28話:戦いの後に
どうも、眠れぬ森です。
遅くなりました。
よろしくお願いいたします。
気がつくと知らない場所にいた。そこは全てが白く、見たことの無い魔法術式が無数に渦巻く世界に俺は立っていた。
どうやって来たのか、来る前に何をしていたのかの記憶も無い。初めて来たような、しかし知っているようなそんな場所だ。何かを考えようにも、頭に霧がかかったような感覚があり、上手く頭が回らない。
《またお会いしましたね、ライアーさん。》
すると突然頭の中に声が響くと同時に、目の前に黒いドレスを着た黒髪の女性が現れた。聞いた事があるような声だが、俺は彼女を知らない。
《無理もありません、ここでの事はほとんど忘れてしまいますから。それに私は貴方であり、貴方は私でもありますから。》
彼女は落ち着いた表情を浮かべて微笑むと、俺の方へ近づいてきて頬を撫でた。
《私は貴方が頼ってくれて、力になれて嬉しかったです。でも…》
すると彼女は怒りの表情に変わり、俺の頬を撫でていた手を食い込ませてきた。爪が肉を引き裂き血が流れるが、不思議と痛みは感じなかった。
《あいつは覚醒状態でした。私はまだだというのに…》
彼女の言葉の意味は分からなかったが、怒りに染まる顔は同時に悲しみにも見えた。
俺は頬に食い込む彼女の手をゆっくりと抜くと、そっと握りしめた。
《っ!?何故ですか!?》
俺の行動が予想外だったのか、彼女は驚きの表情をを浮かべた。どうしてこんな事をしたのかは俺にも分からない。でも、彼女の顔が知っている人の表情に似ていたのだ。それが誰かは思い出せないが、こうしなければならないと思った。
《貴方は、本当に優しいですね。そして強いです。》
彼女は握りしめていた俺の手を解くと、自分の頬に持っていった。そして目を瞑ると一筋の涙を流した。
《申し訳ありませんでした。私はひと時の感情に流されて貴方を壊そうとしてしまった。そう、私でもある貴方をです。》
すると、彼女の体から紅い魔力が溢れ出し、引き裂かれた俺の頬に集まると、元通りに傷が塞がっていた。それを確認すると、俺の手を頬から離してこちらを見つめてきた。
《私の力を使った為、貴方は私との距離がより近づきました。恐らく、あいつはこれからも接触を試みるでしょう。》
あいつとは誰のことか分からない。しかし、彼女の表情からは言いようの無い怒りが感じられた。その様子に俺は微笑みを返した、大丈夫だという意味をこめて。
そんな俺を見て、彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、直ぐに安心したような表情に戻った。
《やはり貴方は優しいです。でも、その優しさは時として弱点にもなります。私のような者に騙されてしまうかも知れませんよ?》
そう微笑むと同時に世界が段々と白くなっていった。
(ライ……く…!!しっか……て!!)
それと同時にどこかから彼女のものでは無い声が聞こえてきた。その声に彼女は一度上を見上げたのち、こちらに視線を戻して寂しげな表情を浮かべた。
《そろそろ時間のようですね、もう少しお話したかったのですが残念です。》
すると、俺の体がふわりと浮き上がり始めた。そして段々と上昇を始めると、それを見ながら彼女は微笑んだ。
《私はまだ覚醒状態ではありませんので力になれることは少ないですが、貴方の事をいつでも見ています。そして、守ります。》
その瞬間体の上昇する速度が急激に増し、俺の視界も白くなっていった。その中で最後に見たのは、一筋の涙を流しながらも笑いかけてくる彼女だった―――――
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「ライアーくん、しっかりして!!」
「ん…」
誰かに声をかけられ、俺はゆっくりと目を開けた。先程までどこかに居て誰かと話していたような気がするが、思い出せない。
滲む視界がハッキリとしてくると、俺の顔を覗き込んでいる女性がいた。
「リアスか…」
「っ!!ライアーくん!?」
俺が声をかけると、リアスは目に涙を浮かべて声を上げた。
「俺は一体…」
「ライアーくん覚えていないの!?」
その言葉にリアスは驚愕の表情を浮かべた。俺はリアスの言葉に首を傾げる。そして思い出した、マルコ・スティルブとの戦いの事を。
「そういえば、マルコはどうなった?」
「本当に覚えていないのね…マルコ伯爵は倒されたわ。そして倒したのは貴方よ、ライアーくん。」
「俺が…?」
リアスの言葉に俺は驚きの声を上げた。その反応に困っていると、突然俺の体に誰かが抱きついてきた。
「ライアー君!!大丈夫だったんだね!!」
「ライアー!!無事でよかったわ!!」
「サリア、それにサーシャ。」
抱きついてきたのはサリアとサーシャの二人だった。
「二人とも無事なのか?」
「私とサーシャは大丈夫だよ。魔力を使いすぎただけみたいで怪我は無いよ。」
「アイリスもリアス学園長が上級治癒をかけてくれたおかげで心配無いわ。今はセシエルト先輩が看てくれてるわ。」
二人の言葉にリーネのほうを見ると、彼女に膝枕をされているアイリスの姿が見られた。呼吸を見るに、大事には至っていないようだ。ジェームスも辺りを警戒しているようなので無事に見える。
全員の無事を確認して安心していると、リアスが声をかけてきた。
「何はともあれ、全員無事よ。ライアーくんのおかげでね。」
「それについてなんだが、詳しく説明をして欲しいのだが。」
「それについてなんだけど、後で構わないかしら?」
「どうしてだ?」
俺が訊ねると、彼女は闘技場の入口に目を向けた。すると、扉が開きとある人物が入ってきて声をかけてきた。
「リアスにライアーたちじゃないか?」
「エルハルト?」
入って来たのは魔法士団を引き連れた魔法士団長のエルハルトだった。
「早かったわね。」
「あれだけの事であろう。当たり前だ。」
「それもそうね、後処理は任せても良いのかしら?」
「無論だ、そのために部下も連れてきたのだ。」
「ありがとうね。それじゃあ、案内してくれるかしら?」
「分かった。」
エルハルトはリアスとの会話を終えると、俺の方へやって来て言った。
「さて、ライアー・ヴェルデグラン。一緒に王城へ来て貰えるか?」
「…は?」
エルハルトから発せられた言葉に耳を疑いリアスを見ると、彼女は真剣な目で頷くのだった。
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エルハルトとリアスに連れられて王城へ着くと、俺は二人と共に王の間へと案内された。
「アーサー王、謁見感謝致します。ライアー・ヴェルデグランとリアス・エルドラドをお連れしました。」
「面を上げよ。」
膝をつき左手を胸に当てて頭を下げる俺たちに向かってアーサーは書類を進める手を止めて言った。その言葉に頭を上げると、アーサーは俺たちを見ながら問いかけてきた。
「して、何があった。」
「はい、スティルブ領の魔法士育成団体ラティスとの模擬戦で、マルコ・スティルブ伯爵及び魔法士至上主義団体との交戦になりました。」
「なんと言うことだ…」
リアスの言葉にアーサーは頭を抱えた。そして、天井を仰ぎ見て息を吐くと、言葉を続けた。
「…詳しく話せ。」
「はい。模擬戦後、マルコ・スティルブ伯爵及びラティス代表のレヴィル氏が呪いの魔道具を使用。その後、ライアーくんの活躍により敵勢力を殲滅しました。」
「なるほどな。」
アーサーはそう言うと、腕を組みながら俺の方を見て問いかけてきた。
「ライアーよ、お前がマルコ及び魔法士を倒したというのは本当か?」
「初めはサリアたちと戦っていたが、アイリスが攻撃を受けて以降の記憶が無い。気がついたら戦闘が終わっていた。」
「どういうことだ?」
「それについては私から説明いたします。」
俺の言葉にアーサーは眉をひそめる。すると、リアスが話し始めた。
「アイリスちゃんがが負傷した後、ライアーくんの体から紅い魔力が滲み出ました。その瞬間に突然雰囲気が変わり、私以外の生徒が突然気を失ったように眠りました。すると、ライアーくんは魔法士を魔力と魔法と思われる力を持って敵を殲滅しました。」
「なんだと?」
「その話は本当なのか!?」
リアスの言葉に俺とアーサーは同時に驚きの声を上げる。その様子を見ながらリアスはさらに続けた。
「その後の事なのですが、とある問題が発生しました。」
「問題とな?」
アーサーが問いかけると、リアスは頷くと真剣な表情で話し出した。
「実はマルコ・スティルブ伯爵との戦闘後、スティルブ伯爵家に出入りしていた仮面を付けた男が現れました。」
「仮面を付けた男とな?」
「はい、喋り方から西方連合国の者と思われます。その男なのですが、その話しぶりからマルコ・スティルブ伯爵に呪いの魔道具を渡した人物だと思われます。」
「仮面の男…」
リアスの言葉に俺はある男を思い出した。サリアとサーシャを拐った男のうちの一人だ。
(何が目的なんだ。)
俺が考えていると、リアスとアーサーは話を続けていた。
「して、その仮面の男はどうなったのだ?エルハルトからは何も報告が上がっていないのだが。」
「確かに、俺が到着した時には既にお前たちしか居なかった。」
アーサーの言葉に今まで黙って話を聞いていたエルハルトも答える。それに対しリアスは続けた。
「男はライアーくんとの戦闘後、どういう訳かその場から立ち去りました。」
「立ち去ったのか?では敵では無かったのか?」
「ライアーくん相手に殺気を放ちながら攻撃をしていたので敵だと思います。しかし、ライアーくん以外にはまるで興味を示しませんでした。」
そのリアスの言葉に、俺はある事を思い出した。
「アーサー王、仮面の男についてだが一つ気になることがある。」
「なんだ?」
「以前サリアとサーシャが拐われた際にも仮面の男と会ったんだが、そいつは俺と同じだと言ってきた。」
「同じだと?一体どういうことだ?」
アーサーたちは首を傾げながら俺の方を見る。その視線を見ながら、俺は答えた。
「前は分からなかったが今なら分かる。恐らくそいつは俺と同じ異能者だ。」
「まさか…」
「嘘だろ…」
「そんな…」
俺の言葉にアーサーたちは驚愕の表情を浮かべた。それもそのはずだろう、異能者とは数十年に一人見つかるかどうかの存在だ。そんな者が俺以外に、しかも他国に居るとなるとその脅威は計り知れない。
「そういえば…」
すると、リアスが何かを思い出したかのように呟くと俺に問いかけてきた。
「ライアーくん、仮面の男との会話でヴェルディアナって呼ばれていたけど、何か心当たりはあるかしら?」
「ヴェルディアナ?」
「いや、心当たりは無い」
「ちょっと待て、ヴェルディアナだと?」
そんなリアスの問いかけに答えた俺だったが、それとは別にアーサーが反応した。
「アーサー様は何かご存知なのですか?」
リアスはそんなアーサーに問いかけると、アーサーは難しい顔をして俯きながら言った。
「まさかその名が出てくるとは…エルハルト、すまないがエドガーを呼んできて貰えるか?」
「分かりました。」
部屋を出ていくエルハルトを見送ると、アーサーはこちらを向いて言った。
「さて、これを話すかどうか迷っていたのだが、そんなことを言っていられぬ事態となった。エドガーが来次第話すとしようか。」
「あの、アーサー様。一体どういうことでしょうか?」
突然のことに困惑するリアスを他所に、アーサーは淡々と答えた。
「この間話すことが出来なかったライアーくんについて…いや、異能者についての話だよ。」
ありがとうございました。
モチベーションが下がってきてしまい申し訳ありません。
次回もよろしくお願いいたします。