34話:最古の殲滅魔法<ヴェルディアナ>
どうも、眠れぬ森です。
遅くなりました。
拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
災厄魔法<最古の殲滅魔法>
彼女からの答えと思われるその体から出る紅い魔力に、俺はとてつもないプレッシャーを感じた。
《そう怖がらないでください。先程も言いましたが、貴方に危害を加えるつもりはありません。》
そう言って、彼女は体から出ていた紅い魔力を霧散させた。俺にかかっていたプレッシャーが無くなり、大きなため息を吐いた。そして、そんな俺を見て笑っている彼女に問いかけた。
「お前は本当に魔法なのか?ならば、何故俺と会話をしている?それに精神の狭間とはなんなんむっ!?」
《あまりせっかちな殿方は嫌われますよ?》
頭が混乱して捲し立てるように質問をしていると、彼女は俺の唇に人差し指を立てて言葉を制して笑いながら言った。それに対して口を紡ぐと、彼女は俺の唇に触れていた指を離した。そしてドレスを翻しながら言った。
《私の名はヴェルディアナ。最古の七芒星の魔法使いの一人です。》
「最古の七芒星?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。すると、そんな俺の仕草に笑みを浮かべながら彼女は問いかけてきた。
《魔法の属性は分かりますか?》
「もちろんだ。」
魔法の属性は主に七つ。火・水・風・雷・土・光・闇だ。年端も行かない子供も分かることを何故聞いてくるのか不思議に思っていると、彼女は人差し指から小さい火の魔法を発動させながら言った。
《私はその魔法属性のうち、火の魔法を作り出したのです、五千年前にね。》
「…なんだと?」
その言葉に俺は眉をひそめながら答えた。それもそのはず、魔法の起源は未だ解明されていない難題のはずだ。それに、人類の歴史はまだ三千年程度しか無いと言われている。彼女の言葉は矛盾だらけだ。
「お前は一体何を言っているんだ?」
ヴェルディアナに聞き返すと、彼女はどこからか椅子とテーブルを出してそこに腰掛けた。そして、俺を反対の椅子に腰掛けるように促しながら言った。
《座りなさい、話してあげます。》
その言葉に若干の警戒をしつつ、俺は席に座った。すると、ヴェルディアナはどこからかティーセットを取り出しお茶を入れると、俺に渡してきた。俺はそれを受け取りつつも、口を付けること無く彼女に問いかけた。
「まず、お前は一体何者だ?」
《私は、言うなれば意志を持った魔法でしょうか。》
「意志を持った魔法だと?」
彼女の言葉に俺は耳を疑った。魔法とは、体内の魔力を元に発現する現象のことであるため、もちろん魔法そのものにに意識などはない。しかし、彼女は自分自身の事を魔法と言った上で俺と会話をしている。
「到底信じられない話だな。」
《当然でしょう。知る者は異能者と呼ばれる貴方がたしか分からないのですから。》
俺はヴェルディアナを睨みつけながらそう言った。しかし、そんなことを気にする様子もなく彼女はティーカップに口をつけながら返した。
どうにも会話が成り立っていないように感じたので、彼女のことは置いておき次の質問をした。
「仮にお前が魔法だとして、何故俺の中にいるんだ?」
俺の問いにヴェルディアナはティーカップを置くと、俺を真っ直ぐに見つめながら言った。
《私は魔法です。存在する為には膨大な魔力が必要となります。しかし、魔法である私自身では魔力を生み出せません。故に、莫大な魔力を持つ者と共に生きるのです。とてつもなく莫大な魔力を持つ者と。》
「なるほど、先天性魔力制御疾患を発病した者が生き残る例があるのはお前の仕業だということか。」
《その通りです。》
ヴェルディアナの答えに一度は納得したのだが、そこでとある事に気がついた。それは異能者と呼ばれる人間が複数人存在している事だ。以前俺の現れた仮面の男も、自分自身を異能者だと言っていた。
俺はヴェルディアナに恐る恐る聞いた。
「…ひとつ聞くが、お前のような存在は…意志を持った魔法とやらは複数存在するのか?」
《その通りです。》
彼女は俺の問いかけに澄ました顔で答えた。そして、ティーカップにお代わりのお茶を注ぎながら話し始めた。
《先程も言いましたが、私は最古の七芒星の魔法使いの一人です。つまり、私のような存在はあと六人居ます。》
「そうか…」
ヴェルディアナの言葉に俺は息を飲む。全く相手にならなかったあの仮面の男と同じような人物がまだ居る。その現実に目を背けたくなった。
「ところで、先程から出てくる最古の七芒星とは一体なんだ?」
俺は気を紛らわせるようにヴェルディアナに聞いた。なんてことの無いただの質問のつもりだったが、俺の言葉を聞いた瞬間に彼女の全身から紅い魔力が漏れだした。その魔力は全身を包み込み、手にしていたティーカップを瞬時に消滅させた。
《最古の七芒星とは…魔法を生み出した私たち七人を総称する呼び名です…》
「お、おい!」
忌々しい表情で話すヴェルディアナに、俺は焦りの表情を浮かべて声をかける。すると、彼女はハッとした顔をすると同時に漏れ出ていた紅い魔力を霧散させた。そして俺の方を向き、深々と頭を下げてきた。
《申し訳ございません。感情が昂り過ぎました。》
「いや、いいんだ。誰にだって聞かれたくない話もある。」
そう答えると、彼女は消滅させたティーカップを再び取り出すと、お茶を注ぎながら話し始めた。
《私たちは魔法を創りあげるまでは、魔力を研究する仕事をしていました。そして遂に魔法を創り出した私たちは、それを夜に広めました。しかし、一人また一人と魔法を創り出すと同時に、どの魔法が強力なのか競い合うようになりました。結果、私たちは一度世界を滅ぼしました。》
「世界を滅ぼしただと!?」
《その時です、私たちは最古の七芒星と呼ばれるようになったのです。》
ヴェルディアナの口から出てきた言葉に、思わず立ち上がりながら叫ぶ。しかし、彼女はそんな俺を気にする様子も無く続けた。
《そんなある日、私たちは自分たちの愚かな行為に気が付きました。そして、自分自身を封印する為に魔法をかけました。》
「魔法だと?」
《はい、その魔法は<魔法転生>。それを使い、私たちは魔法へと転生を行ったのです。それで全てが終わるはずでした。》
「はずだった?」
俺は彼女の言葉に違和感を感じて聞き返した。すると、彼女は頷きながらこちらを見つめて言った。
《魔法発動のプロセスに欠陥があり、二つの問題が発生しました。一つは私たちがこうして意志を持ってしまったこと。そしてもう一つは私たちを宿す者が瀕死になった際、私たちとの精神距離が近くなり自己防衛として私たち自身が魔法として自動的に発動してしまうことです。》
「つまりどういうことだ?」
《私たちは再び魔法を競い合う闘争心を宿し、その為なら宿主を犠牲にしてまで戦うということです。》
「なるほど、まるで寄生虫だな。」
《そうですね。》
俺の嫌味を込めた言葉にヴェルディアナは笑いながら答える。その笑みに不気味さを感じていると、突然視界が揺らいだ。それと同時に意識が朦朧としてきた。
「なん…だ…?」
頭を押えて椅子から転げ落ちる俺を、ヴェルディアナは立ち上がり一瞥すると言った。
《先程言いましたが、瀕死になった際は自己防衛として私が自動的に発動します。短い間でしたがお話楽しかったです。また会えたら会いましょう。》
その言葉を残して、ヴェルディアナはどこかへ歩いていく。
「ま…て…」
俺は彼女の背中を見て手を伸ばしたところで、意識を失ってしまったのだった。
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「ライアーくん!?」
私はリーネちゃんに吹き飛ばされたライアーくんを見て思わず叫び駆け出した。実戦に近い模擬戦の為、両者共に全力で戦っていた。しかし、その戦いの激しさは私の想像を超えていた。
「ライアーくん大丈夫!?」
私はライアーくんの元へ辿り着くと、すぐさま容態を確認した。リーネちゃんの攻撃を受けた右腕は骨が折れており、呼吸も不規則で口から血も流れている。その様子を見て直ぐに上級治癒の魔法をかけ始めた。
「やりすぎましたわぁ…」
「まさかここまでとは思いませんでした…」
するとそこへ、戦鎚を仕舞ったリーネちゃんとカインが申し訳なさそうな顔をしながら近づいてきた。
「私も途中で止めれば良かったわ…」
二人の顔を見て私も反省する。いくらライアーくんの了承を得た実験とはいえ、やり過ぎであったと感じる。
「ごめんね、ライアーくん…」
魔法をかけながらそう呟いた瞬間、突然ライアーくんの目が開かれた。
「ライアーくん!?気がつい……ッ!?」
私は声をかけようとした瞬間、ライアーくんの体から紅い魔力が迸ると、私がかけていた上級治癒の魔法を消し去ると激しさを増した。それは仮面の男との戦いで見せたあの魔力と同じだった。
「リアス!!離れて!!」
呆然としていると、後ろからカインの叫び声が聞こえた。それに対し本能的に後ろへ飛ぶと、ライアーくんの体から出ていた魔力が熱を持ち荒れ狂い始めた。
そして彼はゆっくりと立ち上がると、リーネちゃんのほうを見て口を開いた。
《生命の危機を確認しました。これより、防衛行動に入ります。》
「ライアーくん…」
その姿に言葉を失う。それはまるでライアーくんの見た目をした別の誰かのように見えた。
「なるほど、まだまだということですわね。」
「リーネちゃん!?」
そんなライアーくんを見て、リーネちゃんは再び戦鎚を取り出すと、私の言葉を無視して一直線に彼へと飛びかかって行った。
風魔法を推進力に爆発的な勢いで向かっていくリーネちゃんを、ライアーくんは空虚な視線で見つめている。
「行きますわぁ!!」
そして、リーネちゃんがライアーくんに向かって戦鎚を振り下ろす。
「…え?」
しかし、その攻撃はライアーくんに当たることは無かった。ライアーくんの全身から迸る紅い魔力がリーネちゃんを包んだかと思うと、彼女の風魔法を霧散させると共に全身に絡みついて動きを止めたのだった。
「そんな…ありえませんわ…」
その様子にリーネちゃんは驚きの言葉を零し、私とカインは絶句する。そんな私たちを見ながら、ライアーくんは地面に落ちていた魔術兵器を折れていない左手で拾うと、リーネちゃんに向けて構えながら言った。
《フェーズII解除を確認。これより、防衛行動を開始します。》
ライアーくんの構えた魔術兵器に紅い魔力が込められていく。それを見て、私は叫び駆け出した。
「ライアーくん!!!!」
《充填完了。獄炎のプロミネンス弾丸・ショット発射準備完了。》
走る私の視界には、ライアーくんが引き金を引く指がゆっくりと見えたのだった。
ありがとうございました。
ライアーの中に眠る力の正体が徐々に明らかになってきました。
次回もお時間があればよろしくお願いいたします。