31話:西方連合国
どうも、眠れぬ森です。
あけましておめでとうございます。今年もまったりと更新していこうと思っておりますので、拙い文書ではありますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
エルハルトからアーサーの勅命を受けたの翌日、俺は学園で魔術科の授業に出ていると、科長のターニャ・クエスが声をかけてきた。
「ライアー、ちょっといいかい?」
「なんだ?」
返事をすると、彼女は俺の肩に腕を組みながら耳元で囁くように言ってきた。
「アンタに客だよ、ちょっと来な。」
「俺に?一体誰だ。」
「デカい声では言えないけど、魔法士団長サマさ。」
その言葉に、俺は眉をピクリと反応させる。確かアーサーが呼んでいたのは学園が終わった後だったはずだ。
そんな俺の反応を見て、ターニャはニヤリと笑いながら言ってきた。
「その顔、魔法士団長サマと何か関わりがありそうな顔だねぇ。詳しくは聞かないけど、厄介な事に巻き込まれてそうだねぇ。まったく、アタシじゃなくてよかったよ。」
「俺だって好きでこんなことをしてるんじゃないんだ。」
「ツレないねぇ、生徒と教師の雑談じゃないか。」
「分かったから、早くエルハルトの所に案内してくれ。」
いつまでもニヤニヤと笑うターニャの腕を引き剥がしながらそう言うと、やれやれと言った雰囲気で彼女は案内をしてくれた。
俺が連れて来られたのは学園長室だった。ターニャがノックをすると、中からリアスが返事をするのが聞こえた。中に入ると申し訳なさそうな顔をしてリアスが話しかけてきた。
「授業中にごめんねライアーくん。ターニャも忙しいのにありがとうね。」
「いや、大丈夫だ。」
「学園長のご命令ならなんて事ないよ。それじゃ、アタシはこれで失礼するね。」
リアスの言葉にターニャは既に椅子に座っているエルハルトをちらりと見るとそう言い残して退室してしまった。残された俺はリアスに促されてエルハルトの対面に座った。
「授業中に呼び出してすまなかった。急ぎで伝えることがあって来た。」
俺が座るなり、エルハルトは頭を下げながらそう言った。そして、懐から手紙を取り出して続けた。
「以前ライアーに頼まれていたサリア様たちの同行の件で、王から許可が取れたのでその報告だ。」
「ありがとう。それで、急ぎだからと言うにはその事だけでは無いのだろう?」
エルハルトに向かってそう言うと、彼は表情を険しくしながらリアスの方を見た。俺もリアスの方を見ると、彼女も表情を険しくしながら口を開いた。
「ライアーくんは、西方連合国ドルドは知っているかしら?」
「西の森を進んだ先にある、いくつもの小国家出できた国だな。それがどうしたんだ?」
リアスに問いかけると、彼女は唇を噛み締めながら続けた。
「先日、ドルドからセリエス王国に向けての開戦要求が来たわ。」
「なんだと?」
俺はその言葉を聞き驚いた。確かに、ドルドとセリエス王国は人魔大戦以前までは国境や森の資源を巡っての小競り合いが続いていた。しかし、それ以降は停戦条約を結び国交貿易をするまでの関係を築いていたはずだ。
「そんな国が今になってなんでそんな事を…」
「原因は二つある。」
俺が呟くと、エルハルトが答えた。そして、俺を見ながら話し始めた。
「一つは前連合国議長の死去だ。それに伴い新議長に変わったのだが、保守派だった前議長と違い新議長は革新派なのだ。」
「なるほどな、そして二つ目はなんだ?」
「二つ目は…ライアー、お前の存在だ。」
「…なんだと?」
エルハルトの言葉に俺は耳を疑った。確かに異能者たる存在は各国にとって驚異となりうる可能性は十分にある。しかし、俺の存在は他国にはまだ知られていないはずだ。
「まさか…!?」
そこまで考えて、俺は一つ心当たりがある存在を思い浮かべた。それはサリアたちを誘拐し、クレイを俺にけしかけるように誘導したあの男だ。
「何か心当たりがあるのか?」
俺の表情を見て、エルハルトが問いかけてきた。俺は彼を見つめながらゆっくりと呟いた。
「ああ、一人だけな。」
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放課後、俺はサリアたちに声をかけて王城へと向かっていた。彼女たちには予め俺の身に起こっていることを言える範囲で伝えている。しかし王城の門が見えて来ると、俺はもう一度彼女たちに問いかけた。
「もう一度聞くが、俺の事を知ればもう後には戻れない。それでも、俺に着いてきてくれるのか?」
少し不安になりながら言うと、サリアたちは真剣な表情で答えた。
「もちろんだよ。私の意思は変わらないよ。」
「あたしもよ。ライアーのそばにずっと居るわ。」
「アイリスも、大丈夫です。ライアーの傍、離れない。」
「みんな、ありがとう。」
彼女たちの言葉に、俺は安堵と申し訳なさを感じながら王城へと足を踏み入れた。
守衛に案内されたのは王の間ではなく、厳重に結界が張られた会議室のような部屋だった。扉を開けて中に入ると、そこにはエルハルトとリアスの他に、見知った顔の二人がいた。
「あれ?ハルトマン先輩にセシエルト先輩?」
「やあサーシャちゃん。サリアちゃんにアイリスちゃんも久しぶりだね。」
「お久しぶりですわぁ。サリア様にサーシャ様、そしてアイリスちゃんも。」
そう言って挨拶をしてくるのは俺たちの指導役でも合ったジェームス・ハルトマンとリーネ・セシエルトの二人だった。
「なんでお前たちもここにいるんだ。」
「それは…」
俺は驚きつつも二人に問いかけた。リアスが言い淀むと、エルハルトが二人に変わって答えた。
「二人とも学園内でも優秀な魔法士候補であろう。西側との緊張が高まっている今、少しでも戦力は欲しいのだ。」
「嘘だな。」
エルハルトの答えを俺は直ぐに否定した。瞬間、エルハルトの雰囲気が変わり、睨みつけるように俺に問いかける。
「どういう事だ?」
「どうもこうも、お前の言ったことが嘘だと言ったんだ。優秀な魔法士候補だろうと、戦力増強の為であろうと、こんな部屋に俺が呼び出されているんだ。十中八九、異能者に関する事だろ?そんな話に連れてくるには理由が足りないな。」
俺の言葉に緊張感が走る。しかし、その様子を見てジェームスが笑いながら話してきた。
「流石だねライアー。少ない情報からそこまで読み解けるなんて、元傭兵なだけはあるね。」
「一体どういうことだ。」
俺がジェームスを睨みつけながら問いかけると、彼はその細い糸目を少しだけ開いて言った。
「オレは、いやオレとリーネは学園長直属の魔法士さ。主に諜報がメインだけどね。」
ジェームスの言葉に俺はリーネとリアスのほうを見る。すると、リーネはいつものように笑みを浮かべており、リアスは少し困ったような顔で頷いた。
「つまり、お前とリーネは学園の生徒では無いと?」
「いや、オレとリーネは正真正銘、魔法学園の生徒さ。だけど、それ以外の事もやっているってだけさ。」
ジェームスがそう言うと、リアスが近づいてきて俺に頭を下げてきた。
「ごめんなさいねライアーくん。隠すつもりはなかったんだけど、混乱させたくなかったのよ。」
「いや、問題は無い。それよりも、エルハルトに嘘のつきかたを教えてやったほうがいいかもな。」
「そうするわ。」
謝るリーネに冗談を混ぜながらそう言った。一瞬エルハルトが不本意そうな顔をしたのだが、見なかったことにした。
そんな事をしていると会議室の扉が開き、アーサーとエドガーが入ってきた。俺たちはその場に膝をつき、頭を下げて左胸に手を添えた。
「うむ、頭をあげよ。席に着いて良いぞ。」
アーサーの言葉と共に俺たちは立ち上がり、アーサーとエドガーが席に座ったのを確認してから椅子に座った。
「さて、本題に入る前に少しだけ時間を貰おう。サリア、サーシャ、アイリスの三人に問いたい。」
アーサーの言葉と共に、三人が立ち上がる。それを見たアーサーはゆっくりと話し始めた。
「これからお前たちが聞く話は国家機密と言っても良い。仮に誰かに話した時は自分の子供と言えど極刑になることもありうる。それだけの覚悟が、お前たちにはあるか?」
「私も自分の娘にこんな事は言いたくないんだけど、それだけ重要な事なんだ。」
アーサーに続き、エドガーも三人を見て言う。
重い空気が流れるが、初めにそれを断ち切ったのはサリアだった。
「私は、ライアー君に何度も助けてもらいました。何度も命を救われました。言葉では足りないほどの感謝があります。だから、私はライアー君と共に歩みたい!」
「ライアーが居なければあたしは無鉄砲に敵に突っ込んでいってやられていたかも知れません。でも、ライアーがいたから戦い方を考えられた、生き残ってこれた。だから、あたしはライアーの為に力になりたい!」
「アイリスも、最初、ライアーの魔術兵器にしか、興味なかった。でも、命、助けられたり、守られたりした。次は、アイリスが、守りたい!」
サリアに続くようにサーシャとアイリスもアーサーを真っ直ぐ見つめて言った。
「……なるほどな、お前たちの覚悟は伝わった。座って良い。ライアー、話して良いぞ。」
しばらくの沈黙の後、アーサーがそう言うと俺は異能者としての事を全て彼女たちに話した。初め三人は俺の話を信じられないという風に聞いていたが、俺の使える知覚限界突破の事や今までの戦いから、納得が言ったようだった。
「これで全部だな。では本題に入ろうか、頼むぞエドガー。」
俺が話し終えるとアーサーはエドガーに声をかけた。
「まず初めに西方連合国ドルドから停戦解除の開戦要求が来た事だけど、これはセリエス王国に異能者が居るということによる要求だ。それについて、ライアー君に心当たりがあるそうだね?」
「ああ。サリアとサーシャが誘拐された時のことだが、その時襲ってきた仮面の集団のうちの一人が俺と同じ、異能者だと言ってきたんだ。しかも、西方の訛りで喋っていた。」
「なんですって…」
「まさか…」
「あら?」
エドガーの問いに答えると、リアスとジェームス、リーネが驚くように声を上げた。それを見て、エドガーは三人に問いかけた。
「三人も何か知っているようだね。」
エドガーの言葉に最初に答えたのはジェームスだった。
「ライアー君がクレイと戦闘になった日の事だけど、オレとリーネも怪しい仮面をつけた男に会ったんだよ。」
「たしか、あの時の男性も西方訛りでしたわね〜。」
リーネも言葉を続けると、今度はリアスが話し始めた。
「私はマルコ伯爵率いるラティスとの戦いの時のことです。私以外は眠らされていたけど、マルコ伯爵を倒した後にライアーくんを襲った仮面の男も西方の訛りで話していました。」
「リアス君、その仮面の男とはライアー君のことをヴェルディアナと呼んだ男のことかい?」
リアスはエドガーの答えに首を縦に振る。これで全ての事柄が繋がった。
「つまり、西方連合国は早くから我らセリエス王国内で諜報活動をしていたのだな。」
アーサーの言葉に全員が沈黙する。それもそのはずだ、国境の防衛戦を越えるのみならず警備が厳重なセリエス王国内に侵入を許してしまっていたのだから。
「…エルハルトよ、王国内の警備警戒レベルを引きあげよ。エドガーは西方連合国の動向に注意せよ。リアスは学園に危害が及ぶ恐れがあるのでその時の対処だ。」
「「「かしこまりました。」」」
アーサーの言葉に三人が速やかに返事をする。最後に、俺の方を見て言ってきた。
「ライアーよ、お前の力はまだ未知数だが敵は待ってくれない。その時に備えて力をつけておけ。」
「分かった。」
「うむ、では今日は解散だ。各自警戒を怠るでないぞ。」
アーサーの言葉と共に、会議は幕を閉じたのであった。
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暗くなり始めた道を、俺はサリアとサーシャとアイリスの三人で寮に向かって歩いていた。今日の話が衝撃的すぎだったのか、三人とも俯いて黙ったままだ。
「すまない、こんな事に巻き込んでしまって。」
重い空気を察して俺は声をかけた。すると、三人は顔を上げると微笑みながら言った。
「そんな事ないよ。ライアー君は今まで一人で抱えてきたんだよね?凄いことだよ。」
「ライアーの強さにいつも忘れるけど、あたしたちよりも一つ年下なのよね。それなのに頑張ってると思うわよ。」
「ライアー、とても、偉いよ?」
その言葉に俺は少し表情を緩める。しかし、直ぐに顔を引き締めて言った。
「ありがとう。だが、さっきも聞いた通りこれまで以上に厄介な敵が現れる可能性がある。そのためにはこれまで以上に力をつける必要がある。」
「もちろんだよ!私もライアー君を、みんなを守れるくらい強くなってみせるよ!」
「あたしだって、もうあんな負け方はしないわよ。今以上に強くなってみせるんだから!」
「アイリスも、頑張るよ。強くなって、今度こそ、ライアー、守ってみせる…!」
俺の言葉に三人とも新たな意気込みを見せた。それは、頭上に輝く一等星のような輝きを放っていた。
ありがとうございました。
新たな敵となる存在が段々と明るみになってきました。
次回もよろしくお願いいたします。