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41話:暗雲の予感

どうも、眠れぬ森です。

筆が遅く申し訳ありませんが、お付き合い頂けると幸いです。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

 サリアの家での出来事から一ヶ月が経った。俺はサリアたちの力を借りて何とか提出期限までに課題を終わらせ、定期考査を受けることが出来た。

 そして迎えた考査後の長期休暇。それを利用して俺はジェームスと共にギルドクエストを受けていた。


「ライアー、一匹そっち向かったよ。」


「見えている。」


 黒い獣型の魔物であるヘルハウンドを相手にしながらジェームスが振り返り声をかける。それと同時に彼を抜けてこちらへと牙を剥いて走ってくるヘルハウンドの頭に照準を合わせると、シムエスMk.IIに魔力を流しながら引き金を引いた。


ダァァン!!!!!


 炸裂音と共に加速の魔法術式で亜音速まで加速された弾丸がヘルハウンドの頭を貫き、撃たれたことに気が付かないまま絶滅させる。


「こっちは終わったぞ。」


「流石だね、元傭兵は伊達じゃない。」


 確実に仕留めたのを確認すると、ジェームスへと話しかける。彼はとっくに戦闘を終えていて、その様子をいつもの胡散臭い笑い顔で見ていた。


「御託はいいからさっさと素材を剥ぎ取るぞ。」


「そんなに気が立ってどうしたんだ?オレと二人で組むのは嫌だったかい?」


 そんなジェームスを一瞥すると、俺はヘルハウンドの牙と魔石を剥ぎ取りに向かった。すると、ジェームスはそんな俺を見ながら眉を顰めながら問いかけてくる。


「そうじゃない。それに頼んだのは俺からだろ。」


 その問いかけに一言返すと再びヘルハウンドへと視線を向けた。そう、俺は今ジェームスと二人の臨時パーティーを組んでいる。というのも、サリアとサーシャは長期休暇を利用して家族と旅行へ、アイリスは両親と祖父母の家へ、リーネも姉二人に言われて実家へと帰っているのだ。そんな中、俺は暇そうにギルドに居たジェームスに声をかけ、クエストがてら戦闘訓練を行っていた。

 

「学園は長期休暇だし、ライアーも少しは羽を伸ばしたらいいのに。」


 ジェームスは黙々とヘルハウンドから素材を剥ぎ取る俺を見ながらそう言ってきた。初めはそうも考えていたのだが、そんな気分にはなれなかった。


(過去に囚われていても前には進めない…か)


 そう、イザベラに言われたその言葉が頭の中でグルグルと繰り返され、何かをしていないとその事ばかり考えてしまう。それに、クレハとの模擬戦以降現れていないヴェルディアナの事も気がかりだ。

 そう思いながら横の岩に立てかけたシムエスMk.IIに視線を向ける。夜闇に紛れるためにつや消しの黒に塗装された相棒を見ていると、ふとサリアたちの顔が頭に浮かんだ。


(分かっている…彼女たちの気持ちも。だが、それは認められない事だ…)


 幾多の人間を殺めて血に染ったこの手、そして自分を凌駕するほどの力を秘めたヴェルディアナ。あまりにも問題が多すぎるのだ。


「どうしたんだい?手が止まっているけど、具合でも悪いのかい?」


 その時、ジェームスが話しかけてきたことによりハッと現実に帰った。視線を落とすとそこには俺の撃ち殺したヘルハウンドが横たわっていた。そして、素材を剥ぎ取っていた手は血に染っていた。


「…いや、なんでもない。すぐに終わらせる。」


 それを見た俺はジェームスにそう答えると、作業へと戻った。





「お疲れ様でした。ヘルハウンドの討伐任務完了です。こちらが報酬の銀貨十五枚になりますね。」


 クエストを終えてギルドに戻ってきた俺はカウンターでクエスト達成の報告を行っていた。そして、報酬を受け取りジェームスの待つテーブルへと向かっていると、二人の冒険者が気になる話をしているのが耳に入ってきた。


「おい、知ってるか?西の国境沿いの森に屍人(グール)っぽいやつが出たんだってよ。」


「聞いた聞いた。ただでさえ西方諸国とピリついているらしいのに厄介なもんだぜ。」


「厄介なんてもんじゃねーよ。こないだ屍人(グール)から何とか逃げ帰ってきた奴がいたみたいなんだけど、そいつ以外のパーティーは全滅らしい。しかも、そいつの話だと屍人(グール)が魔法を放ってきたらしいぜ。」


「そりゃ有り得ねーだろ。屍人(グール)が魔法を使うもんか。なにかの見間違いだろ?」


「やっぱそうだよなぁ〜。」


 二人はそう言うと、クエストボードへと向かって歩き去っていった。

 俺は先程の冒険者が話していた事に妙な胸騒ぎを感じた。何かは分からないが、悪いことが起きるような、そんな感じだ。

 すると、向こうからジェームスがキョロキョロと周りを見ながらこちらにやって来て声をかけてきた。


「ライアー、報告にいつまでかかっ……どうしたんだい?」


 初めはいつもの調子で話しかけてきたジェームスだったが、俺の表情を見て糸目を少しだけ開いて言ってきた。そんなジェームスに視線を向けながら俺は彼に問いかけた。


「ジェームス、屍人(グール)については詳しいか?」


屍人(グール)かい?一応知ってはいるが、どうしてだい?」


 俺の問いにジェームスは首を傾げて言った。そこで先程の冒険者二人の話を彼に話すと、険しい顔をして答えた。


「それは有り得ない話だね。」


「どういう事だ?」


 そんなジェームスの言葉に今度は俺が首を傾げる。すると、彼は近くの空いた席に俺を案内して座らせると、屍人(グール)について問いかけてきた。。


「ライアー、キミは屍人(グール)とはなにか知っているかい?」


「死してなお動き続ける元人間の魔物だろ?」


 俺の答えにジェームスは頷くと、話を続けた。


「そう、屍人(グール)は死人が魔物化したものだ。肉体は腐り自我も失ってしまい、本能のままに動く魔物だ。しかしさっきの話を聞く限り、現れたのが屍人(グール)であるとは考えにくい。」


「それは何故だ。」


「理由は二つで、一つ目は戦闘力の高さだ。屍人(グール)自体の強さはそう高くは無い、数体程度ならばDランク冒険者一人でも倒せる。だからパーティーが全滅する程の驚異となると数百体の屍人(グール)では効かない数が必要だ。」


「なるほどな、それで二つ目の理由はなんだ?」


 ジェームスの言葉にそう問いかけると、彼は糸目を少し開けてゆっくりと答えた。


「二つ目の理由だが、屍人(グール)は魔法をつかわない。いや、使えないと言ったほうが正しいな。」


「…なんだと?」


「考えた事は無いかい?何故死人が動くのかを。」


 その言葉に、俺は違和感を覚えた。確かにそうだ、今までは屍人(グール)屍人(グール)としか思っていなかったのだが、よく考えてみれば死人が動く理屈が分からない。そんな俺を見て、ジェームスはこちらを指差しながら答えた。


「理由は簡単、キミと同じだよ。」


「俺と同じだと?」


「そう、屍人(グール)は人間が死亡した際に止まるはずだった魔力生成が止まらずに作られ続け、それが魔法となり体を動かす。言わば後天的な魔力制御疾患のようなものさ。」


「なるほどな…」


 俺はジェームスの話に相槌を打ちながら聞いていたが、その中で一つの疑問が出てきた。俺と同じということならば、何らかの魔法が体内で発動している事となる。だが、その魔法についてはジェームスからは出てきていない。


「ひとつ疑問なのだが、俺と同じであれば屍人(グール)も体内で何かしらの魔法が発動しているということだが、それは一体なんの魔法だ?」


 俺はその疑問をジェームスに投げかけた。すると、彼は一瞬動きを止めた後、周りを伺いながら答えた。


「これはあまり大きな声では言えないけど、屍人(グール)になった人間に発動している魔法は〈蘇生(リヴァイブ)〉という、現在では再現不可能な古代魔法なんだ。おかげで、理屈は分かっているのにそれ以上は進展出来ないという状況らしい。」


「そうか、それで俺と同じという訳か。」


「そういうこと。さて、オレが話せるのはこのくらいかな。ところで、キミはこの話を聞いて何をするんだい?」


「ジェームス、明日は空いているか?」


 ジェームスはそう言って話を纏めると、今度は俺に問いかけてきた。それに対して俺はジェームスに質問を返した。すると、彼は困ったような表情をして頷いた。それを見て俺は言った。


「明日、屍人(グール)を調べに行く。」






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






 翌日、俺とジェームスはレッドグリズリーという魔物の討伐任務を受けて西の森へとやってきていた。もちろんクエストは建前で、本来の目的は屍人(グール)の調査だ。


「それにしても、クエストを受けてまで調査しに行くとは、一体何がそんなに気がかりなんだい?」


 西の森をレッドグリズリーを探しながら進む俺にジェームスが問いかけてきた。しかし、正直に言って俺にも分からない。ただ、その話を聞いて酷い胸騒ぎがしただけだ。


「少しな…」


「ふぅん…」


 濁した答えにジェームスは相づちだけ返してくる。そのまま会話もなく森を進んでいると、前を行くジェームスが止まった。そして、手で隠れるように合図を送ってくる。俺はそれに従って近くの気に身を隠すと、腰からブラックホークを抜いた。遮蔽物の多い森では長物は帰って動きにくくなってしまうからだ。


「ライアー、一時の方向を見てみろ。」


 限りなく小さい声でジェームスが言う。その方向に視線を向けると、ボロ布を纏った一人の人物が立っていた。その人物は足下の肉塊を見ながらぶつぶつと独り言を言っており、こちらには気がついていないようだった。


「あれが噂の屍人(グール)か?」


「いや、まだ分からない。だが腐臭がするから可能性は高いだろう。」


 ジェームスがそう答えた時だった。俺たちの反対側から赤褐色の体毛をした二メートルほどある魔物が現れた。それは俺たちのクエスト対象であるレッドグリズリーだ。


「グルルルル…」


 レッドグリズリーは唸り声を上げながらボロ布を纏った人物の側まで近寄り威嚇をする。しかし、その人物は足下の肉塊を眺めたまま独り言を呟くだけだった。


「何かが変だ…」


 その光景を見てジェームスが呟く。その違和感には俺も気がついていた。違和感の正体、それはこの周りに魔物の気配がレッドグリズリーしか無いのだ。

 本来であれば森の中に肉塊が転がっている状況だと肉食の魔物が近くにいてもおかしくは無い。しかしその気配は無く、雑食性のレッドグリズリーしか居ない。


「どうする?」


「とりあえず様子を見て――――――」


 俺の問いにジェームスが答えた瞬間だった。


「グォァァァァァァァ!!!!」


 レッドグリズリーが立ち上がり、ボロ布を纏った人物へと襲いかかったのだった。


「マズい、行くぞ!!」


「分かった!」


 俺はジェームスの掛け声と共に木の影から飛び出し、レッドグリズリーへと照準を合わせた。そして、引き金を引きかけたその時だった。


風の(ウインド)……(カッター)……」


「グギャォォォォォン!?!?!?」


 ボロ布を纏った人物が魔法を発動し、レッドグリズリーの首をはねたのだった。そして、木の影から飛び出した俺たちに気がついたのか、ゆっくりとこちらを振り返った。


「なっ!?!?」


「まさかね…」


 振り返った人物の姿に俺たちは驚いた。ボロ布の下に隠れていた顔は左半分が腐り落ちて眼球も無く、胴体も至る所が腐り蛆が湧いていた。

 向こうもこちらを見た瞬間に一瞬動きを止めたのだが、すぐに体から魔力をみなぎらせて臨戦態勢に入った。


「ライアー、戦闘に移るぞ!!」


「ああ!!」


 ジェームスの言葉に俺は瞬時に奴の側面にまわりこむと、ブラックホークを構えて引き金を引いた。


ガガガン!!!


 加速の魔法術式で加速された銃弾が屍人(グール)に向かって飛んでいく。しかし、その屍人(グール)は魔力壁を展開して銃弾を防いだ。


「何!?」


 その光景に目を奪われた瞬間、今度は屍人(グール)の周りに五つの魔法陣が展開された。


風の(ウインド)……爆弾(ブラスト)……」


 屍人(グール)がそう呟くと、魔法陣から一斉に魔法が俺に向かって飛んできた。


「くっ、知覚限界突破(ブーストアップ)!!」


 俺はそれを知覚限界突破(ブーストアップ)を駆使して避けていく。そして、全てを避けたと同時にジェームスに声を掛けた。


「今だ!!」


「オッケー!!」


 俺に奴の意識が向いていたのと同時にジェームスは背後に回り込み、魔法を放つ準備をしていた。ジェームスの背後には三つの魔法陣が展開されていた。


「これを食らっても耐えれるか?行け、雷撃(サンダーボルト)!!」


 ジェームスの言葉と同時に三つの魔法陣から激しい雷撃が屍人(グール)に向かって飛んでいく。それを見て屍人(グール)も魔力壁を展開する。しかし、それは叶わなかった。


「こっちにもいるぞ。」


 ジェームスが魔法を放った瞬間に屍人(グール)に肉薄すると、展開され始めていた魔力壁に向かって霧雨を振り抜いた。


パキィィィィィン!!!


 軽い破裂音と共に魔力拡散の魔法術式を起動した霧雨が魔力壁を打ち砕いた。そして、すぐにその場を離脱すると同時にジェームスの魔法が屍人(グール)へと襲いかかった。

 雷撃の激しい閃光と轟音が止むと、そこには地面に倒れた屍人(グール)の姿があった。しかし、あれだけの魔法を食らっておきながら未だ動きを止めていない。そして、肉が腐り落ちた左手を持ち上げた。


「追撃の用意だ。」


 ジェームスはそれを見て剣を抜きながら俺に言う。しかし、その警戒は杞憂に終わった。地面に倒れた屍人(グール)は先程まで見ていた肉塊へと手を伸ばしたのだった。


「ア…アァ……ロ…イ………――――――」


 そして、そのまま再び倒れると動かなくなった。

 俺とジェームスはそれを確認すると、武器を納めてその屍人(グール)へと近づいて行った。それと同時に、その近くにあった肉塊へと視線を向けた。


「これは!?」


「なんて事だ…」


 その肉塊は人間だった。いや、()()()()()()()()だった。体の至る所が腐敗変形し、僅かに残る右手や顔のパーツで人だと認識出来るほどぐちゃぐちゃになっていた。


「一体何が起きたんだ…」


 ジェームスがそう呟いたと同時に、俺はその肉塊の右手に見覚えのある指輪を見つけた。その瞬間、屍人(グール)の指に視線を向けると、同じ指輪がはめてあった。その瞬間、俺はとある一人の人物のことが頭をよぎった。


「クレイ…」


 クレイ・スティルブ。かつてサリアとサーシャを誘拐し、俺に挑み死んだ者の名前だった。


「ライアー、クレイがどうかしたのかい?」


 俺のつぶやきをジェームスは聞き逃さずに問いかけてきた。俺は湧き上がる激情を抑えながらジェームスのほうを向き、指輪を指さしながら答えた。


「コイツらが嵌めている指輪は、あのクレイがサリアとサーシャを襲った時にはめていたものと同じだ。そして、その後ろにはあの仮面の男がいる。」


「なんだって!?」


 俺の言葉にジェームスは驚き声を上げる。しかし、その声は俺には届いていなかった。俺の中に眠る彼女の声が頭に響いてきていたのだった。


(《全ての敵を、殺しましょう。》)

ありがとうございました。

次々と降りかかる問題にライアーの今後はどうなるのでしょうか。

次回もお時間が有ればよろしくお願いいたします。

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