36話:セシエルト姉妹
どうも、眠れぬ森です。
長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
「魔法が意志を持つ…ですか?」
俺の言葉にカインは眉を顰めながら首を傾げる。そばにいるリアスとリーネも同様の反応をしている。それもそのはずだろう、自分自身ですら未だに信じられないのだから。
「詳しく話すことは出来るかしら?」
「お願いします。」
しばらくの静寂の後、リアスが真剣な眼差しで問いかけてきた。それに続くようにカインも言う。その言葉に頷くと、俺はあの世界での出来事を話し始めた。
ヴェルディアナの存在、彼女が生まれた理由、何故俺に宿っているのか、その全てを話した。その話にカインは逐一メモを取りながら聞き、リアスは神妙な面持ちで、リーネは信じられないと言う表情で聞いていた。
「…以上が俺の知った全てだ。」
「なるほど…」
俺の話を聞いてカインは難しい顔をしてメモした内容を読んでいた。そして、俺の顔見ながら言った。
「初めに、ライアー君の話は嘘であるとは思いません。しかし、真実であると言うには些か情報が足りないです。魔法の歴史に置いて最古の七芒星などと言った存在は出てきませんし、魔法の起源は未だに解明されていないのです。」
「私もよ、ライアーくんが嘘を言うとは思わないけど、少し信じられないわ。」
「私もですわ〜。」
カインに続けて、リアスとリーネもそう言う。その言葉に俺は黙ってしまう。説明したとしても根拠がなければ意味が無い。しかし、その根拠を示す為の手段が無いのだ。
滲み出る悔しさを堪えていると、カインがメモを見ながら呟いた。
「ライアー君の話、もう少し調べてみる可能性はありますね。」
「どういうことよ。」
その言葉にリアスが問いかける。すると、カインは俺の右目を見ながら続けた。
「確かに今の話は疑問が残ります。しかし、現にライアー君からは別の魔力反応が検出され、右目には僕も見たことの無い変化が現れています。もしかしたら、我々の未だ知らない何かが魔法には隠されているのかもしません!!」
「全く…カインも相変わらずね…」
興奮したように話すカインにリアスはため息をつきながら答える。そして、俺を見て笑いながら言った。
「私もライアーくんのことは気になるし、色々なところに当たってみるわ。」
「すまん、恩に着る。」
「気にする必要はありません、僕はただの好奇心ですから。」
「私も、学園長として生徒の為に動くだけよ。」
頭を下げて感謝の言葉を述べる俺に向かって二人はそう言った。
「あの〜、少々よろしいでしょうか〜?」
「どうしたの?」
すると、突然リーネが話しかけてきた。それに対してリアスが問いかけると、リーネはニコニコしながら話し出した。
「ライアー様、よろしければ私の実家に参りませんか〜?」
「どういうことだ?」
リーネの言葉に困惑する。今の話で何故彼女の実家に行く必要があるのだろうか。すると、リアスはリーネの言葉を聞き頷いた。
「そうね、それはいい考えだわ。」
「リアス、説明しろ。」
俺が状況を理解しないまま話が進んでいる事に眉をしかめながら問いかけた。すると、リアスはこちらを見ながら話してきた。
「ライアーくんはリーネちゃんのお父様が何者か知っているかしら?」
「知らんな。」
「なんというか、ライアーくんらしいわね…」
その答えにリアスはため息を吐く。そうは言われても、リーネ自身から何も言われていないし、こちらから聞くことでも無い。そんな俺を見ながらリアスは続けた。
「リーネちゃんのお父様は魔法研統括管理者のテイラー・セシエルト男爵よ。つまり、私やカインが知らない間法についての情報を持っているはずよ。」
「テイラー様は魔法研全ての部署からの情報を持っています。僕たち魔力調査部門以外からの情報で、何か知ってい事があるかもしれませんね。」
リアスに続くカインの言葉に俺は考える。確かに、そのような人物ならば答えは知っていなくとも、<最古の殲滅魔法>に繋がるヒントを知っているかもしれない。
俺はリーネのほうを向くと彼女に問いかけた。
「リーネ。お前の父、テイラーに会うことは出来るのか?」
「お父様の都合で良ければ可能ですわ〜。」
笑顔で手を合わせながら答える彼女に俺は頷きながら言った。
「構わない、会わせてくれ。」
「かしこまりましたわ〜♪」
俺の言葉に、リーネはいつもの笑みを浮かべて答えたのだった。
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魔法研での出来事から数日後、学園の休日を利用してリーネの実家のあるセシエルト領へと向かっていた。セリエス王国からセシエルト領までは徒歩だとかなり時間がかかってしまう為、リーネが手配してくれた馬車に乗り向かっていた。
「悪いな、休日まで付き合わせてしまって。」
「構いませんわぁ。それよりも、サリア様たちのことを気にした方がよろしいと思いますわ〜。」
「…それを言うな。」
リーネの言葉に俺は右眼につけた眼帯を触りながら答える。
ヴェルディアナの件の翌日、俺が学園に向かうと眼帯姿を見たサリアとサーシャ、アイリスに泣かれる勢いで心配されたのだった。その後、三人に色々と聞かれて魔法研での出来事やヴェルディアナの事、そしてリーネの実家へと行くことを話したのだが、リーネの実家へ行く話をした途端に三人の機嫌が若干悪くなってしまったのだった。
「まったく、遊びに行くわけじゃないのだがな…」
「それは乙女心というものですわ〜。」
「そういうものなのか…」
そんな会話をしながら馬車に揺られること半日、遂にセシエルト領へと到着したのである。
俺たちが向かったのはセシエルト領の中心に位置する街であるスタットだ。その街にリーネの実家があるのだという。門を抜けて街中を進み中央へ馬車が進むと、そこにはセリエス王城ほどではないが、普通の人からしてみればかなり立派な屋敷が建っていた。俺たちを乗せた馬車はその屋敷へと入っていくと、玄関の前で止まった。
「ここが私の実家ですわぁ〜。」
馬車を降りると共にリーネがそう言うと、屋敷の扉が開かれると同時に初老の男性がこちらへ向かって来ると、お辞儀をしながら言った。
「お待ちしておりましたお嬢様、そしてライアー様。」
「マスタング、お久しぶりですわぁ♪」
マスタングと呼ばれた男性はリーネの言葉に笑みを浮かべると、俺たち手荷物を受け取り屋敷の中へと案内してくれた。屋敷の中は過度に装飾されている訳では無いが、雰囲気に合わせた調度品が飾られておりいかにも貴族という雰囲気だった。そんな慣れない雰囲気の中、マスタングに案内されながら廊下を歩いている時だった。
「リィィィィィィネェェェェェェェェ!!!!!」
廊下の向こうから叫び声と共に誰かが走って来るのが見えた。突然の事に驚き固まっている俺たちを他所に、その人物はスピードを緩めることなく近づいてくると、リーネに向かって飛びながら抱きついた。
「リーネ!!会いたかったよリーネ!!」
「ク、クレハ姉様!?」
リーネに抱きついた人物は彼女と同じ薄紫色の髪をサイドテールに括った女性だった。クレハと呼ばれた女性はリーネに抱きつきながらその頭を撫で回していた。
「あ〜、俺の可愛いリーネ!!今日はどうしたんだ?実家に顔を出すなんて珍しいじゃないか!!そうか、偉大なこの姉に会いたくなったのか!?も〜可愛い奴だな〜♪」
「あ、あの、少しお待ちくださいませ〜…」
いつも笑みを崩さずに落ち着いた雰囲気を出しているリーネが手玉に取られている様子に呆気に取られていると、今度は俺の後ろから女性の声がしてきた。
「クレハ、リーネが困っているわ、やめなさい。」
「げ、メリナねぇ…」
「メリナ姉様!」
クレハとリーネの言葉と同時に振り向くと、そこにはリーネよりも少し濃い紫色の髪を短く切りそろえた女性が立っていた。二人にメリナと呼ばれた女性は俺のほうを見ると、綺麗な所作で頭を下げてきた。
「申し訳ございません、お客様の目の前でお見苦しい所を見せてしまいました。」
「いや、問題ない。」
メリナの言葉にそう答えると、今度はクレハがメリナと俺の間に割って入ってきて、こちらを睨みつけながら言ってきた。
「なんだアンタ、俺の可愛いリーネとどういう関係だ?」
「は?」
「クレハお嬢様!?」
「クレハ!!」
「クレハ姉様!?」
突然の事にマスタング含めた全員が驚きの声を上げる。しかし、クレハはそんな事を気にする様子もなく俺に突っかかってきた。
「なぁアンタ、見たところ魔法士じゃないようだが何者だ?まさか、ガキのくせに俺のリーネに手ェ出したのか?」
「クレハ、やめないか!!」
「止めんなメリナねぇ!!俺のリーネがこんなどこの馬の骨かもわかんねェ奴に穢されたのかもしれねぇんだぞ!!」
「…っ!!」
一度は止めに入るメリナだったが、クレハの言葉を聞いて鋭い視線を俺に向けてくる。
「ち、違いますわぁ!!ライアー様は…」
「なんだ、セシエルト家には教育もまともに受けてない奴も居るのか?」
「……あぁ?」
「ライアー様!?」
弁明しようとするリーネだったが、あまりの物言いに俺の方が我慢出来なくなった。初対面の人物にここまで言われる筋合いは無い。
クレハは俺の言葉を聞き、こめかみに青筋を浮かべながらさらに睨みつけてきた。
「なんだ?リーネに手を出した分際でこの俺とやる気か?」
「クレハ、やめないか。君も、こちらに非があるのは重々承知なのだが、先程の発言は撤回して貰えないだろうか。」
こちらに掴みかからんばかりの眼光を向けてくるクレハを抑えながら、メリナは俺に向かって言ってきた。しかし、あそこまで言われて黙っているほど温厚では無い。俺はメリナを一瞥すると、彼女に抑えられているクレハを見て笑いながら言った。
「弱い奴ほどよく吠えると言うが、お前もその口か?」
その言葉を聞いたクレハが一瞬無表情になる。そして、顔を伏せながら抑えていたメリナの手を振り払うと、マスタングのほうを向いて低い声で言った。
「マスタング、中庭の訓練場を準備しろ。」
「か、かしこまりましたッ…!!」
慌てて走っていくマスタングの後ろ姿を見送ったクレハは、次に俺のほうを向いて言った。
「アンタはセシエルトの名を侮辱した。だからアンタに決闘を申し込む。あそこまで言ったんだ、嫌だとは言わないよな?」
「クレハ姉様、少し考えてほしいですわぁ!!メリナ姉様もなにか言ってください!!」
クレハの言葉を聞いてリーネが悲鳴のような声を上げる。そして、縋るようにメリナに声をかける。しかし、メリナは首を振って言った。
「すまないリーネ、流石にあそこまで言われたのならば、セシエルト家として看過できない。」
「そんな…ライアー様…」
メリナにもそう言われたリーネは心配そうな視線で俺に話しかけてくる。しかし、俺はクレハから目を逸らさずに答えた。
「大丈夫だ。」
「どこの馬の骨か知らねぇが、後悔しても遅いぞ。」
「はっ、その強気がいつまで持つのか見ものだな。」
「ッ!!着いてこい!!」
俺の言葉に歯ぎしりをするクレハだったが、一言そう言うとメリナと共に背を向けて歩き出したのだった。
クレハとメリナの後を追い歩いていくと、中庭に作られた訓練場に辿り着いた。そこには直径三十メートル程のドーム状の結界が貼られていた。そのドームに入っていくクレハを見ていると、メリナが俺のほうを見ながら言った。
「君には今からこの中でクレハと戦ってもらう。これは訓練用結界だから中で死ぬことは無い。だが、一度入ると勝敗が着くまで出る事は出来ない。中に入った瞬間から戦闘開始だ。質問はあるか?」
「いや、特に無い。」
「では配置に着け。」
有無を言わせぬメリナの言葉にそう返事をすると、彼女は背を向けてドームから離れていった。それと同時にリーネが近づいてきて言った。
「申し訳ございませんわぁ…私の力が足りずに姉様たちを止められませんでしたわ〜…」
頭を下げてくるリーネだったが、俺はそれに笑いながら答えた
「気にするな、むしろこっちの方が都合が良い。」
「都合とは…?」
「まぁ、見てろ。」
それだけ言うと、クレハの待つドームの中へと歩いて入っていった。
中に入ると、クレハは自分の身長ほどもある刀身の大剣を肩に担ぎながら言ってきた。
「逃げずに来たことは褒めてやる。だが、手加減はしねぇ。」
「お前こそ、口先だけは無しだぞ。」
「潰す。」
俺が答えると同時に、クレハは大剣を片手で振りかざして突っ込んできた。それはさながら、リーネとの模擬戦のようだった。
(早い…が、直線的すぎるな。)
俺はクレハが大剣を振り下ろすタイミングで横に転がり回避する。彼女の大剣が突き刺さり、激しい轟音と共に地面を砕く。それを見ながら収納袋からシムエスMk.IIを取り出すと、距離を取りながら魔力を込めて引き金を引いた。
ダダダァァン!!!!
加速の魔法術式で亜音速まで加速された銃弾が銃口からクレハに向かって放たれる。狙いは突き刺さった大剣を持った右半身だ。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、クレハは深く突き刺さった大剣を軽々と引き抜くと、俺の放った銃弾を易々と弾いてしまった。そして、笑いながら俺に向かって叫んだ。
「魔術士だったとはな!!それでリーネに取り入ったんだろ、だがな!!」
そこまで言うと、クレハは再び大剣を構えてこちらへ突っ込んできた。俺はそれを回避しながらシムエスMk.IIによる射撃を行った。しかし、放たれる銃弾は全てクレハによって弾かれてしまう。
「そんな鉛弾じゃあ俺には届かないぜ!!逃げ回るのもいつまで持つんだぁ!?」
そう言いながら再び大剣を振るってくるクレハだった。確かに、このまま逃げ続けるのは得策では無い。それは分かっている。だがあえて逃げ回ることに俺は専念していた。ある瞬間を狙って。
「ちょこまかと小賢しい!!そろそろ終わらせてやるよ!!」
そう言いながら今までで最大の構えで突っ込んでくるクレハ。
(来た!!)
そう思った瞬間、腰に下げていたベルトから閃光爆弾を取り出すと、クレハが大剣を振り下ろす直前にピンを抜いて前方に投げた。
「あ?……っ!?!?」
クレハが大剣を振り下ろそうとした瞬間、激しい光が俺とクレハの間で輝く。
「がっ!?くそっ!!」
発光の瞬間俺は目を瞑っていたが、クレハは大剣で防いだだけだったために一瞬視界を奪われた。その瞬間、俺は腰から霧雨を抜くと彼女に向かって突き出した。
ギャリギャリギャリ!!!!
金属同士が激しく擦れる音が鳴り、一瞬の静寂が訪れる。俺が突き出した霧雨はクレハの咄嗟の防衛行動により大剣の腹を滑って行った。しかし、勢いまでは止めることが出来なかったようで、彼女の頬を切り裂き、薄っすらと血が流れていた。
「あ…な…っ!!!!」
呆気に取られていたクレハだったが、視線が俺の霧雨を捉えた瞬間、全身から魔力を吹き出した。
「くっ!?」
その勢いに圧倒され、バックステップで距離を取りクレハを見る。すると、彼女の周りには荒れ狂う暴風のように魔法が渦巻いていた。そして、彼女は無表情で俺のほうを見ると低い声で言った。
「魔法を使うまでもないと思っていたが、ここまでやられちゃ黙ってらんねぇ。全力で潰してやる。」
そう言うと、大剣を振りかざしながら再び突っ込んできた。しかし、今度はその刀身に風魔法を纏わせてだ。
「切り裂かれろ!!」
叫び声を上げてクレハが大剣を振り下ろす。その瞬間、俺は待っていたと言わんばかりに胸の中で叫んだ。
(知覚限界突破!!)
世界がスローになり色を失う。そんな中でクレハの大剣に纏った魔法から光の線が伸びてくる。それは俺の顔面目掛けて伸びていたので、いつも通りその射線上から避けるように身体を動かす。その時だった。
《上手く使ってくれていますね。》
「!?」
突然、その世界に声が聞こえてきた。忘れるはずもない、俺の中に棲む強力な魔法の声だ。
「ヴェルディアナ…!!」
《昨日ぶりですね、ライアーさん。》
その声に驚き、辺りを見渡す。しかし、そこはセシエルト家の中庭の訓練場であり、目の前のクレハしか見えない。
「どこにいる。」
《貴方の中です、そこは貴方の世界ですから出られません。》
「いったい何の用だ。」
俺の言葉にいたずらっぽく答えるヴェルディアナに、目の前に迫る大剣を見ながら問いかける。すると、彼女は楽しげに笑いながら答えた。
《私と契約した貴方に、私の力の半分を見せてあげますよ。》
「どういうこ……っ!?!?」
ヴェルディアナの言葉に再び問いかけようとした瞬間、眼帯をした右眼が熱くなるのを感じた。そして、耳元で聞こえていた彼女の声が、今度は頭の中で響いた。
《貴方の半身、借りますよ。》
その瞬間、世界が色を取り戻し元のスピードに戻って行った。
ガキィィィィィィィン!!!!
激しい金属同士のぶつかる音が中庭の訓練場に響き渡る。
「な…なっ!?!?」
「…は?」
そして、俺とクレハの眼に飛び込んできた光景を見て、二人とも言葉を失った。
クレハが魔法を纏って振り下ろした大剣は確かに俺を切り裂く軌道にあり、俺は知覚限界突破を使用して避けようと思った。しかし、彼女が振り下ろした大剣は、紅い魔力を纏った霧雨に防がれていた。
「なんなのだ…あれは…」
「ライアー様…」
俺とクレハだけじゃない。結界の外で見ていたメリナとリーネも同じように驚愕の表情を浮かべていた。
「なんなんだよアンタは…」
目の前で起きたことが信じられないのか、クレハは目を見開いて固まっていた。その時、霧雨を持っていた腕が勝手に動き、彼女の顔面目掛けて突き出された。
「なっ!?」
「しまった!?」
突然の事に俺もクレハも反応が遅れる。しかし、そんなことを無視して霧雨を持つ手は彼女の顔面に迫る。その時だった。
「そこまで!!!!!」
訓練場のある中庭に何者かの声が響いた。それと同時に俺の体が動くようになった。
(今だ!!!)
クレハに向かって突き出される腕を反対の腕で掴んだ。
本当にギリギリだった。俺の霧雨はクレハの眉間ギリギリで止められていた。
「あ…あぁ…」
それを見たクレハはヘナヘナと腰を抜かしたように座り込んでしまった。すると、霧雨を包んでいた紅い魔力は消え去り、腕が自由に動くようになると共に右眼の熱も引いていった。
「っ……はっ…はあっ……」
俺はそれを確認すると息を吐いて膝を着いた。何が起こったのか分からないが、とりあえず死なない結界の中とはいえ、無駄に傷つけることなく済んだことに安堵した。すると、先程中庭に響いた声の主が話しかけてきた。
「全く、遅れた僕も悪いが、君も君だよライアー君。」
「お父様…」
「父さん…」
「父様…」
リーネたちの声を聞きながら振り返ると、そこにはリーネたち姉妹の父親にしてセシエルト家当主のテイラー・セシエルトが立っていたのだった。
ありがとうございました。
リーネの姉たちが登場です。
長女のメリナ、次女のクレハ、三女のリーネです。
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。