44話:人工呪物《アーティファクト》
どうも、眠れぬ森です。
はい、繁忙期です、疲れます。
精神的に病んでることもあり、なかなか筆が進まずに申し訳ございません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
叫び声を上げながら拘束を解いた屍人もどきは、その眼球が腐り窪んだ瞳で俺を見つめてきた。そして右手に魔力をみなぎらせながらこちらへ飛びかかって来た。
「く、そ…」
しかし、俺は右目の熱と頭に響くヴェルディアナの声に動くことが出来なかった。対処しなければやられる、そう分かっているはずなのにまるで身体が動こうとしない。
「させるか!!」
その時だった、魔法陣で刀身に炎を宿らせたソードを振りかざしてジェームスが俺と屍人もどきの間に割り込んできた。そして魔力を宿らせた手首ごと屍人もどきを切り飛ばした。
しかし、それでも相手は怯むことなく残った左手に魔力を集め始めた。
「カインさん!!!」
「いいですよ!!!」
それを見たジェームスはカインに叫ぶ。するとその意図を察したカインは短く答える。それを聞いたジェームスはすぐさま屍人もどきに向き直ると、相手の頭上に魔法陣を展開して叫んだ。
「雷撃球!!」
その瞬間、魔法陣から極大の雷球が出現し屍人もどきを襲った。屍人もどきはそれに反応して魔力壁を展開するが、それも一歩遅かった。
「キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
耳障りな金切り声を上げる屍人もどきに、ジェームスは間髪入れずに肉薄した。そして、雷撃が止むと同時に魔法術式により炎を刀身に纏わせたソードで心臓を貫いた。
「カ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……ァ゛…………」
心臓を貫かれた屍人もどきは一度身体をビクンと震わせると、断末魔を上げながらゆっくりと仰向けに倒れて動かなくなった。
「……カインさん、終わりました。」
「ありがとうございます、ライアー君も無事ですか?」
屍人もどきが動かないことを確認したジェームスは、心臓に突き刺したソードを引き抜きながらカインにそう告げた。その言葉にカインは答えると、俺を見て問いかけてきた。
「あぁ、すまなかった。」
右目の熱と響くヴェルディアナの声が治まってきた俺は頷くと、ジェームスが倒した屍人もどきへと近づいた。彼女は心臓を一突きされ、真っ赤な鮮血を流しながら息絶えていた。普通の屍人ならば心臓を破られたくらいでは止まらないだろう。
そんな彼女を見ていた時だった。ふと切り飛ばされた右手に目を向けた瞬間、クレイの時と同じように指に嵌められていた指輪が崩れ去り塵となっていった。
「そんな!?まさか!!」
それに気がついたカインは突如驚きの声をあげた。そして崩れた指輪の残骸を拾い集め始めた。
「どうしたんだ?」
突然の行動に俺は首を傾げて問いかけた。しかし、その声にも気がついていないのか、拾い集めた指輪の残骸に魔法をかけると、白衣の懐からメモ帳を取り出して必死に何かを探し始めた。
「カインさん、どうかしたのですか?」
その様子にジェームスも驚きの声をかけると、カインはハッとした表情になりこちらを振り向いて言った。
「ライアー君、ジェームス君。僕はとんでもない勘違いをしていたようです。」
「どういう事だ。」
そんなカインの様子を見て恐る恐る尋ねると、彼は眼鏡を指で上げながら答えた。
「僕はこの指輪が人工的に作られた呪いの魔道具だと思っていましたが違います。これはそれよりも恐ろしいもの、人口呪物の可能性が高いです。」
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場所は代わり、俺たちは地下の研究施設からカインの研究室へと場所を移していた。カインは研究室へと戻るや否や、何も言わずにコーヒーを入れて飲み始めた。そんな彼に俺はいてもたってもいられずに問いかけた。
「それで、その人口呪物とは一体なんだ?」
俺の言葉を聞いたカインは黙ったままコーヒーカップをテーブルに置くと、先程地下の研究施設でも見せたリングケースに入った指輪と、屍人もどきがつけていた塵となった指輪の残骸を見せてきて言った。
「僕は最初に、この指輪は魔力強制解放の術式が込められた呪いの魔道具と言いましたね。」
「あぁ、確かにそう言ったな。」
カインから受け取った研究報告書にもそう記載されているのを確認している。ジェームスに視線を移すと、彼も頷いて答えた。それを見て、カインは真剣な顔で問いかけてきた。
「ここで質問ですが、そもそも呪いの魔道具とはどのような魔道具かご存知ですか?」
「……」
「禁忌の魔法術式が刻まれた魔道具…ですか?」
そう聞かれた俺は言葉に詰まる。それを見てジェームスが答えた。それに対してカインは頷くと話を続けた。
「その通りです。しかし現在においては禁忌とされる魔法を使うための術式が刻まれた魔道具のことの他、使用者に悪影響を及ぼす魔道具のことも言います。また禁忌の魔法は多々ありますが、今回の場合は魔力強制解放がそれに当たります。」
そう言いながらリングケースに収められた指輪を手に取りこちらへと見せてきた。そして、今度は集められた指輪の残骸を見せながら話してきた。
「今回の屍人もどきがしていた指輪、これに刻まれている魔法術式はこの指輪と同じです。しかし、性質の悪さは圧倒的に屍人もどきがしていたほうが悪い、人口呪物と呼ばれるものです。」
「それで、その人口呪物とは呪いの魔道具とはどう違うのだ?」
カインの話を聞き、俺は疑問に思っていることを問いかけた。刻まれている魔法術式が同じであれば名称を区別する必要がないはずである。すると、カインは神妙な面持ちで答えた。
「…人工的に作られたものを含めて呪いの魔道具は厄介な代物ですが、所詮は魔道具です。物理的に壊してしまえば効果は切れます。しかし人口呪物は違います。それは使用者と同化し、使用者が死ぬその時まで効果を発揮し続けます。いえ、発揮する為の魔法術式《束縛》が刻まれていると言った方が正しいでしょう。」
「そんな……いや、それはおかしいです。普通ならば一つの道具に刻める魔法術式は一つのはず。そんなことは有り得ません。」
カインの言葉を聞いてジェームスが絶句する。しかし、すぐに彼は反論した。確かにジェームスの言う通り、一つの道具に対して刻める魔法術式は一つだ。これは魔法同様に、二つの術式が相反し合って効果が現れないからだ。
しかし、カインはジェームスの言葉を聞きながらコーヒーを飲み干すと、ゆっくりと語り始めた。
「その通りです。普通に刻むのならば二つの術式を一つの道具に刻むことは不可能です。ですが、二つを組み合わせて一つの術式に出来るとしたらどうでしょうか?」
「なに……」
「そんなまさか……」
カインの言葉に俺とジェームスは言葉を失う。そんな俺たちの様子にカインも表情を強ばらせながら言った。
「こんな事が出来る人はそうそう居ません。ですが、僕は三人知っています。国家特級魔法士にして元魔法研の統括責任者のユナ・マクスヴェル博士、元・王立魔法士団員で現在は国家反逆罪で服役中のウェスカー・グリントン、そして魔法学園の教師をしているマルク・ノックスの三人です。」
「つまり、その三人が関わっている可能性が高いと?」
カインの話を聞いた上で俺は彼に問いかけた。しかし、カインは首を横に振って答えた。
「それは分かりません。仮にこのセリエス王国外から持ち込まれたものであるとすれば情報がありませんから。」
「なるほど、確かにそれではあまりにも情報が少ないな……」
カインの言葉にそう答えると、俺たちはしばらく考え込む。部屋に静寂が訪れるが、それを切り裂くようにカインが話し出した。
「ここで考えていても始まらないですね。一度先程の三人について、アーサー王とリアスに聞いてみます。」
「分かりました。では、オレのほうでは指輪の出処を探ってみます。」
その言葉を皮切りにジェームスも話し出した。俺はそんな二人を見て問いかけた。
「俺はどうすればいい?」
すると、二人は一瞬キョトンとした顔をしたと思うと、直ぐにジェームスがいつもの胡散臭い笑みを浮かべて話してきた。
「とりあえず、ライアーは今のところ普段通りでいいよ。」
「何故だ?俺にも出来ることがあるだろう?」
ジェームスの口から出た予想外の言葉に若干の苛立ちを魅せながら再度問いかける。しかし、彼は俺の方に近寄ってくると頭をわしわしと撫でながら言った。
「無理するな、ここ数日調子が悪いんだろ?ここはオレたちに任せなよ。」
「そうですよ。先程の動きも見ていましたが、屍人もどきとライアー君はどこか相性が悪いようですからね。今は休んでいてください。」
「……分かった。」
そんな二人の言葉に反論もする事が出来ず、ただ首を縦に振ることしか出来なかった。
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「クソッ!!また失敗か!!」
そう叫びながら中途半端に魔法術式が刻まれた指輪を投げ捨てた。もう何百回と繰り返している作業ではあるが、今までに成功したのはたったの五つだった。連日行っている作業と、思っていたよりも難解な術式に頭がおかしくなりそうになっていた。しかし、その度に壁に貼られた一枚の写真に目を向ける。その写真は何度もナイフで突き刺した後があり、顔のところは既に誰かも分からない状態であった。
「クソッ!!!」
それを見て既にボロボロになった写真にナイフを突き刺す。しかし、それでも心のモヤは取れなかった。そこで少し落ち着こうと、水差しに入った水をコップに注ぎ飲もうとした時だった。
「なんや、随分と荒れとるやないか。」
「!?」
突然、自分以外誰もいなかったはずの部屋に何者かの声が響く。その声に驚きコップを手から落としながら辺りを見回すと、窓の額縁に座る人影が目に入った。その人物は顔を仮面で覆った男だった。その男はテーブルの上に積み上げられた指輪を一瞥すると、こちらに問いかけてきた。
「進捗はどや?えらい苦労しとるようやけど。」
「い、いや、大丈夫だ。段々とコツが掴めてきた。約束の日までには数は揃えられる。」
震える声を必死に抑えて答えると、仮面の男はクククッと笑って窓の額縁から降りるとこちらへ向かって歩いてきた。本来であれば叫び声を上げて逃げ出したくなる状況だが、何故か声も出ず体も動かなかった。
仮面の男は正面まで歩み寄ってくると、懐から一枚の紙を取り出した。それを見て自分の顔から血の気が引くのを感じた。寒くないのにも関わらず体が震え、歯からガチガチと音が鳴る。そんな様子を見ながら仮面の男は低く冷たい言った。
「あまり嘘はつかんほうがええで。行き詰まっとんのは知っとるんや。」
その言葉を聞いた瞬間、仮面の男に対して膝を着いて叫んだ。
「す、すまない!!だが本当にあと少しなんだ!!せめて、せめてあいつが居てくれればすぐに終わったんだ……あと一人……あと一人居れば!!」
そう叫びながら必死に頭を床に擦り付ける。確かにコツは掴んだしやり方も分かった。だが一人では出来ることに限界がある。あと一人でもサポートが居れば確実に成功するはずだった。しかし、頼りになるあいつはここには来られないし、こちらからも行けない。どう考えても手詰まりだ。
「なんや、人手が欲しいんか?やったら始めからそう言えや。」
仮面の男の言葉に顔を上げると、彼はしゃがんで視線を合わせてきた。そして、先程のものとは別の紙をこちらに見せてきた。
「ちょうどええのが近くにおるやろ?ソイツに協力してもろたらええやないか。」
「えっ……!?!?」
仮面の男の言葉に一瞬戸惑ったが、紙に書かれた内容を読んで驚いて言った。
「そんな……それは出来ない……それだけはだめだ……」
最後に残った良心で必死に抵抗する。その紙には越えてはならない一線が書かれていた。しかし、それを見て仮面の男は笑いながら言った。
「あんさんはもう堕ちるところまで堕ちとる。今更罪が一つ増えたところで変わらんで。」
「っ……」
その言葉に自分の中の何かがガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。そして、一度目を閉じて再び開けると、その瞳は澱んでいた。
「成功すれば……約束は守るんだな……」
仮面の男にそう問いかけると、彼はククッと笑いながら答えた。
「当たり前や。ワイは約束を守る男や。」
その言葉で決心がついた。そして、もう戻れないかもしれないとも思った。しかしそれでもやるしか無かった。
「一人でも五つ成功している。その時が来るまで、一人でも進める。」
そう言うと仮面の男から視線を外して机に向い作業へと移った。
「約束は守るで、どんな形でもな。」
その言葉を残して仮面の男は部屋から消え去った。しかし、その言葉は耳に届く事は無かった。
ありがとうございました。
ライアーに起こる異変と謎の指輪、そして再び現れる仮面の男とは?
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。