39話:課題討伐とサリアの家
どうも、眠れぬ森です。
今回は課題に挑むライアーのお話です。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「ライアー、どういう事かしら?」
「説明してくれるよね、ライアーくん?」
「……説明、する。」
リアスたちから単位不足回避のための課題を受け取った翌日、学園の昼休憩時間にサリアたちにこの件を話した。すると予想通りというか、彼女たちの機嫌は急下降していった。理由はもちろん、課題のせいで次の休みの予定が潰れてしまったからだ。
「説明と言われても、単位が足りなかったからとしか言いようがない。」
「あたしはなんで単位不足になったのかを聞いているのよ?」
俺が口を開くと、サーシャがこちらを睨みつけるように問いかけてきた。サリアとアイリスに視線を移すと、彼女らも頷いている。
この状況で言い訳しても仕方がない、そう思った俺は事の顛末を正直に話した。クエストでの負傷による度重なる入院にスティルブ家との事件、そして話せる範囲で異能者関係の事。その結果このような自体になってしまったこと。
「話はこれで全部だが、分かってくれたか?」
俺は再び彼女たちのほうを見て言う。すると、三人の表情は先程とは打って変わって暗くなっていた。
「どうした?」
そんな三人に問いかけると、しばらく黙った後にサリアが恐る恐る口を開いた。
「それって、私たちのせいだよね…」
「何故だ?お前たちは関係ないだろう?」
サリアの言葉を否定すると、今度はサーシャとアイリスが暗い表情で答えた。
「関係あるわ…あたしたちがしっかりと戦えていれば、ライアーはそんな事にならなかったはずよ…」
「ん、サーシャの、言う通り…」
そう言うと、三人とも顔を伏せてしまった。その様子に大きなため息をつく。それにビクッと肩を震わせる三人に向かって俺は言った。
「お前たちはバカなのか?」
「え?」
「どういう意味よ!」
「説明。」
その言葉に顔を上げた三人に向かって俺は話を続けた。
「確かに見方によってはお前たちのせいで俺が怪我をしたと思うかもしれない。たが、クエストでの失敗はパーティー全体の責任だ。それに、クレイやマルコの件は完全に向こうが悪い。異能者だってこれは俺の問題だ。だからそんなに気にするな。」
そう言うと、普段はしないぎこちない笑みを向けた。すると、彼女たちは呆気に取られた表情で固まった。
やはり笑顔などという慣れない表情はしないほうが良かったかもしれない。
「その、すまなかっ…」
「ライアー君!!」
俺は笑顔を辞めて三人に謝ろうとすると、突然サリアがこちらに身を乗り出してきた。それに驚き言葉を止めると、彼女は真剣な眼差しで言ってきた。
「あのさ、ライアー君の課題だけど、手伝っても良いかな?」
その言葉に今度は俺が呆気に取られた。すると、今度はサーシャとこちらを見ながら言ってきた。
「クエストでの失敗はパーティーの責任、でしょ?ならあたしたちも手伝うわ。」
「だがこれは俺に出された課題だ。」
「それでも、これはパーティーとして。四人いれば、早く終わる。」
俺の反論にアイリスにまでそう言われてしまう。三人の表情は先程までの暗い表情ではなく、いつもクエストを挑む時のそのものだった。
「…分かった、よろしく頼む。」
その表情を見て、俺は首を縦に振ることしか出来なかった。
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「あ〜もう!!なんでこんなに多いのよ!!」
課題を初めて二日が過ぎたのだが、その量の多さにサーシャが悲鳴を上げた。それもそのはず、今まで授業終わりの自主訓練時間をフルで使って課題に取り組んでいるのだが、それでもまだ半分も終わっていない。それに提出期限はあさってである。このペースで行けば間に合わないのは必然だ。
「確かに、この量は辛いね。」
「学園長は、鬼、かもしれない。」
サーシャに釣られてか、サリアとアイリスまでそんなことを言い始めた。確かに一人であれば絶対に終わらない量であった為に進んではいるのだが、その総量に圧倒されて日を増す事にやる気が下がっていった。
三人を見てみると、かなり疲れている様子が顔に出ているのが分かる。このままやっても悪循環に陥るだけだろうと思い、三人に声をかけてみた。
「少し気分転換でもしないか?」
「そんな時間無いでしょ、終わらないわよ?」
俺の言葉にサーシャがジトっとした視線を向ける。だがこのままでは効率が落ちる一方で、そのほうが良くない。
「課題をやる場所を変えるだけでもリフレッシュになると思わないか?」
「場所を変える?」
俺が提案したのは課題をする場所を変えるということだった。この二日間は学園の図書室で行っていたのだが、静かなだけに集中出来る場所とはいえそれが切れた時の退屈感が凄まじい場所でもある。それを他の場所に変えて課題を進める環境を変える作戦だ。
「それで、どこに、行くの?」
その時、アイリスからの一言で俺は一瞬固まった。場所を変えると言ったはいいが、他の場所に心当たりが無い。講堂は授業以外では閉まっているし、かといって食堂は違う。
「まさかライアー、考えずに言ったんじゃないわよね?」
そんな俺を見てサーシャが頬を引き攣らせながらこちらを睨みつける。その視線から避けるように顔を背けた瞬間、サリアが思いついたように言った。
「そうだ、私の家に来ない?」
「サリアの家にか…」
その言葉に俺は少しだけ言葉を濁す。サリアはこの国の第三王女だ。彼女の家とは即ちあの王城という事になる。
異能者の一件以降、俺は度々セリエス王のアーサーに呼び出されており、その度に慣れない所作と雰囲気に気疲れしてしまっていた。いくらサリアの家とはいえ、なるべく行きたくない場所である。
「私も、入って、大丈夫?」
そんなサリアの言葉にアイリスが首を傾げながら問いかける。するとサリアはきょとんとした後、何やら慌てながら言った。
「ち、違うよ!わたしの家って言ってもお父様の住んでる王城じゃないよ!私の家は貴族街のほうにたるの!!」
「それは初耳だな。てっきり王城がお前の家だと思っていた。」
サリアはその言葉にあははと笑いながら答えた。
「王城に住んでいるのは今の王様のお父様と、時期王様のお義兄様だけだよ。それに、私は王女でも側室の第三王女だから、どちらかと言えば王家とは少し遠いんだよ。」
「そうだったのか、貴族は王族とはややこしいな。」
そんなサリアの言葉に肩を竦めながら答える。しかし、それならばあまり問題は無いだろう。
「俺はそれで問題無い、二人はどうだ?」
「あたしもそれでいいわ、久しぶりにサリアの家に行きたかったし!」
「ん、アイリスも、問題無い。」
「じゃあ、早く行こっ!!」
俺たちの返事に嬉しそうなサリアはテキパキと勉強道具を片付けながら笑みを浮かべるのであった。
そして俺たちはサリアの家に行くために貴族街を歩いていた。サリアは第三王女、サーシャは国王補佐大臣の娘という事で気にする様子もなく歩いているが、俺と隣にいるアイリスはそうではなかった。
「ライアー、歩いてる人、みんな派手。」
「確かに、これは凄いな…」
普段貴族街に足を踏み入れることは皆無な俺とアイリスにとって、そこは全てに圧倒される場所であった。どの家もリーネの実家くらいに大きく、さらに庭までついている。道を歩く人々も人目で貴族であると分かるほど豪華な装飾品を身につけていた。
「制服で来てよかったな。」
「ん、たしかに。」
俺はアイリスにそう呟きながら嬉しそうにまえを歩くサリアとサーシャの後ろをついて行った。
そして、しばらく歩くと王城の麓に建てられた一際大きな屋敷の前まで来た。そこは先程通ってきた道に建てられていた屋敷とは比べ物にならないほどの大きさだ。パッと見ただけで三十部屋はありそうだ。さらに、庭には大きな噴水やフラワーガーデンまである。
「サリア、まさかと思うがここか?」
「え?うん、そうだけど?」
声を震わせながらサリアに問いかけると、彼女はさも当たり前のように答えながらサーシャと共に入口の門を開けて中に入っていった。
「しかし、広いな。リーネの家とは比べ物にならないな。」
「サリアは王族なのよ?これくらいじゃないと他の貴族にバカにされるわ。」
前を歩く二人にに向かってそう言うと、サーシャが振り返りながら答えた。確かに貴族社会は力関係を財力で示すことが多いと聞く。増してはサリアは王族なのだから当然と言えば当然なのだろう。
サーシャの答えに納得しながら歩いていると、屋敷の玄関と思われる場所を掃除していたメイドがこちらに気がついた。するとそのメイドはサリアを見るなり驚きの表情を浮かべ、急いでこちらへ駆け寄ってきて言った。
「お帰りなさいませお嬢様!突然の事でお迎えに上がれず申し訳ありません!」
「謝らなくていいよ、リリア。突然帰ってきたのは私のほうだからね。それより、今日は学友を連れてきたから私の部屋へ案内してちょうだい。」
「かしこまりました、お嬢様!」
駆け寄ってくるや否や、リリアと呼ばれたメイドは深々と頭を下げてサリアに謝った。しかしサリアは彼女に微笑みながら答えると、俺たちを自分の部屋へ案内するように言った。
「なんか、本物の、王女様みたい。」
「アイリス、それはどういう意味かな?」
その光景を見てぽつりとこぼしたアイリスの呟きを頬を引き攣らせた笑みでサリアが見るのだった。
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サリアの家に来て課題を初めて数時間が経った。初めは部屋に待機しているメイドや度々部屋を訪れてお茶を入れてくれる執事等に驚き、なかなか集中出来なかった俺だったが、しばらくすれば慣れるもので着々と課題を進めていた。そして、夜も遅くなった時間には大体の目処が着き始めていた。
「ん〜、だいぶ進んだね。これなら提出期限に間に合いそうだよ!」
「ありがとう、サリアのおかげでリフレッシュも兼ねることが出来た。」
ペンを置き伸びをしながらそう言うサリアを見て、俺は彼女に感謝の言葉を伝えた。するとサリアは一瞬きょとんとした顔をしたが、直ぐにふにゃりと笑みを返してきて答えた。
「ううん、感謝されるようなことはしてないよ。それに、感謝なら二人にも言ってあげて。」
そう言いながらサリアが指差すほうを見ると、少し拗ねたような表情をするサーシャと冷たい視線でこちらを見るアイリスの姿があった。
「サリアだけじゃない、サーシャもアイリスもありがとうな。」
「ま、まぁ、あたしがいれば当然よね!」
「サーシャ、素直じゃない。私も、ライアーの力になれて、良かった。」
「ちょ、アイリス!!」
俺の言葉に照れたように頬を染めて返すサーシャとそんな彼女をからかいながらも真っ直ぐな瞳で答えるアイリスを見て、自然と笑みが零れた。
その時、サリアの部屋がノックされた。それと同時に扉の近くに立っていたメイドが扉を開けると、そこには女性が二人立っていた。一人はウェーブのかかった黒髪でもう一人はサリアと同じ白金の髪を肩口で一纏めにした女性だった。
「久しぶりねサリア。帰ってきているなら声をかけてちょうだいな。」
「お帰りサリア。今日はお友達を連れてきたの?」
「イザベラお義母様にルーテシアお母様!?」
二人の女性の言葉にサリアは立ち上がりながらそう言う。二人はそんなサリアを見た後、イザベラと呼ばれた黒髪の女性が俺たちの方を見て少し驚きの表情を見せて言った。
「今日はサーシャちゃん以外に初めて見る方がいるわね。新しいお友達かしら?」
「あ、そうだった。えっと…」
「お初にお目にかかります。私はライアー・ヴェルデグランと申します。サリア様には学園で良くして頂いております。」
「アイリス・クラントン、です。サリア様とは、友達、です。」
サリアが俺たちを紹介する前に俺とアイリスは二人の前に進み膝を着いて右手を胸に当て、頭を下げながら自己紹介をした。
「あら、とても礼儀がなっているわね。初めまして、私はイザベラ・テオ・セリエスよ。」
「はじめまして、ルーテシア・テオ・セリエスです。娘のサリアがいつもお世話になっているようね。」
「サリアの友達にいつまでも膝をつかせてる訳には行かないわね、立ってかまわないわ。」
俺とアイリスの行動は間違っていなかったようで、二人は笑みを浮かべながら自己紹介をした。そして、イザベラの言葉でアイリスと共に再度頭を下げて立ち上がる。その様子にイザベラは満足気に頷くと、手を叩きメイドを呼びながら言った。
「サリアの新しい友達に興味が湧いたわ。急だけど、私たちの分のお茶を用意しなさい。」
「お、お義母様!?」
イザベラの言葉に驚くサリアを余所に、素早く二人分のお茶と席が用意されてしまった。そこに二人は腰掛けると、一口お茶を口をつけてから俺とアイリスのほうを向いて言った。
「先ずはさっきからサリアがお義母様やお母様とややこしい事を言っていることから説明させてもらえるかしら?」
「お願いします。」
イザベラの言葉に返事を返すと、彼女とルーテシアはは俺をじっと見た後に、笑いながら言ってきた。
「フフッ、ここは公の場では無いわ。君は普段の口調でかまわないわよ。」
「そうだわ、力を抜いてリラックス〜。」
「そ、そうか。ではそうさせてもらう。」
そう言われた俺は彼女たちの言葉に甘えていつもの口調に戻した。すると、二人は満足気に頷くと話を続けた。
「まず初めに、サリアの友達になってくれてありがとうね。そしてさっきの話だけど、私とルーテシアはアーサーの妻よ。そして、サリアはルーテシアの娘ね。」
「イザベラが第一王妃で、私は側室ということなのよ。だから、サリアはイザベラの事もお義母様と読んでいるのよ。」
「もうっ!みんなの前であまりそういうこと言わないでっ!」
イザベラとルーテシアの言葉に真っ赤になり反論しているサリアを見ながら納得した。この世界では貴族であれば多重婚は珍しくない。特に爵位が高ければ高いほどその傾向が強くなる。
俺はアイリスに質問を投げかけながら楽しそうに話すイザベラとルーテシアを見て思った。リーネの家に行った時もそうだったのだが、母親とはこういうものなのだろうなと。両親の顔を知らない俺にとって分からない事だが、見ているだけでホッとする気持ちになる。
「そういえば、君がライアー君なのよね?」
考え事に耽っていると、先程までアイリスと話していたルーテシアがこちらに話しかけてきた。すると、イザベラもこちらに視線を向ける。
「あぁ、そうだが…」
不意のことで若干驚きながらもそう答えると、二人は顔を見合わせたと思うと、突然こちらに頭を下げてきた。
「お、お義母様にお母様!?」
サリアも驚き慌てているが、二人は下げた頭を上げずに言ってきた。
「お礼が遅れてごめんなさいね、数々の事で娘の命を守ってくれてありがとうございます。」
「私からも、ルーテシアの娘を守ってくれて感謝する。」
「そこまで言われることはやっていない。たまたま運が良かっただけだ。」
確かに親からすれば大切な子供を助けてくれたように見えるかもしれない。だが、そこには俺の油断や慢心もあるのだ。運が良かったとしか考えられない。
だが、そんな俺の言葉に首を横に振りルーテシアは答えた。
「それでもですよ。あなたのおかげで娘は今ここにいるのですから。」
「お母様…」
その言葉にサリアは目に涙を浮かべ、イザベラもそれを優しい瞳で見ていた。すると、そんなルーテシアは突然あっと言うと、笑顔でこちらに言ってきた。
「そうだ、お礼も兼ねて今日はうちでご飯食べていきなさい。もちろんサーシャちゃんとアイリスちゃんも一緒にね。」
「ルーテシア!?」
「お母様!?」
突然放たれた言葉にイザベラもサリアも驚きの表情を浮かべる。しかし、ルーテシアはそれだけでは止まらなかった。
「ううん、それだけじゃなくて今日は泊まっていきなさい。夜も遅いし、明日も課題やるんでしょ?ならそのほうが良いわ。」
「いや、流石にそれは…」
いくら友達でパーティーメンバーとはいえ、女子三人と泊まるのはどうかと思い断ろうとする。しかし、ルーテシアはそれを見越したように話しを続けた。
「大丈夫よ。流石に夜寝る時は男女を分けるし、帰ってからまた集まるより効率いいでしょ?それに…」
そこまで言うと、ルーテシアはニコニコしながらサリアを見た後に俺を見て、最後の言葉を放った。
「いつも手紙で送ってくれるライアー君のお話、もっと聞きたいわ!!」
「もう、お母様のバカーーーー!!!!」
その日、サリアの家には彼女の絶叫が響いたのであった。
ありがとうございました。
国王アーサーの第一王妃と側室であるお義母様とお母様が登場です。この後のライアーの運命や如何に。
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。