を手で持ち顔を引き上げると、先程とは打って変わった殺気の籠った瞳でアイリスに問いかけてきた。
「アイリス、アンタは初級の術式付与はどれくらいで覚えたんや?」
「が…ぁあ…?さ、三ヶ月、です……。」
「ククッ…そうか、そうか!!アハハハハ!!!」
アイリスは混乱したままの頭でそう答えると、マルクは何が可笑しかったのか、笑い始めた。その異様な光景に言葉を失っていると、マルクは笑いながら言葉を続けた。
「そうか、三ヶ月か。僕は一年かかったんや。そんで皆に言われたわ。お前には才能が無いってな。だから見返したろう思って、必死に頑張ったわ。そんで八年もかかってようやく一級の術式付与士になったわ。でもな、周りは八年もかかってなったって言ったんや。やっぱりお前は凡才やってなぁ!!」
「がっ!?!?」
マルクはそう言い終えると、アイリスの髪を掴んだまま壁に向かって叩き付け、話を続けた。
「そんなときや、僕には才能がある言うて仕事を持ってきた人がおったんや。それが《人工呪物》の作成や。刻める者が少ないと言われている術式を刻めれば、僕の才能が皆に分かるやろ?だけどな、人間一人にはやっぱり限界ってもんがある。せやから、アンタにお願いしたんや。」
マルクはそう言うと、アイリスを壁に押し付けたまま、以前の気の弱そうな顔に戻り言った。
「だ、だから、僕の研究の手伝いをしてくれないかな?そ、そうしてくれれば、直ぐに蹴るのを止めるよ?」
その言葉に、アイリスは一瞬頷きそうになった。しかし、そんな時にライアー、そしてサリアとサーシャの顔が頭を過ぎった。もしこの話を受けてしまえば、彼らはきっと悲しむだろう。そして、アイリスから離れていくだろう。人付き合いが苦手なアイリスにとって初めての友人と言える人物、ライアーに至っては初恋の相手だ。そんな彼らに嫌われてまで、そんな事はしたくない。
「アイリス……は、絶対に、やりま……せん。ダメな事は、ダメ……です。」
息も途切れ途切れに答えた。すると、マルクはそんなアイリスを冷たい瞳で見ながら溜息をついて言った。
「仕方あらへん、こいつは使いとうなかったんやけどなぁ。」
その言葉と共にポケットから一つのネックレスを取り出した。そして、それをアイリスの目の前まで掲げると、ニヤリと笑いながら言った。
「これはとある人からもろた《人工呪物》でな、隷属の鎖って名前や。他人の首にかけて自分の魔力を流すとソイツを意のままに操れるんや。ま、人格や感情を消して人形みたいにするもんやな。」
「あ、あぁ……」
それを聞いてアイリスは咄嗟に逃げる事を考えた。しかし、魔術兵器も魔法も封じられており、身体は蹴られた衝撃で言うことを聞かない。
そして、チャリッという音と共にアイリスの首に隷属の鎖がかけられた。
「ライアー……」
アイリスがライアーの名前を呟くのと同時に、マルクは《人工呪物》に魔力を流した。
そこで、アイリスの意識はプツンと途切れた。
ありがとうございました。
人工呪物を巡ったいざこざに巻き込まれたアイリスの運命やいかに……
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。