45話:疑惑の三人
どうも、眠れぬ森です。
仕事が忙しすぎてなかなか時間が取れず、遅くなり申し訳ございません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「それでカインよ、話とは一体何だ?」
ライアー君達と別れて数日後、僕はアーサー王と謁見するために王城へと足を運んでいた。理由はもちろん《人口呪物》についてだ。
「お忙しい所ありがとうございます。実は、王国内にて《人口呪物》が確認されました。」
「……なに?詳しく話せ。」
濁すことなく告げた僕の言葉を聞き、アーサー王は目付きを険しくして答えた。
僕は屍人もどきの出現から指輪に刻まれた魔法術式、そして今は亡きマルコ・スティルブとクレイ・スティルブの件について話した。そして最後に、《人口呪物》の可能性を告げた後、アーサー王に伝えた。
「この件に関しましては、ユナ・マクスヴェル博士、ウェスカー・グリントン、マルク・ノックスのいずれかが関わっている可能性が高いです。」
その言葉に一瞬の静寂が訪れる。ちらりとアーサー王の表情を伺うと、目を瞑りながら考えるような仕草をしている。そして、しばしの時間が流れな後に口を開いた。
「なるほどな…」
そう言うとアーサー王は椅子から立ち上がりながら手元のベルを鳴らした。
「お呼びでしょうか?」
すると、扉が開いて国王補佐大臣のエドガー卿が入ってきた。そして、僕とアーサー王の雰囲気から何かを感じ取ったのか、険しい表情をした。そんなエドガーにアーサー王は淡々と伝えた。
「エドガーよ、今すぐエルハルトとリアスを呼ぶのだ、大至急だ。」
「は、仰せのままに。」
エドガー卿は返事をすると、急いで部屋を出ていった。アーサー王はそれを見送るとこちらに視線を移しながら言ってきた。
「カインよ、皆が集まってから話を続けるぞ。」
エドガーが部屋を出ていってからしばらくして、王城の会議室へと移動すると、そこには現魔法士団長のエルハルト・ジェスターと魔法学園長のリアス・エルドラドが既に待っていた。
アーサー王が席に着くのを待ってから僕たちも座ると、エルハルトがアーサー王に問いかけた。
「アーサー王、エドガー卿から至急集まるようにと言われて来ましたが、何があったのですか?」
その言葉にアーサー王は一呼吸置いてから答えた。
「……我がセリエス王国内にて、《人口呪物》が確認された。」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
「二人とも落ち着け。」
アーサー王の言葉にエルハルトとリアスは立ち上がりながら驚きの声を上げた。それを窘めながらアーサー王は僕の方を見て言った。
「詳しい説明はカインにしてもらうとしよう。」
「分かりました。」
そして話し始めた。屍人もどきの出現から指輪型の《人口呪物》について、そしてその効力など。現在分かっていることを全て話した。その話に対してエルハルトとリアスは信じられないといった表情で耳を傾けていた。そして話が終わると、エルハルトがゆっくりと口を開いた。
「その話が本当ならば、関わっていると思われる人物は限られてくるな。」
「そう思いたくは無いのだけれど、そうでしょうね。」
エルハルトの言葉にリアスも頷くと、二人は僕に視線を移した。
二人の視線を受けて、僕は頷きながら言った。
「この手の魔法術式を刻むことが出来る人物は国内に三人です。ユナ・マクスヴェル、ウェスカー・グリントン、マルク・ノックスです。」
「やはり…か。」
「まさかね……」
僕の言葉にエルハルトとリアスは険しい表情を浮かべて呟いた。それを見て僕も口を閉じる。それもそのはず、今述べた三人は僕とエルハルト、リアスとそれぞれ関係がある人物である。ユナ博士は僕の元上司であり、ウェスカーはエルハルトの元部下、そしてマルクはリアスが学園長を務める魔法学園の教師だ。そんな人物がこの件に関わっている可能性があるのだ。
「お主らに勅命を出そう。カインはユナ、エルハルトはウェスカー、リアスにはマルク。内容はそれぞれの者への聴取だ。」
沈黙を切り裂くようにアーサー王が言った。その言葉に僕たちは頭を下げて答える。
「承知致しました。」
「はっ、承りました!」
「仰せのままに。」
「では頼んだぞ、こちらでも出来るだけ調査は進める。エドガー、人員の確保を頼む。」
「かしこまりました。」
アーサー王はそう言うと立ち上がり、エドガーを引き連れて会議室を出ていこうとする。そして、エドガーの開けたドアの所で立ち止まると、こちらを振り返り言った。
「何としても原因を突き止めるぞ。」
その言葉と共に会議室を出て行った。部屋に残された僕たちはアーサー王を見送ると、それぞれの今後について話し出した。初めに話し出したのはエルハルトだった。
「さて、一刻も早く聴取しなければならない……と言いたいのだが、ウェスカーに会うには二日ほどかかるな。」
「どういうことかしら?」
その言葉にリアスが問いかける。するとエルハルトはため息をつきながら答えた。
「アイツはお前たちが思っている以上に危険な奴だ。俺ですら面会に手続きが必要な程だ。禁錮三百年の刑期は伊達じゃない。」
その言葉に僕とリアスは息を飲む。ウェスカーの犯した罪については知っていたが実際に会った事は無い。しかし現魔法士団長のエルハルトがそこまで言う人物ということは、相当な人物なのだろう。
そう思っていると、次に口を開いたのはリアスだった。
「私も、マルク先生の聴取には最低一週間かかるわ。」
「学園の長期休暇ですね。」
僕がリアスの言葉に答えるように言うと、彼女は首を縦に振って頷いた。そう、今の学園は長期休暇の最中であり、教職員も休みに入っており王都内に居ない者も多い。マルクもその内の一人であった。
強制的に居場所を突き止めて聴取を行っても良いのだが、今回のアーサー王からの命令はあくまでも聴取だ。そこまでの強硬策を取るには理由が足りない。よってマルクが学園に帰ってくるのを待つ必要がある。
「それで?カインのほうはどうなのかしら?」
考え込んでいた僕に、リアスはそう問いかけてきた。
「会おうと思えば直ぐに会えるとは思います。ですが……」
そこまで言って言葉を一旦止める。そして、少し躊躇った後に言葉を続けた。
「ユナ博士が会おうと思わなければ、一生会えないでしょう。」
「……なるほどな。」
「確かに、彼女はそうね。」
僕の言葉に二人は納得したように答えた。それはユナ博士のことをよく知る二人には当然の反応だった。それを見て、僕は懐からあるものを取り出した。そして、中に入ったものを見せながら二人に言った。
「聴取の際にはこれをお貸しします。あの三人ならば、これを見れば直ぐに反応を示すと思います。」
「これが例のやつか……」
「なるほどね……」
それを見た二人の反応は、先程とは打って変わって厳しいものとなった。それは屍人もどきに嵌められていた人口呪物の残骸の欠片であった。それは砕け散ってもなお、禍々しい魔法術式の跡が残っていた。
僕はそれを再び懐にしまうと、立ち上がりながら二人に向けて言った。
「まずは僕がユナ博士の聴取に行ってきます。」
「あぁ、頼んだぞ。」
「カイン、よろしくね。」
僕は二人の言葉を背に受けながら会議室を後にしたのだった。
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王城を後にした僕はとある場所へと向かうために王都から南の森へと来ていた。その森は比較的魔物も少ないと言われている森だ。しかし、それには理由があった。僕が向かっている場所がその理由である。
「いつ来ても異様な光景ですね……」
森に入ってから数十分、たまに出会う魔物を撃退しながら辿り着いたのは他の人が見ても異様と思うような場所である。それは周りを豊かな木々に囲まれている中にポツンと建てられた、扉も窓もない一棟の建物だった。緑の多い自然とは対象的な灰色で無骨で建物が僕の向かっていた目的地、ユナ博士の研究所であった。
「会えるといいのですが……」
そう呟きながら僕は建物に近づいて行った。そしてそれに触れながら魔力を流して言った。
「お久しぶりです、ユナ博士。カイン・ノイマンです、今日は用事があって参りました。」
静かな森の中に僕の声が響き渡る。しかし、返事はおろか建物にも何の反応も無い。数分後待ってみたが、やはり状況に変化は無い。
「ダメ……でしたか。」
そう呟き、魔力を流すのを止めて踵を返そうとした時だった。スっと音もなく建物に線が入り、そこから扉が開くように壁が開いた。そして建物のどこからか声が聞こえてきた。
《入りたまえよ。》
「!?ありがとうございます。」
僕は一礼すると、開いた建物中へと足を踏み入れた。建物の中に入ると、再び音もなく壁が閉じた。そこは外見よりも異様と思える光景が広がっていた。乱雑に、しかも所狭しと置かれた魔法兵器や魔道具に、ケージに入れられた様々な魔物、そして常に魔力値を計測している機械。そして、それらの中央に一箇所だけ片付けられたスペースに置かれた作業台とデスクとチェア。そこに腰掛けながら何かを書き記している白衣を纏いモノクルを掛けた銀髪の女性が居た。彼女こそ今回の目的であるユナ・マクスヴェルだった。
「久しぶりだねぇ。君がこんなところに来るなんて、珍しいじゃあないか。」
「お久しぶりです、ユナ博士。本日はアーサー王の勅命により参りました。」
彼女はペンで動かす手を止めずに、こちらに声をかけてきた。僕もそれに答えると彼女は手を止めて顔を上げ、こちらを見て言った。
「アーサーの命令だと?」
その瞬間、銀髪に隠れていた耳が少しだけ顔を覗かせた。それは人間のものよりも長く特徴的な耳であった。そう、彼女は珍しいエルフという種族なのだ。普段は魔法により人間の耳と変わらない外見に見せているのだが、感情が昂った時などはそれが崩れることがある。
「ユナ博士、耳が戻ってます。それと、歳下とはいえ国王を呼び捨てにしないでください。」
「おっと、それはすまないねぇ。それで、アーサー王からの命令とは一体何なのかな?」
「これについてです。」
ユナ博士はカラカラと笑いながらそう言うと直ぐに耳を戻すと、座っていたデスクチェアに背を預けながら問いかけてきた。その言葉を聞いた僕は懐から《人口呪物》の欠片を取り出して見せた。それを見たユナ博士は一瞬目を丸くすると、直ぐにニヤリと口元を歪めて笑いながら言った。
「それは、《人口呪物》かな?」
「そうです。実は、現在ユナ博士にはこの《人口呪物》製造の疑惑がかかっています。これについて知っていることはありますか?」
僕はユナ博士の反応を見てそう言った。そして《人口呪物》について訊ねた。しかし、ユナ博士は僕の持っている《人口呪物》をマジマジと見つめるとポツリと呟いた。
「……美しくないねぇ。」
「え?」
僕は彼女の言葉に呆気に取られる。すると、ユナ博士はため息をつきながら話し始めた。
「その《人口呪物》、構成も雑だし、何より魔法術式への変換理論を間違えているねぇ。私ならばもっと美しく刻めるさ、こんな風にねぇ。」
「な!?ユナ博士!?」
そう言いながら近くにあった腕輪を作業台に置くと、指先に魔力を集め始めた。そして腕輪の上に魔法術式を刻んでいった。その様子に驚きの声を上げると、あっという間に腕輪に術式が刻まれた。それは屍人もどきの付けていた指輪とか同じ魔法術式だった。だが、屍人くもどきの指輪とは違い、その腕輪はより禍々しい気配を漂わせていた。その腕輪に言葉を失っていると、彼女は僕を見てフフッと笑うと腕輪を粉々に砕きながら言った。
「ま、こんなものは作るだけ無駄な代物だけどねぇ。」
「ユナ博士、なにをしているんですか!!」
彼女の言葉に我を取り戻すと同時に、ユナ博士に詰め寄った。しかし彼女はそんな僕を見てカラカラと笑いながら言った。
「言ったじゃあないか、私が作るならもっと美しく作るとねぇ。」
「だからと言って作ることはないじゃないですか……」
その様子に僕は諦めたようにそう呟くと、ユナ博士は再びペンを持ちながら言った。
「アーサー王に伝えておいてくれたまえ。私が作るならもっと出来のいい人口呪物《》を作るとねぇ。」
そう言うと、ユナ博士は真剣な顔でペンを動かし始めた。
「分かりました、協力ありがとうございます。」
僕はペンを動かすユナ博士にそう言ったが、彼女は返事をすること無く作業をし始めた。そんな様子を見ながら僕はため息をついた。こうなったユナ博士は他人の言葉はほとんど耳に入らなくなる。そのため僕は踵を返して建物の壁へと引き返した。
壁の側まで戻ってくると、先程と同じように音もなく壁が開いた。そこから外に出ようとした時だった。背後からユナ博士がこちらに声をかけてきた。
「その不完全な《人口呪物》には私も興味がある。もしもの時はまた訪ねたまえよ。」
その言葉に僕は振り返ると、ユナ博士はこちらに視線を向けて手を振っていた。
「ご協力感謝します。」
僕はそんな彼女に一礼すると建物から出た。そして、アーサー王に報告するために王都へと引き返し始めた。その途中、僕は振り返りユナ博士の研究所へと視線を向けた。見た目は先程と変わらない灰色の建物だが、その雰囲気は先程と違い禍々しいものと変わっていた。それを見ながら呟いた
「これでは、魔物も寄り付きませんね。」
僕は再び一礼をすると、王都へと足早に歩き出して行った。
ありがとうございました。
次回はウェスカーとエルハルトの回を予定しております。
お時間がありましたら、次回もよろしくお願いいたします。