43話:屍人《グール》もどき
どうも、眠れぬ森です。
なかなか筆が進まずに申し訳ありません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
長期休暇が半分を過ぎた。人工的に作られた呪いの魔道具の一件以降、俺は毎日のようにクエストを受けていた。あの指輪の影響で屍人のようになった人間と対峙した記憶、その時に感じたヴェルディアナの気配、そしてイザベラに言われた言葉。それらが混じり合い俺はじっとしている事が出来なかった。
「くそ…」
そう吐き捨てるながらシムエスMk.IIのスコープを覗く。その先には五匹のヘルハウンドの群れが居る。その内の一匹に照準を合わせると、魔力を込めながら引き金を引いた。
ダァァァン!!!
俺の放った銃弾はヘルハウンドの頭を撃ち抜き一瞬のうちに絶命させる。そこで俺の攻撃に気がついた残りの四匹がこちらに振り返ると、牙を向きながら走ってきた。
「グルルァァァ!!!」
鳴き声を上げながら向かってくるヘルハウンドに再度照準を合わせて引き金を引く。
ダダダダァァァン!!!
「グキャアン!!」
「キャイィン!!」
クイックショットを併用した銃撃で残りの四匹にも銃弾を撃ち込む。ヘルハウンドは断末魔を上げながら倒れる。しかし、残りの一匹を貫くはずだった銃弾はヘルハウンドの耳を掠めた。
「チッ!!」
「ガアァァァ!!」
一瞬体制を崩したヘルハウンドだったが、素早く体制を整えるとこちらへ飛びかかってきた。俺はすぐさま横に転がり回避すると、武器をブラックホークへと切り替えて再び狙いを定め、引き金を引いた。
ダァァン!!
「グギャァァン!!」
飛びかかろうとしてきたヘルハウンドは頭を貫かれて断末魔を上げながら倒れ込んだ。そして辺りに静寂が広がる。
俺は地面にひれ伏したヘルハウンドを見ながらブラックホークを持った右手に視線を向けた。先程のシムエスMk.IIでの銃撃で、俺は四匹を仕留めるはずだった。だが、結果は一匹外してしまった。以前の俺ならば確実に仕留められた相手だっただろう。
更に回避した時に少し切ったのか、頬に鋭い痛みと血が流れるのを感じた。こんなミスも最近は全くと無かったと言っていい。
「くそ…」
一つ一つのミスは小さいものだ。しかし今日に限ってはそれが重なっている。そんな自分に腹が立ちそう吐き捨てると、ヘルハウンドの素材を剥ぎ取りギルドへと向かっていった。
「お疲れ様です、ライアーさん。最近積極的にクエストを行っていますね。」
ギルドに帰ってきた俺はクエスト達成報酬を受け取るためにカウンターへとやって来ていた。すると、受付の女性は依頼書と素材を受け取りながらそう声をかけてきた。確かに長期休暇中ではあるが、ほぼ毎日のようにクエストを受けている。冒険者でも毎日クエストを受けることはとても珍しいので、学生の俺が行っていることは相当目立っているようだった。
「まぁ、少しな。」
そう言いながらクエスト報酬を受け取ると、朝と同じように依頼書が貼られたボードへと歩き出した。すると、突然後ろから声をかけられた。
「やぁ、ライアー。随分と張り切っているじゃないか。」
「…ジェームスか。」
胡散臭い笑顔で目を細めながら声をかけてきたのはジェームスだった。彼はわざとらしく手を挙げながらこちらに近づいてきた。そして俺の頬についた傷を見ると、少し驚いた様子で話してきた。
「珍しいじゃないか、ライアーが怪我するなんて。」
「こんな日もある。それより用件はなんだ。」
俺はそんなジェームスを一瞥すると、ボードに目を移してぶっきらぼうに問いかけた。すると、ジェームスは俺の方に近寄ってくると周りに聞こえないように耳元で囁いた。
「例の指輪の件さ。」
「…なんだと?」
その答えにボードを見ていた視線をジェームスに送る。彼はニコリと笑みを浮かべると、ポケットから一枚の紙を取り出して言った。
「これは昨日、ライアーが別のクエストを受けている時に発注されたものだけど、内容が屍人の討伐だったのさ。それで俺が受けて行ってみたんだ、すると……」
「まさか、この間の奴と同じだったのか?」
「ご名答、流石はライアーだ。」
そう言うと、ジェームスはその紙を俺に差し出してきた。受け取り開いてみると、それはカインの名が入った魔法研への立ち入り許可証だった。
「どういうことだ?」
俺はジェームスを睨みながら問いかけた。しかし、ジェームスそんな俺の視線をものともせずに答えた。
「詳しく知りたくないかい?あの屍人もどきについてさ。」
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その日の午後、俺はジェームスと共に再び魔法研へと足を運んでいた。目的は勿論、あの屍人もどきについてだ。
ジェームスと共に入口で許可証を見せて中に入ると、いつもはカインの研究室へと向かうのだが今日は何故か別の棟へとジェームスは足を進めた。
「おい、研究室に行くんじゃないのか?」
不思議に思いそう尋ねると、ジェームスはこちらを振り返りながら答えた。
「あんなものを一般研究棟に置いておけるわけ無いじゃないか、今日はこっちだよ。」
そう言いながら足を進めた。俺は彼の後に着いてしばらく歩くと、不思議な建物が見えてきた。それは小さな小屋のようだったが、扉が見たことも無いほど強固な防御魔法が張り巡らされており、その前には守衛と思われる二人の魔法士が立っていた。
「止まれ、何者だ!!」
ジェームスと共に歩を進めていると、二人の守衛のうちの一人が魔法陣を展開しながらそう叫んだ。それに反応して俺も武器を抜こうとしたが、ジェームスはそれを手で制すると朱栄に向かって言った。
「オレはジェームス・ハルトマン、こっちはライアー・ヴェルデグランだ。オレたちはカイン・ノイマン博士に呼ばれて来た。」
そう言いながらポケットから一枚の紙を取り出すと守衛に渡した。もう一人の守衛がそれを受け取り、ジェームスと俺、そして紙を交互に見ると頷いて言った。
「確認取りました、通行を許可します。」
その言葉に魔法陣を展開していた守衛は魔法陣を閉じ、代わりに扉に張っていた防御魔法を解いて扉を開けた。
「さ、行こうか。」
扉が開いたのを確認したジェームスは俺にそう言うと小屋のような建物の中に入っていった。
建物の中に入ると、そこには地下へと続く階段があり、俺はジェームスの後に続いてそれを降りていった。
「ここは一体なんなんだ?」
先を行くジェームスにそう問いかけると、彼はこちらを振り向きながら答えた。
「ここは魔法研の中でも特定の人しか入ることの出来ない研究施設さ。主に新種の魔物や呪いの魔道具の研究に使われているんだよ。」
そう言いながらしばらく階段を降りていくと、床に魔法陣が書かれた部屋へとたどり着いた。ジェームスはその部屋で立ち止まると、俺の方を振り返って言った。
「それじゃあ移動するから、俺の傍に来てくれないかな?」
その言葉に従い彼の横で立ち止まると、ジェームスは懐から小さいナイフを取り出して指を少し切った。そして切り口から滲み出た血を魔法陣へと垂らすと、その魔法陣が輝き出した。
「なんだ!?」
「大丈夫だから落ち着いて。」
突然の事で取り乱す俺にそう声をかけると、部屋の中がどんどんと魔法陣の輝きで埋め尽くされていった。一際激しい輝きを放つと、俺はその眩しさに腕で目を覆い瞑った。そして一瞬の浮遊感を感じた後、ジェームスが声をかけてきた。
「さぁ、到着だ。」
その言葉に恐る恐る目を開けると、そこは先程居た部屋ではなく、白い壁に多数の防御魔法のじゅつしきが刻まれた研究施設へと変わっていた。
「これは一体…」
「待っていましたよ、ジェームス君にライアー君。」
混乱している俺だったが、聞き馴染みのある声が俺たちに声をかけてきた。そちらへと視線を向けると、白衣を着たカインが立っていた。
「遅くなりました、カインさん。」
「いえいえ、僕が呼んだのですから気にしないでください。」
ジェームスの言葉にカインは答えると、今度は俺の方を見て話しかけてきた。
「ライアー君も忙しい中、申し訳ありませんでした。」
「それはいいが、さっきのは一体なんだ?」
そう言いながら頭を下げるカインだったが、俺はそれよりも先程の出来事で混乱しており二人にそう問いかけた。すると、ジェームスが胡散臭い笑みを浮かべながら答えた。
「あれは古代の聖遺物。あの魔法陣に血を垂らすと特定の場所へと転移できるのさ。知っているのはごく一部の人だけだから、無闇矢鱈に口にしないでね。」
「そうでしたね、ライアー君は聖遺物を見るのは初めてでしたね。あれの事は後日詳しく説明しますので、どうか内密にお願いします。」
「分かった。」
「さて、今日呼んだ内容を説明します、と言っても見てもらた方が早いでしょう。こちらへどうぞ。」
俺はジェームスとカインの言葉に頷くと、俺たちはカインに促されて施設の奥へと進んだ。すると、そこには一台のベッドと様々な研究機材が並べられた部屋に着いた。そのベッドの上には何者かが横たわっており、チューブやコードが体から伸びて機材へと繋がれていた。
「これが今日見て欲しかったものです。」
「っ!?」
カインはそう言うとベッドに横たわった人物にかけられたシーツを捲った。そこに居たのは体の至る所が腐り落ちている女性の屍人もどきだった。しかも、胸の上下動を見るに生きているようだ。
「これは…」
「昨日オレが捕縛した屍人もどきだよ。」
俺の呟きにジェームスが答える。確かに昨日は屍人の討伐任務を受けていたとは言っていたが、まさか捕縛しているとは思ってもいなかった。
俺はベッドに横たわる屍人もどきを見ながらカインに問いかけた。
「それで、これを俺に見せてどうしたかったんだ。」
「ライアー君に見て欲しかったのはこれです。」
そう言ってカインは一冊の資料を渡してきた。それに目を通すと、この女性屍人もどきのプロフィールだった。
「幸いな事に、彼女は身元が分かりました。彼女は三級魔法士の資格を持つ者で、昨年の魔力測定の結果も資料にある通りです。」
その言葉に資料を読んでいくと、魔力測定の値が書かれていた。しかし、俺はその横に書かれた現在の魔力値を見て驚愕した。
「魔力量が二倍になってるだと!?」
「その通り、彼女は現在保有しているはずの魔力が倍に上がっています。しかも、潜在魔力量を超えた常用魔力量です。これはハッキリ言って普通の人間では有り得ません。」
そう言うカインの言葉には驚愕の色が見えていた。それもそのはず、彼女は言うなれば自身の限界以上の魔力を保有しているということなのだ。
「普通なら、魔力に体が耐えきれずに崩壊するのではないですか?」
「その通りです。現にこの腐敗している箇所は体の崩壊が原因です。外傷や壊死が原因ではありません。」
カインの話を聞いていたジェームスも驚きの表情で問いかける。すると、その問いに彼女の腐敗した腹の一部を指さしながらカインは答えた。そこを見ると、確かに不自然な傷跡であった。外傷ならば多少なりとも傷をつけたものの後が残りの、壊死による腐敗であれば周りの組織にもダメージがあるはずだ。しかし、彼女の場合はそこだけだぽっかりと腐り落ち、周りの皮膚などの組織は人間と変わらないように見える。そして第一に、その腐敗した箇所から見える内蔵は綺麗な色をしていた。
「これが呪いの魔道具の効果か…」
ジェームスは言葉を絞り出すように言った。俺も改めてその凶悪な効果に息を飲む。すると、その様子を見ていたカインは次にリングケースを取り出して俺たちに見せてきた。そこには以前倒した屍人もどきのしていた指輪が収められていた。それを取り出しながらカインは話し始めた。
「次にこの指輪がですが、前回の屍人もどきがしていたものと、彼女がしていたものを比べてみました。デザインは違いましたが、刻まれている魔法術式は同じ強制魔力解放でした。しかし、術式の構成が以前よりも簡略化され無駄が少なくなっていました。」
「それはつまり、何者かが未だ研究し、作り続けているということか…」
「クソッ!!どういう事だ!!」
俺の言葉にカインは苦い顔で頷く。それを見て普段は激情をあまり面に出さないジェームスが叫ぶ。それもそのはず、あれだけ凶悪な魔術道具が未だ作られ続けているということは、この国を脅かす存在が居るということだ。
「カイン、その指輪の製造者は特定出来ないのか?」
そうカインに問いかけるが、彼は難しい顔で答えた。
「使われている指輪が一般的に流通しているものが使われている為特定は難しいかと。術式の筆跡は同じなのでそこから辿れば特定出来なくはありませんが、魔法術式を刻む者はセリエス王国内だけではありませんのでかなり時間がかかるでしょう。」
「そうか…」
カインの言葉にそう呟くきながら、俺は屍人もどきへと視線を向ける、その時だった。彼女の目がうっすらと開き、濁った瞳が俺を捉えた。そしてほんの僅かな声で呟いた。
「……ヴェル…ディ……アナ………」
それはカインにもジェームスにも届かない小さなちいさな呟きにだった。しかし、その声は俺にハッキリと聞こえてきた。その瞬間だった。
「!?!?ぐあぁぁぁぁぁぉ!?!?」
突然右目に激しい熱を感じた。それは燃える灼熱のような熱だった。
「ライアー君!?」
「ライアー!?どうしたんだい!?」
突然の事にカインもジェームスも驚きながら声をかけてくる。しかしその瞬間、屍人もどきに繋がれていた機材からけたたましい警報が鳴り響いた。
「なんだ!?一体何が起きたんだ!?」
「分かりませんが、ジェームス君はライアー君を連れて待避を!!」
二人がそう言った瞬間だった。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
耳障りな叫び声と共にベッドに横たわっていた屍人もどきが暴れ始めた。そして拘束具を手足の肉ごと引きちぎって起き上がった彼女と目が合った。その瞬間、俺の頭の中にあの声が響いた。
《全て、全ての敵を殺しましょう。》
ありがとうございました。
人間を屍人もどきに変化させる指輪の正体とは?そして再びライアーに語りかけるヴェルディアナの意図は?
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。