40話:揺れる乙女たちの恋心
どうも、眠れぬ森です。
遅くなりました。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
ルーテシアに言われるままサリアの家に泊まることになった俺たちは、課題の息抜きにサリアの案内で屋敷の中を見て回っていた。
「まったく、お母様も勝手なことを言って。お義母様もなんで止めないかな。」
そんなサリアだったが、先程からご機嫌ナナメの様子で愚痴を零していた。理由はもちろんルーテシアとイザベラだ。少し強引に話を進めたルーテシアとそれを止めなかったイザベラにサリアはご立腹だった。
「そろそろ機嫌直しなよ、イザベラ様もルーテシア様も悪気があったわけじゃないでしょ。」
「アイリス、お泊まり、楽しみ。」
「そうだけど、そうだけどぉ!!」
サーシャとアイリスのフォローを涙目で答えるサリアだったが、俺に視線を移すと顔を赤くして目を逸らしてしまう。そんなサリアの様子に苦笑いを浮かべながらぽつりと呟いた。
「暖かいな、家族とは。」
「え…あっ!!」
そんな呟きに反応したのはサリアだった。彼女は俺の顔を見て一瞬驚きの表情を浮かべたが、直ぐに気まずそうな顔をして言った。
「ごめんねライアーくん…」
短い言葉だったが、何を言いたかったかすぐに伝わった。俺の過去は一通り三人に話している。なので、俺に両親が居ないことも知っている。そんな中サリアは二人の母親に甘えるようなわがままを言ってしまったことを後ろめたいのだろう。サーシャとアイリスも、そんなサリアを見て表情を曇らせた。
「気にすることは無い。」
そんな三人の様子を見て俺は言った。そして、サリアの頭に手を乗せながら言葉を続けた。
「俺に対して、そんなに気を使うな。それはお前の母親に失礼だ。それにまだお前は十四歳で子供だ。甘えられるうちに甘えておけ。」
「歳下のライアー君に言われたくはないよ!?」
「それでいい、お前は元気なほうが似合う。」
「あっ…」
サリアををからかうような言葉に驚きの表情を浮かべて答える彼女だったが、俺の次に続けた言葉で何かを感じ取ったらしくハッとした。そして、自分の頬をパンと叩くと、先程の暗い表情から一変していつものサリアの顔に戻っていた。
「ありがとう、ライアー君。やっぱり君には敵わないよ。」
「そうね。たまにライアーが歳下なのを忘れるくらいしっかりしてるものね。」
「ん、サリア、元気になった。」
サリアの言葉にサーシャとアイリスも笑いながら答える。そうしていると、執事の一人が夕食の準備が出来たと呼びに来た。
「お嬢様、お食事の準備が整いました。食堂まで皆様とお越しください。」
「分かった、ありがとうね。」
執事にそう答えると、満面の笑みで振り返りながらサリアは言った。
「それじゃあ、ご飯にしよう!!」
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夕食後、私はサーシャとアイリスと一緒に部屋でくつろいでいた。ライアー君は何かお母様たちとお話があるみたいで部屋には私たち三人だった。
「久しぶりにルーテシア様のお料理を食べれてとても美味しかったわ。」
「アイリス、あんなの、初めて、食べた。美味しかった。」
「それは良かったよ。後でお母様に伝えておくね。」
そう言って二人に感謝を伝える。お母様は貴族では珍しく料理をする。その腕前は屋敷の料理人にも負けないくらいで、イザベラお義母様もお母様の手料理がすごく好きだ。
「ライアー君も喜んでくれたかな…」
その呟きは無意識に出たものだった。しかし、出てきた言葉に何故か恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまうのを感じた。私は慌てて首を横に振ってから二人に話しかけようとすると、サーシャが笑いながら問いかけてきた。
「やっぱり、ライアーの事気になる?」
「え?」
その言葉に私は咄嗟に答えることが出来なかった。すると、そんな私を見て今度はアイリスが話しかけてきた。
「今日のサリア、ライアーの事で、慌ててるの、多い。」
「そ、そうかな?」
「そうよ。あれだけの素振りを見せてて気が付かないのはライアーだけよ。」
そんなアイリスとサーシャの言葉に顔が熱くなるのを感じた。確かに今日はお母様に振り回されていたけど、どれも内容はライアー君のことに関してだった。
「うぅ…サーシャ、アイリス、どうしよ〜。」
そんなことを考えていると、急に恥ずかしくなってきて私は二人に泣きついた。すると、サーシャが少し意地の悪い顔をして言ってきた。
「せっかく三人居るし、みんなライアーの事どう思ってるか話さない?」
「えぇ!?」
そんなサーシャの言葉に私は驚くと同時に、二人がどう思っているかに興味が湧いた。全員ライアーの力になりたいと思っているのは知っているが、それぞれ本音では彼をどう思っているのか気にならない訳がなかった。
「そう難しく考えなくていいわよ。普通の恋バナみたいに話しましょ。」
「おもしろそう。」
「アイリスまで…」
サーシャの言葉にアイリスまで乗ってしまったので、私は諦めて話すことにした。
「私がライアー君を意識したのは、街でサーシャと一緒に冒険者に絡まれた時に助けてくれた時…かな?」
「あの時の事ね。」
「あの時はまだライアー君って知らなかったけど、一瞬で相手を倒しちゃって凄いと思ったんだよ。それで、学園で見つけた時に声をかけたんだよね。」
そう話していると、顔が熱くなってくるのを感じた。しかし、先程までの恥ずかしさというよりもどこか安心出来る恥ずかしさだった。
「それで、好きになったのは、いつなの?」
「えぇ…言わなきゃダメ?」
「もちろんよ、そこまで言って言わないのは無しよ。」
すると、アイリスが問いかけてきた。そこまでハッキリと聞かれると照れてしまうが、サーシャに促されるままに私は言葉を口に出していた。
「初めはなんでここまで守ってくれるのか不思議だったんだ。でも、クレイ先輩から助けて貰って、ライアー君の過去のことを聞いて、私はこの人のことが好きなんだなって思ったの。もちろんまだ片思いだけどね。」
その言葉は驚くほどすんなりと出てきた。そして言葉にすることで改めて、私はライアー君のことが好きなんだなと感じた。
「サリア、凄い顔、してる。」
「恋する乙女って顔だわ…」
そんな私を見てサーシャとアイリスは驚きの表情でこちらを見ていた。
「ッ!?わ、私のことはもういいよね!?次はサーシャの番だよ!!」
「え!?次はあたしなの!?」
「アイリスも、サーシャの話、聞きたい。」
そんな二人の様子を見て急に照れくさくなった私は慌ててサーシャに話を振った。そんなサーシャは突然のことで驚いたが、アイリスに言われると「言い出しっぺだしね…」とつぶやきながら話始めた。
「あたしは初め、ライアーのことが大嫌いだったわ。」
「え?」
「そう、なの?」
サーシャの第一声に、私もアイリスも驚きの声を上げた。そんな私たちの反応を見ながら問いかけてきた。
「聞くけど、ライアーの態度ってどう思う?」
「う〜ん、少し子供っぽくない感じがするよね。」
「別に、普通、だと思う?」
それぞれの考えを言うと、サーシャはやれやれと言った感じにため息を吐きながら言った。
「ライアーって礼儀がなってないわ。目上の人はおろか、初対面の人にもいつもの感じで話すわよね?それがあたしは許せなかったわ。」
確かに、言われてみればライアーは基本的に話し方を変えない。国王相手や礼節が必要な場合以外は態度などはそのままだ。セシエルト先輩やハルトマン先輩は疎か、あのリアス学園長にまで呼び捨てで話をしている。生まれた頃から貴族社会で育ってきた私やサーシャにとってそれは衝撃的だった。
だが、それ故に何故サーシャはライアー君の事が好きになったのかが分からなかった。
「でも、なんでサーシャは、ライアーの事、好きになった?」
すると、私の気持ちを代弁するかのようにアイリスがサーシャに問いかけた。その問いかけにサーシャは頬を染めながら答えた。
「単純な理由よ。ノルド先輩から守ってくれたからよ。」
その答えに私はハッとした。そう、サーシャは学園に入った時からベクター・ノルド先輩から執拗いほどに交際を申し込まれていた。元々男性が苦手なサーシャだったが、ノルド先輩の高圧的な言動に困り恐怖していた。
しかし、そんな時に現れたのがライアー君だった。成り行きとはいえ、彼はノルド先輩と戦うことになり勝利した。その結果、サーシャはノルド先輩から開放された。
「あたしはライアーに助けてもらった。それだけじゃないわ、彼には自分を守るために必要なことも教えて貰った。だからあたしはライアーの力になりたいのよ、彼が好きだから。」
そう答えるサーシャの顔は見たことが無いほど幸せそうで、それはまさに乙女と言った顔だった。
「あ、あはは。あたしから話そうって行ったけど、結構恥ずかしわね。」
「サーシャ、自爆してる。」
「な、なによ!!次はアイリスの番だからね!!」
そう言いながら顔をてで仰ぐサーシャを見て、アイリスがいつものように彼女を揶揄う言葉をかけると、サーシャはいつもの表情に戻りアイリスに話を振る。
そんなアイリスはサーシャの言葉に頷きながら話し出した。
「アイリスは最初、ライアーの、魔術兵器にしか興味しか、なかった。」
「どういうことかしら?」
「ライアーじゃなくて?」
私はアイリスの言葉に首を傾げた。すると、アイリスは自分の魔術兵器である〈切り裂きの双剣〉取り出しながら答えた。
「魔術兵器には、魔法術式が刻まれてる。ライアーの魔術兵器、見たことない術式、刻まれてた。それを、近くで見たかった。」
そう言うと、切り裂きの双剣に魔力を流した。すると、その刀身に魔法術式が浮かび上がった。それを見ながらアイリスは話を続けた。
「でも、一緒に居るうちに、変わった。エレファントボアとの戦いで、本気で死ぬと思った。でも、ライアーに助けられた。アイリスはそこから、ライアーが好きになった。」
「アイリス…」
そう言うと、切り裂きの双剣に魔力を流すのを止めて仕舞った。そして、こちらを振り返った顔に私は驚いた。普段あまり表情の変化が少ないアイリスだが、ライアー君の話をし終わった時の彼女は頬を薄く染めながら微笑んでいた。
「…やっぱりみんな、ライアーの事が好きなのね。」
一通り話し終えたところで、サーシャが静かに言った。その言葉にアイリスとサーシャと視線が交わる。一瞬静寂が訪れるが、すぐに吹き出して笑ってしまう。
「やっぱりみんな同じなんだね。」
「そうね、みんなそうなのね。」
「全員、ライアーのこと、大好き。」
本来であれば恋敵とも言える相手だが、私たち3人はそうとは思っていなかった。同じ人を好きになった者同士に友情といえるものが生まれた。それは一重にライアー君のせいだった。
「ライアー君、私たちの気持ちに気がついていないみたいだからね。振り向いて貰えるように頑張ろう!」
「そうね、あのにぶいライアーを振り向かせるのは大変だけど、一緒に頑張りましょ!」
「ん、ライアー、大好き同盟結成。」
アイリスの言葉に私たちは笑いあった。それはライアー君に秘密の乙女たちの同盟なのだった。
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サリアの屋敷での夕食後、俺はイザベラとルーテシアに呼び出されていた。それはいいのだが、俺が部屋に入ってからイザベラは少し睨みながら、ルーテシアはサリアを思わせる冷えた笑顔で俺を見ている。
「すまないが、そろそろ用件に入ってもらいたいのだが?」
痺れを切らした俺は二人にそう問いかける。すると、イザベラとルーテシアは視線を合わせた後、俺に問いかけてきた。
「ライアー君、君はサリアの事をどう思ってるかしら?」
「サリアだけじゃないわ、サーシャちゃんとアイリスちゃんの事もよ。」
その言葉に俺は一瞬問いかけの意味が分からなかった。しかし、そんな表情を見て二人は話を続けた。
「ライアー君は気がついている?サリアは君に好意を寄せているわ。」
「サリアだけじゃない、サーシャちゃんもアイリスちゃんもそうだわ。それについて、どう思ってるかしら聞かせてちょうだい。」
ここで俺は二人の問いかけの意味を理解した。そのうえで俺は答えた。
「みんなの好意には気がついている。だが、その想いには答えられない。」
「どうしてかしら?」
「これ以上大切なものを増やせない、そして俺にはその資格がないからだ。。」
「それはどういう意味なの?」
俺の答えにイザベラが視線をさらにキツくして聞いてくる。それに対して俺は二人を見ながら答える。その答えにルーテシアが眉を顰めながら問いかける。
そこで俺は自分の過去について話した。両親が居ないこと、それを機に傭兵団に入り殺しを仕事としていたこと、そしてその仲間を失ってしまったことを。
「今の俺には自分が生きるだけで精一杯だ。だから、三人の想いには答えることが出来ない。」
「ライアー…」
「ライアー君…」
俺の言葉に、先程までキツい表情を浮かべていたイザベラとルーテシアの表情が曇る。しかし、これが今の俺だ。
「申し訳ないとは思っている。だが、これ以上は答えられない。」
最後にそう言うと、二人に礼をして部屋を出ていこうと扉へ向かった。
「待ちなさい。」
その時、イザベラが呼び止めた。俺はドアノブに手をかけたまま振り返ると、彼女とルーテシアは俺の瞳を真っ直ぐ見つめながら言った。
「過去のことは変えられない。だが、それに囚われていては前にも進めないわ。その事を忘れないでちょうだい。」
「私はサリアの母親です。だから、サリアが決めた道をずっと応援しているわ。」
「…分かった、心に留めておく。」
俺は二人の言葉に頷くと、部屋を後にした。そして廊下を歩きながら考えた。
「過去に囚われていては前に進めない…か。」
イザベラの言った言葉がまるで針のように胸へと突き刺さる。しかし俺の答えは変わらなかった。
ありがとうございました。
すれ違う三人の想いとライアーの思い。
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。