33話:覚醒の序曲
どうも、眠れぬ森です。
お待たせしました。
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
場所はカインの研究室から代わり、魔法研の戦闘施設へと移っていた。およそ五十メートル四方のそこには壁一面に何らかの装置が取り付けられていた。
「それで、これからどうすればいいんだ?」
リーネとリアスと共にその場に経った俺はカインに問いかけた。模擬戦をする事に決まってからカインが鬼のような速さで戦闘施設の使用許可を取りに行ったかと思えばそのままここに連れてこられた。なので説明も何も受けていない。
「すみませんでした、では説明をしますね。」
カインはそう言うと、手元のノートを捲りながらまずは俺とリーネを見て言った。
「リーネさんとライアー君には模擬戦をしてもらいます。ただし、今回の模擬戦はより実戦に近づけるために、あえて安全の為の魔法結界を全て解除します。残すのは施設保護の結界のみです。」
「それで、もしもの時はどうするんだ?」
「その時は私の出番よ。」
俺の言葉にリアスが笑いながら答えた。カインはそれを見て頷くと、今度は俺とリアスのほうを見て話した。
「ライアー君の魔法が発動した場合と、もしも発動せずに危険な状態になった時はすぐにリアスが結界を張るようにお願いしました。なので、リアスにはライアー君とリーネさんと共にこの場に残って頂きます。」
「つまり、私が二人のストッパー役ということよ。分かったかしら?」
「ああ、分かった。」
俺はカインとリアスの言葉に頷き答える。それを確認すると、カインは部屋の外のガラス越しに見える部屋に移動しながらこちらに向かって言ってきた。
「それでは始めます。僕が向こうの部屋から合図をするので、そうしたらリアスの指示に従って模擬戦を始めてください。」
「分かった。」
「了解ですわ〜。」
その言葉に俺とリーネは返事をすると、向かい合って視線を交わした。
「こうやって手合わせをするのも久しぶりだな。前回は全力で来なかったみたいだから、今回は殺す気で来い。」
「あらあら、バレてしまっていましたか〜?心配なさらなくても、今日はストッパーもおりますので全力で挑ませていただきますわぁ。」
俺は真正面からリーネを見て言う。その視線を受けて、リーネは笑みを浮かべながら答えた。すると、窓越しのカインが両手で頭上に丸を作った。それを見てリアスが頷くと、右手を上に挙げた。
「それじゃあ始めるわよ。模擬戦スタート!!」
その声と同時にリアスの手が振り下ろされる。瞬間、俺は霧雨を逆手に構えてリーネに向かって走り出した。
(リーネの武器は巨大な戦鎚。その特性上、柄の部分付近は攻撃の内側になるはずだ。)
そう考えた俺は収納袋から戦鎚を取り出しているリーネに向かって霧雨を構えて飛びかかった。
「なっ!?」
しかし、俺の攻撃はリーネに届くことは無かった。彼女は取り出した戦鎚を左手で持ちながら右手で俺の腕を掴み攻撃を止めていた。
「少々焦りすぎではないでしょうか?まだ戦いは始まったばかりですわ〜。」
こちらに向かって笑顔でそう言うリーネに、俺は背中が泡立つのを感じた。その瞬間、彼女は俺を受け止めた左手で投げ飛ばした。
「ぐっ!?!?」
その勢いに一瞬驚いたが、何とか姿勢を持ち直して着地する。
「なかなか良い動きですわね、ライアー様。」
「あれからさらに実戦を積んだからな。」
にこやかな笑みを浮かべて言うリーネに対し、俺は冷や汗を流しながら答える。正直、今の一撃で倒すまではいかなくてもダメージを与えることは出来ると思っていた。しかし、それも束の間で逆にこちらがカウンターを返される形となった。
(ならばこれで!!)
俺は霧雨逆の手に持ちながらブラックホークを取り出して構える。そして、先程と同じようにリーネに向かって走り出した。しかし、今度は走り出した瞬間にブラックホークによる牽制を放った。
ガガガン!!
魔力を込めて加速の魔法術式を起動させながら放った銃弾は亜音速でリーネに向かって飛んでいく。しかし、銃弾はリーネの戦鎚によって弾かれてしまう。だがそれでいい、あくまで牽制なのだから。
俺はリーネが戦鎚で銃弾を弾くと同時に背後へ回り込み霧雨を振るった。リーネは正面を向いたままで俺の攻撃に反応する時間は無い
ガキィィィィィン!!!
しかし、リーネは振り返ることなく戦鎚を背後に回して俺の攻撃を防いだのだった。
「くっ!!」
それを見て、俺は思わず飛び退いて距離を取る。そんな俺を、リーネはやはり笑みを浮かべながら振り返った。
「流石だな、その歳で二つ名を付けられる実力は確かだ。」
「いえいえ、そんな事ございませんわぁ。私もまだまだですわ〜。」
俺の言葉にそう返すリーネ。しかし、俺はリーネの足元を見ながら言った。
「謙遜するな、お前は戦闘開始から一歩も動かずに俺の攻撃を防いでいるだろ。」
そう、リーネは今まで一歩もその場を動いていないのだ。通常であれば攻撃にせよ防御にせよ、構える必要がある。しかし、リーネは立ち尽くしたまま全ての攻撃を防いでしまったのである。
「私の二つ名はご存知ですわね?」
「<暴風の乙女>だろ?」
すると、突然リーネが俺に問いかけてきた。それに対して俺が答えると、彼女は頷きながら続けた。
「では、何故私がそう呼ばれているか、お見せいたしますわぁ。」
その言葉と共に、リーネは魔法を練り上げる。それはどんどんと大きくなっていく。どんどん、どんどんと。
「…嘘だろ?」
俺は思わず声を上げてしまった。リーネが練り上げた魔法は彼女の頭上で渦を巻く巨大な暴風となっていった。
「では…いきますわぁ。」
リーネはそう言うと、魔法を自分の背後へと叩きつけた。
「なっ!?」
その瞬間、リーネが戦鎚を振りかぶった体制で俺の目の前に現れた。そして、その戦鎚を俺に向かって振り降ろした。
「くそっ!!」
俺は突然の出来事に一瞬固まるが、何とか体を捻って戦鎚の攻撃線上から逃れる。しかし、リーネの戦鎚は俺の脇を通り過ぎると同時に風圧で俺を戦闘施設の壁まで吹き飛ばした。
「ぐっ…がはっ…」
壁に叩きつけられた俺は一瞬息が止まる。しかし、視線の先では既に魔法を発動しているリーネが見えた。それに対して、俺は無意識に前方に転がるように避けた。
ドガァァァァァァァン!!!
その瞬間、リーネの戦鎚が戦闘施設の壁にブチ当たり、その音が衝撃波と共に俺を襲った。それに対して受身を取りながら転がり、リーネと距離を取る。
「なるほどな、風魔法を背後に放ちその勢いでの超加速からの攻撃。それがお前の戦い方か。」
「流石ですわぁ。私の攻撃を二度避ける方はそうそうおりませんわ〜。」
俺がそう言うと、リーネは嬉しそうに笑いながら答えた。
彼女は風魔法を背後に放ち、その勢いを推進力に変えて突進するという、過去に1度だけ俺が手榴弾で行ったものと似たような戦い方だ。しかし、リーネのそれはただの風を魔法的に操っている分自分へのダメージが少ない。
(だがそれでも弱点はある。)
リーネの戦法の弱点、それは直線的な動きしか出来ないということだ。背後から推進力を得る特性上、小回りが効かない。ならば、リーネが動くと同時に軌道上から外れて攻撃をするまで。
「もう一度攻撃してみろ、三度目も避けてやる。」
そう言いながら、俺は霧雨とブラックホークを仕舞うと、収納袋からシムエスMk.IIを取り出して構えた。俺のどの武器よりも命中精度の高いシムエスMk.IIで一撃必殺を狙う。
「では、参りますわ〜。」
リーネはそう言うと、再び魔法を発動させて背後へと放つ。風魔法による推進力を受けてリーネが一直線に俺へと向かってくる瞬間、右に駆け出してその軌道上から外れた。
「あら?」
俺の動きを見てリーネから一瞬笑みが消える。しかし、彼女は戦鎚を構えたまま俺のいない場所へ進んでいる。
(貰った。)
シムエスMk.IIを構えながら俺はそう思うと、魔力を込めながらスコープ越しにリーネの頭を狙って引き金を引いた。
ダァァァァァン!!!
俺とリーネの視線が交錯する中、シムエスMk.IIの銃口が火を噴いて魔法術式で加速された弾丸がとんでいく。
「!?」
しかし、俺は表情を凍らせた。スコープ越しに見えるリーネが再び笑みを零したのだった。その瞬間リーネは構えていた戦鎚を横に振り回し回転し始めた。すると、それはまるで竜巻のような旋風を起こしながら俺の銃弾を弾いて防いでしまった。
その光景に呆然とする俺を見て、リーネは笑みを浮かべたまま言ってきた。
「これが私に与えられた<暴風の乙女>たる二つ名の所以ですわ〜。あまり気に入ってはおりませんが…」
「なるほどな、推進力を回転力に変えたのか。」
その言葉と同時に、俺はリーネにそう返した。彼女は俺が引き金を引いた瞬間、戦鎚を振り回すことで風魔法によって得られた加速をすぐさま回転力に変換して防御した。それはリーネの純粋な力あってこそ実現出来る荒業だ。
「このままでは時間が過ぎるだけですわぁ。なのでもっと本気を出しますわ〜。」
リーネは少し困り顔でそう言った瞬間、再び風魔法を発動させた。しかし、今回のそれは先程までの魔法よりも巨大な魔法だ。そしてそれを背後に放つのでは無く地面に向かって叩きつけた。
「ッ!!知覚限界突破!!」
地面に叩きつけられた風魔法が爆散し、荒れ狂う暴風となって俺を襲う。それを俺は知覚限界突破を使って避けていく。しかし、その瞬間にリーネが戦鎚を振りかざして俺に向かって突っ込んでくる。
「クソッ!!」
俺はそれを見た瞬間に半身を逸らして戦鎚を交わす。しかし、圧倒的な力により振り下ろされた戦鎚は地面に叩きつけられると同時に激しい衝撃波を発生させ、風魔法と共に俺を吹き飛ばした。
「まだまだ行きますわぁ。もっと踊ってください、ライアー様!!」
リーネはそう叫ぶと、口角を釣り上げながら戦鎚を振り回して突っ込んできた。まるで、彼女自身が荒れ狂う暴風のように。
(なるほどッ!!<暴風の乙女>とは納得だッ!!)
俺はそう考えながらも、リーネの攻撃を避けるのに必死だった。風魔法は知覚限界突破で避けることが出来るものの、リーネの持つ戦鎚攻撃は何故か捉えることが出来ない。
(知覚限界突破は魔力が篭ってない攻撃には反応しない!?)
それもそのはず、リーネの繰り出す戦鎚の攻撃は彼女の純粋な腕力によるものだ。魔力の向かう方向を察知して見切るライアーの知覚限界突破とは相性が最悪だ。
俺は何とか攻撃を避けてはいるものの、戦鎚による衝撃波や風圧によって何度も吹き飛ばされてボロボロになって言っていた。
(クソッ!!なにか打開策があれば!!)
そう思った瞬間、俺の左足から一瞬力が抜ける。ハッとして左脚に視線をやると、スボンを引き裂いて足に裂傷が走っているのが見えた。
「ライアー様は左足を軸に動くことが多いですわぁ。」
その声に気がついて視線をあげると、目の前に戦鎚を振りかざしながら笑みを浮かべるリーネの姿があった。
「しまっ!?!?」
咄嗟に右腕で頭を守るように上げた瞬間、リーネの戦鎚が横薙ぎに振るわれた。
ごしゃっ
骨が折れて肉が潰れる感覚と共に、俺は左に吹き飛ばされて壁に激突した。
「が…ぁ……」
灰の空気が全て吐き出されて呼吸が出来なくなる。全身からはギシギシと軋み音が鳴り、耳も遠くなっていく。普段から身につけている防刃・防弾の黒コートのおかげで致命傷は避けられたようだが、直ぐに動くことは出来ない。必死の思いで血で真っ赤に染る視線を上にあげると、そこにはリーネが立っていた。
《生命の危機を確認しました。これより、防衛行動に入ります。》
その瞬間、耳鳴りのする俺の頭の中に誰かの声が響いた。その瞬間、俺の意識は深い闇の底へと沈んで行った。
ーーーーーー
ーーーーー
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ーーー
ーー
ー
「ここは…」
気がつくと、知らない場所にいた。全てが白く、見たことの無い魔法術式が渦巻く世界。だが、どこか見た事のある世界だ。見渡す限りどこまでも続く世界に、俺は立ち尽くしていた。
「俺はリーネと模擬戦をしていて…」
《お久しぶりですね、ライアーさん。やっとお話出来ますね。》
「っ!?誰だ!!」
先程までの事を思い出そうとしていると、突然後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると、そこには黒いドレスを着た妙齢の黒髪の女性が笑みを浮かべて立っていた。俺は咄嗟に警戒態勢に入り、武器を取り出そうとするが、霧雨もブラックホークもガーディアンも、シムエスMk.IIと対魔物ライフルを入れた収納袋すら見当たらない。そんな俺を見ながら、彼女は笑いながら言った。
《そんな警戒しなくても大丈夫です。私は貴方に危害を加えません。》
「信じられんな、それをどう証明する?」
彼女の言葉にそう答えると、俺が瞬きをした瞬間に彼女が目の前から消えた。
「一体どこに行った…」
《こちらですよ。》
「なっ!?」
俺が呟いた瞬間、彼女は俺の後ろに回り込んで抱きついてきた。そして、驚く俺の左耳をペロリと舐めると、悪戯っぽく笑いながら俺の右頬を撫でて言った。
《向こうでは貴方の方が強いですが、こちらでは私の方が優位に立てます。分かりましたか?》
その言葉に、俺は冷や汗をかきながら警戒を緩めた。すると彼女は嬉しそうに背後から離れて、俺の正面へと回り込んできた。その様子に若干戸惑いを感じながらも、俺は彼女に問いかけた。
「分かった。それで、ここはいったい何処だ?そしてお前は誰なんだ?」
俺の問いかけに彼女はクスリと笑うと、俺を見つめながら答えた。
《ここは私と貴方の精神の狭間です。そして、私は貴方自身ですよ。》
その言葉を聞いた瞬間、俺は表情を強ばらせた。そして、恐怖を感じた。そう、目の前にいる彼女こそ俺の中に眠っていると言われていた災厄魔法。
「<最古の殲滅魔法>か。」
俺の言葉に彼女は笑みを深めながら、全身から紅い魔力を出して答えたのだった。
ありがとうございました。
仕事の都合で執筆できる時間が少なくなり、更新が遅れると思います。週に1〜2話投稿出来ればいいかなと言う状況です。
なるべく早く書きたいと思っているので、次回もよろしくお願いいたします。