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30話:安寧の一時

どうも、眠れぬ森です。

2022年最後の投稿となります。

拙い文章ですがよろしくお願いいたします。

 マルコとの戦いから一週間が経過した。国王との謁見の後、俺は一日の検査入院を経て学園に戻っていた。サリアとサーシャも体に異常は無かったのだが、アイリスは俺を庇った際に受けた傷により大事をとって五日ほどの入院をしていた。

 そして今日は学園の休日なので、俺は一人で部屋の中にいた。


「みんな生きて戻れたんだな…」


 俺は自室のベッドに寝転びながらそう呟くと、何となしに右手を天井に向かって伸ばして見る。

 国王から言われた異能者(イレギュラー)としての力、その身に宿すと言われた災厄魔法《最古の殲滅魔法(ヴェルディアナ)》。自分の自覚無しに振るわれる力に、若干の不安を覚えた。


(今回は運が良かっただけなのか…)


 リアスに言われたマルコとの戦闘での自分の様子。まるで別人と言われたその力は一体どのようなものなのか、自分ですら分からない。

 そんな未知の力が自分にあるという事実に目を背けたくなる。初めて感じる力への恐怖心に、俺はいつまでも考えてしまう。


(今までは力があればいいと思っていた、そうすれば死なずに生き残れると教わってきた。だが、この力は一体どうなんだ?)


 異能者(イレギュラー)としての力は知覚限界突破(ブーストアップ)だけでなく、俺以外も危険に晒しかねない力だった。そしてそれはいつ発動するかも分からないもの、いうなればピンが抜かれた手榴弾を手に持っている感覚だ。


(くそ、考えていても仕方ないか。)


 出口の見えない迷路に迷ったような感覚に陥りそうになった俺はベッドから起き上がると、気を紛らわすように武器の整備を始めた。


(考えるだけ無駄なこともある。こういう時はなるようになるのを待った方がいいな。)


 そう考えながらシムエスMk.II、ブラックホーク、ガーディアン、対魔物(アンチモンスター)ライフルと整備を進めていく。最近対人戦闘が多かったので、使用頻度の高いブラックホークとガーディアンは念入りに整備していく。

 しばらくして、銃の整備を終えて霧雨の刃を研いでいると、俺の部屋の扉がノックされた。


(一体誰だ?)


 こんな休日に俺を訪ねてくるような知り合いは男子寮には居ないはずだ。そう思いながら扉の前まで行きノブに手をかけた瞬間、ある考えがよぎった。


(まさか…)


 そう、平気で俺の部屋に来るような人物に心当たりが合った。俺はその可能性を否定しつつそっと扉を開けた。


「あ、ライアー君!!おはよう!!」


「おはようって、もうすぐお昼の時間よ?あ、おはよ、ライアー!!」


「ん、ライアー、おはよう。」


「…お前たちか。」


 俺の予想通り、扉の先にはサリアとサーシャ、アイリスが私服姿で立っていた。その光景に頭を抑えつつ、俺は三人に言った。


「何度も言っているが、ここは男子寮だ。女子生徒が入ることは禁じられているはずだぞ。」


「大丈夫よ、バレなきゃ問題ないわ。」


「サーシャの言う通り!って事で部屋の中に入れて貰えないかな?」


「お願い、ライアー。」


 俺の言葉も虚しく三人はそう答える。最も、バレた時に怒られるのはゴメンなので廊下を確認しつつ俺は三人を部屋に招き入れた。

 初めて俺の部屋を訪れたサーシャとアイリスは物珍しそうに部屋の中を見回している。それに居心地の悪さを感じつつ、一応飲み物を持って行くと、作業台に置かれた俺の武器を見てサーシャとアイリスが話しかけてきた。


「もしかして忙しかったかしら?」


「武器の、メンテナンス中だった?」


「いや、少し考えごとから離れたくてやってただけだ。それにもう少しで終わる。」


 俺がそう答えると、サリアが曇った表情で問いかけてきた。


「それって、この間のスティルブ伯爵との戦いの事?」


 その言葉に、サーシャとアイリスも表情を曇らせる。確かにその事も考えなかったわけでは無いが、それよりも先日言われた異能者(イレギュラー)としての力についてのことの方が気がかりになっていた。もちろん、三人はそのことを知らない。


「まぁ、そんなところだ。」


「私、あまり役に立てなかったからなぁ…」


「私もよ。あれだけ訓練したのに、結局ライアーや先輩頼りになっちゃった…」


「アイリス、怪我した…」


 俺はあえて濁して答えた。あの事は決して喋ってはならないとアーサーに言われたからだ。しかし、三人はやはりマルコとの戦闘のことで悩んでいると思っているのか、自分の失敗を悔やんでいた。あまりのへこみ具合に、俺は見かねて声をかけた。


「実戦経験が足りないんだ、それでもあそこまで一緒に戦ってくれたのは凄いと思うぞ。アイリスも、お前が居なければ俺がやられていた可能性だってあったんだ。悩むのもいいが、まずは生きて戻って来れた事を喜ぼう。」


「ライアー君…」


「ライアー…」


「ん…」


 俺の言葉に、三人は目尻に涙を浮かべてこちらを見てきた。そして、ハンカチで泪を拭うと、先ほどの暗い表情から一転して笑顔で俺に話しかけてきた。


「そうだよね!まずは誰も死なずに生きて帰れたことを喜ぼう。」


「そうだわ、私たちはまだ生きている!!」


「アイリスも、大丈夫!!」


 元のテンションに戻った三人を見て、思わず頬が緩むのを感じた。すると、いきなりサリアとサーシャが近づいてきて俺に問いかけた。


「そういえば、ライアー君はお昼まだかな?」


「あ、ああ。」


「じゃあせっかくだし何処かに食べに行きましょ!!それにライアーもこんな所で引きこもっているよりそとに出た方が気分転換にもなるわ。」


 突然の提案に困惑した俺はアイリスに助けを求めるように視線を向けた。


「外食、お出かけ、楽しみ…!」


 しかしそこには、目を輝かせて俺を見るアイリスの姿があった。それを見て俺は観念したように言った。


「…もう少しで終わるから待っていてくれ。」


 その言葉に、三人の嬉しそうな声が部屋に響き渡ったのだった。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






「あー美味しかった!」


「やっぱりあの店の料理が1番ね。」


「サーシャ、いっぱい食べてた、太る。」


「うるさいわよアイリス!!」


「まぁまぁ〜。」


 武器の整備を終えた俺は三人と共にお昼ご飯を食べに街へと出ていた。そこで食事を済ませた俺たちは当てもなくぶらついていたのだが。


「流石にあの店は居心地が悪かったな…」


 行った店は以前サリアと一緒に行ったレストランだった。確かに味は最高で値段もお手ごろなのだが、あのファンシーな雰囲気はいつまで経っても慣れない気がする。

 しかし、三人はそんなことお構い無しに俺を引っ張って連れていき、楽しそうに食事をしていた。料理にサリアがはしゃぎ、食べるサーシャを見て揶揄うアイリス。そしてそれに対して言い返すサーシャ。それは以前の俺からは考えられない風景だった。


(こんな俺でも受け入れてくれて感謝しかないな。)


 前を歩く三人を見ながらそう思っていると、気がつけば中央広場へとやってきていた。


「ねぇライアーくん、少しいいかな。」


 すると、突然サリアが声をかけてきて振り返った。それに合わせてサーシャとアイリスも振り返り、俺の方を真剣な目で見つめた。


「どうした?」


 俺が聞くと、ゴクリと喉を鳴らしながら言葉を手繰り寄せるように話し始めた。


「あの日から、ライアー君はずっと何かに悩んでいるよね?スティルブ伯爵以外のことで。」


 俺は突然の問いかけに取り乱しかける。なるべく心配をかけないようにきをつけていたはずだったのだが、どうもサリアには気が付かれていたらしい。


「…いつから気がついていた?」


「初めからよ、学園で会った時もどこか心ここに在らずって感じだったわ。」


「ライアー、たまに、話しかけても、反応無かった。」


「お前たちもか…」


 俺の言葉にサーシャとアイリスが続ける。まさか三人にバレていたとは思わなかった。たしかに、いつまでも黙っている訳にはいかないが、今すぐに話せるという問題でも無い。これは俺だけの問題ではなく、国全体を巻き込むかもしれない問題なのだから。

 そう考えていると、サリアが俺の傍に近寄ってきて俺の両手を握りしめて言った。


「私たちに話せない事もあるのは分かってるよ。でも、私たちが力になれるかもしれない時もあるから、もっと頼って欲しいな。」


 そう言うと、俺の手を握りしめたサリアの手をサーシャとアイリスも握ってきて言った。


「そうよ、ライアーだけじゃなんともならない事もあたしたちと一緒なら何とかなるかもしれないわよ?」


「ん、そう、みんな、ライアーの味方、だよ?」


 三人の言葉に、俺は胸の内側が少しだけスっとしたような気がした。今までは自分の異能者(イレギュラー)としての力を自分だけでどうにかしようと思っていた。でもそうじゃないんだ、俺には新しい仲間がいるんだ。

 そう思った瞬間、俺は三人を同時に抱きしめていた。


「ちょ、ちょっとライアー君!?こんなところでなんて!?」


「ライアー!?やめっ……て欲しくは無いけど、場所を考えて!?」


「ん、もっと、強くてもいい。」


 三人はそれぞれ俺の腕の中で何かを言っているが、そんな事などどうでも良かった。俺は騒ぐ三人をから手を離すと、顔を赤くしているサリア、サーシャ、アイリスを見つめながら言った。


「ありがとう、俺の問題は他人に簡単に話すことも出来ない問題だ。それにみんなを巻き込みたくなかったんだ。でも、俺一人じゃどうしようも無いかもしれない。それでも俺と一緒に、力になってくれるのか?」


「もちろんだよ!ライアー君には返しきれない恩があるし、それよりも私自信がライアー君の為に力になりたいの!」


「ライアーは一人で抱え込み過ぎよ?一人よりもみんなで力を合わせたほうが良いに決まってるわ。それにあたしもライアーの力になりたいわ。」


「アイリスも、頼って?ライアーのこと、今度こそ、守って見せるから。」


 それぞれ笑みを浮かべながら言われた言葉に、俺は久しぶりにある言葉を思い出した。


(いいか、お前一人じゃ出来ることは限られている。だから他人を頼れ、仲間を頼れ。それが出来なければ生き残れる場面でも生き残れないぞ。)


 俺が作戦で危なくなった時、ジャンに言われた言葉だ。俺はもしかしたらあの一件依頼、仲間を頼ることを心のどこかで後ろめたかったのかもしれない。でも、そんなことは無かったんだ。俺はまた、仲間をちゃんと頼って良いんだ。

 そう思った俺は、潤む瞳を堪えながら三人に言った。


「ありがとう、俺もこれからみんなの力を借りることになると思う。だからその時は、貸してくれ。そして俺の力が必要になった時は遠慮せずに言ってくれ。」


 俺の言葉に三人は微笑むと大きく頷いて言った。


「それじゃあ、早速お力貸してもらおうかな?」


「今日は買いたいものが多かったから男手が欲しかったのよね〜。」


「ライアー、荷物持ち、よろしく。」


 そう言いながら左手をサリアが、右手をサーシャが引き、後ろから背中をアイリスが押してくる。その様子に一瞬呆気に取られた俺だったが、ため息を一つ吐くと足を進めた。


(こんな日もあっていいよな。)


 そう思いながら俺たちは商業区へと向かったのだった。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






「はぁ、少し疲れたな。」


 俺が自室に戻ってきたのは空が薄暗くなり始めてからだった。あの後、俺は三人に連れ回されて色々な店を周った。そしてあれこれと悩む三人の増えていく荷物を持ち、先程やっと開放されたのだった。


「女子の買い物がこんなに長いとは誤算だったな。」


 思いのほかかかった買い物だったが、三人の楽しそうな姿を思い浮かべながら水差しからコップに水を注いで飲もうとすると、不意に扉がノックされた。


(一体誰だ?)


 俺の部屋を訪ねる人物などあの三人くらいしか心当たりがないが、女子寮まで送ったのでここに来るには早すぎる。俺は一応警戒しながら扉を開けた。


「すまんな、こんな時間に。」


「エルハルト、どうしてここに。」


 扉の先に居たのは国家魔法士団団長のエルハルトだった。そんな人物が魔法学園の寮に訪ねるなんて一体何があったのだろうか。


「本当にすまないが、部屋の中へ入れてくれるだろうか?」


 そう思っていると、エルハルトは周りを気にしながら言ってきた。断る理由も無いので部屋へと招き入れると、エルハルトは突然魔法結界を部屋の中へと張った。


「一体これはなんだ?」


「他人に聞かれるとマズイのでな、勝手ながら防音の結界を張らせてもらった。」


 突然の事にエルハルトを睨むように見ると、彼はそう言った後に懐から一枚の封筒を取り出して俺に渡してきた。押印を見ると、そこにはセリエスの封蝋が押されていた。


「まさか…」


 何か嫌な胸のざわめきを感じてそう呟くと、エルハルトは頷いて俺に言ってきた。


「セリエス王より、ライアー・ヴェルデグランに、明日の午後に王城へ出頭することを命ずる。なお、この手紙を持ってエルハルト・ジェスターの言葉は、セリエス王国国王のアーサー・テオ・セリエスのものとする!」


 俺の悪い予感は見事に当たった。この封蝋がされた手紙を渡された時点で避けられない運命ではあったのだが、ここまでされたら断る事は出来ない。


「…畏まりました。王の命のままに。」


「うむ、確かに要件は伝えた。それでは失礼する。」


 俺は膝をついて左胸に手を当て頭を下げる。俺の返事を聞いたエルハルトは、結界を解除して部屋を出ていこうとする。その時、俺はある事を思い出してエルハルトを引き止めた。


「少し待ってくれ、頼みたいことがあるんだ。」


「どうした?」


 扉に手をかけたエルハルトはこちらを振り返り聞いてくる。俺はそんな彼に問いかけた。


「今回の件は()()()についてのことだろう?」


「…あまり大っぴらにするな。」


 肯定と言える答えを聞き、俺はエルハルトに問いかけた。


「なら、その件について同行許可を出して欲しい人物がいるんだが、聞いてきてもらえるか?」


「誰だ?この件には余計な人物を関わらせる訳にはいかないぞ。」


「俺の力…いや、俺にとって必要になる人物だ。」


「一応聞いておいてやる。その者の名は?」


 少し嫌そうな顔をするエルハルトだったが、そう答えると否定はしなかった。なので俺は彼に向かって言った。


「俺のパーティーメンバーのサリア、サーシャ、アイリスの三人だ。」


「なんだと!?」


 俺の口から出た思いがけない人物の名前に、エルハルトは驚愕の表情を浮かべる。しかし、俺はそんなことを気にせずに続けた。


「どうしても必要なんだ、だから頼む。」


 そう言って頭を下げる俺にエルハルトは少しの間考えると、扉を開きながら言ってきた。


「一応聞いてみる。ダメだったら諦めろ。」


 そう言って部屋から出ていってしまった。俺は頭を上げて閉まる扉に向かって呟いた。


「ありがとう、エルハルト。」


 一瞬だったが扉の隙間からエルハルトが手を上げるのが見えた。俺はそれを確認すると、注いでそのままだった水を飲み干した。そしてサリア、サーシャ、アイリスの顔を思い浮かべながら思った。


(頼む、力を貸してくれ。)

ありがとうございました。

2022年も短い間でしたがお読み下さり感謝でいっぱいです。

2023年も少しづつ書いていこうと思っていますので、よろしくお願いいたします。

それでは、良いお年を。

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