47話:消えたアイリス
どうも、眠れぬ森です。
最近時間が取れず、投稿が遅くなり申し訳ございません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「くそ……くそくそくそ!!!」
ランプの明かりだけが部屋を照らす薄暗い中、一人の男がそう叫んで空になった手に持っていた酒瓶を床に投げつける。床にぶつかったそれは割れて中身が辺りに飛び散るが、そんな事を気にする余裕は無かった。
「気が付かれた……アイツらの所にも行かれた……残っているのは僕だけだ……」
そう呟きながら目の前の作業台に目を向ける。そこには《人口呪物》と化した指輪が五十個ほど置かれていた。あれから数週間、段々と術式の付与に慣れてきて作れる個数は増えた。しかし、言われた個数の半分にも達していない。迫る期日に失敗の連続で、もはや気が狂いそうであったが、それでも辞める訳にはいけない所まで来てしまっている。
そこでふと壁に目を向けると、残り数日で月が変わるカレンダーが目に入った。
「もう……手段を選んでいる場合じゃない……必ず完成させなければ……」
男はそう呟くと、作業を再会させたのだった。
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「ッ!?」
右目に走る焼けるような痛みを感じた俺は、飛び起きるように目を覚ました。そのまま備え付けられた洗面所へと駆け込むと、水で目を冷やす。数分そうしていると、段々と痛みが引いていくのを感じた俺は顔を上げて鏡に映る自分の顔を見た。そこには爛々と紅く染まった右目をした自分の顔画映っていた。
「またか……」
そう呟きながら後ろの壁に背をつけると、そのままずるずると座り込んだ。
ジェームスと共にカインの地下研究所で屍人もどきと対面したその日から、俺の右目が痛む頻度が格段に増えていた。理由は分からないが、ヴェルディアナのせいであることには間違いは無い。
俺は立ち上がると、部屋へと戻った。そしてカレンダーに目を向けるとそこで気がついた。
「そうか、今日から学園か。」
そう、今日から長期休暇が終わり学園の後期授業が始まる。サリアにサーシャ、アイリスたちにやっと会えると言うのだが、俺の心は沈んだままだった。この長期休暇中、屍人もどきとの戦闘や日に日に激しくなる右目の痛み、そして《人口呪物》の件にヴェルディアナ。このひと月に色々な事があり学園に行く気にはなれなかった。
だが、前期の授業で単位を落としかけた俺からしたら休むわけにもいかない。
「……準備するか。」
その重い気持ちを引きずるように、久しぶりの制服に袖を通したのだった。
普段より早く寮を出た俺は学園への道を歩いていた。時間が早いせいで周りに生徒の姿は無い。元々武器を隠すように着ている黒いコートに加えて、ヴェルディアナが発現してから紅くなった右目を隠すように付けている眼帯のせいで、他の生徒から忌諱の目を向けられていた俺にとっては目立つことなくて少し気が楽だった。
「今期からこの時間に登校しようか……ッ!?!?」
そんなことを考えながら歩いていた時だった。後ろから凄まじい殺気を感じて振り返る。すると、そこには眼鏡をかけた気の弱そうな顔をした男が立っていた。
「あ、ライアー君。お、おはようございます。」
「マルクか……」
その男はセリエス王立魔法学園で魔法技術科の担当科長をしているマルク・ノックスだった。先程感じた殺気とは真逆の雰囲気を醸し出していた。そのギャップに驚いていると、マルクは眉を八の字にして苦笑いしながら言ってきた。
「ず、随分と早いですね。まだ学園の門を開けていませんよ。」
「たまたま早く目が覚めてな、時間まで散歩でもしてるさ。」
「そ、そうですか。では、僕は一足先に学園へ向かいますね。そ、それではまた。」
俺は警戒したまま会話を続けるが、マルクはそのまま挨拶をすると学園の方向へと歩いて行ってしまった。
「また……か。」
俺はマルクの後ろ姿を見ながらそう呟く。なんて事は無いただの挨拶だったのだが、何故かその部分に引っかかりを覚えた時だった。
「ライアー君、おはよう!」
「おはようライアー、久しぶりね。」
突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返るとそこにはにこにこ顔のサリアとサーシャの二人が立っていた。
「おはよう、二人とも。そんなに笑って、何かいい事でもあったのか?」
そう尋ねると、二人は笑顔のままこちらに近づいてきた。何故か分からないが、その笑顔の裏に何かが見えたような気がした。
「えっと、どうしたんだ?」
そんな二人に声をかけると、先程までの笑顔から一変して不機嫌そうな顔で言ってきた。
「せっかく長期休暇が終わってライアー君に会えると思って寮まで行ったのに、もう学園に向かっちゃったって言われたんだよ!?」
「あたしも頑張って早起きして一緒に登校しようと思っていたのよ!?」
「それは……すまなかった。」
彼女たちの勢いに押されつつ、謝る以外の方法が見つからない為頭を下げる。すると、そんな俺を見て今度は焦った様子で二人が答えた。
「ちょ!?そんなに頭を下げなくてもいいわよ!?」
「ごめんねライアー君!!ちょっと意地悪だったかも……」
そう言って頭を下げる二人に、俺はため息をつきながら言った。
「これでおあいこだ。少し早いが、学園へ行こう。」
「そうね、そうしましょ!」
「行こ、ライアー君!」
俺の言葉にそう答えると、二人は笑顔で俺の手を引いて学園へと向かって歩き始めた。しかし、彼女たちに手を引かれながら俺は先程受けた殺気について考えていた。
(マルクからは殺気を感じられなかった。しかし、あれはサリアとサーシャの怒気を超えたものだった。だとしたら、一体誰が俺に殺気を向けたんだ?)
元傭兵ということから、誰かに恨まれている可能性はある程度自覚している。しかし、状況からしてあれほどの殺意を向けられる人間は周りにはいなかった。だとしたら、やはりマルクが怪しい。
(時間を見てリアスに報告するか。)
そう思いながら俺は学園へと向かったのだった。
いつもより早めに学園に着いた俺たちは直ぐに座学科の講義を受ける講堂へと向かった。いつものように窓際から二番目の席に着くと、荷物を置いたサリアとサーシャがやって来てこの長期休暇中の事について話し始めた。初めは二人の話を聞いていたのだが、時間が経つにつれて登校してくる生徒が増えてくる中、一つの違和感を感じた。
(アイリスが来ない?)
普段ならば登校していてもいい時間なのだが、アイリスの姿はどこにも見当たらない。俺が不思議に思っていると、同じことを考えていたらしくサリアとサーシャも言ってきた。
「そういえば、アイリスはまだ来てないのね。」
「確かに、今日はまだアイリスの事見てないね。いつもならもう来てる時間なのに。」
そんな事を話していると、座学担当のティナが講堂に入って来た。そして生徒が席に着くのを確認すると、点呼を取り始めた。それでも未だにアイリスの姿は見えない。
「アイリスちゃん〜。アイリスちゃん〜?来てませんか〜?」
そして点呼でアイリスが居ないことを確認すると、ティナは首を傾げながら次の生徒の名前を呼んでいった。
アイリスは授業中に居眠りをするなど、お世辞にも態度が良いとはいえない。しかし、俺の知る限りでは約束はしっかりと守る律儀な性格だ。休む場合も事前に連絡がティナや他の教諭に入っている。それだけに、今日の無断欠席が違和感となって俺の中で引っかかる。
(なんだこの違和感は……)
そう思った時だった、突然講堂の扉が開いた。そこから現れたのはリアスだった。
「学園長〜、何かありましたか〜?」
突然のリアスの訪問に驚いた様子でティナが問いかけると、リアスは俺のほうを見てからティナの方を見て言った。
「急にごめんなさいね。申し訳ないんだけど、ライアーくんを借りてもいいかしら?」
「え?は、はい〜、どうぞ〜!」
「ありがとう、ライアーくん!一緒に来てくれるかしら!!」
リアスの声に、俺は頷くと席を立ち出口へと向かった。
「ライアー!?」
「ライアー君!?」
その時、後ろからサーシャとサリアの声が聞こえた。その悲痛な声に振り返ると、二人が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫だ、心配するな。」
俺は二人に向けてそう言うと、リアスの後に続いて講堂を出たのだった。
「それで、一体何があったんだ?」
講堂を出た俺は隣を歩くリアスに問いかけた。すると、リアスは険しい顔をしながら答えた。
「さっき分かったのだけれど、アイリスちゃんが失踪したわ。」
「……なんだと?」
リアスの言葉に俺も表情を険しくした。それを見るとさらに続けた。
「アイリスちゃんは朝に家から学園へ出る所までは親御さんが見ているのだけれど、そのあとの姿が確認されていないの。学園に来ていないから親御さんに連絡をしたら判明したのよ。」
「……それで、理由は分かっているのか?」
唇を噛み締めながらそう尋ねると、リアスは首を横に振って答えた。
「まだ分かってないわ。でも、アイリスちゃんの選択している魔法技術科のマルク先生も来ていないから、何か関係があるのかも……」
その言葉を聞いた瞬間、俺は足を止めた。
「どうしたの、ライアーくん?」
そんな俺を見てリアスを足を止めて振り返った。そんなリアスを見ながら俺は言った。
「それはおかしい。」
「一体どう言う事かしら?」
眉を顰めながら怪訝な表情で問いかけるリアスに、ゆっくりと口を開いた。
「俺は今朝、マルクと会った。そして奴は学園へ向かうと言っていた。そして最後にまた会おうと言ったんだ。それなのに学園に来ていない。」
「それってつまり……」
リアスが息を飲むのと同時に俺は答えた。
「今回の件の犯人はマルク・ノックスだ。」
ありがとうございました。
消えたアイリスとマルクの関係とは……?
次回もお時間があれば、よろしくお願いいたします。