29話:異能者の真実
どうも、眠れぬ森です。
繁忙期を乗り切れました。
遅くなりましたが投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
エルハルトが部屋を出てからしばらくして、エドガー卿を連れて戻ってきた。
「アーサー様、至急の呼び出しとの事でしたが如何なさいましたか?」
「来たなエドガーよ。早速だが席に着いてくれ、エルハルトもだ。」
アーサーに促されて席に着くエドガーだったが、俺の姿を見ると同時に険しい顔をしながら言った。
「ライアー君がここにいるということは、異能者関係の話ですな。」
エドガーの言葉に頷いたアーサーは、今一度こちらを見た。そして、ゆっくりと口を開いた。
「さて、今から話すことは最重要の国家機密と言ってもよい。聞いたら最後、後には戻れん。しかし、国家魔法師団長のエルハルト、魔法学園理事長のリアス、そして異能者のライアーだから話すことだ。聞く準備は良いか?」
アーサーの言葉に俺とエルハルトとリアスは緊張の面持ちで頷くと、エドガーが俺に問いかけてきた。
「ライアー君は自分の力をどのように考えているかな?」
「俺自身よく分からないとしか言えないな。知覚限界突破を使った時以外の記憶はほとんど無い。」
「そうだろうな。恐らくライアー君はまだ異能者としての力を制御しきれていない可能性が高い。」
俺の答えにエドガーは頷きながら言う。そして、そのままリアスに問いかけた。
「リアス君、君から見てのライアー君はどうだったかな?」
「そうですね…表現が正しいのか分かりませんが、あの時のライアーくんはいつもと雰囲気が違いました。まるで別人のようでした。」
「どういうことだ?」
リアスの答えに俺は首を傾げる。確かに戦闘の際、異能者の力を使った時の記憶は無いが、それを考えてもリアスの言っていることの意味が分からない
すると、そんな俺を見ながらリアスは話し始めた。
「ライアーくん、貴方がマルコ伯爵と戦った時のことよ。ライアーくんがマルコ伯爵を倒した話はしたわよね?」
「ああ、未だに信じられないがな。」
そうだ、先ほどのマルコとの戦闘の際に俺は途中からの記憶が無い。覚えているのはアイリスが俺を庇って負傷した所までだった。そして気がついたら戦いが終わっていた。
「その時のライアーくんは…なんというか…体はライアーくんなんだけど中身が違うように感じられたわ。」
「一体どういうことだ?」
リアスの言葉にエルハルトが問いかける。しかし、リアスもその時の事を上手く言葉に出来ないようだった。すると、そんな様子を見たエドガーがエルハルトに問いかけてきた。
「エルハルト君は異能者とはどのようなものだと思ってるかな?」
「魔法を使えない、魔法とは違う未知の力を持った特殊な人…というのが我々の知る異能者です。」
「その答えで概ね間違ってはいない。しかし、正解と言えないね。それじゃあ、リアス君はどう思ってる?」
エルハルトの答えにエドガーは一つ頷きながら今度はリアスに問いかけた。リアスは一度俺の方をチラリと見てから答えた。
「これはあくまで魔法研の魔力調査部門責任者、カイン・ノイマンとの仮説に基づいての話ですが、ライアーくんの異能者としての力は彼の持っている疾患である先天性魔力制御疾患が原因では無いかと思っております。」
「先天性魔力制御疾患ッ…あの不治の病と言われているあれか!?」
「一体なんだそれは?」
リアスの言葉にエルハルトが驚愕の表情を浮かべ、俺は初めて聞く言葉に若干困惑する。すると、リアスが少し悲しそうな顔で言ってきた。
「今まで黙っていてごめんなさいね、ライアーくん。心配させたく無かったのよ。」
「俺の体はどうなっているんだ?」
「それを今から話すのだよ。」
俺の言葉にエドガーが答えると、一冊の古い書物を取り出しながら話し始めた。
「リアス君の言う通り、異能者としての力は先天性魔力制御疾患を患っている者の総称だ。さてエルハルト、この疾患の特徴は分かるか?」
「はい、体内で生成される魔力の制御が効かずに飽和状態となる病気だと聞いております。その特性状、過剰に生成される魔力に肉体が追いつかずに産前若しくは産後直ぐに亡くなることが多いと聞いております。」
「その通りだ。では、ライアー君は先天性魔力制御疾患を患っているが生きていられるのは何故だと思う?」
「それは…」
エドガーの問いにエルハルトは言葉を詰まらせながら俺を見る。だが、俺自身も今日初めて知った事実なので首を横に振る。
「何度も言うが、これから話すことは最重要国家機密だ。聞く準備は良いか?」
「俺自身の事だからな。」
「俺も魔法士団長として、国を支える一人として聞かせて頂きます。」
「私も魔法学園長として、生徒の為に聞かせて頂きます。」
「よかろう。」
アーサーは俺たちの言葉を聞くと、エドガーと共に話し始めた。
「まず最初に、異能者の力について話そう。お前たちも知っておるように、異能者になった者は総じて魔法が使えないと言われておる。それはなぜだか分かるか?」
「これもカイン・ノイマンと立てた仮説になりますが、体内で生成される魔力を常に魔法を使って制御しているのでは無いかと。」
「なるほど、良いところに目をつけたのだな。確かに常に魔法を使っておれば他の魔法が使えないのにも納得がいく。」
リアスの答えに首を縦に振りながら答えるアーサー。しかし、彼はエドガーの持って来た古い書物を捲りながら言った。
「しかしそれだけでは無い、異能者とはそれ自体が魔法なのだ。」
「…え?」
「それは一体…」
思いもよらない答えにリアスとエルハルトが困惑の表情を浮かべる。しかし、それを気にせずに手に持った古い書物を見せながらアーサーは続けた。
「これは王家に代々伝わる書物で、様々な歴史や魔法について書かれておる。その中に出てくるのが災厄魔法《最古の殲滅魔法》だ。」
「それって!?」
アーサーの言葉を聞き、リアスが声を上げる。それもそのはずだ、その魔法の名は仮面の男との戦闘でライアーが呼ばれていた名前だった。
「…どういうことでしょうか?」
言葉の出ないリアスに代わり、エルハルトが質問をする。すると、アーサーは俺を見ながら話を続けた。
「詳しくは書かれておらんが、この魔法を発動させるには常人の域を超えた魔力が必要になるらしい。そして、それに必要な魔力を持った者こそが異能者と呼ばれるとな。」
「つまり、ライアーはその魔法のおかげで止めどなく生成される魔力に押し潰されること無く生きていられるということですか?」
「その可能性は高いであろうな。そしてもう一つ重要な事なのだが、記されている災厄魔法はこれ以外に四つあるという事だ。」
その言葉に、俺は仮面の男が言った言葉を思い出した。
〈あんさんと同じ、異能者と言えばピンと来るやろ?〉
そうだとしたら、あの仮面の男も俺と同じという事だ。
「少しいいか?」
そう考えた俺はアーサーへ声をかけた。
「どうした?」
「実はクレイに襲われたあの時に、恐らく今日と同じだと思う人物と会った。ソイツも自分の事を異能者と言っていた。」
「なんだと!?」
「なんて事だ…」
俺の言葉にアーサーは驚きの表情を浮かべ、エドガーが額を押さえる。そして、俺の方を見ると問いかけるように聞いてきた。
「それは本当の話なのか?」
「俺の記憶が正しければ。」
「あの、そうなると何が起きるのでしょうか?」
アーサーとエドガーの様子にリアスが声をかける。すると、険しい顔をしながらエドガーが話し出した。
「エルハルト君とリアス君は人魔大戦を知っているよね?」
「ええ。」
「存じております。」
人魔大戦
授業で習ったのだが、五十年前に起きた人と魔物との間で起きた争いだ。凶暴化した魔物が突然人を襲い始め、多数の犠牲者を出した事件だ。その出来事から国家魔法士団や魔法学園の設立され、防衛力の強化に取り組むようになった歴史がある。しかし、それがなんの関係があるのだろうか。
すると、エドガーと顔を見合せたアーサーは再び険しい顔をしながら話し始めた。
「…人魔大戦の原因なのだが、どうも異能者が関わっていると記されておる。書物曰く、異能者同士の戦いが影響したのだと。」
そう言うと、アーサー目を閉じて少し考えた後書物を捲りながら俺に問いかけてきた。
「ライアーよ、これによれば異能者同士の争いは避けられぬらしい。それを聞いてお主はどうする?」
「生きる。必要なら戦う、それだけだ。」
「…そうか、分かった。」
俺の言葉を聞いてアーサーはそれだけ呟くと席を立ち言った。
「ここでの話は外部で漏らすことを禁じる。もし守られなかった時は極刑も覚悟しておれ、以上だ。」
「「「はっ!!」」」
その言葉に俺たちは膝をつき手を左胸に当て、頭を下げて答えた。
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「ライアーよ、少し待て。」
「少しだけ時間をくれるかい?」
話を終え部屋を出ようとした所で、アーサーとエドガーの二人に呼び止められた。すると、アーサーから一つの問いかけをされた。
「ライアー、お主は過去のことを覚えておるか?」
「傭兵団のことか?」
「いや、それよりも前のことだ。実はお前に関する事で少し調べ物をしたのだが、傭兵団に入る前の事の記録が全く無かったのだ。」
それを聞き、俺はアーサーに全てを話した。物心ついた時から独りだった事、盗みを行って生きてきた事、そして傭兵団に入ることになったきっかけを。
全て話し終えると、今度はエドガーが問いかけてきた。
「ということは、ライアー君は両親の顔も知らないのかい?」
「全く覚えていない訳じゃない。ただし、居たことをぼんやりと覚えているだけで、名前やどんな人だったかまでは思い出せない。」
その言葉に複雑な表情を浮かべるアーサーとエドガーに、俺は加えて言った。
「別に気にするな。親の事を覚えていなくても、俺にはここまで力をつけてくれた人がいた。それに今はサリアやサーシャ達がいる、ずっと独りだった訳じゃない。」
「…そうであるか。」
「君はつよいですね。」
「そうでもない、それでは失礼する。」
俺の言葉に頷きながら答えたアーサーとエドガーに声をかけると、俺は出口へ向かって歩いていった。
「伝えなくてよかったのですか?」
儂とエドガーだけとなった部屋の中で、不意にエドガーは問うてきた。それは先程までいたライアーに対する事だった。
「その時では無い、今はまだ問題が多すぎる。」
そう答えながら水差しからコップに水を注いで一息に飲み干す。先程まで緊張していたからか、乾いていた口に水分が染み渡る。そして飲み終えたコップを元の位置に戻すと一緒に引き出しから一封の手紙を出してエドガーに見せた。
「それは一体?」
「まぁ、読んでみてくれ。」
そう促すと、エドガーは手紙に目を通し始める。すると、読み進めていく内にだんだんと表情を険しくしていき、最後には手紙を睨みつけるように読んでいた。
「これは本当なのですか…」
「本当だ、押印も押されておる。」
手紙を読み終えたエドガーは、儂の言葉を聞きながら震える手でこちらに手紙を返すと、やり場のない感情で手を握りしめて言った。
「ここまで早いなんて…どうするのですか?」
「どうもこうも、すでに向こうが動き出しているのだ。こちらとしては最善を尽くすしかないだろうな。」
「ッ!?今すぐに偵察隊を編成してきます!!」
そう答えると、エドガーは慌てた様子で部屋を出ていった。
部屋に残された儂は手に持った手紙を見ながら呟いた。
「ライアー・ヴェルデグランよ、お前の運命とは過酷なものだな。」
ありがとうございました。
仕事納めは終わったものの小説を書くモチベーションが上がらない…
今年はあと一話投稿していこうと思っておりますので、次回もよろしくお願いいたします。