32話:力の殻
どうも、眠れぬ森です。
筆が進まずに申し訳ありません。
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
西方連合国からの開戦要求についての話し合いから一月が経った。あれから俺たちはさらに強くなるためにギルドクエストを受けていた。今受けているのはEランククエストの北の山脈に出現したロックリザード、口から岩を吐く全身が岩で覆われた魔物の討伐だ。
「行くわよアイリス!!」
「ん!!」
「援護するよ!!」
俺の異能者としての話を聞いてからか、サリアたち三人は学園の実技やこういったクエストでのやる気が以前よりも上がっている。
「ん?」
そんな時こそ油断してはならないのが戦闘だ。三人が二匹のロックリザードを相手している内に、横の岩肌の穴からさらに二匹のロックリザードが現れた。そして、口を開けて岩を吐く体制を取った。
「三人とも下がれ!!」
俺はその瞬間に叫ぶと、三人は攻撃を中断して後ろに飛び退いた。それと同時にロックリザードから吐き出された岩がサリアたちがいた場所へと着弾する。
俺はそれを確認した後、持っていたシムエスMk.IIで狙いを定め、岩肌のロックリザードに向かって引き金を引いた。
ダダァァァァァァン!!
加速の魔法術式で亜音速まで加速された二発の銃弾がロックリザードの頭を貫き絶命させる。
「上の二匹はやった、あとの二匹は任せたぞ。」
俺の声に三人は頷くと、サーシャとアイリスが飛び出して行った。
「火の弾丸!!」
それを援護するようにサリアが魔法でロックリザードを牽制すると、ロックリザードはそちらに気を取られたようで、サリアに意識を向けて口を開く。
「今だよ!!」
その瞬間にサリアが叫ぶ。すると、初めに駆け出していたサーシャとアイリスが側面からそれぞれ攻撃をする。
「風邪の刃!!今よ、アイリス!!」
「やぁぁぁ!!」
サーシャが魔法でロックリザードの体制を崩すと同時に、アイリスが魔術兵器<切り裂きの双剣>で喉元を切り裂いた。しかし、もう一匹のロックリザードはサリアに狙いを定めたままだ。
「アイリス、もう一匹は!!」
「だめ、間に合わない…!」
その瞬間、サリアに向かってロックリザードの口から岩が発射された。
「っ!!火の壁!!」
迫り来る岩の弾丸だったが、サリアは咄嗟に魔法でそれを防ぐ。俺はシムエスMk.IIを構えると、サリアを狙ったロックリザードに狙いを定め引き金を引いた。銃弾はロックリザードを捉えると、そのまま頭を貫通して行った。
俺たちは残りの敵が居ないことを確認すると、ゆっくりと息を吐いた。
「はぁぁ。ありがとうね、ライアー君。」
シムエスMk.IIを収納袋に締まっていると、サリアが息を吐きながら話しかけてきた。
「助かったわ、ありがとうねライアー。」
「ん、ありがとう。」
ロックリザードから素材を回収し終えたサーシャとアイリスも戻ってくると、俺に声をかけてくる。
「気にするな。」
三人の声に対してそう返答する。しかし、俺の言葉に三人は顔を曇らせる。
「一体どうしたんだ?」
俺が問いかけると、サーシャがこちらを見ながら答えた。
「あれだけライアーの為に強くなるって言ったのに、やっぱりまだライアーに助けられているなと思って…」
サーシャの言葉にサリアとアイリスもさらに表情を曇らせる。確かにこの数日の間に行ったクエストでも、俺の援護射撃で危険を免れた場面が何度かあった。だがそれは戦闘経験の差であり、同年代に比べて三人の戦闘能力は高いと思う。
「そんなことは無い、お前たちがしっかりと動けてるから俺もフォローに入れるんだ。それに、俺は傭兵として戦闘経験がある。その差は仕方の無いことだ。」
「でも…っ!!」
俺の言葉にサーシャが食い下がろうとする。しかしそれは言葉にならず、ただ悔しそうに俯くだけとなった。
(俺と同じか…)
そんなサーシャを見て、俺は傭兵として戦場に経った日の事を思い出した。助けられたはずの仲間や倒せたはずの敵に、自分の無力さを嘆いた。そんなことにならないように俺はがむしゃらに足掻いた。恐らく今のサーシャたちも同じなのだろう。
「技術は訓練でも習得出来るが、経験だけは実戦でないとどうにもならないからな。とりあえず今日はもう戻ろう。」
「うん…」
「わかったわ…」
「ん…」
俺の言葉に、三人は力無く頷くと、街への帰路に着いたのだった。
街へ戻りギルドで依頼達成の報告を待っていると、見知った顔の二人組がこちらへ近づいてきて声をかけた。
「やぁ、久しぶりだね。あれから頑張っているみたいだけど、調子はどうだい?」
「皆様お久しぶりですですわぁ。」
「ジェームス、それにリーネか。久しぶりだな。」
俺たちに話しかけてきたのは同じ学園の上級生でもあり、リアスの直属の魔法士をしているジェームス・ハルトマンとリーネ・セシエルトだった。二人は俺の異能者としての事情を知っている数少ない人物だ。
「あ、ハルトマン先輩にセシエルト先輩。お久しぶりです。」
「久しぶり、です。」
二人の声に、サーシャとアイリスは顔を上げて挨拶を返す。
「あれ?サリアちゃんは?」
「あ、依頼達成の報告にカウンターへ行っています。」
サリアが居ないことについて問いかけたジェームスにサーシャが返すと、ジェームスは眉をピクリと動かして俺に耳打ちしてきた。
「なんか、サーシャちゃんたちの元気が無いように見えるんだけど、どうしたんだい?」
「ああ、それは…」
俺はジェームスに先程の事を話した。自分たちの実力が俺に到底及ばないと思っていること、それに悩んでいることを。
「オレの見た感じ、そこいらの学生なんかよりずっと強くなってると思うんだけどね。」
「俺もそう思う。だが、今までの戦闘経験で俺との差にギャップを感じているんだろう。」
「なるほどね」
俺の言葉にジェームスは少し考えるような素振りをみせる。すると報告が終わったのか、サリアが戻ってきた。
「みんなお待たせ。って、ハルトマン先輩にセシエルト先輩、お久しぶりです。」
「サリア様、お久しぶりですわぁ。」
「…ああ、サリアちゃん久しぶり。」
「みんな遅くなってごめんね!依頼報酬貰ってきたから分けよ!」
サリアはそう言うと、いつものテンションのように豊洲の入った皮袋をテーブルの上に置いた。その様子を見て、ジェームスが俺たちに声をかけた。
「サリアちゃんにサーシャちゃん、アイリスちゃん。少し話があるんだけどいいかい?」
「私たちにですか?」
ジェームスの問いかけにサリアが首を傾げる。すると、彼はリーネに耳打ちするとサリアたちに向かって言った。
「もう一度、俺たちと訓練する気は無いかい?」
「「「え!?」」」
「どういうつもりだ?」
俺は驚く三人をよそにジェームスを問いただした。すると、彼は懐から一枚の紙を取り出して言った。
「実は、エルハルト団長から依頼を受けてね。ライアーくん達の訓練を任せたいって言われたんだよ。」
その言葉に三人は少し考え込む。それを見て、俺は三人の代わりに答えた。
「いいんじゃないか?自分より戦闘経験のある者の元で訓練するのはお前たちにとってもプラスになる。俺一人では魔法関係の事は教えられないからな。」
「ライアー君…」
俺の言葉に三人はハッとした表情を浮かべた。そして、ジェームスを真剣な眼差しで見つめながら言った。
「もう一度、もう一度よろしくお願いします!」
「あたしも訓練受けます!」
「アイリスも…!」
「そうか、わかったよ。一応、これが計画書だよ。」
その言葉にジェームスは頷くと、先程取りだした紙を俺たちに渡してきた。受け取って中を見ると、俺は首を傾げた。
「おい、俺の名前が無いんだが。」
そう、訓練の計画書には俺の名前は無かった。それを指摘すると、ジェームスが困ったような顔をして言ってきた。
「当たり前さ、これはサリアちゃんたちがキミに追いつくための訓練なんだからね。でも、キミはキミで別にやらなきゃならないことがあるから心配しないでくれよ。」
そう言いながらジェームスはリーネのほうを見た。それにつられて俺も彼女のほうを見ると、笑いながら話してきた。
「今回、ライアー様の担当は私ですわ〜。」
そう言いながら、リーネは俺の腕を掴むとどこかへ連れて行こうと引っ張る。
「おい!ちょっと待て!状況が分からん!!」
そう叫びながらジェームスのほうを見ると、彼は笑いながら言ってきた。
「大丈夫、リーネについて行けば分かるよ〜。」
俺は彼女の手を振り解こうとするが、そのあまりにも強い力に為す術なく、唖然としているサリアたちを置いてギルドから連れ出されたのであった。
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「着きましたわ〜。」
リーネに引っ張られること数十分、俺は見覚えの有る建物の前に連れてこられていた。そこにはこれまた見覚えのある二人が入口で待っていた。
「あ、お久しぶりです!ライアー君!」
「待っていたわよ、ライアーくん。」
そこで待っていたのは魔法研のカイン・ノイマンと魔法学園学園長のリアス・エルドラドだった。そして、俺がリーネに連れてこられた場所こそ、カインの所属する国立国家魔法研究機関なのであった。
「リーネちゃんご苦労さま、ありがとうね。」
「いえ〜、学園長様のお願いなら喜んで致しますわぁ♪」
「俺は説明もなく連れてこられたんだが?」
リーネに労いの言葉をかけるリアスを睨みながらそう言うと、リアスは驚いた顔でリーネに問いかけた。
「ライアーくんに何も説明しなかったよ?」
「いえ〜?説明いたしましたよ?今回の担当は私ですと〜?」
その言葉に額を抑えるリアスだったが、それを見かねたカインが慌てて俺に説明をしてきた。
「え、えっと、今回ライアー君をお呼びしたのはとある仮説を確かめたかったからなのです。」
「とある仮説だと?」
「ええ、そうです。その前に、ここでは話しづらいこともありますので、私の研究室に行きましょう。」
俺が首を傾げると、カインはそう言いながら建物の中へと案内してくれた。
研究室に入ると、以前と同様によく分からない機械が所狭しと並べられており、ガラス越しの別室には魔法術式が刻まれた部屋がある。
「そろそろ説明してくれないか?」
部屋に入るなり俺はカインたちに問いかると、俺を席に案内してカインはコーヒーを準備しながら答えた。
「そうだね。まず初めに、僕もリアスからライアー君の現状を聞きましたよ。」
「…本当か?」
突然の告白に俺はリアスのほうを見る。すると、彼女はカインが淹れたコーヒーを飲みながら答えた。
「もともと、私とカインの二人で仮説立てたの。それを国王に報告してたのよ。そのあと、マルコ伯爵とラティスとの戦いでライアーくんの状態を見て、カインにも話したという事よ。」
「それで、さっきから言っているその仮説とは一体何だ?」
リアスの話を聞き、先程から出てくる仮説という言葉に疑問を抱きながら問いかけると、カインが一冊の書類の束を取り出しながら説明を始めた。
「これは以前ライアー君の魔力を測定した結果なのだけど、君が先天性魔力制御疾患を患っている事は知っていますよね?」
「ああ、検査の後に知らされたがな。」
皮肉を込めながらそう言うと、カインは少し困った顔をしてごめんねと謝りながら続けた。
「ライアー君の血中魔力濃度は常人の五倍、これは生きているのが不思議なくらいの濃度だ。そこから、ライアー君が魔法を使えないという事実から体内で魔法的に魔力を制御しているんじゃないかとの仮説を立てたのです。」
「なるほど、その仮説というのが今回俺の中に眠っている災厄魔法<最古の殲滅魔法>の可能性があるという訳か。」
俺の言葉にカインは頷いた。しかし、直ぐにかけている眼鏡を直しながら続けた。
「その通りですが、その魔法が本当に存在しているのかどうかの確証が掴めないのです。現に、ライアー君は魔法を自由に使うことが出来ません。」
確かに、あの後何度かリアスに言われて魔法を使おうと思った。しかし、魔法どころか俺から出ていたという紅い魔力は出ず、普通の魔力しか出すことが出来なかった。
「やっぱりなにかの間違いじゃないのか?」
俺はカインにそう問いかけた。しかし、彼は首を横に振り言った。
「いえ、検査結果からライアー君が魔法を使える魔力量があります。しかし、限定的にしか発動しないということは、何かのきっかけが必要になるのかもしれません。」
「ライアーくん、君が魔法を使った時に共通することって何か分かるかしら?」
リアスに言われて考えてみる。しかし、自分自身で使った記憶が無いので思い当たる節が無い。すると、カインがこちらに書類を渡してきた。それは異常な魔力残滓の検出結果と、その時の俺の状況をまとめた資料だった。
「ライアー君が魔法を発動したと思われる箇所には必ずその場にいた者とは一致しない魔力残滓が検出されました。そして、その時ライアー君の状況は命の危機に陥っていたということです。」
「つまりどういうことだ?」
「ライアー君の魔法は生命活動に支障が出た場合に発動する可能性が高い、言わば自己防衛機能という仮説です。」
その言葉に、俺は少し資料を見ながら考える。確かに、一度目ははぐれ魔法士のアルベルトに襲われた時、二度目はエレファントブル討伐の任務中に魔法士に襲われたとき、そして三度目はマルコ伯爵率いるラティスとの戦闘になった時だ。確かに三度の内二度は重症の傷を負っている。確かにその可能性は否定できない。
「それで、どうするつもりだ?」
俺はカインの顔を見ながら問いかけた。すると、彼は真面目な顔で答えた。
「正直、僕にもどうするのが正しいのかは分かっていません。しかし、詳しく分からない力を持ち続けるのはライアー君も我々も危ないと思うのですよ。そこで、僕の仮説なのですが、その時と同じ状況になれば再び魔法が発現するのではないかと考えたのですよ。」
「同じ状況だと?」
カインの言葉に俺は耳を疑った。それはつまり、俺に死にかけろと言っているのだ。
「カイン、言葉を選びなさいよ。ライアーくんが勘違いしているでしょ。」
厳しい目でカインを睨む俺を見て、リアスが説明を始めた。
「さっきカインが言ったことはあくまで仮説に過ぎないわ。そうすることで本当に魔法が発現するかも分からない、一種の賭けのようなものよ。それに、やるかやらないかはライアーくん自身の意思に従うつもりよ。」
その言葉に、俺は少しの間考える。確かにこのまま得体の知れない力を持ち続けることはかなりの不安材料だ。しかし本当に俺の力なのかも分からない以上直ぐに首を縦に振ることは出来ない。すると、そんな俺の様子を見てリアスが声をかけてきた。
「ライアーくん、急かす訳では無いのだけれど、貴方には力の可能性があるかもしれないわ。」
その言葉に、俺はとある人物の言葉を思い出した。それは俺の恩師であり、命をかけて俺を守ってくれたジャンの言葉だった。
(人ってのは色んな形で誰もが力を持ってる。だがそれを引き出せる人は少ない。何故だか分かるか?)
(いや、分からない)
(力がある事を自覚出来ていないからだ。普通の人ってのはその力を自分という殻に閉じ込めたまま過ごしている。だが、それを破るように努力した人こそがその力を使えるようになるんだ。俺達もそのために訓練をしているんだ。いつかその力が使えるようになるためにな。)
「俺は力を持つことを恐れていたんだな…生きる為に力をつけようとしていたのに…」
呟くように発した言葉は俺の体から不安感を吹き飛ばした。そして、カインたちのほうを向いて言った。
「可能性があるならそれを試してみたい。」
「ライアー君、かなり辛い事になるかもしれないが、本当にいいのですか?」
俺は再度確認してくるカインに向かって頷いた。もう迷いは無い。どんな力であれ、俺が全て受け入れてみせると決めたのだ。
その様子を見ていたリアスも、ホッとしたように頷くと、俺のそばに近寄り言った。
「じゃあ、これから模擬戦を行うわ。相手はリーネよ。」
リアスの言葉共に俺はリーネのほうを見る。そして、彼女に向かって言った。
「手加減はいらない、殺す気で来い。」
すると、リーネもいつもの笑みを浮かべたままこちらを見ると、全身から殺気を放ちながら言ってきた。
「分かりましたわぁ。久しぶりに、全力で殺して差し上げます〜。」
ありがとうございました。
進みが遅く申し訳ありませんが、自分のペースで気楽にのんびり書いていこうと思います。
次回もよろしくお願いいたします。