表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/60

2話:セリエス王国立魔法学園

どうも、眠れぬ森です。

魔法学園編入試験編です。

「ライアーくん、魔法学園に通ってみない?」


 入院して二週間が経った頃、病室にやって来たリアスが突然言い出した。いきなりの事に俺は呆気に取られるが、直ぐにリアスに問いかけた。


「何故だ?」


「あなたには魔法の才能があるからよ。」


 全くもって意味が分からない。何度も言うように、俺は魔法術式が無いと魔法を使えない。いいところ魔術士止まりになるのは目に見えている。

 もっとも、魔法学園は建前上は魔法を極めるという名目に設立された施設だが、現状では魔法士を目指す若者の教育機関と化している。なので生徒の八割は魔法士を目指す貴族出身の魔力に恵まれた者である。二割は魔法術式を使用しての魔法を極めようとする者も在籍しているが、当然学園内では厄介者扱いされている。

 そんな中に、魔力すら乏しい俺が通うメリットは何処にも無いのだ。


「断る。」


 当然ながらリアスの提案を俺は断った。助けてくれたことには感謝しているし、恩義もある。だが、それを含めてもこの提案を受け入れることは出来なかった。この話をしてきた時点で何か裏があると、本能的にそう思ったからだ。

 そんな俺の答えにリアスはやっぱりねと肩を竦めながら、再度俺に問いかけてきた。


「初めから了承してくれるとは思っていなかったわ。でも、この話は悪い話では無いと思うのだけれど。」


「どういう意味だ?」


「ライアーくんはここを退院した後、どうするつもりなのかしら?」


「それは…」


 その問いに、直ぐに答えることが出来なかった。

 幼い頃も傭兵団に入ってからも、一日を生きるのに必死だった。明日死ぬかもしれない、そんな毎日を過ごしてきた。自分の生きる道は、全てジャンたち傭兵団が示してくれていた。だが、彼らはもう居ない。残ったのは、彼らに叩き込まれた戦闘技術と魔術兵器(マジック・ウェポン)のみだ。金だって、いつ死ぬか分からない日々を過ごしていたので蓄えも無い。

 未来のことを考えた事も無かった俺は、しばらく黙り込んでいた。


「今、ライアーくんには二つの道があると思うわ。」


 そんな俺を見かねたのか、リアスは指を一本立てて話してきた。


「一つは以前のように職に就く事。でもこれはあまりオススメしないわ、ライアーくんはまだ未成年なのだから。」


 セリエス王国では十五歳で成年とされているが、条件によっては未成年でも仕事には就ける。しかし、その条件が身元引受人がいなければならないということだ。傭兵団にいた頃はジャンが引受人となっていてくれた為、問題なく仕事は出来ていた。

 また、ギルドに登録して冒険者として働くという手もあるのだが、こちらも未成年の場合はパーティーを組まなければ依頼を受けられないという条件がある。

 どちらとも、独りとなった今の俺には敷居が高い。


「二つめは魔法学園に通うことよ。」


 二本めの指を立ててリアスは言う。

 聞けば、魔法学園は試験に受かれば誰でも入学、編入が可能らしい。また、国立の為授業料も安く寮もあるという。更に実習という名目でギルドからの依頼も受けることができ、報酬もしっかりと払われる。聞くだけなら待遇も良い。しかし、そこまでして俺を学園に通わせたいリアスの真意が分からない。


「何が目的だ。」


 殺気を出しながらリアスを睨みつける。一瞬の静寂の中、俺と彼女の視線が交錯する。緊張が走るが、彼女はため息をつきながら一冊の資料をこちらに手渡してきた。


「これは?」


「ライアーくんが巻き込まれた戦闘に関する資料よ。部外者閲覧は厳禁なのだけれど、当人なら問題ないわ。」


 資料を読んでいくと、当時の戦闘跡から推察される状況や、死亡した者のリスト、俺の魔術兵器の鑑定結果等も載っている。

 勝手に人のを鑑定しやがってという視線を向けつつ、ある一つの項目に目が止まった。


<はぐれ魔法士アルベルトは超高威力魔法により死亡したと仮定する>


 どういう事だろうか。記憶が曖昧だが、あの時は確かに俺は奴に向けて引き金を引いた。だが、俺の魔術兵器にはそこまでの威力が出せる魔法術式は刻まれていない。

 リアスに視線を戻すと、彼女もこちらを厳しい目で見ていた。


「この内容は…」


「事実よ。アルベルトは倒された、地面がガラスの結晶化するほどの高温で高威力の魔法でね。」


 そう言いながらリアスは自身の隣に置かれた布に包まれた物を解いた。中に入っていたのは、俺の魔術兵器シムエスMk.IIだった。

 驚く俺を横目に彼女は話を続けた。


「勝手を承知でライアーくんの魔術兵器を鑑定させて貰ったわ。でも、この魔術兵器には加速の魔法術式しか刻まれていない、そうよね?」


「そうだ。」


「けれど、アルベルトは高威力魔法で倒された。しかも、現在の技術では魔術術式で刻めない程の超高火力魔法でね。」


「どういう事だ…」


 訳が分からない状況に多少混乱している俺を真っ直ぐに見つめ、リアス言った。


「私たちはこの魔法をライアー・ヴェルデグランが放ったと推察しているわ。しかも、威力は特級魔法士クラスの殲滅魔法としてね。」


「……っ!」


 言葉が出なかったが、ようやく合点がいった。ここまでしてリアスが俺を魔法学園に入れたい理由が。


「つまり、俺は実験体のネズミとして扱われる訳か?」


「それは違うわ。」


 俺の問いにリアスは少し吹き出しながら答えた。

 

「確かにライアーくんは様々な研究機関から狙われている事には間違いないわ。自分の魔力量よりも大きな魔力を放ったら、普通は耐えきれなくて死んじゃうもの。」


 そう言いながら窓の外を見つめながらリアスは言葉を続けた。


「私がライアーくんに魔法学園に通ってもらいたいのは、生きて欲しいからよ。学園の生徒になれば他の研究機関は手を出せなくなる。せっかく助けた人なんだから、守りたくもなるでしょ。」


 生きて欲しい。その言葉を聞いた瞬間、ジャンの顔が頭に浮かんだ。忘れられない、彼との別れ際にかけられた言葉。


「リアス。」


 俺は未だ窓の外を遠い目で見ていた彼女に声をかけた。迷っているなら生き残れる手を全力で掴もう。


「俺の手は血で汚れている。そんな奴に魔法学園の門を潜らせるのか?」


 そう問いかけると、彼女は笑いながら答えた。


「銀氷の魔女にそれはご法度じゃないかしら?」


「それもそうだな。」


「もう少し子供っぽい所見せてもいいのに…」


 俺の返事に頬を膨らませて拗ねたような顔をするリアスに、自然と気持ちがスっとするのを感じた。

 俺は二度命を救われた。一度目はジャンに、そして二度目はリアスに。人を信用しないようにしていた俺は、独りだった俺は二人の恩人に生きる権利を与えられた。


「ありがとう、そしてよろしく頼む。」


 未だ頬を膨らませてプンプン怒っている彼女に、俺は手を伸ばした。すると、驚いた表情をした後に笑顔で俺の手を取ってくれた。


「じゃあ早速編入試験の準備をしましょうか。読み書きは出来るかしら?あ、編入試験は筆記試験の他に実技試験、魔力測定だから!!」


 和やかなムードも一瞬で去り、リアスはまくし立てるように問いかけてきた。


「一通りは…」


「良かった!!じゃあこれ試験の過去問ね!!入試は一月後だからしっかりと勉強しておいてね!!」


 そう言いながら俺のベッドに問題集が山のように積み重なっていく。

 前言撤回、やっぱり安易に人を信用するのは辞めよう。




ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 



 一月後、退院した俺は魔法学園の編入試験を受けるためにセリエス王国立魔法学園へと向かっていた。初夏の日差しが心地よい、そんな日だった。


「いいじゃねぇかよ、ちょっと付き合えよ〜」


「嫌って言ってるでしょ!!離しなさいよ!!」


「誰か助けてください!!」


 心地よい雰囲気をぶち壊すように、路地裏から声が聞こえてきた。ちらりと視線を向けると、五人の冒険者と思われる男たちが、二人の少女に詰め寄っていた。なんとも面倒くさい現場に居合わせてしまった。

よく見ると少女二人は魔法学園の制服を着ている。

 生徒なら何とか出るのでは無いのだろうか?そう思っていたのだが、そんなことも無い様子だ。恐怖で足が震えている。そんな状況でも、周りの人が助けに入る様子は無い。それどころか、目を逸らしてそそくさと通り過ぎている。このまま見捨ててもいいのだが、後味が悪いと感じたので、フードを被ってから近づいて行った。


「あー、そこのオッサンたち、みっともないから辞めたらどうだ?」


「なんだとこのガキ!!」


 予想通りというか、テンプレ通りというか。男たちは全員俺に敵意を向けてきた。

 ここまで上手くいくとは思っていなかったので少々驚きつつ、少女たちに声をかける。


「今のうちに逃げろ。」


「え!?でも!!」


「いいから!!逃げるよサリア!!」


「あ、サーシャ!!」


 どうやら二人とも逃げ出せたらしい。ここで男たちも興味を失って帰ってくれればいいのだが、どうやらそうもいかないらしい。


「ガキがイキってヒーロー気取りか?あぁ?」


「このBランク冒険者の砕く牙に逆らうとどうなるか教えてやらねぇとな!!」


 俺は冒険者たちに囲まれながら路地の先の広場に連れてこられた。

 なるほど、街の人が助けに入らなかったのはそういう事か。

 冒険者にはそれぞれGからAまでランクがある。Bランクということはそこそこの手練だということだ。そんな事を考えていると、男たち次々に武器を構えて戦闘態勢に入っていく。


(剣が三人に斧が一人、残る一人は魔術士か…)


 武器からして魔物専門に狩る冒険者であろう。しかも攻撃重視の近・中距離パーティーだ。となると先ずはサポート役の魔術士からだな。


「クソガキが!!」


 そんな事を考えていると、前衛役の剣士三人が襲いかかってきた。だが動きは直線的でフェイントも無い。こちらが子供だから舐められているのだろうか。

ふとそんなことも考えたが、とりあえず様子見と魔術士の牽制の為にバックステップしつつ腰から閃光爆弾(フラッシュグレネード)を放る。

 刹那、辺りが強烈な閃光に包まれた。


「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」


「…え?」


 牽制のつもりで放った閃光爆弾に、冒険者五人は全員目をやられてしまっていた。放ってから炸裂まで1秒ある閃光爆弾だ。ライアーの経験からすると、目の前に投擲物が投げられた際は反射的に目と耳を守るものだと思っていた。

 しかし、冒険者たちはそれをせずに真っ直ぐ突っ込んできた。ライアーからするとありえない行動だった。

 目を押えてうずくまる五人を見ながら無力化に成功したのだと安堵する。


「とりあえず、制圧完了。」


 しかしながら、どこか腑に落ちないまま再度学園を目指して歩きだしたのだった。


 無事に魔法学園へ辿り着くと、門の前にリアスが立っていた。こちらを見つけると笑顔を見せてきた。


「おはよう、ライアーくん。随分遅かったけど、道に迷ったのかしら?」


「いや…少々トラブルがあったが、問題無い。」


「そう?じゃあ試験を始めるから準備して。」


 一瞬怪訝そうな顔をするリアスだったが、直ぐにまたいつもの笑顔に戻り、試験会場へと案内してくれた。

 魔法学園の試験は三つだ。筆記試験、実技試験、魔力測定。筆記試験に関しては魔法の基礎や魔法術式の構成など基本となる内容だった。少し癪だが、リアスが持ってきてくれた問題集が役に立った。

 次に行うのは実技試験だ。俺はリアスの案内で学園の訓練場に来た。


「筆記試験の採点をしている間に実技試験をやっちゃいましょう。」


「実技試験とは何をやるんだ?」


 リアスに問うと、少し待っててと言い残し訓練場を出ていった。そしてしばらくして、一人の男を連れて戻ってきた。


「ライアーくんの試験官はこの人ね。」


「今日の試験官を務めるレニアス・ガードナーだ。」


 レニアスはこちらを一瞥して直ぐに訓練場の中へ入っていった。すると、リアスが話しかけてきた。


「無愛想な人でごめんね、悪い人では無いから安心して。」


 そう言いながら、試験の説明をしてくれた。内容としては試験官との模擬戦だそうだ。もちろん普通の試験では勝てる人はゼロで、試験官は受験者の魔法や魔法術式の発動を見て合否を決めているらしい。

 一通り説明を終えると、リアスは俺の耳元で呟いた。


「自信があるなら倒しちゃってもいいからね。」


「無理を言うな…」


 そうして俺は実技試験に望んだ。今回は直径五十メートル程の円形の訓練場だ。遮蔽物も無いので遠距離狙撃特化のシムエスMk.IIでは分が悪い。なので今回は普段サブウェポンとして使用しているハンドガン型の魔術兵器(マジック・ウェポン)<ブラックホーク>を選んだ。この距離ならばシムエスMK.IIよりも扱い易い。そしてもう一つ、普段は使うことの無い魔術兵器(マジック・ウェポン)を腰に挿した。


「両者位置について。それでは、始め!!」


 リアスの掛け声と共に、俺はレニアスに向かって走り出した。そして距離を詰めると同時にブラックホークに魔力を込め、撃ち込んだ。


ガガガガン!!


 その瞬間にレニアスの目の前に地面から壁が盛り上がった。魔法大地の壁(グレート・ウォール)だ。俺の放った銃弾はレニアスの魔法により阻まれる。しかし、着弾と同時に大地の壁を破壊した。


「…ほう。」


 それを見てレニアスは口角を上げる。

 普段拳銃として扱う際には普通のセミオートマチックの銃だが、ブラックホークにはシムエスMk.IIと同じで加速の魔法術式が刻まれている。魔力を込めると弾速、連射速度が飛躍的に高まる。その特性を利用して亜音速の銃弾を連続で打ち込める。結果、何の変哲もない銃弾でも壁を破壊するほどの威力が出る。

 それを利用し、常に動き相手の死角へと入りながら銃弾を撃ち込んでいく。しかし、その全てがレニアスの大地の壁に阻まれる。

 このままではいつまでも並行線の戦いだ。しかも、相手が動いていない分、こちらが不利になっていく。何か手は無いのか、そう考えながら弾倉をリロードした時。


「次はこちらから行くぞ。」


 レニアスが言うのと同時に彼は右手を上げる。すると、今まで砕いた大地の壁の破片が宙に浮いた。そして右手を振り下ろすと空中の岩片がこちらへ向かって飛んでくる。魔法岩の弾丸(ロック・バレット)だ。


(マズイ!!!)


 飛んでくる岩片は十を超えている。しかしブラックホークはリロード中だ。間に合わない、そう確信した時、突然目の前の景色が白黒へと変化した。


(なんだこれは…)


 突如世界が白黒に変わった事で一瞬死を悟る。しかし、世界は白黒に変わっただけでなく、全ての物の動きがスローになっている。そして、発射された岩の弾丸からは光の線が走っている。

 俺はこれを知っている。ぼんやりとだが、以前はぐれ魔法士のアルベルトと戦った際にも同じ事が起きていた。その時は、俺の胸へ一直線に向かってくる雷撃の槍から出ていた光の線。恐らくこれは魔法の軌道だろう。

 正面から向かってくる十の岩の弾丸の内、直撃は七つ。撃ち落とすのは難しくないが、ブラックホークには弾丸が入っていない。どうする、どうすればいい。スローになったとはいえ、着実に岩の弾丸は飛んできている。

 考えろ、集中しろ、何か見えるはずだ。迫り来る岩の弾丸を前に、光の線の僅かな隙間を捕らえる。


(見えた!!!)


 それと同時に俺は右足を引いた。瞬間、世界に色が蘇り、時間が元の速さに戻った。




ドガァァァァァァン!!!




 土煙が訓練場に上がる。その瞬間、レニアスはやってしまったと思った。初夏にやって来た編入希望者、事前の情報ではロクに魔法も打てない十三歳の子供だ。しかもよりによって自分が実技試験の試験官となった。レニアスは知っている。憧れを持って魔法学園を受験し、夢破れていった若者たちを。今回もそんな子供だろうと思っていた。

 しかし、実際にそれは大きな間違いだった。試験開始と同時にこちらに突っ込んできた彼は、手持ちの魔術兵器(マジック・ウェポン)から次々と弾丸を発射し、こちらの大地の壁(グレート・ウォール)を砕いてきた。今までの受験生とは違う、圧倒的な殺気を感じた。そして瞬時に分かった。


(コイツは慣れている)


 そう思った瞬間に、相手が子供だということを、編入試験だということを忘れて攻撃魔法を撃ってしまった。彼の目には、岩の弾丸(ロック・バレット)を打ち込まれる少年の姿が映っていた。

 しかし、彼の後悔は杞憂に終わった。


「なっ!?」


「うそでしょ!?」


 レニアスとリアスは揃って声を上げる。それもそのはず、土煙の晴れた先には無傷のライアーが立っていたからだ。



 正直に言うと死んだと思った。白黒の世界で見えた光の線、その間を通るために右足を引いて半身になった。その瞬間、世界が元に戻り身体の前後をもの凄いスピードで岩が通り過ぎていった。まさに紙一重、心臓が破れそうなほどドキドキした。だが、避けた。

 レニアスのほうを見ると、信じられないといった表情で固まっていた。そんな好機を逃すライアーでは無い。ブラックホークのリロードを終えると、真っ直ぐにレニアスのほうへ突っ込んでいく。そんなライアーにレニアスも反応し、直ぐに大地の壁(グレート・ウォール)を展開したが、ブラックホークの銃撃に打ち砕かれる。次の魔法は間に合わないと判断して魔力の壁を展開するレニアスだった。

 しかし、ここまで来るともうライアーの距離だ。素早く腰に挿した魔術兵器(マジック・ウェポン)を抜いて振りかぶった。


パキィィィィィン…


 レニアスが展開した魔力の壁を切り裂いて喉元にナイフが、顔面にはブラックホークが突きつけられた。

 

「ま、参った…」


「……っ!そこまで!!」


 レニアスの降参の言葉とリアスの試合終了の合図と共に、実技試験は終了した。




 レニアスとの実技試験を終えた俺は、リアスと共に最後の試験である魔力測定を行う場所へと向かっていた。すると、先を行くリアスが振り返りながら先程の実技試験の事について尋ねてきた。


「ライアーくん、さっきの試験だけど、最後のレニアスの魔力の壁ってどうやって破ったの?」


「それならこれを使った。」


 そう言って俺は彼女に先程使ったナイフを見せた。見た目は黒いただのタクティカルナイフだが、刃には魔法術式が刻まれている。


「この術式は…」


「魔力拡散だ。」


 俺が持っている魔術兵器は三つ。シムエスMk.II、ブラックホーク、そして近接格闘用魔術兵器(マジック・ウェポン)<霧雨(キリサメ)>。暗闇でも目立たない黒の刀身に魔法術式<魔力拡散>が刻まれている。


「何故こんなものを持っているの?」


「簡単だ、相手に魔法術式を起動されると厄介だからだ。」


 俺たちみたいな戦い方をする時に一番厄介になるのは相手が魔法を使う時だ。魔法士のように直に魔法を放てる相手には意味が無いが、俺たちみたいに魔法術式から魔法を使う相手には相性がいい。魔法術式を使う為には術式に魔力を注がなければならない。その瞬間、霧雨で術式を攻撃すれば刻まれた魔力拡散の効果が発揮し、魔法は不発に終わる。

 魔法を破壊するには同じ魔法か、それ以上の魔法をぶつけなければいけないので効果がないが、今回みたいに魔力のみで構成された壁は破れるということだ。といっても、今回は相手が咄嗟に使ってくれたお陰で勝つことが出来たが、アルベルトのように物理の壁(リフレクト・ガード)などの魔法を使われていたら勝ち目は無かった。

 俺の説明にリアスは納得をしたようだったが、次はやはりあれについて尋ねてきた。


「なるほどね、理解したわ。そしてレニアスの岩の弾丸(ロック・バレット)を避けたのは…」


「あれは偶然だ。」


 リアスの問いに俺は重ねるように答えた。もちろん、あの光景は今でも覚えている。しかしあれが魔法なのかなんなのか分からない。確証を持てないものは説明しようがない。

 俺の答えに煮え切らない表示を浮かべたリアスだったが、話しをしているうちに魔力測定の部屋に着いた。部屋に入り、準備をしながらリアスが問いかけてきた。


「そういえば、ライアーくんは魔力測定した事あるのかしら?」


「1度だけな。多くはなかったがな。」


 傭兵団に入る際、簡易的な魔力測定を行った。その時は他の団員より少し多いくらいで、平民としては概ね平均くらいであったことを伝えた。何故かそれに驚きの表情を見せたリアスだったが、直ぐにまた準備に取り掛かった。


「よし、準備出来たからそこに座って。」


 しばらくして準備が出来たようで、俺は言われるまま椅子に座った。テーブルを挟んで向かいに座ったリアスの手には魔力を測定するためのクリスタルが握られていた。


「やった事あるから分かると思うけど、とりあえず説明ね。」


 そう言いながらリアスはクリスタルに魔力を流した。すると、クリスタルが輝きだした。その光は部屋を照らすほどに強く、思わず顔をしかめてしまうほどだった。


「こんな感じに、魔力が高ければ高いほど光が強くなるわ。やってみて。」


 リアスの説明を元にクリスタルに魔力を込める。クリスタルは輝きだすが、先程のリアスの輝きには程遠く、持った手を明るく照らす程度だった。その結果にリアスが首を傾げる。


「あれ?」


「言っただろう、魔力は多くないと。」


「そ、そうだったわね!確かに普通ならぼんやりと輝くくらいだから、手を照らすくらいなら普通の人よりちょっと多いくらいだね!!」


 納得のいかない顔でうんうん唸ってるリアスだったが、一人の女性(恐らく学園の教師)が紙を持って入ってきたところで考えるのを辞めたようだ。


「あ、筆記試験の結果出たわよ。点数は問題ないわ。実技試験も合格と言わざるを得ないし、魔力も問題無し、合格よ。」


「そうか。」


 リアスの言葉に少しばかりの安堵の息を漏らす。すると、彼女がこちらに手を差し出してきた。


「歓迎するわ、ライアーくん」


「ありがとう。」


 俺はその手を取った。

 その後、編入までの流れと説明を受け、入寮の手続きを行い編入試験は終わりを迎えた。

 帰るために魔力測定試験の部屋を出ようとした時に、ふと思い出した。


「そういえばリアス。」


「何かしら?」


「試験用のクリスタル、割ってしまって悪かった。」


「え?えぇ!?」


 叫びながらクリスタルを確認するリアスを尻目に、俺は部屋をでた。

至らぬ点が多く読みにくかったと思いますが、ありがとうございました。

冒険はまだまだ続くとならないように精進致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ