38話:落第寸前の異能者《イレギュラー》
どうも、眠れぬ森です。
続き書きました。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
気がつくと知らない場所にいた。そこはどこかの実験室のような場所で、見知らぬ実験器具や棚にこれでもかと置かれたよく分からない液体などが連なっている。そんな場所で、一人の男性が何かを行っていた。いや、顔がぼやけているので性別は分からないが体つきは男性のものだ。
「やっとだ、やっと成功したよ!!」
すると、目の前の見知らぬ男性がこちらに向かって笑顔を向けた。その手には魔力が渦巻いている。
何故そんなことで喜んでいるんだ?
そう聞こうとしたのだが、声を発することが出来ない。それどころか、俺の体だと思っていたものは自分の意思に反して喜びを顕にするように飛び跳ねる。しかし、不思議と落ち着いていた。元からこれは俺の体ではないと知っているからだ。
「これで研究が前に進むぞ!!この力は歴史を変えるに違いない、そうだろう?――――くん。」
興奮気味に話す男性に、俺の体は頷きながら答えた。
「そうですね。これがあれば―――――」
その瞬間、目の前の光景が白い光に包まれていった。それと同時に、俺の意識もそれに飲み込まれていき、ぷっつりと途切れたのだった。
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「…っ!?」
目を開けると、視界には目慣れた天井が映った。辺りを見回すと、魔術兵器を整備するための作業台と部屋に備え付けの机と椅子、そして開かれたままベッドに投げ出された一冊の本が目に入る。
「昨日、リーネの実家から帰ってきてそのまま寝たのか…」
そう言って体をベッドから起こす。昨日は夜遅くに王都に着きそのまま寮へと戻ったのだが、どうやらテイラーから貰った本を再び読んでいるうちに寝てしまったらしい。
「それにしても、あれは一体…」
自室に居ることに安堵すると、先程見た夢を思い出す。いや、夢というにはあまりにも鮮明すぎたあの光景が脳裏にこびり付く。
「考えたところで今の所は無駄か。」
俺はそう呟くと部屋に置かれた時計を見る。時刻は早朝と言える時間で、学園まではそこそこ余裕がある。
「ちょうどいいか。」
俺は着替えを持ってシャワールームへと向かう事にした。ヴェルディアナの一件以降、俺の右目は不自然に紅くなってしまい人前では眼帯を外すことが出来ない。カインによれば、一時的なものである可能性が高いとの事だが、あまり人に見られたくは無い。それを考慮すると、まだ誰も起きていない時間なのだから都合が良かった。それに、先程の夢のことで少し頭を冷やしたかった。
俺は自室の扉を開け、シャワールームへと向かったのだった。
シャワーを浴びた後に自室で再びテイラーから貰った本を読んでいると、すっかりと日が昇り学園へ行く時間となっていた。
学園に着いた俺は講義室の扉を開け、いつもの自分の席(窓際の端から二番目)へと歩いて行くと、周りからこちらを見てヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
「なぁ、やっぱアイツってさ――――」
「ねぇ、ライアー君ってやっぱり――――」
学園生活を初めて数ヶ月となるのだが、依然クラスに馴染めている感じはしない。転入初日に上級生に喧嘩を売って不本意ながら《ブ・ラック・レス》という二つ名を付けられてしまった上に、今の俺は右目に黒い眼帯を付けている。これが普段から着用している黒いコートと合わさって再び注目を集めてしまっているのだ。
「しかし、今日はそんな声が多い気が…」
そんなことを思って席に座ると、そのすぐ後に三人の少女たちが話しかけてきた。
「おはよう、ライアー君。」
「おはよ、ライアー。」
「ん、おはよう。」
視線をあげると、サリア・サーシャ・アイリスの三人だった。
「あぁ、おはよ…う?」
何気なく返事を返そうとしたのだったが、いつもと違う三人の様子に俺は首を傾げた。サリアはいつも以上にニコニコしているし、サーシャはそっぽを向いている。アイリスはいつも通りの無表情だが、心做しか視線がキツい気がする。
「どうしたんだ?」
「昨日は楽しかったかしら?」
訳が分からないので三人に問いかけると、サーシャがこちらを睨みつけながら答えた。それに続くようにサリアとアイリスも答える。
「セシエルト先輩と二人きりでお出かけしたんだよね?」
「……ずるい、です。」
その言葉を聞いて顔が引き攣った。テイラーに貰った本、そして今朝の夢ですっかりと忘れていたのだが、リーネと共に彼女の実家へ行くと言ったときから三人の機嫌はすこぶる悪かった。
「別に遊びに行った訳じゃないぞ。」
俺は初めに言ったことと同じ事を言った。しかし、彼女たちは表情を帰ることなく答えた。
「でも、二人きりだったんだよね?」
「そうね、言い訳は聞きたくないわ。」
「ライアー、往生際が悪い。」
女が三人集まると姦しいと言うが、まさにこの事だろう。恐らくだが何を言っても彼女たちは納得しないし、機嫌は治らないだろう。
「どうすればいいんだ…」
三人の言葉に参ったというように両手を上げて問いかける。そんな俺を見てサーシャはこちらを伺うように聞いてきた。
「今度の休み、空いてる?」
「今の所特に用事は無いな。」
すると、その答えにサーシャは笑顔になり言った。
「じゃあ、その日あたしと出掛けなさい!」
「あ!サーシャずるいよ!!」
「抜け駆け、だめ。」
「な、なによ!あたしが先に言ったんだから!」
そんなサーシャの言葉にサリアとアイリスは文句を言う。俺はまだ返事をしていないのだが、三人はあーでもないこーでもないと言っている。
「皆さん〜。そろそろ授業を始めますので、席に戻ってください〜。」
それは座学担当のティナがやってくるまで続き、俺はそれを見てため息を着くのだった。
「―――ですので〜、魔法属性の起源というのは未だ解明されてないのですよ〜。」
座学の授業中、俺は講義内容の魔法歴史を聞きながら考え事をしていた。恐らくだが、今授業でやっている魔法の歴史はヴェルディアナの存在以降に作られたものだ。しかし、いくら文明が彼女らによって滅ぼされたとはいえ、人類まで滅ぼしたとは言っていなかった。それだと、その起源が伝わっていないのはおかしな事になる。
「しかしながら〜、文献がいくつか残されていますので、起源の仮説は立てられているのです〜。」
半ば聞き流す程度に授業を聞いていた俺だったが、ティナの発した言葉にハッとする。ティナはそれを見逃さず問いかけてきた。
「ライアー君〜?どうかしましたか〜?」
「質問だ、魔法の起源とされている仮説はどんなものがある?」
俺の質問に対し、ティナは少し考えた後黒板に板書をしながら答えた。
「現在有力とされているのは二つです〜。一つ目は魔力が変化して魔法となった自然現象説、もう一つは創造神シエスタによって与えられたと言われている創造説の二つです〜。古代の文献ではその二つが多く残されていますので〜。」
ティナの答えに少し考えた俺は再び彼女に問いかけた。
「古代の人々によって研究されて出来たという説はあるか?」
「無いですね〜。」
俺の問いに彼女は即答した。そして、教科書を捲りながらさらに続けた。
「先程も言いましたが、これらは古代の文献から立てられた仮説です〜。しかしながら、ライアー君の言うように人によって魔法が生み出されたという文献は発見されていないのですよ〜。ですが、面白い着眼点だと私は思います〜。」
「…分かった、ありがとう。」
俺はそう言うと視線を再び教科書へと移した。確かに、広く一般的に認知されている魔法の起源についてはその二つが有力であり、その他はどれも科学的に否定されているものが多い。だとしたら、ヴェルディアナは一体なんなんだ?テイラーに貰った本の内容は一体何だ?
そんな事を考えていると、終業の合図の鐘が鳴った。
「では〜、午前の授業は以上になります〜。お疲れ様でした〜。」
ティナの声と同時に生徒たちは昼休憩を取るために立ち上がり講堂を出ていく。
「ライアー君、お昼だよ!早く行こっ!」
「さっきの話の続きをするわよ、逃げないでね。」
「ん、お昼。」
それに合わせて、サリアとサーシャが俺の席に集まり、隣で寝ていたアイリスも目を覚ました。その言葉に俺も席を立とうとした時、授業の後片付けをしていたティナが俺の方に視線を向けると言ってきた。
「そうそう、ライアー君は午後の専門科目終了後に指導室に来てくださいね〜」
それだけ言うと、ティナは講堂を出ていった。その言葉を聞き、サーシャは引き攣った顔でこちらを見て言った。
「ライアー、一体何したのよ。」
「さあな、心当たりが多すぎる。」
「そこは心当たりが無いって言えるようにならないとだよ…」
俺の言葉にサリアはため息をつきながら言ったのだった。
午後の授業である魔術科目の講義を終えた後、俺はティナに言われた通り指導室へと向かっていた。学園に入ってから色々な事があり、思い当たる節は沢山あるのだが何故今になってなのだろうか。そう思いながら、俺は隣を歩く人物に視線を向ける。
「全く、なんでアタシまでアンタと一緒に指導室に行かなきゃならないんだい。」
「俺に聞くな。俺は心当たりがあるがお前はどうなんだ?」
「アタシかい?そりゃアタシもあるに決まってるじゃないか。」
笑いながらそう答えるのは魔術科の担当科長のターニャだった。最後の授業が魔術科目だったのだが、何故か彼女も一緒に呼び出されていた。俺はそんな彼女を見て笑いながら言った。
「確かにな、お前みたいな教師は呼び出されても仕方がないな。」
「相変わらず、口の減らないガキだね。」
俺の軽口をサラリと受け流すターニャだったが、指導室に近づくに連れてその表情を引き締めていった。そして指導室の扉をノックして入る。
「失礼する。」
「失礼するわ。」
ターニャと共にそう声をかけると、部屋の中にいた人物がこちらを見て言った」
「ライアーくんにターニャ、待っていたわよ。」
「遅かったな。」
「待っていましたよ〜。」
指導室に入ると、俺たちを迎えていたのは学園長のリアスだった。それだけじゃない、戦闘科のレニアスに座学科のティナもいた。つまり、俺が出ている科目の担当科長が揃っていた。
「一体どうしたんだ?」
俺がそう問いかけると、先程まで隣に居たターニャが彼女らのほうに歩いていき、こちらを振り返りいった。
「悪かったね、アタシもこっちの立場なんだよ。」
「は?」
訳が分からずに唖然とする俺に向かって、リアスが重々しく口を開いた。
「ライアーくんに大切な事を伝えなければならないわ。」
「何が起きた?」
いつもと雰囲気の違うリアスに緊張感が増す。すると、控えていたティナが一枚の書類を俺に渡しながら言った。
「ライアー君は来月の定期考査を受ける為の単位がたりないのですよ〜。」
「…は?」
俺はティナから発せられた言葉に呆気に取られたのだった。」
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「それで、どういう事だ?」
俺はティナに言われたことが理解出来ずに聞き返した。すると、リアスが手元の書類を開きながら言った。
「先程も言ったのだけれど、ライアーくんは座学科の単位が足りないの。だから、来月の定期考査を受ける基準に達していないのよ。」
その言葉と共にリアスはティナから手渡された書類を見るように言われる。それに視線を落とすと、そこには編入から今までの授業で取った単位の詳細が書かれていた。確かに、戦闘科と魔術科の単位はギリギリ足りているが、座学科の単位が足りなかった。
「俺はしっかりと授業には出ていたはずだが?」
俺には心当たりがないのでリアスに問いかける。すると、リアスが申し訳なさそうな顔で答えた。
「そうね、ライアーくんは授業をしっかりと受けているし態度も問題ないわ。でもね、ライアーくんって入院とか魔法研での検査とかがあったでしょ?そのせいで単位が足りなくなっているのよ。」
それを聞いて俺は思い出した。確かに、エレファントブルやスティルブ家の事件、そして異能者関係の事で病院には随分と世話になっていた。
「それでか…」
「元々ライアーくんは編入という形で学園に来たから、もともと正規で入学した生徒より取れる単位が少ないのよ。」
頭を抱える俺にリアスはそう言う。そこで、俺はある疑問が浮かんだ。
「…何故、戦闘科と魔術科の単位は足りているんだ?」
欠席した日数は変わらないが、単位が足りないのは座学科だけだ。一日欠席となっているのならば、他の二つの科目も単位が不足しているはずである。
「ライアーは学園指定でギルドに登録してクエストを行っている。それを成功させているから戦闘科の単位にも反映しているんだ。」
「魔術科ではアタシより魔術兵器の扱いが上手いんだ。アタシが教えられることはほとんどないから特例で単位を付けてるのさ。」
俺の問いにレニアスとターニャが答える。なるほど、それで座学科だけ足りないと言うわけか。
「それで、俺はどうなるんだ?」
「ターニャの単位の付け方は後で指導するとして……本来ならば単位不足で考査を受ける事が出来ないから、学園としては落第扱いで考査の後に始まる長期休暇で補講を受けてもらう事になるわ。」
それらを聞いた上でリアスに問いかけると、彼女は真面目な顔でそう言った。しかし、直ぐに難しい表情をして話を続けた。
「でも、ライアーくんには特別な事情がある、だから今回は課題を出すわ。それを次の休み終わりに提出すれば単位をあげるわ。」
特別な事情、恐らくそれは異能者とヴェルディアナの事だろう。この場にはその詳細を知らない人物もいるのであえて言葉を濁しているのだろう。リアスの言葉に他の三人は少し訝しげな表情をしたが、彼女の指示には頷いた。
しかし、落第せずに済むのならばそれに超したことは無い。
「分かった、それで頼む。」
「では〜、こちらが課題です〜。」
リアスの提案を受け入れると、ティナは足元に置かれた箱の中から課題を取り出して俺に渡してきた。それは教科書数冊分の課題だった。
「…この量を休み明けまでにか?」
俺はジロリとリアスを睨む。しかし、彼女は涼しい顔をして答えた。
「あら?落第のところをそれで勘弁してあげるって言っているのよ?女の子と遊びに行く時間があるなら出来るわよね?」
「…分かった。」
リアスに向けられる視線を受けて、俺はサリアたち経の言い訳を考えながら頷くのだった。
ありがとうございました。
久しぶりに学園内の事を書いた気がします…
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。
あ、あとTwitterアカウント始めてみましたので、興味があれば探してみて下さい。