42話:動き出した敵
どうも、眠れぬ森です。
遅くなりましたがサラリーマンなので勘弁してください…
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
目を開けると、そこには瓦礫の山が広がっていた。窓枠や棚の残骸が散乱しているので、恐らくそれは建物であったと伺える。それと同時に、その瓦礫を彩る真っ赤な鮮血が見える。
「どういう事だ、――――――――!!」
立ち尽くしていると、突如背後から声をかけられた。振り向くと、そこには男性と思われる人影があった。顔はハッキリと見えないが、声にかなりの怒気が含まれていた。
「何故…何故こんな事を!!こんな事をする為の力じゃなかっただろう!!」
彼は瓦礫の山の上に立つ俺を見上げながらそう言った。しかし、その言葉は俺には届かない。いや、俺の体の主には届かない。
「つまらない事を言いますね、では何の為の力なのですか?」
「それは……」
「少なくとも、あなたともう一人以外はそう思ってはいませんでした。」
「なっ!?」
この体の主は男性を見下ろしながらそう言うと、右手に魔力を集め始めた。それを見て男性は酷く驚いた声を上げると同時に、彼自身も魔力をみなぎらせた。
その瞬間、視界が眩い白い光に包まれていき、そこで俺の意識は途切れた。
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「ぐっ!?!?」
右目に感じる激しい熱で目が覚めてベッドから飛び起きる。そしてそのまま洗面台まで行くと、右目に水をかけて冷やしていく。数分そうしていると、徐々に熱が引いていくのを感じた俺は顔を上げて備え付けられた鏡を見た。そこに映った右目が爛々と赤く輝く俺の顔にため息を吐いた。
「またか…」
ジェームスと共に屍人を調査してから数日が経った。あの時、屍人が付けていた指輪を見てクレイを思い出した時、一瞬だが俺の中でヴェルディアナが語りかけてきた。
「全ての敵を殺せ…か……」
そう言い残してヴェルディアナの気配は消えた。しかし、それ以降こうして不意に右目が燃えるように熱くなる事が起こるようになった。更には以前に見た誰かになる夢を見る頻度も増えた。原因はヴェルディアナなのは間違いないが、彼女が何をしたいのかが分からない。
混乱した頭で鏡の中の自分を見つめながら拳を握りしめる。そこに映るのは確かに俺自身なのだが、その顔は恐怖・焦燥・嫌悪と言った負の感情で溢れた顔をしている。そして、それは俺の中にいるヴェルディアナとも重なって見えた。
「くそ…」
そう吐き捨てるとクローゼットから着替えを出して着替え始める。外はまだ日が昇りきっておらずに薄暗いが、このまま部屋にいても気分は晴れない。そこで少し早いがギルドへと足を運ぶことにした。
着替えを終えて右目に眼帯を付ける。幾分か弱まった右目の輝きは眼帯のおかげで目立たなくなった。これで大丈夫だろうと思い部屋を出ると、俺に声をかけてくる人物がいた。
「やぁ、今日も朝早いみたいだね。」
「ジェームス…」
そこに居たのはジェームスだった。まだ夜明け前とも言ってもいい時間、寮に残っている生徒も起き出すには早い。それなのに彼はまるで俺が起きていたのを知っていたかのようにそこに立っていた。
「一体何の用だ。」
「つれないねぇ。可愛い後輩は朝の挨拶も返してくれないのかい。」
そんなジェームスを見ながらぶっきらぼうに問いかけると、彼は肩を竦めながら答えた。そんなジェームスに俺は目覚めが悪かったこともあり無視して横を通り抜けようとした瞬間、彼はポツリと呟いた。
「この間の屍人の件、魔法研から報告が来てるよ。」
「…なんだと?」
俺はその言葉に思わず振り返りながら言った。すると、ジェームスは胡散臭い笑みを浮かべながら答えた。
「知りたかったらまずは挨拶を返して欲しいな。」
そう言いながらニコニコと笑みを浮かべる彼に対し俺は数秒の間を置いた後、ため息を吐きながら答えた。
「……おはよう。」
「うんおはよう。じゃあ、早速行こうか。」
ジェームスはそう言うと俺を追い越して出口へと向かって歩き出す。
「行くって、こんな早くに何処へだ?」
そう問いかける俺に対し、ジェームスは足を止めずにこちらを振り返り答えた。
「決まっているじゃないか、魔法研にだよ。」
歩いているうちに夜が明けて朝の日差しがセリエスの街を照らし始めた頃、俺とジェームスは魔法研へと足を運んでいた。
入口までやってくると、白衣を来た見知った顔の男性が立っており、こちらに気がつくと手を振ってきた。
「またお会いしましたね、ライアー君。それに、ジェームス君もお久しぶりです。」
「カインさん、お久しぶりです。」
そこで待っていたのは魔法研の魔力研究機関・魔力調査部門の統括責任者であるカインだった。彼はこんな朝早くにも関わらず俺たちを出迎えてくれた。
「ここには本当によく来るな。それに、こんな朝早くから大変だな。」
俺は若干の嫌味を込めて言ったのだが、カインはそんなことを気にせず真剣な目で話した。
「えぇ、昼間ですと職員が多いので。アレはあまり多くの者の目に晒したくはありませんので。」
「まて、どういうことだ?」
微妙に噛み合わない俺とカインの会話に違和感を感じて問いかける。すると、そんな俺の様子にカインは少し驚きの声を上げた。
「あれ?ジェームス君から話を聞いているのではありませんか?」
「いや、詳しい話は特には。屍人について魔法研から報告があったとしか。」
「そうだったんですね。」
俺の言葉にカインは納得の声を上げると、かけていた眼鏡を直しながら説明を始めた。
「実は、今日来てもらったのはライアー君たちが倒した屍人についての報告の他にもう一つあります。」
「もう一つだと?」
「えぇ、屍人がしていた指輪についてです。」
その言葉に心臓が大きく跳ねるのを感じた。そして、胸の奥でザワザワと何かが蠢く。間違いなくヴェルディアナだ。
「ライアー、大丈夫かい?」
それを懸命に抑えていると、その様子を見たジェームスが声をかけてきた。その瞬間、俺の中で蠢いていたものが収まった。
「…問題ない。」
そう答えると、俺はカインに向き直って問いかけた。
「それで?報告とは一体どんなものだ?」
「ここでは何ですから私の研究室で話しましょう。」
そう答えたカインは俺たちをいつもの研究室に案内してくれた。中に入るとコーヒーを入れつつ俺たちに話しかけてきた。
「まずは屍人についての調査結果からでいいですか?」
「あぁ、構わない。」
カインの言葉に頷くと、彼は一冊の報告書のとあるページを開いてこちらに渡してきた。それを受け取り目を通すと、そこには信じられない事が書かれていた。
「あれは屍人では無い…か。」
「そう、あれは生きていたものです。」
俺の反応にカインはコーヒーカップから口を離して答えた。
「ライアー君たちが倒したものとその場に落ちていた肉片を解析したところ、元は人間であった可能性が非常に高いです。いや、ほぼ確定と言ってもいい。しかし、あれは屍人ではありませんでした。」
「どういうことだ?」
カインの説明に俺は首を傾げながら問いかける。すると、カインは別のページを開くように促して話しを続けた。
「屍人とは人間が何らかの要因で死亡した際に体内で魔法が発動し、それがエネルギーとなり動く魔物となった人間です。しかし、動いてはいますが生命活動は停止しているので、時間が経てば肉体は腐りますし概ね人間らしい行動は取れなくなります。」
「それは知っている。俺たちが見た奴も肉体が崩壊して人らしい行動はしていなかった。」
そう言うと、俺は数日前に見た奴の顔を思い出した。肉が腐り落ちた顔に蛆が沸いた胴体。今思い出すだけで吐き気がしそうな見た目であった。しかし、俺の言葉にカインは首を横に振ると、眼鏡を直しながら答えた。
「確かにライアー君たちが見たものは屍人に類似しています。しかし、決定的に違う事が三つありました。」
「三つ?それは一体なんだ?」
「一つ目は肉体です。屍人であれば生命活動が停止しているはずですが、あの個体はライアー君たちに倒されるまで生きていたようです。肉体にダメージはありましたが、臓器等の鮮度は屍人が比にならないほど新鮮でした。」
「なるほどな。それで、二つ目はなんだ?」
「言葉を発し魔法を使った点です。通常の屍人であれば呼吸をしていませんので言葉を発することはありません。したとてしも呻き声程度です。さらに、体内の魔法がエネルギーとなる屍人は魔法を使うことは絶対に無いのです。」
そこまで言うと、カインは休憩するかのように再びコーヒーに口を付ける。その様子を見ながら俺はチラリとジェームスのほうを見て言った。
「どう思う?」
「カインさんの言っている事、それにあれは屍人では無いという意見にはオレも賛成だよ。むしろ、あれが屍人と言われる方が信じられないね。」
その言葉に少し考える。屍人では無いとしたらいったいなんなのだろう。自分の中で疑問が疑問を呼びぐるぐると回る。
「カイン、三つ目の理由はなんだ?」
俺はいてもたってもいられなくなりカインに問いかけた。すると、カインは空になったコーヒーカップに新しいコーヒーを注ぎながら失礼しましたと言ってから答えた。
「三つ目の理由ですが、あの個体に見られた損傷は屍人に見られる腐敗とは違う損傷です。あの傷は内部からのダメージで負った傷が壊死した損傷でした。つまり……」
そこまで言うと、一呼吸置いてカインは静かに言った。
「あの個体は紛れもなく人間です。」
「なんだと!?」
「まさか…ね。」
カインの言葉に俺もジェームスも言葉を失う。屍人ではないと思ってはいたが、まさか人間だとは思ってもいなかった。
だが、ここて一つの疑問が出てきた。それは何故人間があのような姿になってしまったのかだ。あの姿は最早人間と呼べない姿だ。
「カインさん、あれが何故あのような姿になってしまったのか。理由は分かっているのですか?」
俺よりも早くジェームスがカインに問いかけた。すると、カインは棚から一つのリングケースを取り出して蓋を開けた。
「これは…!?」
そこに入っていたのはあの屍人のようになってしまった人間が付けていた、クレイがしていたものと同じ指輪だった。
「カイン、どういうことだ。」
その指輪を見つめながら俺はカインへ問いかけた。その言葉にカインは慎重に指輪を取り出しながら答えた。
「全ての元凶はこの指輪だと思われます。これは魔法術式が刻まれた魔道具です。恐らく、これに刻まれた術式を使用者が発動させたことが原因でしょう。」
そう言いながら指輪を俺たちに見せてきた。すると、その指輪の外縁には何らかの魔法術式が刻まれているのが見えた。しかし、その術式は見たことの無い刻まれ方をされていた。
「この術式は一体…」
「これは強制魔力解放の術式です。ライアー君たちなら聞いたことがあるでしょう。」
「っ!?」
俺の呟きに答えたカインの言葉を聞いて、記憶の奥にしまい込んでいた奴の顔が思い浮かんだ。
マルコ・スティルブ。クレイの父親にしてスティルブ伯爵家当主だった男だ。俺たちは魔法士至上主義を掲げた奴の策略に嵌り、戦うこととなった。その時に使われた呪いの魔道具の効果が強制魔力解放だ。
「まさか、そんなものがセリエス王国内に幾つもあるなんて…」
カインの話を聞いたジェームスは神妙な面持ちでそう呟いた。確かにジェームスの言う通り、呪いの魔道具なんてものはそう簡単に手に入れることが出来る代物では無い、ある意味希少価値の高いものである。そんなものがクレイとマルコに続き、こんな短期間で何個も出てくるのは不自然だ。
すると、そんな俺たちの表情を見たカインが指輪をリングケースに戻しながら話し始めた。
「僕もこれほど立て続けに呪いの魔道具が使われるのは不自然に思い、さらに詳しく調査しました。すると、このリング自体は何の変哲もない現代に作られたリングであることが分かりました。そして、この術式の刻み方も現代の方式に則った刻み方がされています。」
その言葉に、俺とジェームスの頬に一筋の冷や汗が流れるのを感じた。まさかそんなことがある訳ないと心の中の俺が叫んでいる。しかし、目の前の現実はそうもいかない。
「ということは、その呪いの魔道具は…」
ジェームスが緊張の混じった声でカインに問いかける。その様子を見ながらカインは頷いて答えた。
「これは人工的に作られた呪いの魔道具です。」
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「ここも戸締りオッケーっと。」
長期休みに入り、人気のない学園内を私は戸締りをしながら見回りをしていた。生徒が休みとはいえ、教職員は通常通り仕事がある。学園長である私もその通りだ。しかし、授業が無いので遅くまで残る教職員は少なく、ターニャのような一部の教師は定時になるとすぐに帰ってしまう。
「…まぁ、仕事さえやってくれれば文句は無いわ。」
一瞬考えた後そう呟きながら見回りに戻る。時刻は既に夜と言える時間になっており、私以外の人気は無い。そう思った矢先、とある教室からコトリと物音がした。私以外にまだ残っている先生がいるのだろうか?そう思い物音のした教室へと足を運ぶ。
物音がした教室の扉の前まで来ると、そこは魔法技術科の実習質だった。私は扉を開けて中に向かって声をかけた。
「誰か残っているのかしら?」
「あ、が、学園長!?お、お疲れ様です…」
扉を開けた先に居たのは魔法技術科の担当科長であるマルク・ノックスだった。マルクは何かをしていたらしく、机の上は魔法術式を刻むための道具や様々なメモ用紙でいっぱいだった。私はそれを見て彼に話しかけた。
「こんな遅くまでどうしたのかしら?何かの実験?」
「え?あ、そ、そうです!せ、生徒の休みが終わってからの教材の下調べです!」
そう問いかけると、彼は少し慌てたように答えた。それにしても、こんな時間まで残っているのは流石に遅すぎる。仕事とはいえ、ハマりすぎるのも良くは無いのだ。
「そう。でももう遅い時間よ?早めに切り上げてしっかりと休んでちょうだいね。」
「は、はい。分かりました。」
私はマルクにそう言葉をかけると、部屋を出て見回りの続きに戻った。
「……おおきに。」
その時、マルクが呟いた言葉を聞き逃したことを後に後悔することになるのだった。
ありがとうございました。
人工カース・アイテムとマルク・ノックスの正体とは!?
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。