35話:選択の先
どうも、眠れぬ森です。
今回はヴェルディアナとライアーに何が起こるのか?
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
目を開けると、そこは何も無い白い世界だった。上下も左右も分からないその世界に、俺は一人浮かんでいた。
「ヴェルディアナ…」
そんな世界の中で先程まで話していた彼女の名前を呟いた。俺の中に眠っていた力の正体、長い黒髪を靡かせてこちらを見つめる彼女の姿が思い浮かぶ。
先程まで彼女が語っていた生まれた理由、そしてそこで生まれた問題。様々な事が頭の中で渦巻いて混乱している。
「俺は一体どうしたいんだ…」
そう呟いて膝を抱えて頭を伏せる。彼女は、ヴェルディアナは俺の想像を遥かに超える力を持っていた。それこそ、俺を簡単に殺してしまえるほどだ。彼女を目の前に、その力に恐怖した。それは生存本能であったかもしれないが、俺はその事を酷く後悔した。自分自身の力にもなり得る存在を否定してしまったことに。ただ何も無い空間を漂いながら考えた。俺はヴェルディアナとどう向き合えばいいのだろうかと。
「クソッ…」
そう漏らしながら目を瞑る。そして今まで俺がしてきた事を思い返す。
傭兵団にいた頃から強さを求め続けてきた。それは生きるために必要な事だった。しかし、ヴェルディアナの力はそんな俺を殺すかもしれない力だ。そんな強大な力を俺は持っていてもいいのだろうか。その先に俺が生きる未来はあるのだろうか。そんなネガティブな考えが次々と浮かんでくる。
《所詮その程度なのですね。》
「ヴェルディアナ…」
すると、どこかに去っていったはずのヴェルディアナが、膝を抱えた俺の目の前に現れた。顔を上げると、無機質な表情で俺を見下げている彼女の姿が目に映った。その目はまるで地上を這う虫を見るような目だった。
「そうだな、俺はどう足掻いても小さい人間だ。」
《……》
俺の答えに、彼女は黙ったまま視線を向ける。そしてしばらく見つめあった後、ヴェルディアナは淡々と語り始めた。
《私は何人もの人間を見てきました。ですが、その多くは私の力に恐怖する者、溺れる者でした。恐怖し自害する者、力を振りかざして己の欲のために使う者。人間は醜い存在ばかりでした。そんな人間の多くは同じ最古の七芒星との戦いに敗れていきました。》
「…だろうな。」
ヴェルディアナの言葉に、再び俯きながら力無く答える。しかし彼女はそんな俺を無視して話を続けた。
《しかし、そんな人間の中にも私の力を使いこなそうとする者も居ました。己自身の為でなく、誰かの為に力を使いたいという思いで。》
「…っ!」
その言葉を聞いた瞬間顔を上げた。その様子を見て、ヴェルディアナは空中に手をかざすとそこに波紋が広がり、段々と映像のようなものが映し出された。
「これは…」
《貴方の視界です。》
「なに?」
そこに映っていたのは、紅い魔力に囚われたリーネと、悲痛な顔をしてこちらに向かって駆けてくるリアスの姿があった。
驚く俺を見ながら、ヴェルディアナは再び口を開いた。
《貴方は攻撃を受けて瀕死の怪我を負いました。その為、私の魔法の一つである自己防衛システムが起動しました。》
「…何が言いたい。」
《貴方は今からリーネ・セシエルトを殺害します。》
「な!?」
ヴェルディアナの口から発せられた言葉に驚きの声を上げる。なんて言った?俺がリーネを殺すと言ったのか!?
「どういう事だ!!」
俺は立ち上がるとヴェルディアナに掴みかかる。しかし、彼女はそれを無機質な目を向けたまま答えた。
《先程も言いましたが、自己防衛としてです。》
「だが、リーネは俺の仲間だ!!」
《私はライアー・ヴェルデグランではありません。》
「っ!?」
彼女の言葉に絶句する、そして理解した。ヴェルディアナは確かに意志を持っている魔法だ。しかし、そこにあるのは自身の事のみ。宿主の事など全く関係無いのだ。
その瞬間に思った、彼女を放っておいてはいけないと。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺はヴェルディアナに向かって殴りかかった。しかし、彼女から発せられた紅い魔力により拳は届かない。
「クソッ!クソッ!!クソッ!!」
《無駄です。》
何度も、何度も殴りかかる。しかし、俺の攻撃はヴェルディアナの魔力に阻まれて届くことは無い。だが、俺は何度も拳を振るった。届くことは無いと分かっているが、目の前の仲間が殺されるのを見ていることは出来なかった。
「俺の力は仲間を殺すためにあるんじゃない!!」
そう叫んだ瞬間、拳を防いでいたヴェルディアナの魔力にヒビが入った。それは偶然か本能だったのか、振るった拳に魔力を込めたのだ。
《っ!?》
それを見たヴェルディアナは今まで無機質だった表情を、一瞬驚きの表情に変えた。俺はその瞬間を見逃さなかった。
「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」
込めれるだけの魔力を拳に込めてヴェルディアナへと打ち込む。魔力を纏った俺の拳は紅い魔力を打ち破ると、そのままヴェルディアナの胸元へと突き刺さった。
《…貴方はこの力を、何のために使うのですか?》
俺の拳が突き刺さった胸元を一瞥したヴェルディアナは何かを見定めるような瞳で問いかけてきた。そんなもの決まっている。
「俺が生きる為、仲間を守るためだ。」
その瞬間、俺たちのいた白い世界が音もなく砕け散り、おびただしい数の魔法術式が現れた。
「これは…」
《私自身、貴方が生きている為の魔法、最古の殲滅魔法の魔法術式です。》
呆気に取られる俺をよそに、ヴェルディアナは答えた。そこにある魔法術式は、今まで見たどの術式よりも精巧で、そして酷く美しかった。
すると、其の魔法術式の一部が俺の体に纏わりつくと、それは俺の中に溶けるように染み込んでいった。
「これは…」
《貴方と私で契約を結びました。》
「契約だと?」
《内容はいずれ分かるでしょう。》
ヴェルディアナが答えた瞬間、俺の体が何かに引っ張られるように上昇を始めた。そした、視界が眩い紅色に染まっていく。
《貴方の力の使い方、見せていただきます。彼のように――――》
最後に聞いたのは、今まで聞いたことのない優しげなヴェルディアナの声だった。
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「ライアーくん!!!!」
誰かに名前を呼ばれてハッとする。視界には紅い魔力で拘束されたリーネとこちらに駆け寄ってきているリアスの姿が映った。そして、リーネに向かって引き金を引きかけている自分の左手だ。それは先程までヴェルディアナに見せられていた光景だった。
(マズイッ!!)
瞬間的にそう思ったが、既にシムエスMk.IIには魔力が込められ、指は引き金を引き始めている。今から発射を中止することは出来ない。このままでは一秒にも満たない間にリーネを撃ち殺してしまう。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺はボロボロになっている体を無理やり動かし、シムエスMk.IIを構えた左腕を動かして銃口の向きを変えた。それと同時に引き金が引かれた。
ドガァァァァァァァァン!!!!
激しい炸裂音と共に、銃口から爆炎とも言える炎を吹いて弾丸が発射された。その銃弾は、リーネの頭上を掠めるように戦闘施設の天井にぶつかり、巨大な炎の塊となって全体を揺らした。それと同時に俺から出ていた紅い魔力は霧散し、リーネの拘束も解かれた。
「ハァッ…ハアッ…」
ギリギリのタイミングだった。あと少し銃口を逸らすのが遅れていればリーネを撃ち殺してしまうところだった。
全身の痛みと激しい疲労感に耐えながら顔を上げると、リーネとリアス、カインが驚愕の表情で俺を見つめていた。
「ハァッ…戻ってきたぞ。」
「ライアーくん…」
「ライアー様…」
そんな彼らに無理やり笑いながら言うと、リアスとリーネは腰を抜かしたかのようにその場に座り込んだ。
「くっ…」
「ライアー君!?」
それと同時に俺は全身から力が抜け膝を地面につく。するとカインが走ってやってきて、リアスとリーネに叫んだ。
「リアス!!早く上級治癒を!!リーネちゃんはライアー君の右腕を支えてください!!」
「え、あ!!分かったわ!!」
「分かりましたわぁ!」
その言葉にハッとした二人は、俺の元へ駆け寄って来るとすぐさまカインに言われた通りに処置を施した。
「大丈夫ですか、ライアー君?」
「なんとかって感じだ…」
二人に処置されていると、カインが問いかけてきた。俺は力無く答えると、彼は申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた。
「申し訳ありません。まさかここまでの自体になるとは予想外でした…無理な実験を行ったことをお詫びします。」
「元々俺がやると言ったことだ…気にするな…それに、責任者が簡単に頭を下げるな…」
「…恩にきります。」
カインの言葉に答えると、彼は再び頭を下げてきた。
リアスの上級治癒を受けてある程度動けるようになってきた俺は、怪我をした部分の治療を終えるとカインの研究室へと場所を移していた。先程の実験の結果を聞くためだ。
「さてライアー君、先程の結果を伝えたいと思います。準備は良いですか?」
「あぁ、聞かせてくれ。」
俺の言葉にカインは頷くと、こちらをじっと見つめてきた。いや、見つめると言うより観察していると言うのが近いだろうか。そして、一瞬リアスとリーネに視線を向けたのち話し出した。
「最初に、ライアー君がリーネさんと戦闘を始めた時ですが、そこではいつものライアー君の魔力反応及び魔力量が検出されています。」
「なるほどな。」
「ですが、リーネさんの攻撃を受けてライアー君が極度のダメージを受けた際、変化がありました。」
「変化だと?」
首を傾げてカインに問うと、彼は難しい顔をしてながら答えた。
「結論から言いますと、ライアー君からリアスが見たという紅い魔力が放出され、魔力反応及び魔力量に大きな変化が現れました。」
「と言うと?」
「魔力反応のパターンがライアー君のものとは違う反応を示し、魔力量も大幅に増加しました。そして、まるで別人になったかのような言動と行動を取りました。」
「…それは本当か?」
「はい、データとして残してあります。」
カインのその言葉に俺は一つ思い当たる節がある。しかし、それだけでは確証を得ることが出来なかった。すると、一呼吸おいてからカインは俺の目を見つめながら言った。
「次に、実験前後のライアー君の身体的な違いです。ライアー君自身気がついていますか?」
「なんの事だ?」
「ライアーくん、違和感無いのかしら?」
「不思議ですわぁ…」
カインの問いかけるような言葉に首を傾げる。すると、リアスとリーネが驚いたような声を上げる。
「一体何が言いたい?」
「実際に見てもらったほうが早いでしょう。」
三人の反応に訝しげな視線を向けると、カインが一枚の鏡を取り出しながら言った。それを受け取り自分の顔を見る。
「なっ!?」
鏡に写った自分の顔を見て、思わず声を上げてしまった。そこに写っていたのは、右の白目だった部分が紅く変色し、瞳孔に魔法術式が刻まれた俺の顔だった。
「なんなんだこれは…」
その光景が信じられずに、目を擦りもう一度鏡を見る。しかし、そこに写る俺の目は変わらないままだ。
「カイン、どういう事だ。」
俺は鏡を返しながらカインに問いかけた。すると、彼は手元の資料を見ながら答えた。
「原因は恐らくライアー君から発せられた魔力ではないかと推測します。現に、右目からも同じ魔力反応が感知されています。それもライアー君のものとは別の魔力です。」
その言葉で、俺の中での考えが確証に変わると共に彼女の姿が頭に浮かんだ。
「ヴェルディアナ…」
「っ!?それはライアー君が持っていると言う災厄魔法<最古の殲滅魔法>の事ですか!?」
「何か分かったの!?ライアーくん!?」
俺のつぶやきにカインとリアスが驚いたした様子で問いただしてきた。その様子を見ながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「俺は、ヴェルディアナに会ったんだ。」
「会った、というのはどういう意味ですか?」
俺の言葉にカインは首を傾げる。それもそうだろう、カインたちにとって俺の持つ<最古の殲滅魔法>はただの魔法だと思っている。だが、本当のヴェルディアナは違った。俺が、俺たちが想像していたものよりもずっと強大なものだった。
「今から俺が言うことは嘘のように聞こえるかもしれないが、紛れもない真実だ。話しても良いか?」
俺は三人に問いかけた。すると、真剣な目つきで頷く。それを確認した俺は、重い口を開いた。
「俺の中にある魔法は、意志を持っている。」
ありがとうございました。
ヴェルディアナの話にカインたちの反応やいかに…
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。