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27話:もう一人の異能者《イレギュラー》

どうも、眠れぬ森です。

遅くなりました。

拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。

 ライアー・ヴェルデグランから放たれた赤黒い爆炎の本流が辺り一面を包み込む。先程まで魔法を放っていた魔法士たちは次々とそれに飲み込まれていく。

 儂はそれを見ながらありったけの魔力を注いで魔法による結界を貼った。


「ぐ…雷の防壁(ライトニングバリア)ァァァァ!!」


 儂の周りを電撃の結界が覆う。しかし、奴の魔法はそれすらも食いちぎらんとばかりに侵食してくる。


「ぐぉぉぉぉぉぉ…!!」


 呪いの魔道具(カース・アイテム)の指輪の効力により高められた魔力をありったけ込めて結界をつくるが、それすらも上回るほどの力の本流に冷や汗を流す。


(どういう事なのだ!?奴は何をした!?)


 そんな考えが頭の中を巡る中、突如として奴の魔法が消えた。一体何が起こったのか、こちらも魔法を解除して辺りを見回すと、信じられない光景が目に飛び込んできた。


「おい、ラティスのメンバーは何処へ行ったのだ…」


 先程まで同じように魔力壁を展開していた魔法士たちが跡形もなく消えていた。儂の隣に居たはずのレヴィルでさえもだ。


「貴様ッ!!一体何をした!!」


 あまりの光景にライアーへ向かって叫ぶ。しかし、奴は表情を変えぬまま淡々と答えた。


「《私の魔法に耐えられず、蒸発したようです。残りの攻撃対象は貴方のみです。》」


「なんだと…」


 その一言に驚きを隠せなかった。あの量の魔法士を一瞬にして消したのだという。ただの魔術士と思っていた一人にだ。

 その事実に儂は後退りをした。すると、奴はこちらへと歩みを進めてきた。


「な、なんだ!!儂をどうするのだ!!」


 混乱しながらそう言うと、奴は紅い魔力を体から迸らせながら言ってきた。


「《貴方は禁忌を犯しました。驚異と判断したので排除いたします。》」


「巫山戯るな!!お前みたいな紛い物にやられるか!!」


 そう言いながらこちらへ向かって手をかざしてきた奴に向かって叫ぶと、ありったけの魔力を込めて魔法を放った。


憤怒の雷撃(ライトニングレイジ)!!」


 極大の電撃が奴に向かって飛んでいく。一級魔法士ですら防ぐのが難しいと思われる魔法を放った儂は自然と笑顔が零れる。


(これは防ぎきれんだろう!!)


 儂は勝利を確信したのだったが、奴はその魔法に向かってかざした手を横薙ぎに振るってきた。すると、目を疑うような光景が目に映った。

 奴が手を振るった先から紅の魔力が放出されたかと思うと、儂の魔法とぶつかると同時に魔法を包み込み消滅させた。


「どういうことだ…何が起こったのだ…」


 儂は目の前で起こったことを理解出来ず、呆然とした。今使える魔力を最大まで注ぎ込んで放った魔法が()()()()()に消し去られた。それは既にマルコの常識の範囲を超える出来事だった。


「有り得ん…こんな事は絶対に有り得ん…」


 無機質な顔で立ち尽くす奴を見て、マルコは膝をついた。感じたのは絶対的な圧力と絶望感。集めた魔法士も高めた魔力での魔法も通じず、もはや打つ手は残っていなかった。


「《終わりですか。》」


 突如ライアーの口から発せられた言葉に、肩を震わせながら見る。ライアーはブラックホークを抜きながらゆっくりとこちらに近づいてきていた。それはまるで、死神が鎌を振り上げているようにも見えた。


「た、たすけ…ひぃぃぃぃ!!」


 マルコは声にならない叫び声を上げながら、顔面を涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃにして後ずさる。しかし、そんなマルコを見てもライアーは表情も変えず、ブラックホークを構えた。


「《初めて使いますが、大丈夫です。苦しまずに殺してあげます。》」


「わ、儂が悪かった!!だから殺さ―――…」


ダァァァン…


 命乞いをするマルコだったが、言い終わる前にライアーは引き金を引き、放たれた銃弾はマルコの眉間を撃ち抜き、彼の意識を永遠の闇へと突き落とした。その時だった。


「なんや、あんだけイキっとったのに負けたんかいな。これやから魔法士ってのはあかんのや。」


 突然、何者かの声が闘技場に響いた。ライアーは辺りを見渡してみると、二階席の手すりに仮面をつけた男が一人寄りかかっていた。


「《貴方は誰でしょうか。》」


「その喋り方…まだ覚醒前やないか。」


「《私の質問に答えて頂きますか?》」


 ライアーの言葉を無視して呟く男に、ライアーは無表情で再度問いかける。しかし、その問いに喉を鳴らして笑うと、仮面の男は答えた。


「おもろいやんか。そない状態で行動出来るとは、そのボウズの魔力はエラい高いみたいやな。」


「《…そうですか。》」


 その答えにライアーは一言だけ返すと、手に持っていたブラックホークを仮面の男に向けた。


「なんや?ワイとやろうってのかいな?あんさんの状態やとまだ戦いにならへんで?」


 そう答える男だったが、その言葉を無視したライアーは仮面の男に向けて引き金を引いたのだった。





ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー







「一体どうなっているのよ…」


 ライアーくんにアイリスちゃんの治療を頼まれてから、私は直ぐに上級治癒(ハイ・ヒール)をアイリスちゃんにかけた。そのおかげで血が止まり、先程までの細く細かい呼吸から穏やかな呼吸へと戻っていた。それを確認すると同時にライアーくんの方へ視線を向ける。

 私の知っているライアーくんは異能者(イレギュラー)とはいえ、普通の魔術士だ。しかし、今の彼は私たち全員を魔力壁で覆いながら敵の魔法士からの攻撃を魔力のみで打ち消している。そんな事は特級魔法士として認められている私ですら難しい。


(これが、異能者(イレギュラー)の力なのね…)


 そう思った瞬間、状況が一変した。ライアーくんの体から滲み出ていた紅い魔力が渦を巻き、赤黒く熱を持ったモノと変化していった。それを見た瞬間、私は直感で思った。


(アレはマズイ!!)


 見たこともない、恐らく魔法だとは思うそれに対し、私は魔力壁の中というのにも関わらず本能的に自分で魔力壁を展開した。瞬間、ライアーくんから出ていた赤黒い魔力が吹き荒れて闘技場の中を暴れ回る。


「くっ!?!?」


 そのあまりの激しさに、身体中が粟立つのを感じた。そして、その本流が勢いを弱めていき消えると、信じられない光景を目にした。


「嘘でしょ…」


 そこには残っていた敵の魔法士二十人程の全てが消え去り、ただ一人マルコを残して立つライアーくんの姿だった。

 その光景に唖然としていると、マルコが大きな叫び声を上げて魔法を放ってきた。それは一級魔法士の全力にも匹敵する威力が込められた魔法だった。


「ライアーくん!!!」


 私はライアーくんに向かって叫んだ。彼ではあの威力の魔法を防ぎきれないと感じたからだ。しかし、ライアーくんは手を横に薙ぎ払うと紅い魔力を魔法に向けて飛ばした。すると、その魔力はマルコの魔法を飲み込んでいき完全に消滅させてしまった。


「そんな、魔法をただの魔力だけで防ぐなんて…」


 魔法の常識を覆すような光景に、ただ呆然とするだけだった。マルコも同じような表情でライアーくんに命乞いをしている。それを見ながらライアーくんは銃を抜くと、マルコの眉間目掛けて銃弾を打ち込んだ。


ダァァァン…


 その銃声はマルコの声をかき消し、闘技場内に静寂をもたらした。


「終わったの…?」


 起き上がることの無いマルコを見ながらそう呟いた瞬間、突然闘技場内に声が響いた。


「なんや、あんだけイキっとったのに負けたんかいな。これやから魔法士ってのはあかんのや。」


 その声に驚き当たりを見渡すと、二階席の手すりにもたれかかる仮面の男の姿が見えた。


「あれは!!」


 私はその男に見覚えがあった。スティルブ領のマルコ伯爵家に出入りしていたあの男だった。付けている仮面こそ違うが、立ち振る舞いや雰囲気はその通りだった。


「《貴方は誰でしょうか。》」


「その喋り方…まだ覚醒前やないか。」


「《私の質問に答えて頂きますか?》」


 ライアーくんは仮面の男に喋りかけているが、男の方は問いかけを無視していた。


「ライアーくん!!魔力壁を解除して!!」


 私はライアーくんに向かって叫ぶ。しかし、ライアーくんは聞こえていないのか、こちらの声に反応は無い。さらに、持っていた銃を男の方へと向けた。


「お願い!!魔力壁を解いて!!」


 しかし、私の声も届かずにライアーくんは引き金を引いた。






ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー






ダァァァン!!


 発砲音と共に銃弾が発射される。ライアーの銃口は確実に仮面の男を捉えていた。


「《…》」


「言ったやろ?今のあんさんとワイでは戦いにならへんってな。」


 仮面の男に向かって飛んでいったはずの銃弾は、着弾の直前にこちらへ向きを変えて、ライアーの頬を掠めていった。


「《もう一度問います、貴方は一体何者ですか。》」


 ライアーは再び問いかける。すると、仮面の男はククッと笑いながら答えた。


「前にもゆーたけど、あんさんとおんなじ異能者(イレギュラー)や。」


「《異能者(イレギュラー)…》」


 その答えにに首を傾げるライアーに、男は溜息をつきながら言った。


「そら今の状態やと分からへんよなぁ…ボウズの自我が残っとれば話は通じんのに…」


「《私はライアー・ヴェルデグランですが。》」


「ちゃうちゃう。()()あんさんやない、()()あんさんや。」


「《…》」


 ライアーはその言葉に答えることなく、体から滲み出る紅い魔力を手に集め始めた。そして、その魔力を男へ向かって放った。


「《…?》」


しかし、先程と同様にライアーの攻撃は当たる直前に跳ね返され、こちらへと飛んできた。ライアーはそれを避けながら首を傾げると、その様子に仮面の男は笑いながら言った。


「なんぼゆーても分からへんのかいな?勝てへんってゆーとるやろ。」


「《どういう意味でしょうか。》」


 ライアーの言葉に男は再び溜息つくと、二階席からライアーの前に飛び降り言った。


「《分かっているだろ?ヴェルディアナ。》」


 その瞬間ライアーの体が炎に包まれたように、紅い魔力が覆った。


「《これは…?》」


 今まで無表情だったライアーが仮面の男を睨みつけた。それは憎悪という言葉では収まらないほどだ。


「やっぱりまだ早かったんやな。いい加減離れんと体が滅ぶでっ!!」


「《…っ!》」


 それを見た男はそう言うと、ライアーに向かって飛びかかると、その腹に強烈な蹴りを入れてきた。その蹴りの衝撃でライアーは吹き飛ばされ、闘技場の壁へとぶつかる。衝撃音と共に壁にめり込んだライアーは、体から滲み出る紅い魔力を弱めながら再び男を睨みつけながら言った。


「《貴方》は…一体《何者》なん…だ…」

 

「ようやっと戻って来れそうやな。」


 ライアーの問いに再び答えず、仮面の男は壁にめり込んだライアーの髪を引っ張り顔を上げさせる。


「う…」


「ええか、これだけは覚えとき。自分の中の猛獣を躾んとエライ目に合うで。」


 そう言うと、仮面の男はライアーの鳩尾を殴りながら言った。


「がはっ…」


「今日はこれくらいにしといたる。次は容赦せぇへんからな。ほな、また会おうや。」


 男はライアーから手を離すと懐から何かを取り出して地面に投げつけた。すると、軽い破裂音と共に煙が噴出した。それが晴れるとそこには男の姿は無かった。


パリィィィン!!


 その直後、何かが砕ける音がした。そちらの方に目をやると、サリアたちを覆っていた魔力壁が砕けていた。そして、その中からリアスがこちらに走ってくるのが見えた。


「ライアーくん!!」


「リアス…どうなってるんだ…」


 落ちそうな意識をつなぎ止め、駆け寄ってきたリアスに問いかけると、彼女は俺に上級治癒(ハイヒール)をかけながら言った。


「マルコ伯爵含めて敵は全員倒したわ。」


「そうか…皆は…アイリスは…どうだ……」


「アイリスちゃん含めて全員無事よ。アイリスちゃんは失血の影響が少しあるけど、命に別状は無いわ。」


「そう…か…良かっ…た……」


「ちょ…ライ……く…!?しっかり……て!!!」


 その答えを聞くと同時に、俺の意識は闇の中へと落ちていったのだった。

ありがとうございました。

次回は来週の火曜日か水曜日頃に投稿出来ればなと考えております。

またよろしくお願いいたします。

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